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23-2 過去のコミタバとの戦い ②

 それは、見上げるほど大きな木の塊だった。ニールが足場にしている錨とほぼ同じ大きさだ。

 馬の形を成している。しなやかな四肢にその胴体と頭部が支えられている。それでいて思わず、平時ならば誰もが嘆声を漏らすくらい美しかった。木でできているとは思えない精巧さと流麗さがある。


 まさに目にした瞬間、あらゆる人間を惹きつけて離さない建造物。トロイの木馬。

 それが今、思いっきり地面に叩きつけられて大小の木片が入り混じるゴミと化してしまった。


(……流石にあのサイズの建造物に潰されるのは、肉体強化でも洒落にならないな)


 そのゴミの直撃を何とか回避したデイパーマーは、険しい顔で激突箇所を注視していた。

 錨もトロイの木馬も、前回のホムラン襲撃時には見なかった建造物だ。

 遅れて戦闘に加わり、存在強化の兵隊が空中列車を撃墜した後に少しだけニールと戦闘をした。その時は木彫りの深海魚やらマッスルポーズ銅像やら大型ソファを投げてきて、何だコイツと怪訝になったのを覚えている。


(あの時は撤退戦だった。その最中、肉体収納化で取り出した物をぶん投げたと思っていた)


 だが後でテッカに建造物のアノマリーだと聞かされて驚いた。そして都市ラクーンを経ての連戦だった事から、疲労が蓄積し全開戦闘はできなかったのだと理解した。


(しかし今回はそうではない。全力で殺しにくる。そして俺は同一体ではない。敵アノマリーを釘付けにするためにも……逃げの一手になる)


 建造物のアノマリーとは具体的にどのような呪文なのか、重量のある建造物を何故ぽんぽんと軽い感じで投擲できるのか、と詳しく知りたい欲求に蓋をしてデイパーマーは次の展開に備えた。


「レオナルド、動くぞ」

「くっそ、あいつ無茶苦茶だ……」


 予想通り、追撃の建造物が発現され周囲に影ができた。二個目のトロイの木馬が陽の光を遮りながら迫ってくる。

 それを共に無事だったレオナルドと再度回避する。襲撃する側がアノマリーの呪文使いに反撃される形となり、コミタバ二人の逃走劇が始まった。


「社会のゴミが、何生きてんだゴラァーっ!!!」


 街への襲撃は、もうほっぽり出してガン逃げに徹する。そこにある意味、コミタバと同等の社会のゴミであるニールが大声で吠えながら教会の丸鐘を投擲する。

 デイパーマーとレオナルドは迎撃できる建造物だと見極めながら呪文で全力でそれを弾く。弾いた先に家屋があり、そこに鐘の音を鳴らしながら丸鐘が突っ込んでいく。

 続けてニールが一軒家を発現しこれまた眼下で逃げるコミタバに向かってぶん投げようとした。

 そのサイズを弾くのは無理だと判断し、大玉光球のユーラシア・フォスンを共に発現し、一瞬目を眩ませた瞬間に走る方向を変えて回避する。

 逃走経路付近にいたモノリスの兵隊も活用した。アクセル・ボルトティアを試した結果、一軒家相手ではギリギリの所で吸収しきれずに破裂する羽目になった。

 手を変え品を変えコミタバは降り注ぐ建造物を凌ごうとした。


 建物の屋根を渡り走り、上から攻撃するニールの戦い方はもう滅茶苦茶だった。

 次々と多種多様な建造物を用いて街を破壊しながら攻め立てていく。

 既に大型のシャンデリアやファラリスの雄牛、三メートル超の大きなのっぽの古時計にモアイ像、お地蔵さんで複数の建物や街灯等に被害を出している。

 街に元々あった一軒家にニールの一軒家が激突し、無抵抗の一軒家が破壊され見るも無惨な姿に成り果てる場面もあった。


「おっと、モノリスの兵隊も死ねぇーっ!!」


 とてもじゃないが呪文使い同士の戦いとは言えなかった。何度も何度も建造物が地面を叩き地を揺らし、周囲に破壊をもたらすためデイパーマーは災害か何かかと思わざるを得なかった。


「おい、デイパーマー」


 逃げまくる最中、横に投下された大仏によって進行先が塞がれた。それを一緒に飛び越えレオナルドが顔を顰めて言った。


「これヤバくねーか? どうすんの?」


 既にレオナルドは冷静さを取り戻し状況を推察していた。

 現状、苛烈すぎるニールの攻撃に介入する他の騎士団員はいない。建造物の投下に巻き込まれる事を恐れ、かつ民間人の避難誘導を行っているため敵はニールだけだった。

 だが徐々に周辺の避難は完了しつつあるようだ。守護者の分身体も増え始め、展開しているモノリス兵隊も排除されつつある。そしてそれは想定よりも早い。

 このままでは数の暴力で押し潰されるのは明白だった。レオナルド的には撤退指示はまだかと急かしていた。


 デイパーマーが言った。


「まだ時間を稼ぐ。撤退指示が来ないからな」

「まだかよ……たくっ、アノマリーに当たるとは運がねぇ」

「テッカの奴はこの状況を注視しているはずだ。殺られる前に事態が進展する。それまで耐えろ」


 デイパーマーの返答を聞いたレオナルドは少しの間考え込んだ。そしてかぶりを振る。


「いや、待てないな」

「何?」

「このままじゃ押し切られる。攻勢に出るから手伝え」


 丁度曲がり角、上から追跡するニールの死角を狙いレオナルドが雷槍を発現して地面に突き刺した。そしてそのまま走り雷槍から距離を取る。


「これで計四本。既に逃走の途中で地面に突き刺している」

「ああ、今のようにバレないよう刺していたのを見た」

「ボルトティアの呪文には結界呪文がある。三本以上のロンゴ・ボルトティアを発現してる最中に唱える条件呪文。それで……」

「ニール・リオニコフを閉じ込めるというわけか」


 返事の代わりにレオナルドは分身体を発現した。デイパーマーの声色でやる気があると判断したのだ。


「だがこの条件呪文の発現には少しばかり時間が掛かる。それまでに奴を抑えられるか?」

「……場所を同じにするべきか。屋根に上る」

「屋根に?」

「呪文ではなく言葉で動きを止める。太陽の騎士団が気になる情報を提示して気を引けば良い」

「食いつくのか、それ?」

「食いつくさ。メタルサソリの方は知らないが、あの無駄に多い暴徒達にはカラクリがあるからな」

「カラクリねぇ」

「いや……カラクリではなく自作自演か」

「どっちだよ」


 レオナルドは分身体をニールの元へと派遣した。分身体は駆け上がり建物の屋根まで登って少し戦い、ニールが放ったアイアンメイデンに囚われ串刺しにされ消滅した。

 その隙に二人は肉体強化を用い、一気に屋根の上へと駆け上がる。同じ高さに立ってニールと相対した。


「あー? ……あーはいはい。わざわざ近づいて来たって事は近接戦をするつもりか」


 同じ建物の屋根の上、その端と端での対面。互いの顔を正面から目視できる距離。

 そこでニールは呆れた表情を浮かべながら、右手に鎌を左手に包丁を発現した。どちらも普通の物よりサイズが大きい。


「馬鹿だなぁ、実に馬鹿だ。こちとら人類八割絶滅を目指してたんだ。遠距離中距離だけじゃなく近接戦闘もやれるように努力したに決まってんだろが」


 敵のため当然、今まで会話らしい会話はなかった。だが対面して早々何という事を言い出すのかとデイパーマーは思った。

 しかしそれはそれとして、隣でしゃがみ込むレオナルドの結界呪文発現のため時間稼ぎの目的を果たそうとした。


「いや違う。少し話がある。聞け」

「いや、先にオレの話を聞け。ちょっとした秘密を教えてやる」


 しかしニールは全く取り合わなかった。ほんの僅かに目を細め今さっき発現したばかりの包丁を捨て、コミタバが見てる中でアイアンメイデンを新たに発現し始めた。

 そしてそれを左掌に乗せ軽々と持ち上げている。


「お前らも気にはなっているんじゃねえか? 何故こうも軽々と重量がある建造物を投擲できるのかを。一軒家とかは肉体強化があっても難しいと思うだろ?」

「そうだな……それは俺も気になっていた」

「でもオレはぶん投げる事ができる。何故なら……」


 ニールの意図は不明だがデイパーマーはとりあえず静観する事にした。それは自身が知りたがっていた事でもあり、敵が勝手に喋る分には好都合だったからだ。


 そのデイパーマーを見ながら、アイアンメイデンを消したニールが不適な笑みを浮かべ答えた。


「オレが発現した建造物に関してはオレが持つ分には重さがほぼ生じないから、だ。アノマリー・シロデリカ」


 ニールがアノマリーの呪文を唱え建造物を発現した。周囲一帯が暗くなる。

 それを見上げたデイパーマーは自らの選択を後悔した。話ではなく戦闘で時間を稼ぐべきだった。

 呪文の発現の準備をしていたレオナルドも驚愕を顔全体に広げて空を見上げている。


 ニールが発現したのは小型のピラミッドだった。しかし小型とは言えない。本来のピラミッドよりも小さいが、周囲一帯に降り注いでいる陽の光を完全に遮るくらいには広く巨大だったのだ。

 その砂色の四角錐をニールが何でもないように左手で持ち上げている。コミタバの二人は流石にこのサイズの建造物が出てくるのは予想外で次の行動が遅れてしまう。


「ほい、ポーイ」


 その硬直を見逃さずニールはピラミッドを上に投げた。それはもう、軽い感じで。腕の動きが友達に物をパスするかのようにポイっ、とだ。

 巨大なピラミッドは重力に従って下に落ちてくる。


(馬鹿なっ、これではお前も……!?)


 ニールの言葉を信じる場合、持たないのならその特大な重量はそのままのはずだ。そしてニールも直撃範囲内におり、このままではピラミッドに潰される。

 突如として行った自分を巻き込む行動に、デイパーマーは驚き対処する事はできなかった。


 とその時、ピラミッドが消えた。

 落ちてくる直前の巨大ピラミッドがふっ、と電灯が消えるように綺麗さっぱり消え失せた。

 そしてデイパーマーとレオナルドは前方から飛来した建造物、列車の客室車両が直撃し屋根から落とされていく。


(陽動……こいつ、言動とは裏腹に頭は冷静だ……!)


 ニールは全くピラミッドを使う気はなかった。ただ敵の注意を上に向けさせるだけに発現し、客室車両をぶち込む隙を作るのが狙いなだけだった。

 そのためにわざわざ巨大なピラミッドでこの周辺を自分もろとも潰すフリをした。

 呪文使いは発現した超常現象を任意に消す事ができる。アノマリーの呪文もそれは同じ。

 デイパーマーはそう解釈しながら地面に、結界呪文の発現が間に合わなかったレオナルドと共に叩きつけられた。


「引っかかったな雑魚がっ! これで終わりだっ!!」


 ニールがトドメを刺そうと一軒家を発現した。

 客室車両の直撃と落下の衝撃による激痛に苛まれながらもデイパーマーはバルガライを、レオナルドはボルトティアの呪文を撃ち込こもうとする。だが間に合わない。

 一軒家は無慈悲にコミタバに向けて投下される。


 そして二人に直撃……いや。横から飛んできた十字の斬撃によって一軒家は切り裂かれ四つに割れた。


「これは……っ」


 何とか起き上がったデイパーマーはこれはテッカの十字斬撃呪文だと思い、その出所を見やった。


 そこにはモノリスの兵隊と化していたテッカが立っていた。救援に来たのだ。

 続けてそのテッカから届く念話にデイパーマーは意識を傾けた。



○○○



 二人の呪文使いが発現した剣で剣撃を繰り広げていた。殺意を持った肉体強化込みの剣の打ち合いが衝突音を響かせ、苛烈な殺し合いの余波で街中の建物や地面が瞬く間に切り裂かれていく。

 加えて片方の呪文使い、スミスが常に移動しながら迎撃を行うため斬撃の箇所が増えていく。

 追う側のスターが剣を発現しては投擲し爆裂剣も混ぜて戦うのもあり、二人の通り道には破壊の跡が所々に散らばっていた。


 戦況はスミスが優勢だった。度々両頬を膨らませてスターを揺さぶっていく。

 スミスは毒ガス呪文を発現できる。実際にビルの死因になったその呪文の脅威度はスターが良く分かっている。

 口から吐き出されるその性質上、たとえフェイントだと思っても頬が膨らむのを見ればスターは意識を割かざるを得なかった。スミスはその隙を的確に突き、時には実際に毒ガスを吐き出したりもした。

 そのおかげで攻め立てているスターの方が劣勢で傷だらけになっていた。顔も身体も掠った斬撃で血を流し肉体強化の殴打も喰らいボロボロだった。

 だがそれでもコミタバ排除のため取り憑かれたようにスターは肉薄する。

 スミスは顔にこそ出さないが、内心はそのスターの事を不気味に思っていた。


 スミスはまた別の場所に移動しながら思案する。スターは磁石のようにくっついてスミスを追跡する。


(うーん……弱くはない。けど強くもない。アカムのクーデターを解決した時は今よりも幼かった。なのにコピーのアノマリーを打破した。その理由が全然分からない)


 スター・スタイリッシュの事はドバードの戦争時にも観察はしていた。スミスはドバードの軍側の兵士として活動していたのだ。

 その時も今と同じ感想を抱いたのを覚えている。正直言って、体力消費なしで呪文を発現する才能は驚異的だが本人は強くはない。呪文使いとしては上澄だがそれだけだ。アノマリーは倒せないと思う。


(この殺し合いだってそうなのだよ……どう見ても私の方が優勢だ)


 ホムランの時も一応ファングガード以降は距離を取って戦った。弟の邪魔がなければ流石に殺しきれていたはず。ますますスミスは分からなくなってきた。


(まあ分からなくなった時は聞いてみれば良いか。ここは一旦離れて……)


 丁度スターが爆裂剣を二つ爆破してきたので、スミスは肉体強化の強度を高めてそれを受ける事にした。

 爆発による爆風に乗って一時的にその場を離脱する。その後は近くにあった自動車の上に乗って適当なポーズを取りスターを見下ろした。

 スターはスミスの行動の意図が図れず警戒度を上げて足を止めた。スミスはポーズを辞めていつでも動けるような姿勢になって口を開いた。


「ちょっとタイムだ。スター・スタイリッシュ」

「………………」

「お姉さんは聞きたい事があってだね」

「ユーラシア・ブレイド」


 聞き耳を持たず。スターは巨大剣を発現して振り下ろしてきた。それをスミスは自動車を蹴って横に避ける。


(さてさて、どうしたものか……)


 両断された自動車から離れスミスは状況を推察しようとした。

 作戦開始から十分は経過した。もうそろそろテッカからの撤退指示が出る。これまで民間人を優先的に狙う事で、騎士団に救助や保護をさせその動きを鈍らせてきた。

 だがその途中でスター・スタイリッシュに遭遇し戦闘になった。執拗に追いかけてきて中々追い払えず、同じ場所で戦い続ければ包囲されるため移動しながら戦った。


(おそらくビル・フキャナンは死亡したんだろうね。ここまで彼の姿は見ていない。つまり私は仇ってわけだ)


 そうなると今すぐ仕留めた方が良いとスミスは考える。捨て身で突っ込んで来る敵など厄介極まりない。その内、毒ガスの中だろうが自分の身を度外視で殺しにくるだろう。

 それに撤退時に邪魔をされるのも避けたかった。


(よし、殺せる時に殺しておこう)


 スミスは速攻で結論を出すと動き出した。大きく息を吸い込んで無言呪文で煙幕を口から発現する。


(ホワザブ・レブス!)


 スミスへと肉薄しようとしたスターは、その拡散される白煙によって足を止めた。そしてこの白煙を駆使して敵が仕掛けてくる次の行動に即応するために全神経を集中させた。


 白煙が徐々に晴れていく。地面を力強く蹴る音がした。次の瞬間、スターから見て右側からスミスが白煙から飛び出してきた。

 スターは反射的にスミスを仕留めようと右に動く。

 だがそれは囮だった。刹那の空白後、スターから見て左側からもう一人のスミスが飛び出してきたのだ。

 そのスミスは右手をピストルの形にしてスターを狙っていた。そして呪文を唱えた。


「ベル・グレイブ」


 銃身担当の人差し指から灰色の細い光線が発射される。囮の方のスミスに意識を向けたスターはその光線を咄嗟に避ける事はできなかった。


「っ、シュリ・ブレイド!」


 だから盾手裏剣で防御しようと努めた。だが盾手裏剣の発現は僅かに間に合わずスターは左手に光線を受けてしまった。

 スターは知らない呪文を被弾し一旦距離を取る。そして白煙が晴れ最初に飛び出してきたスミスは分身体だった事を知った。


「さて、これでお終いだ。あの世でビル・フキャナンと一緒に残念会でも開いてくれ」


 スターは左手に違和感を感じた。目線を落とすと左手が石と化していた。

 更にその石化は左手首へ、腕へと侵食していく。手の感覚がなくなりだらりと左手が重くなっていく。


 スターは周囲に視線を巡らせた。


「……これは石化呪文」

「そうそう、石化光線を放つ呪文。肉体強化を貫通する私の切り札だ」


 対してスミスは油断なくスターを見据えていた。

 時間経過で全身が石化するまでには猶予がある。仲間の仇が目の前にいるのに何もしないとは思えない。

 スターは右手に剣を発現して横に移動し始めた。スミスは追撃はせず、その一挙手一投足を目を細めて見守った。


「……なっ」


 スターの近くには火の手があった。この周辺はモノリスの兵隊も襲撃しているため、あちこちに被害が出ている。

 当然、モノリスの兵隊にも呪文を使わせている。近くの建物がメラギラの呪文で燃えているのは何もおかしくはない。


 スミスが驚いたのはスターの行動だった。

 スターは近くにある燃える炎で剣を炙り、その剣でまだ石化していない左腕上腕辺りを切り落とし、剣の面を傷口に押し当て止血し始めたのだ。


 焼灼止血。切断面を熱した剣で焼いて傷口を塞ぐ止血方法。肉が焼ける音がしている。

 それは緊急時に止血する方法として知っている。問題は目の前のスターが何の躊躇もなくそれを行った事だった。


(いやいや、普通やる? 確か孤児院出身の子供だったっけ? 見た目的にも十代前半くらいだろうけど……その歳で思いついたとして、実際に腕を切り落として石化の進行をやり過ごすなんて)

 

 スミスはこれでもかという顔でスターを凝視した。スターは切り口に剣を当て、腕の断面を焼きながら今もこちらを睨んでいる。

 その表情には一切の揺らぎもないようにスミスは見えた。地面に落ちた石化中の左腕半分が完全に石になっても気する素振りはない。腕を焼くという激痛に対して微塵も感知していない。まるで別人のよう。


(あー、やばいねこれ。これ以上の戦闘は辞めといた方が良い気がする。……とても、嫌な予感がする)


 ファングガード、毒ガスの呪文、分身体の自爆呪文、石化呪文。自分の手の内は大体見せた。急所パンチや他のファングも一応まだ発現はできるが残りは数体ぐらい。なら、ここまでだろう。

 それにこの不気味なスター・スタイリッシュとは今日の所はもう相対したくない。自身の直感に従ってスミスは本気の離脱をする事に決めた。


 すると近くから爆発が起こった。素早くその爆発箇所を目を向けるとモノリスの兵隊数体が吹き飛んだ所だった。

 続けて知っている顔が二人、知らない顔が一人現れた。騎士団側の増援がやって来た。


「スミス……!」

「スター、左腕が……!」

「スターの状態がヤバいっす!」


 弟のカイン・アンダーソン。ミギドの裏方のオーハマー。最後の銀髪のエネルはスミスは知らない。

 その三人は即座に傷だらけのスターの元へ駆け付け、庇うようにして間に立ち敵意を剥き出しにした。


「オーハマー、早くスターに回復呪文を!!」

「もうやってるっす!!」

「ここにいたのか、スミスっ!!」

「いやー……弟よ、なんかデジャブだねぇ。今度は怒りに任せて突っ込んだりはしないんだ」


 スミスがそう言うとカインは歯を食いしばって冷静になろうとした。それは姉であるスミスには良く分かった。

 スミスはこの状況の面倒さに辟易となった。


(うん、面倒くさー。撤退一択だ)


 増援が来たという事は付近の制圧は終了間近なのだろう。

 長居は無用だ。スミスは撤退に向けて発現中の分身体と共に動き出そうと足に力を込める。


 そのスミスにテッカからの念話が届いた。


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