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23-4 予想外の助っ人 一体目

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・召喚生物の特殊個体は五体ではなく、召喚生物ごとにいるとされ未確認の特殊個体も存在する

(例、ステルスサカバンパスピス)

・ガチオーガは特殊個体ではない

 乗車した空中列車が駆け上がり、地上と並行に走行し始めた所でエネル以外の四人は身体を弛緩させた。

 空中列車の速度で追いつく算段だが今はフリーの状態である。接敵する時まで、少しでも身体を休めスミス抹殺に備える事にしたのだ。


 その間、エネルは忙しなく木製の貨車内で動き回っていた。

 人間ではなく剣のため疲弊する事はない。スターが発現済みの盾手裏剣や爆裂剣をすぐにでも手に取れる出入り口付近に設置したり、肉体収納化の呪文で取り出された水筒の水を注いで配ったりする。


 その際ふと、壁を背に床に座り込むスターが目に映った。目を閉じ全力で体力の回復に努めている。

 エネルはその肩から伸びる短い左腕をどうしても見てしまう。スミスとの戦闘で切断したはずだと言っていた。何故不確かな言い方なのかは分からない。

 だがすぐに目を逸らして作業を続ける。凝視が気になってスターの休憩の邪魔になるのも嫌だった。


 一通り作業を終えたエネルは壁際の窓へと歩み寄り眼下を見据えた。もう街を離れ地上には緑が少ない荒野が広がっている。

 その荒野に線路が二本、彼方まで伸びている。スミスが乗る汽車はまだ発見できていなかった。


「やはり南に進んでいる」

 

 他三人に比べまだ体力が残っていたカインが、エネルの横に立ち同じように外の様子を覗き込んだ。


「このまま進めば『大地の裂け目』がそろそろ見えてくる頃合いだ」

「大地の裂け目ってあれだよね? ぱっくりと開いた地割れ」

「ああ、巨大な地割れが線路の横に面する事になる。底が深く幅が広い亀裂が……見えてきた」


 エネルはもう一度、窓から外の様子を窺った。確かに馬鹿みたいに大きな亀裂が縦に伸びている。空中列車は大地の裂け目がある地帯へと進行した。


 大地の裂け目とはホムラン南にある谷にも似た地割れの事である。丁度進行方向の右側、草木の少ない荒野、線路から十メートルほど離れた位置に存在する。

 その歴史は古く大昔に発生した地震でできたと言われている。巨大で全長十数キロにも及ぶ地割れは底が見通せないくらい深い。そして長い年月、人の手が入っていないため人跡未踏の大変危険な場所と知られていた。


「谷底には野生や悪性の召喚生物が生息しているという話だ。度々、大地の裂け目からはファングを筆頭に獣の鳴き声がするらしい」

「落ちたら最後、餌が降って来ましたとばかりに召喚生物が群がってくると私も聞いてるっす」

「その通りだ」


 回復呪文発現による疲労を宥めているオーハマーが会話に参加した。彼女は今、ニールが発現した大型ソファに身体を預けている。

 オーハマーが続けた。


「でもそうなると、ますます分かんないっす。何でスミスがこの線路を使っての逃走を選択したのか。線路も途中で壊れてるし」

「むしろわらわは別に汽車で逃げる必要はなくないって思う。汽車よりデイパーマーと同じ方法の方が効果的だよね?」

「コミタバはおそらく空中列車の存在は知っているはずだからな。今回はまんまと逃げられたが状況によっては騎士団が汽車を破壊する可能性の方が高かった。それなのにスミスは迷いなく街の外側まで逃げて行った」


 街の防衛時にベネットの分身体から、デモをしていた集団の中にコミタバがいて騎士団領域内に攻め込んで来たと聞かされた。そのデモは四日連続で行われていたためコミタバは事前に街を下見する時間は十分にあった。

 それなのにスミスは汽車を強奪して逃げて行った。デイパーマー達がやったように、モノリスの兵隊に自身を化けさせの逃走の方が的を絞らせずに済むというのに。線路も途中で壊れている。他の逃走手段に切り替えるのも手間だ。

 そこまでして何故、その方法を選んだのか。その理由は誰にも分からなかった。


「別にどうでも良くね?」


 オーハマーの横でソファに深くもたれ、顔にタオルを掛けていたニールが言った。


「分からねえ事をいつまでも考えても意味ないぜ。スミス殺害の話をするべきだろ」


 ニールはタオルを取って後ろに投げた。目を閉じていたスターに頭にそのタオルが掛かった。


「追い付き次第オレの建造物投下するわけだが、懸念している事がある」

「懸念っすか」

「その大地の裂け目には召喚生物が生息してんだろ? なら建造物落下の余波で刺激されて出て来たりとかはしねえのかな?」

「それは……まあ出て来るかもしれないっす。でも空中から建造物落として対処するだけだし問題ないんじゃないすか?」

「サカバンパスピスとかヒトガタが出て来る可能性は?」

「不明っす。そもそも大地の裂け目にどんな召喚生物がいるのかも分かってないし」

「ならピラミッド落としてさっさと殺すか」

「いや、何よりも先に汽車の進行を妨げてくれ」


 引き続き外の様子を注視していたカインが言った。


「スミスを追い越し、進行先に建造物を投下して通行止めにする。それから建造物を落として殺す。その方が合理的だからな」

「ほうほう、なら線路上に灯台三個落とすとするか。そんでもって潰れたトマトにしてから大地の裂け目に不法投棄しようぜ」

「相変わらずアノマリーは規格外っすねぇ。体力の程は?」

「問題なし。人類八割虐殺のため体力作りはやってきたからな。てかまだまだ発現できるって言っただろ。……ん?」


 スターを含めた全員のドン引きの視線がニールに突き刺さった。思想や虐殺を計画していた事は皆が既に把握している。

 視線の意味を理解したニールは悟り顔になった。


「ふっ、味方だぜ」

「本当に何で味方なんすか」

「わらわもそう思います」

「オレもそれに関しては運命的なものを感じてるわ。計画を始動しなくてマジで良かった」

「もしかしたらニールはコミタバだったかもしれないね」

「せやな」

「見つけた」


 カインのその声で全員が気持ちを切り替えたた。貨車内の出入り扉を開け目視できるようにする。

 空中を走行中のため外の空気が入り込んでくる。


 スミスは逃走手段を変える事なく汽車に乗ったままだった。先頭の客室車両の屋根に足を伸ばして座り荒野の景色を眺めている。

 その左斜め後ろ上空を騎士団が追尾する。逃げる時よりスミスの汽車のスピードは格段に遅い。これならすぐに空中列車が追い越しそうだ。


「おっしゃ、じゃあ予定通り進行不能にしてぶっ殺してやる」

「気付いたみたいっす」


 流石のスミスも空中列車の走行音が聞こえたようだった。怪訝な顔で振り返り空を見上げ、更にその怪訝さを深めた表情に変わった。


 空中列車は進行先の線路上に建造物を投下しようと速度を上げる。一応スミス側もモノリスの兵隊を同じ屋根に展開し上空へと呪文を射出する。

 だが当然空中列車は射程範囲外を走行している。盾手裏剣で防御する必要はなくコミタバの攻撃は届かない。

 このまま一方的に作戦は成功すると思われた。


「なっ!!」


 しかし億劫そうにスミスが右手を掲げ、召喚生物を発現する光のゲートを出した事で状況は一変した。

 そのゲートは通常よりあり得ないほど巨大だったのだ。それはつまり、超大型の召喚生物が発現される事を意味していた。


「陸海空、メガロドン……!」


 エネルの驚愕の声が他四人の耳に入る。発現されたとてつもなく巨大なサメが泳ぐように空へと上昇していく。

 明らかに常軌を逸した巨体だった。全長が二十メートルは優に超え横幅も縦幅も広い。分厚い身体には傷跡が遠目からでも散見され戦い慣れていると窺える。

 そして獰猛な突き刺すような顔つき。空中列車を丸ごと飲み込めるその大きな口。

 陸でも海でも空でも活動できる召喚生物。水陸両用メガロドンの特殊個体、陸海空メガロドンだった。


 オーハマーが即座に確認を取った。


「ちょっ、あれスミスが発現したっす!! あの召喚生物に関しては聞いてないんすけどっ!?」


 返答を求められたカインが苦々しげに顔を歪めた。


「おそらくスミスの隠し玉、だな。毒ガスに石化光線、急所パンチは既に伝え済みだが、あのメガロドンに関しては俺は知らなかった。……黙っているわけがない。スパイだと思うなら落としてくれて構わない。文句は言えん」

「言ってる場合か!! 来るぞっ!!」


 ニールが叫んで空中列車を操作した。メガロドンの突撃を回避しようと全力で右へ右へと車体を逸らす。何とかギリギリ所でメガロドンの牙を掠めただけで済んだ。

 だが通過したメガロドンは大きく旋回し今度は後ろから空中列車に接近しようとする。

 その速度は空中列車よりも速い。騎士団の背後を陣取るように段々と距離を詰めている。


 急な回避行動で体勢を崩したエネルが戻して言った。


「これもう、撤退案件じゃない!?」

「いや、ここで仕留める。メガロドンは任せた」


 間髪入れずにスターが肉体強化の剣を発現し四人を見返った。


「スミスは俺が」

「「ちょっ!?」」

「馬鹿かあいつ!!」


 スターは丁度真下にある、スミスが乗る汽車目掛けて空中列車を飛び降りて行った。


 スターは矢のような速度で客室車両に落下し、屋根を突き破って中へと突入した。それを見てカインが呪文を唱えた。


「カロン・ニカ。オーハマー、これを使え。威力は申し分ない」


 肉体収納化の呪文で取り出され、ごとりと床に置かれたのはロケットランチャーだった。

 それは事前にカインのオーバーパーツだと教えられていた。実際に試し撃ちもしている。


「無限ロケットランチャーじゃないっすか!」

「それでメガロドンを迎撃してくれ。俺はスターの元へ。死なせはしない」


 そう言い残しカインは先程のスター同様、肉体強化を発現して空中列車から飛び降りた。その寸前にエネルもカインの腰に抱き付き続く。


「「…………………………」」


 二人は見事、地上の汽車へと到達した。それを見届けて強風で髪を激しく靡かせながらオーハマーとニールは互いを見やった。


「それで、どうするよ?」

「……正直、どうすれば良いのかは分かんないっす」

「だよな」

「でもただ一つだけ確かな事があるっす」

「それは?」

「後方のメガロドンは確実に邪魔。間違いないかと」

「……なら、シンプル思考が一番か。今更下には行けねえし速攻で殺して加勢すんぞ」

「了解。ロケランは私が」


 空中列車と陸海空メガロドンの戦いが始まった。



 そしてスターは地上の汽車、最後尾の車両の中に落下するなり即行動を始めた。

 スミスが乗る汽車は機関室と客室車両三つで構成されている。今いる車両を切り離されたら堪らない。

 幸いこの車両にはモノリスの兵隊はいなかった。突入の痛みを無視して自らが開けた天井の穴から屋根へと這い上がる。


「むっ……」


 だが急ぐ必要はなかった。スミスは先頭車両の屋根上、先程捕捉した時と同じ場所で待ち構えていた。

 屋根に這い上がったのに落とそうと攻撃してこない。だがスミスの側には五体の兵隊がしっかりと控えている。

 意図は分からないがスターは風圧に飛ばされないよう姿勢を低く、慎重にしかし手早く先頭車両まで足を運んだ。


「スター!」

「この馬鹿、わらわキレんぞ!!」


 その途中でカインとエネルも合流してきた。しかしスミスは変わらず何もしないでこちらを見ている。

 その異様さに、迎撃をせずに静観する敵の姿に二人も気付いて口を閉じた。

 そしてまた進行し、騎士団とコミタバは屋根上で相対した。


「…………ふーむ」


 スミスは何かを観察をしているようだった。右手を顎に乗せ左手をその右肘に、考えるポーズで佇んでいる。


「確認だけど……スター・スタイリッシュ、だよね?」


 唐突に意味不明な質問を投げ付けてきた。スターもエネルもカインも思わず眉根を寄せる。


「スミス、お前何を言って……」

「不気味だって言いたいのだよ弟よ。クーデターの件も然り、ついさっきの戦闘の時も然り。……でも今は普通だ。嫌な予感はしない。わけが分からない」


 上空では騎士団とメガロドンの戦闘が繰り広げられていた。

 ニールが空中列車の屋根の上で灯台やピラミッドを投擲し、貨車内からロケランが火を吹く。

 メガロドンはそれらに怯みもせず巧みに避けつつ、食い殺そうと襲い掛かろうとしている。

 それを見上げた後にスミスが続けた。


「でもまあ、そろそろ動かないとね。流れ玉の建造物が落ちてきてもあれだし」


 スミスは目線を戻して騎士団の三人を見据えた。そしてスターに対して薄ら笑いを浮かべる。


「さて、一体どんな気分だったか教えてスター・スタイリッシュ。親友のビル君は君の所為で死んだわけだけど……あの時、私の分身自爆に引っかかったから彼は、おっと退散退散」


 挑発の言葉を途中で切り上げスミスは汽車から飛び降りた。その後をスターが追う。

 まさか汽車を降りるとは思わず、咄嗟の事でエネルとカインはワンテンポ遅れてしまった。その隙をスミスの側にいたモノリスの兵隊達が襲い掛かる。

 スミスは兵隊の一人と共に大地の裂け目へと迷いなく向かって行く。そして勢い良くダイブした。


 当然、スターも何の躊躇もなくそれに追随する。それがスミスの狙いだとも知らずに。


「やっぱり追って来た!! ランザック・グラゴング!!」


 どうやらスミスと一緒に飛び込んだ兵隊は存在強化のアノマリーだった。その兵隊はスミスを抱き抱え暗闇へと落ちていく。

 スターはその発現された存在感に気を取られ重力呪文を受けてしまう。スミスを追って後から大地の裂け目に飛び込んだのに、上からの圧力が落下の加速となり既にスミスより落ちて見上げる形となってしまった。


 大地の裂け目は谷底が見通せないくらい深い。それは本当にどれぐらい深いのか分からないが、とにかく深い。

 だからこの加速した落下スピードで地面に激突すれば肉体強化でも即死、または致命傷になってしまう。

 そしてそれは、もう間もなく訪れるとスターは予感した。それほどまでに落下速度は速かった。


「ソード・ブレイド・ライズン!!」


 しかし手をこまねいて何もしないわけにはいかない。全力の肉体強化の剣を発現して衝突に備えて……。


 備えて……。備え……。


 予想した痛みや衝撃はスターには訪れなかった。


「???」


 スターは大きな何かに身体全体を掴まれている感触を覚えた。そのおかげで地面に激突する事はなくなり空中で止まっていると判断した。

 続けて掴んでいる何かが動いたようだった。優しく労わって、感覚的に下に降ろされているような気がする。

 すると足裏に何か固いもの当たった。両足で踏みしめられる。おそらく地面だ。掴まれる感覚もなくなった。解放された。


 周囲は真っ暗で何も見えなかった。それでここが大地の裂け目の一番下、谷底だと判る。地面に激突する寸前に何者かに助けられたのだ。


「……プリセクト」


 スターは暗視呪文を唱えた。途端に視界が明瞭になってくる。


「これは……何故」


 スターはすぐ近くにいる命の恩人を見上げ怪訝に思った。その恩人、初対面の召喚生物は見上げるほど巨大だったのだ。


 五メートルを優に超える巨体である。筋骨隆々の日焼けしたように黒味がある皮膚。ライオンの鬣ような赤の怒髪に傷跡のある右目は閉じられている。右手には極太の戦鎚。おそらく左手でキャッチされた。

 鬼。召喚生物ガチオーガ。


 五年後のドバード秘密都市で再度遭遇するその個体に、スターは遅れて谷底に落ちてくる存在強化の気配も他所に、ただただ困惑する事しかできなかった。


 ガチオーガはそのスターを見下ろし、身体の状態を見て痛ましげに目を細めた。


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