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23-3 過去のコミタバとの戦い ③

 身体に走る激痛を我慢しながらデイパーマーはテッカとの念話を始めた。


(それで、どうなった? その様子からして失敗したと予想はできるが……)

(うん、普通に失敗した。それもアノマリーや守護者じゃない奴に邪魔されてね)

(何だと?)


 指先でも、剣の先でも、十字に切った直後に唱えるテッカの十字斬撃条件呪文は建造物に有効だった。

 ピラミッドは無理だとしても一軒家やトロイの木馬ぐらいのサイズならば、斬撃が形となって射出され切断できた。

 今も一つ、降ってきたトロイの木馬を切り裂いた。


(前に私が蠱王になってた時の事を覚えてる? 特殊個体を含めた召喚生物にボコられたやつ)

(ああ、白髪の子供を怪しんだ時のか)

(その子供が立ち塞がってきた。コピーのアノマリーかどうかは知らないけど、一度に十個の呪文を同時にぶち込んだりしてね)

(おいおいおい……)

(しかも本気には見えなかったよ。多分まだ力を隠し持っている)


 更にバルガライの陣地呪文をデイパーマーは発現した。

 この呪文は発現した魔法陣の中にいる者の呪文の威力を増幅させる性質を持つ。

 それによりレオナルドのアクセル・ボルトティアを強化して、一軒家サイズの建造物に対抗する事が可能になった。


(全く、本当に、この上なく、嫌になる。隠れアノマリーや実力を隠すタイプの呪文使いは勘弁してくれって思っちゃうよ。……やばい、本気でイラついてきた。私は何度同じ事を言ってんだクソったれめ)

(落ち着け)

(最高に落ち着いてる定期)

(それよりも……)


 これにより一時的にだが、建造物のアノマリー相手に余裕ができたのは確かだった。

 そのためデイパーマーはもっと踏み込んで質問をする事にした。


(お前、本気でやらなかったのか? たとえあの時の子供だろうがアノマリーだろうが、お前なら突破ぐらいはできたはずだ)

(そだね。本気でやればまあ……突破なら楽にできたと私も思う)

(なら何故?)

(でも本気になった場合、当然だけど相手も本気になる。状況的に考えたら全てを賭ける時ではないと判断した)


 念話を継続しながらもコミタバの三人は撤退に向けて動いていた。目的の家屋に到着するために、バレないよう慎重に逃げながら移動していく。

 テッカが続ける。


(今現在、モノリスが頑張ってメラギラドラゴンと交戦してる)

(メラギラドラゴン? ……見なかったな。騎士団の誰かが発現した奴か?)

(分からない。でも突然空から降って来て、騎士団側も困惑した様子だってモノリスが言ってたから別勢力)

(別勢力……)

(しかもそのメラギラドラゴン、滅茶苦茶強い。非常に知能が高い個体で大量の兵隊達が蹴散らされまくっている。加えて騎士団と半分共闘みたいな感じになってるから、モノリスが劣勢で半泣きになっている)

(なるほど、こっちに回される兵隊が予定より少ないのはそれが原因か。……殺したネイト・ネッシーは使ってないのか? 他のアノマリーの死体も出せば盛り返せるだろう)

(モノリスには頑張ってアノマリー抜きで時間を稼ぐよう指示を出した。多分、確証はないけど……それをしたら対アウリリウエの矢が降ってくると思うから)

(街中にか? 民間人を巻き込む事になるぞ?)


 デイパーマーは思わずのっぺらぼうのテッカを見返った。

 しかしすぐにニールに視線を戻す。念話しているのを悟られてはいけない。幸いバレてはいないようだった。


(デイパーマーも知っての通り、守護者は洞窟への悪意探知がある)

(ああ)

(それなのに今回、街への襲撃は容易だった)

(……それは、できる限り洞窟の事を考えないようにして感情を消してたからだろ。それに街の人間にも洞窟に対しての何かしらの悪感情を持つ奴はいる。いくら守護者と言えど大小様々な悪意に対応するのは面倒なはずだ。だから)

(仮に街中の悪意に関してはあえて、見逃していたとしたら?)

(むっ……何が言いたい?)

(あえて街中への襲撃に関してはある程度、被害の許容を設けていたとしたら? あえて街は囮にして敵対勢力を暴れさせる。そして街の防衛が無理だと判断した場合、民間人ごと矢での一掃を画策していたとしたら?)

(まさか……)


 ニールの建造物を凌ぎながらデイパーマーは周囲に目を凝らした。

 一応目的地には近づいている。後は到着次第、小細工を弄して撤退を図るだけである。

 問題はニール以外の太陽の騎士団が見当たらない事だった。守護者の分身体は遠巻きにこちらを見ている。

 いくら建造物に巻き込まれる事を避けてるとはいえ、もうそろそろ使い潰しのきく分身体が押し寄せて来ても良い頃合いだ。なのに太陽の騎士団は民間人の避難と救助を終わらせようとしていると思われる。


 範囲攻撃……。


(ニール・リオニコフは空中列車で空への即時離脱ができる)

(そう、それに破壊した街はまた再建すれば良い。矢の被害はコミタバの所為にでもすれば良い)

(モノリスがアノマリーの死体で形成逆転した場合には矢で殲滅する。今はメラギラドラゴンが何故かいて戦況が優位だから使わない。そしてその状況は……こちらも同じ)

(コミタバは全体的に防戦一方だ)

(そして俺達は、太陽の騎士団の戦力もすら把握できていない)

(もしかしたら更なる隠れアノマリーとかも出てくるかもしれないね。メラギラドラゴンとは別の勢力も介入してくるかもという懸念もある。蠱王の時の子供が本気になるのも同様に。不確定要素が多すぎる)

(だから全てを賭ける時ではないと判断したわけか。……仕切り直しだな。洞窟の破壊にはしっかりとした準備と時間が必要になる)

(スミスも既に撤退を始めてる。さあ、こちらも逃げる準備を)

(了解した)


 目的の三階建の家屋が見えてきた。

 レオナルドに声を掛け、コミタバの三人はその家屋の中に勢い良く入っていった。



○○○



「と、いうわけで撤退だ。また会おうっ」


 時を少し巻き戻して別の戦い。テッカからの念話で情報交換を終えたスミスが、気取った声色で挨拶をして大きく距離を取っていく。


「っ、逃すか……!」

「スター!」


 それをオーハマーの回復呪文を振り払ったスターが追いかける。増援に来た三人は顔を歪め否応なしに、左腕がないその後ろ姿に続くしかなかった。


 四人でスミスとその分身体を追って通りを駆け抜ける。どうやら撤退と口にしたのは本心だったようだ。

 殿を務めている分身体が騎士団の追撃を防ごうと呪文を駆使して逃走の補助に徹している。本体はこの上なく全力疾走だ。


「ゴリ押しだ! スミスの分身体は強くはない!」


 だがそこはスミスを知るカインの出番だった。分身体が扱える呪文は把握済みのため、いち早くスターの前に出てこの状況下で撃ち込んでくる呪文を予測して対処する。


「ラウンセント・ツノドリル」

「エクス・ライズン!」


 そして数合の呪文の応酬後に正面から迫り来る巨大回転ドリルを肉体強化で強引に上へと殴り飛ばした。その両脇をスターとオーハマーが即座に通り抜け、射出後の分身体を左右から攻撃し無力化する。

 分身体は消滅した。スミスの追跡が再開された。


 スミスの走りに迷いはない。

 人が適度に行き来できる通りから建物と建物に挟まれた路地へと入っていく。

 一体何処を目指しているのか皆目見当もつかなかった。ただ少なくともハゲが治る洞窟から遠ざかっているのは確かだった。汽車の汽笛らしき音が何処かから聞こえる中、街の中心部からどんどん離れている。

 そして一度、おそらく事前に配置していたであろう複数のモノリスの兵隊が現れ追跡を妨げようとしてきた。だがそれは走りながら発現したスターの盾手裏剣とブロレジの障壁、肉体強化で強引に突破した。


 それを肩越しに見ていたスミスが更に走る速度を上げる。騎士団も負けじと足を早めて距離を詰める。


 そして路地を抜け少し開けた空間に出た。

 ここは街の端に位置する場所だ。遠くには簡易的な駅があり、地面には線路が敷かれている。


「線路……? まさかっ!?」


 それで騎士団はスミスの逃走方法を察知した。と、いうより今まさに蒸気機関車が白煙を吐きながら猛スピードで、左から右に通り過ぎようと接近して来ていたのだ。


 スミスが肉体強化の跳躍でその汽車に乗り込む。カインとオーハマーは阻止しようと汽車目掛けて呪文を解き放つ。


「ディアニガル・キュール・バルガライ!!」

「ユーラシア・ザサボン・カロソクヴァ!!」


 だが汽車にはモノリスの兵隊が複数乗車していた。三両編成の客室の窓から手を伸ばしブロレジの障壁をいくつも展開する。

 その所為で二人の攻撃呪文は空中で阻まれた。客室車両の屋根に乗り笑顔で手を振るスミスがどんどん遠ざかっていく。


「に、逃げられたっす……」


 しかし落胆する暇もなく事態は動く。先程強引に突破した時のモノリスの兵隊が後方から追いついて来た。

 騎士団はそれを見て歯軋りをした。コミタバはしっかりと追撃のケアをしていたのだ。


 そしてまたも事態は動く。今度は地面を揺らすほどの衝撃が響いて来た。何か巨大な物が上から下に落とすような衝撃だ。

 段々とそれは近づいて来ている。兵隊を迎撃しながらも騎士団は音の方向を注視した。


 すると近くの別の路地からデイパーマーが勢い良く飛び出して来た。今戦ってるモノリスの兵隊達に加勢するでもなく、駅がある方角へと駆けていく。

 しかもその走りは何やら歪だった。地面の凹凸に足を引っ掛けて体勢を崩し前のめりに転倒した。


「死ねえええええええええっ!!!! このボケナスがぁーっ!!!!」


 そのデイパーマーに一軒家が振り下ろされた。辺りに衝撃と風圧が発生し土埃が巻き上がる。

 やがて土煙は晴れて騒動の正体が明らかになった。騎士団のアノマリー、ニールがこの場に現着した。


「ニール!?」

「さあどうなった!? 当たりか!?」


 汗を流しながらニールは一軒家を消して激突箇所まで近づき見下ろした。そこには潰されたのっぺらぼうの死体があった。デイパーマーではない。

 それでニールは更に激昂した。ぐちゃぐちゃの肉塊、何とか女性の死体だと判別できるそれを感情剥き出しに蹴りまくり蹴飛ばす。


「クソがっ、これもハズレだ! クソったれ!! いやそもそも外には出てないのか? だとしたらまんまと……ん?」


 ニールはスター達に気付いた。すぐに右手を掲げてモアイ像を発現した。

 カインとオーハマーは即座にその場から離れた。投擲されたモアイ像が兵隊達を薙ぎ払い、追撃の一軒家も次々と放り込まれる。

 重量のある連続攻撃にモノリス兵隊はなす術なく潰されていった。


「で、ここで何やってたんだお前ら……ってスターの左腕がヤベーぞ!?」


 オーハマーがすぐに駆け寄って回復呪文を唱えた。戦闘が終わりスターはもう見えなくなった汽車の方向を見つめていた。

 カインが言った。


「いやニール、何故お前がここに?」

「そりゃあコミタバの殲滅よ。デイパーマーと知らねえ金髪を追い詰めてたら、三階建の大きめの家屋に入って行きやがった。そしたらその家屋の玄関や窓、壁を壊して大量の入った奴らが溢れ出て来やがった」

「それは、前もって変身呪文を発現できる兵隊を潜ませていたのか?」

「おそらくな。それがコミタバの撤退方法だったんだろ。んで四方八方に逃げるコミタバを潰し回ってここに辿り着いたのがオレ。……こんな汗かいて成果ゼロとかブチ切れて良いっすか?」

「落ち着け。それよりも良いタイミングで来てくれた」

「良いタイミング?」


 カインが意気込んで続けた。話の途中でスターがニールの方を向いた。


「空中列車を発現する余力はまだあるか?」

「あ? 勿論まだ発現はできっけど……何処に向かう気だ?」

「汽車で逃げたスミスを追跡して仕留める。空中列車の速度なら追いつけるはずだ」

「ほーん……ビルを殺した奴と殺り合っていたのか」


 ニールは目を細めてスターを見据えた。そしてその回復中の左腕に視線を移し気の毒そうに口をすぼめた。それから軽く息を吐いてから額の汗を拭う。


「スター、調子はどうだ? 戦闘続行オーケー?」

「ああ」

「良し、じゃあぶち殺しに行こうぜ。アノマリー・シロデリカ」


 ニールが呪文を唱え空中列車が低空地面すれすれに発現された。乗り込もうとしたスターにカインとエネルが慌てて止めに入る。


「いや待て、スターは連れて行かない」

「そうだよ。左腕がないんだからここまでだよ」

「って、言ってるがどうするよ?」


 スターは即座に言った。


「俺も同行する」

「だよな。ビルを殺した奴の殺害チャンスなんだ。お前が行かなきゃ誰が行くんだよ」

「いや、だからスターの左腕が……」

「左腕がなくても呪文は唱えられる。何があるか分からねえんだ、爆裂剣や盾手裏剣を無限に発現できるスターは必要だって。向かいながら車内で出しまくっとけ」

「……オーハマー、助けて」

「うえぇっ、ここで私に振るんすか!?」


 カインとエネルに意見を求められたオーハマーが回復呪文を発現しながら応えた。


「うー、いやまぁ……どちらかというと、賛成。スターを連れて行くべきだと思うっす」

「何故だ?」

「だって今、スミスを殺さないとまた誰か仲間が殺されるかもしれないじゃないっすか。それは嫌っすよ。元裏方の私は復興初期のメンツを友達だと思っているから。……ビルが死んだ時に感じた落胆をまた味わう羽目にならないように、今後のためにスミス抹殺の成功率を上げたい、ってな感じです。……まあそもそもの話」


 回復呪文が終わった。乱れた息を整え自分の気持ちを伝えたオーハマーはスターの顔を覗き見た。


「本人がやる気満々で引く気もないっすから……ねえ?」


 スターはオーハマーに礼を言って頷いた。カインとエネルは視線を合わせた。


「どうすんの?」

「……この五人で向かう。これ以上問答をしている暇はない」

「マジか」

「この線路は途中までしか伸びてないんだ。きっと何処かで別の逃走手段に切り替えるはずだ。オーハマーの言うように、ニールとスターという戦力がいる時に殺しておきたい」

「それは、今後のためには確かにそうなんだけど……」

「それに俺も気持ちは同じだ。俺も復興初期のメンツは大事な仲間だと思っている。死なれるのは御免だ」


 ニールとオーハマーが口を挟んだ。


「いや、お前に関しては若干警戒してる部分があるぜ。仲間なのは分かってるがスミスの関係者だし」

「えっ?」

「そうっすね。ぶっちゃけカイン・アンダーソンはさっき言った私のカテゴリーにはギリ入ってないっすよ。仲間判定、なし」

「……………………決意の再確認に水を差さないでくれ。今、普通に傷ついたぞ」

「「ドンマイ」」

「一応俺も復興初期のメンバーなんだけどな。もっと交流しておけば……後悔しかない」


 カインの身の上は既に知っている。その決意を聞いてエネルも覚悟を決めた。


「……わらわ了解。でもいざという時は逃げよう。本当に何があるかは分からないからね」

「おけ、話はまとまったな。それじゃあ乗車乗車!」


 ニールの号令の元、全員が木製の貨車に乗車して空中列車が空へと駆け上る。逃走したスミスを仕留めるためにスター達は地上の線路を辿って追跡を再開した。


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