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22-1 それから(ダイジェスト)

 それから彼らの復興活動がまた始まった。


「そんじゃ、さっさとホムランに戻るか」

「そうっすね。やる事が山積みで忙しくなるっす」

「いえ、この場所から再スタートです」

「「え?」」

「このハゲが治る洞窟を中心として復興を成していくのです。この森を開拓して」

「「……………………………」」

「おや? ニールにオーハマー、どうかしましたか?」

「……どうかしましたじゃねーよこの分身体。お前じゃなくて二階にいる本体をこっちに呼んでこい」

「んん?」

「そうっすよ。急に意味不明な事を言い出して正気を疑うっす」

「ハゲが治る洞窟って何だよ。しかもそれを中心に復興とか何言ってんの案件だわ」

「あっ、まずはそこから」

「そこからって何だよ」

「……えー、二人はスターの髪が伸びていたのに気付いていたしたよね? あれ、スターが洞窟に入ったからなのです」

「洞窟ってスターが逃げ込んだ洞窟っすか?」

「そうです。オーバーパーツ、ハゲが治る洞窟です。洞窟内にいれば髪の毛が生えてくる、または既に生えている髪が伸びる。そんな効果が発生するのです。ちなみに髪が伸びるのは個人差があります」

「で、その洞窟を中心に復興を成していくと?」

「ええ、復興のシンボルにします」

「馬鹿じゃねえの?」

「私もそう思うっす。わざわざ森を開拓しなくてもホムランを拠点にした方が良いじゃないっすか」

「それは、そうなのですが……」

「手間だろ。どう見ても」

「……………………………」

「おい、ベネット?」

(……さて、これはどう説明したものか。彼女達の発言は筋が通っている。ハゲが治る洞窟で復興なんてどう考えても馬鹿げている。しかし洞窟が再稼働したのならアウリリウエを無視するわけにはいかない。復活していた場合に備えて洞窟を駆使できるようにしなければ終わってしまう。……それにおそらく、洞窟は人集めにも使える)

「どうしたっすか?」

(洞窟があると目立たせ世界の何処かにいると思われる決戦の当事者や関係者を呼び寄せる。ヨビ達が生き残っていたのだから必ずいるはずだ。アウリリウエが復活した可能性を知れば協力してくれるはず。他の守護者もやって来るかもしれない。しかし私だけでは手が足りない。アウリリウエ警戒のために私本体は洞窟から離れられない。復興のためにもスター達の協力がいる。……だがハゲが治る洞窟だけでこの様子なら、私の経歴を伝えても不審がられるだけだろう。それ所か正気を疑われ今後の活動の際の発言力が低下するかもしれない。それは駄目だ。アウリリウエが復活したかどうかは関わらず、彼ら彼女らは報われなければならないのだから。ビルのためにも……でも本当にどうやって説明したものか。これはもう、土下座してゴリ押しするしかないだろうか?)

「何やってんの?」

「あっ、エネル」

「そうですわらわです。下の様子が気になったから降りて来ました」

「スターの様子はどうっすか?」

「……とてもじゃないけど見ていられない。流石にこんなのはないよ。スミスとかいうコミタバ女は死ねよって思う」

「それは皆そうっすよ……」

「で、どういう状況? 二人が胡散臭そうにベネットを見てたけど」

「胡散臭そうに、じゃなくて胡散臭いんだよ」

「ハゲが治る洞窟をシンボルにして復興していくって言うんすよ。この森を開拓して」

「???」

「オーバーパーツだってよ。スターがいた洞窟がそれなんだと」

「ほうほう……ハゲ、えっ? ハゲが治る洞窟? いやスターの髪が伸びてたのは気にはなったけどそれが関係してる?」

「してるらしいっす」

「馬鹿みたいだよなぁ?」

「確かに馬鹿みたいだけど……まあマジでその洞窟があるなら一理あるかも。洞窟を中心にして人を呼び寄せられる、かも」

「「「えっ?」」」

「だってほら、今って超不安定な世の中じゃない? 各地の治安の崩壊で栄養不足、睡眠不足、疲労増加、不衛生にストレス。それらが渦巻いている。抜け毛が増える環境になっているんだよ。そこでハゲが治る洞窟の出番ってわけ」

「いや出番て……オーハマー、理解できないのはオレだけか?」

「いや大丈夫、私も全然分からないっす」

「人は失って初めてその大切さに気付く。再び髪が生えてくれば今度はまた失う事に恐怖する。だから洞窟を守ろうとする。結束が生まれる。それが拡大して世界を平和にしようとする気持ちになっていく。……まあ洞窟の中に招き入れる必要があるけど、それをベネットは言いたいんじゃないかな?」

「いえ、全く違います」

「違うんだ。ならわらわ分からん」

「いや違うんかいっ! オレもオーハマーもズッコケちまったじゃねーか!」

「過去の剣旅行でハゲと一緒行動する事があって、そいつの痛みや苦しみを元に考えてみたんだけどね」

「じゃあ、何なんすか本当に。どんな意図があってホムランではなくこの場所から再スタートなんすか」

「そうだぜベネット。具体的にどうやんだよ」

「……それは勿論、周辺の木々を切り倒してです。丁度到着した私の分身体を使って」

「「「「「ヒャッハー」」」」」

「「「「ぐへへへへ……お邪魔するぜぇ」」」」

「ちょっ、大量のモヒカン達が家に入って来たっすー!?」

「先程条件がクリアされました。私は分身体を多く発現できるようになりました。時間のアノマリーを使えば毎日休みなく活動できるので、すぐにこの森を開拓できるでしょう」

「いやこのモヒカン達、ベネットの分身体なの!?」

「はい、外にはもっと大勢控えています。スターの剣を分身体に配布し伐採、私のアノマリーで地面の草を枯らせ木の根を引き抜き整地にしていく。各インフラはホムランにあるのを持って来ます。整備等はお任せください」

「おいおいおい、モヒカン共が土下座し始めたぞ」

「ですがあなた達の疑問はもっともです。ハゲが治る洞窟で復興など意味不明で馬鹿げている。でも、ここは騙されたと思って私に従ってもらいたいのです。私のこれまでの活動を思い返して。復興のためなのです。だからどうか、どうか……!」

「モヒカンじゃないベネットも土下座しちゃった……」

「「「「よろしくお願いします!!!!」」」」

「……モヒカン達の土下座ってシュールっすね」

「せやな。だが真面目な話みたいだぞこれ」

「てかオーハマー、右目治ったの?」

「治ったっす。今土下座しているベネットのアノマリーで」

「私のアノマリーって言ってたからそれかぁ……ニールの言う通り真面目な話か。どうする二人とも? ハゲが治る洞窟で復興する? 一応インパクトはあるけど」

「どうするって言われてもなぁ。オレもベネットのおかげで全快したわけで、今までの言動を知ってるわけで……再確認だがマジな話だよな?」

「はい、私は本気でお願いしています」

「おおう、……なら」

「やるっすか。ハゲが治る洞窟で復興を」

「やるか。馬鹿みたいだがホムランの首長が言ってんだ。とりまやってみようぜ」

「ご理解感謝します。スターには私から伝えておきますので」


 無論、最初の内は苦労した。なんせ一からのスタートなのだ。洞窟周辺を開拓、インフラのための土木作業。明らかにホムランを拠点に活動した方が良いに決まっている。

 だが休みなく活動できるベネットの分身体は強力だった。無数にいる彼らによって瞬く間に作業が進められ森が更地になっていく。

 物資の方も問題はなかった。ベネットがリスク分散のため、無限カバンに備蓄していた物資の大半を入れていた事から物に困る事はなかったのだ。

 無限カバンに元々あった様々な物も取り出して活用した。いつ中に入っていたか分からない大量の物は時間のアノマリーで最善な状態に戻したのだ。


「カイン・アンダーソン」

「ベネット、急に呼び出して要件は何だ?」

「あれがスミスですか。あなたが探していた裏切り者。ホムランに潜入潜伏し混乱に落とし込もうとしたコミタバ」

「……ああ、姉だ。あいつを殺すためにホムランを拠点にして行方を追っていた」

「そして私の指令を受け急行した時に、思いもしない形でスミスと遭遇しその後追撃した」

「モノリスの兵隊の邪魔が入って逃げられたがな。……殺気が漏れてるぞ。何の真似だ」

「あなたを殺すかどうか私は迷っているのです。カイン・アンダーソンはコミタバに通じているのかどうか」

「……俺がスミスや暴動要員をホムランに招き入れたと?」

「その可能性があるという話です。もしかしたらあなたはコミタバでホムラン内部に敵を入れた内通者。しかし我々の活動に精力的でもありました。ヨビ達と一緒に行動で示し貢献してくれた。先日スミスの情報も知る限りで提供してくれた」

「ベネット、結論を先に言ってくれ」

「今のあなたは一体、何を考えこれからどうしたいのかを私は知りたいのです。それを聞いて殺すか否かの判断を、私の裁量で敵か味方かの判断をこの場でしようと思います」

「…………」

「味方なのに敵認定された場合は申し訳ありません。終わりですが諦めてください」

「そうか、分かった」

「はい」

「なら、しっかりと答えないとな。俺の今の気持ちを」

「…………」

「今度は同じ失敗はしない。俺はそう心に誓った」

「失敗?」

「あの時、スミスを見つけた時、俺は怒りで我を忘れていたんだ。あいつは仲間を皆殺しにしたクソ姉だからな」

「…………」

「だがそれでも、スター・スタイリッシュとビル・フキャナンは視界に映っていた。負傷している二人の姿が見えていた」

「……これは八つ当たりになりますが二人を優先してほしかった。作戦本部との距離は遠くなく、私本体は外でしたがアノマリーを発現できる分身体は残していましたから」

「ああ、ビルの奴が死んだのは俺の所為だ。そうしなかったのは二人をあえて避けていたからだ」

「避けて?」

「俺は元裏方でアカムに工作を行っていた過去がある。ネイト・ネッシーとも交戦経験がある。オーハマーの奴も俺の事を知っていた。……だから距離を取っていた。それにスター・スタイリッシュが不気味でもあったんだ」

「それはどういう……?」

「過去のアカムで起きたクーデター、それを解決したのはスターだ」

「ええ」

「クーデターを起こしたのはコピーのアノマリー。それをスターが殺して解決した。今よりも幼いスターが一人で、だ」

「………………」

「スターは呪文使いとして間違いなく上澄みだ。だがコピーのアノマリーを倒せるとは思えない。あれは火力が破格でアノマリーの他にもクーデターの仲間が他にもいたからな。それは当時のスミスも疑問に思っていた。だから良く分からない存在としてスターの事は不気味に思っていた。……だが実際に顔を合わせを行った時、あいつは普通の子供だと思った」

「ヨビ達も含めた顔合わせの時ですね」

「ああ、ビルよりも一回り小さな普通の子供だった。コピーのアノマリーを打破した子供は一体どんな感じかと思ったら平凡な奴だったんだ。……不気味と思う気持ちが薄れるくらい平凡な。事実その後のスター活動を見て聞いて、好感に思う気持ちも出てきた」

「…………」

「俺と比べて二回りも若い子供、そんな子供が俺らの中で一番頑張って活動していたんだ。好感も出てくるさ。……でも、あの時はスミスを優先した。俺は二人の姿を視認していた。だが怒りの片隅で大丈夫だと思ってしまった。交流はほぼなく、負傷しているようだが作戦本部は近かったから。……今ではその選択を後悔している。あの時二人を優先すればビルは死ななかったのに」

「…………」

「だから次はもう、同じ失敗はしない。スミスと対面したとしてもその怒りは抑え仲間を優先して復興に従事していく」

「それが今のあなたですか」

「ああ、以上が今の俺だ。……それでどうなんだ?」

「まあ端的に言って分かりません」

「……つまり、保留か?」

「ええ、殺すのは保留とします。そもそも言葉だけじゃ何とでも言えますから」

「そうか……」

「カイン・アンダーソンは敵かも味方かもしれない。今はこれで良いです。これからの活動で言った事を示してもらいたい。そして……」

「そして?」

「あの時殺さなくて良かった、そう思える日が来る事を心の底から願っています」

「……ああ、そうなるように頑張るよ」


 活動に伴って生じる小規模ないざこざも容赦なく鎮圧していく。ニールのアノマリー以外の建造物も建てられ徐々に徐々に、復興の輪が広がっていく。

 復興に協力しようとする各地からの志願者達も現れ始めた。ベネットの選定を経て仲間が増えていく。その大半が呪文やら医療やら何かしらの一芸に秀でておりとても協力的だった。


「スター」

「……ジクルド・ハーツラスト?」

「ああ、やっと合流できた。ビルは何処だ?」

「……ビルは死んだ」

「えっ?」

「毒ガスの呪文を喰らって間に合わなかった。ビルはもういない」

「そん、なっ……」

「バルガスとネイトさんは今何処にいるかは知らな……」

「すまないっ」

「えっ?」

「俺の、所為で……ビルは、もっと早くに合流できれば……いや、俺、は」

「ああ、それは……違う。ビルが死んだのは俺の所為だ。コミタバの罠にまんまと引っ掛かり、ビルが毒ガスを浴びる羽目になった俺の……。作戦本部に向かっていれば……」

「本当に……すまないっ」

「いや、良いよ。ジクルド・ハーツラストは悪くない」

「本当に……本当に……」


 問題があるとすればニールの夏の発狂だった。だがそれも何とか乗り越えて……。


「あっ、あっ、あっ……ああああああああああああああああ?!?!?!!?!?!」

「ぎゃーっ!?!?!?」

「ちょっ、オーハマーが小型パイプオルガンに潰されたーっ!!!」

「クソがっ!!! もう我慢の限界だっ!!! ふざけやがって皆殺しにしてやるぅーっ!!!」

「しまった、ニールの事を忘れていました」

「ちょっ、あれは一体何なの!? 何で急に建造物射出しまくってるのかわらわ分かんないだけど!?」

「あれはですねエネル。ニール・リオニコフの夏の発狂です」

「はぁ!?」

「彼女は人類八割虐殺の思想を持ち、夏を嫌悪しており、夏の高温多湿の時はあんな感じになるそうです」

「お前何言ってんの!?」

「復興の多忙さで伝えるのを失念していまして。私もこれ程までとは思わなくて。アノマリーで汗をかく前の状態に戻さないと」

「あああああああっ!? ボケがっ、カスがっ、今年の夏は異常気象だろうが三十五度って正気かゴラァ!?!? しかも連日とか熱帯夜とかあばば、あばば、あばばばばばばば、やっぱり二酸化炭素を出す人間はもっと死ぬべきだ、人間は死ぬために生きてんだからもっと死ぬべきなんだーっ!!!!!」

「ひとまず、エネルはオーハマーを連れて退避してください。私の分身体が今潰されているのでその隙に」

「わ、わらわ了解……」

「ベネット、現着した」

「カイン・アンダーソン、これよりニールを止めます」

「フルネームは長いからカインで頼む。で、何だこれ……何故汗だらだらのニール・リオニコフがあちこちに建造物を発現しながら避難民が大勢いる場所に移動しようとしてんだ」

「たたあばばばああぁぁ!!! くそがっ!! イライラしてきた!!! でもこれは発狂じゃなくただのブチ切れだーーっ!?!」

「ほら、オーハマー! わらわの肩に腕を回して!」

「あ、エネル、ありがとうっす……」

「思いっきり潰されたけど大丈夫?」

「肉体強化で何とか……」

「そっか。じゃあ早く離脱し」

「何エスケープかまそうとしてんじゃゴラァっ!!!」

「「ぎゃーっ!?!?」」

「おい、エネルとオーハマーがモアイ像に潰されたぞ!?」

「死ねぇっ、このカス共がーっ!! そしてもう仲間ゴッコはこれまでだっ!!! てめーら全員ビルの元へ送ってやらぁーーーーっ!!!」

「おい、あいつ最低だぞ」

「もしかしてニール・リオニコフは敵だったのでは……?」


 その翌日の発狂も乗り越えて……。


「あっ、あっ、あっ、あーーーーーーーーー(高音)」

「「ぎゃーっ!?!?」」

「エネルとオーハマーが金色のシャチホコに潰されたーっ!?」

「あーーーーーーーーー、あーーーーーーーーー(高音)」

「どうやらこれが本当の発狂のようですね。車椅子に座ってキコキコしていましたし、昨日よりも周囲への建造物乱舞が一段と凄まじい」

「冷静に分析してる場合か! 建造物の量がヤバすぎるぞ!! しかもまた人が多い場所に向かってる!!」

「これは……もう殺すしかないかもしれません」

「いやいや、仲間だろ!?」

「勿論、冗談ですよカイン。しかしなんて面倒だと思いました。これでは常に私の本体かアノマリーを発現できる分身体を側に置くしかない。夏の間は私の動きが制限される。さてさて、どうしたものか……」

「あーーーーーーーーー、あーーーーーーーーー、あーーーーーーーーー(高音)」

「良い加減に、して」

「あべしがらっ?!」

「はい、おしまい」

「ヒカリ!?」

「後はよろしくね。それとしっかりと注意しとくように」

「えっと、あのー……ニールの首がぷらんぷらんしてますけど」

「大丈夫、殺してはいないから」

「あ、はい」

「それじゃあね」

「はい……行ってしまった」

「ベネット、あれがヒカリか? いつの間に背後に回り首を折って……」

「一瞬の出来事で見る事はできなかったです」

「俺もだ。で、ヴァニラ・コースキーの時の召喚生物達は自分がやったと白状した」

「はい……棒人間とコモドドラゴンの特殊個体にヒトガタとサカバンパスピス。スターを助けるためだと。洞窟にいた理由も同様に。一体何者なのか」

「だが敵対はしていない。復興活動にも協力的で召喚生物と共に行っている」

「あなたと同じで動向を見張るしかできません。目的は何にしろ味方なら良いのですが……」

「ベネット」

「あ、オーハマーにエネル。大丈夫ですか?」

「私達の事は良いから早くニールを回復しろ」

「あぁ……オーハマーの口調がいつもと違う。エネルも顔が物凄く怖いです」

「「いいから、早くしろ」」

「あ、はい。それでは回復回復……」

「はっ!? ここは何処? 私は誰? ……オレは正気に戻った!!」

「「調子に乗んなよこのギャグキャラがーっ!!」」

「ギャーっ!!!」

「二日連続建造物ぶつけやがってぇーっ!!」

「後輩口調なくなる程キレてんぞ社会のゴミがぁーっ!!」

「ちょっ、待て! 蹴るな! アノマリー虐待やめろー!! あぁ、また汗かいてきたじゃねーか!! 気温高いって!!」

「「うるせぇーっ!!」」


 そして残暑が過ぎ去り秋の始めの涼しい頃。


「はい注目! ついに名前が決まりました!」

「わー、パチパチ」

「組織名は太陽の騎士団! これからわらわ達、太陽の騎士団という名前で活動していきます!」

「太陽の騎士団? ……太陽ってのは」

「ハゲが治る洞窟から連想しました」

「ほうほう、だがオレらって騎士要素ある? 故郷を滅ぼしたキチガイに駄剣、元裏方とか騎士ちゃうだろ」

(私は元ハゲが治る洞窟の守護者……)

「騎士ってのはそもそも正しいってイメージが浮かぶわけでぇ」

「じゃあ対案出せやゴラァ」

「そうっすよ、なら対案出せやゴラァ。即却下してやる」

「おいベネット、こいつら当たりキツいんだが」

「つい最近の行いを思い出せば良いかと」

「太陽の騎士団って素晴らしい名前ですね! ナイス名称だと思います!」

「「うるせーよ、このカス」」


 洞窟周辺を整え洞窟を囲むように建物の建て、その広い開拓した元森のエリアは騎士団の領域と定め、その範囲外に人が住める街を建設し、簡易的な駅も建設し近隣へ線路を伸ばし、まだ線路が届いてない村や都市には空中列車で人出や物資、アノマリーを発現できるベネットの分身体を送ったりし、その他必要な事は積極的に行い……。


 彼ら太陽の騎士団はホムラン周辺に手が届く範囲の復興に、衣食住が揃い平穏で、被災者達がまた前を向いて歩く事のできる希望のある環境の構築に成功した。



○○○



 ここ最近は穏やかだった。ホムランの時のように緊迫した感じはなく、五年後もまだ名前がない街の住人は安心して秋晴れの空の下を出歩いている。

 太陽の騎士団ものほほんと業務をこなしていた。襲撃もなく近場の復興も一段落がついた。街を目指してやって来る難民の保護も落ち着いた。

 そもそも大量にいるベネットの分身体が大体をこなしてくれるのだ。暇を持て余している団員も出てきていた。


 エネルとオーハマーもそれは同じだった。午前中にあった街のパトロールも終わり今は待機中である。

 ハゲが治る洞窟を囲むように建てられた騎士団本拠地にある一室で適当に過ごしていた。

 そこにベネットがドアを開けて入ってきた。そしてその光景を見て疑問を呈した。


「二人とも、一体何をしているのです?」

「荒ぶる鷹のポーズを維持してるっす。筋トレ!」

「そのオーハマーをわらわが斜めからスケッチしてる」


 二人は暇だった。オーハマーがそのままのポーズで尋ねた。


「ベネットの方こそどうしたっすか? ノックしないで入ってきて」

「いえ、誰もいないと思って入ったのです。考え事が纏まってきたので整理しようとして」

「考え事?」

「今後の活動方針についてです。そうだ、丁度良いので聞いてもらえませんか?」

 

 オーハマーはポーズを止め、エネルはスケッチブックを閉じた。話題に食いついた二人はベネットをソファに座らせて対面に座った。


「まず、この周辺に関しては復興は終わったと思います。これ以上は余程の事がない限り介入は不要でしょう」

「そうだね。悪性とかも狩り尽くして暴動を働いた輩は皆殺しにした。各地の立て直しも終わったしもう良いと思う」

「ええ、それで……これからは世界に手を伸ばしていこうと考えています。具体的な方法はまだはっきりとはしていませんが」


 世界、とベネットは言った。唐突に出たスケールの大きい言葉に二人は首を傾げた。

 ベネットが続ける。


「可能な限り広い範囲に太陽の騎士団の影響力を及ぼしていきます」

「随分と規模の大きな話っすね。その理由は?」

「コミタバを壊滅させるために、です。奴らの情報がほしい」


 ホムラン襲撃後のコミタバの行方は分からなくなっていた。ウイタレンの向こう側、国を超えての襲撃を繰り返しているらしいが定かではない。

 各地の通信網が破壊されており、ヨビ達の調査とやって来る避難民達からの聴き取りではイマイチ何処で何をしているのか分かっていないのだ。


「コミタバはこれからの世界にとっては邪魔な存在です。絶対に殲滅すべきなのは疑いようがない」

「まあ戦争前からいらない存在だけどね。で、そのために情報を集める環境を整えようって事か」

「そうです。それと理由はもう二つ。バルガス・ストライクとネイト・ネッシーの捜索です」


 エネルがぴくりと反応した。ベネットがオーハマーを見た。


「元裏方的にはこの二人は生きている、ですよね?」

「そうっす。液体のアノマリー、そしてバルガス・ストライクは超強い。結局合流は叶わなかったけど死んでいる可能性は低いかと」

「ならば何処かで動けない状態にいる。我々が探し出し助け出す。それがスターのためにもなります」


 エネルは悲しげに顔を顰めた。オーハマーが気落ちした息を吐いた。


「……スター、やっぱやばいっすよね」

「はい、復興して前向きになっていく中で彼だけがあの時のままです」

「ビルが死んだ時のまま……」

「そうです。元々言葉は少ないですが今ではもう、必要な事以外話そうとしません」

「ビルは親友だったすからね。同じ部隊の二人の発見はプラスになるか……」

「それでもう一つは?」

「え?」


 気持ちを切り替えたエネルが言った。


「いや最後の理由だよ。コミタバと二人の捜索。ラストは?」

「あー……」


 ベネットは気まずそうに考え込んでから返した。


「いえ、やっぱり理由は二つだけですね。アウリリウエの事を言っても……ですし」

「アウリリウエって何すか?」

「やはり知らないですよね。まあ知らないのが当たり前です」

「えー、濁さないで教えてほしいっす。分身体の条件がクリアとかも教えてくれないし、ハゲが治る洞窟とか知っている理由もそうだし仲間じゃないっすかー」

「いやー、そのー……私の経歴とかは教えても良いくらいには信頼しているのですよ。ただ……」

「ただ?」

「ニールとは別ベクトルで絶対、『こいつ何言ってんの』と思われるくらい変なのです。私という存在は。混乱を避けるためにも今はまだ伏せておきます」

「えー」

「まあ伝える時はそれはそれで、世界の危機なのですが……」

「それってどういう……」


 意味っすか、とオーハマーが聞こうとしたその時だった。声が微かに外から響いてきた。


『ハゲが治る洞窟の独占を許すなーっ! 洞窟を解放しろー!』


 それは拡声器を使ったデモ隊からの抗議の声だった。誰だか知らない女性の声がここまで届いている。


「またか」

「またっすねぇ」

 

 部屋にいる三人が各々げんなりした。エネルが感情そのままに言った。


「これで四日連続?」

「はい。街の外側、騎士団の領域に接する境界線でのデモです」

「ハゲが治る洞窟独占許すなデモとか、平時に聞いたら頭おかしいってわらわ思うんですよ」

「同感です。でも今はまだ平時ではないですから。それに各地から色んな人が集まればこういう主張も出るくる事はあるでしょう」

「……出てくるかな? わらわ分からん」

「ぶっちゃけ私も適当に言ってます。出てこないかもです」

「まあどうでも良いか」

「それでどうするっすか? 傾向的に昨日よりも数が増えていると思うっすよ」

「様子を見ていましたが、鬱陶しいのでもう殺そうかと思います。強制排除です」


 ベネットが苦々しげに言った。


「今後の活動の際にも突っ掛かってくるかもしれません。野次馬も集まって来ていて面倒です」

「野次馬が来てるんすか」

「どうやら洞窟独占許すなデモが物珍しいようで。面白半分で昨日よりもいます」

「まだ復興したばかりだし娯楽に飢えてるんすかねぇ」

「それは分かりません。ですが収拾がつかなくなる前に潰します。数が増え騒ぎに乗じてコミタバが来てもあれですから。……来ました、コミタバです」

「「え?」」


 サイレンが鳴り響いた。騎士団に設置しているサイレンが大音量で周囲に発している。

 続けて別のベネットのアナウンスが流れた。


『敵襲!! 各員戦闘態勢! 複数の箇所でモノリスの兵隊を確認! コミタバ!!!』


 それでエネルもオーハマーも状況を把握した。勢い良く立ち上がった二人にベネットは言った。


「ただただ、殲滅です。一人も残さず皆殺しにします。今後のためにも太陽の騎士団の力を見せつけてください」


 エネルとオーハマーは力強く頷いた。三人は急いで部屋を飛び出して行った。


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