20-3 彼らが協力する理由
「それじゃ、まずは私から……」
適当に順番を決めてオーハマーから自己紹介が始まった。
「改めまして、私はオーハマー。もう壊滅したと思われるミギドという国の裏方をやっていました」
しっかりと話を聞くために同じく着席したベネットが尋ねた。
「名前がオーハマーなのですね。エネル剣以外のようにファミリーネームはなく……」
「物心がつく前に拾われて裏方用に育成されたからないっす。オーハマー、それが私の呼称名」
「あーアレか。何処の国でもあるっちゃある幼少期の頃からの洗脳教育か」
「そうっすビル。分別がまだない幼子の状態から私は裏方として育て上げられたっす。で、二年前に裏切った」
「……裏切り?」
オーハマーは首肯した。
「ミギドが私を処分しようとしたから」
裏方としてのオーハマーの役割は現地や組織に入り込んでの情報収集だった。そのため実際に任務地の人間と成ってスパイ活動に従事しながら様々な人物と接する日々が続いた。
その結果、裏方として育て上げられたオーハマーに『自分の人生このままで良いのか?』という疑問が浮かんでいった。
異なる組織や団体、国を渡り歩き人と接する事で裏方しかなかった己の価値観に変化が生じたのだ。
「まあそれがミギドにバレちゃって、反逆や情報の流出を避けるために殺処分されそうになったから脱走して……ちょっとー、皆引かないでほしいっす」
「いや、初っ端から重いのぶっ込んで来たなってわらわ思って……裏方だし仕方ない部分あるけど。てかミギドはアカムとドバードの戦争に後から首を突っ込んで……」
「ええ、ミギドは国力低下の隙を突いた国の一つっす。だから多分もう滅んでるんじゃないすか? 戦火の拡大で混乱が起きて暴動がここまで広がっているし」
「その言葉からしてミギドには何の未練もないって感じ?」
「全くないっす。脱走して各地を潜伏してた時もしつこく追ってを送り込んで来て大変だったし……ってそれはどうでも良くて」
そこでオーハマーは右腕をテーブルに置き身をずいっと前に乗り出してきた。
着席している面々を糸目の目をしっかりと開いて見て、ここが大事だぞというように続ける。
「まとめると、私は第二の人生を謳歌したいって事っす。なんか知らない内にミギドが壊滅した以上しがらみはなくなったから……元裏方の私はここから新しい私を探していきたいのです」
頬杖をつきながら静聴していたビルが言った。
「それが裏方だったオーハマーが協力する理由か。まあ今の状況下じゃ第二の人生なんて送れるわけがないわな」
「そうなんすよー。ほんと暴動とか勘弁してほしっす。早く平和にならんものっすかねえ」
脱力してテーブルに突っ伏したオーハマーはベネットを一瞥した。それを見てベネットはにこりと微笑を浮かべて頷いた。
「何だが他人事とは思えませんね。私も経歴は違えど第二の人生という面ではあなたと同じですから」
「そうなんすか?」
「ええ、ここホムランから私、ベネット・ウォーリャーが始まりましたから」
ほんの僅かな間、言葉を噛み締めたベネットは切り替えてエネルに視線を移した。
「では、次をお願いします」
「ん、わらわの番ね。まあ既に知ってる通りわらわは剣。非人間です」
サニーの事を話さないようエネルは自身を軽く説明した。
「いつ生まれたのかは全然分からん。気が付いたらこんなのがこの世界にいた」
「ぶっちゃけ特異な存在っすよね。剣にもなれて人にもなれて、睡眠も要らず食事も普通にできて。……食べた物は何処に消えているっすか?」
「それも全然分からん」
「自立型オーバーパーツ、と言った所ですね。自身のルーツがない事から苦労したと察しますが」
「そーそれ。オーバーパーツと言っても所詮は国籍なし人権なし、住所不定無職の一文なしだったから最初の頃は苦労したよ。ここまで存在できたのは運が良かった部分が大きいと思う」
エネルは少ししみじみと過去を思い起こす。
もう顔も名前もあやふやだが一番最初に出会っ老人は心優しく色々と教授してくれた。そのおかげで今がある。仮に悪人と遭遇していたらと思うとぞっとする。
「んで、既に成り行きで伝えた剣旅行でその後は各地を巡った。その過程でホムランにも訪れた事があって、この空き家の持ち主との交友ができた。ずっと昔にね」
「ですが既に死亡していて保護は叶わなかった」
「寿命の事をすっかり頭から抜け落ちていたよ……混乱が落ち着くまで匿ってもらおうと思ったら死んでいたなんて」
「前回の休息日の時はびっくりしましたよ。あなた以外の四人にここを提供したら既に居ましたから」
「……びっくりしたのはわらわも同じだけどね」
まさかスター・スタイリッシュと遭遇するとは思いもしなかった、とエネルはビルに視線を移した。
更に偶然、それから二人の話を盗み聞きしてサニーが死んだの知った。あれだけスターのためにと苦心していたサニーは一体誰に殺されたのか。
事情を共有できるネイトと早く合流したいと思う。
視線を向けられたビルが疑問を呈した。
「ん? どうかしたか?」
「いや何でも」
エネルはさっさと協力理由を伝える事にした。
「まあわらわ協力する理由はホムランの連中が正しい事をしてるから、です。やっぱ人間って正しい事をしていた方が見てて気持ちが良いからね。手伝おうって気持ちになる。それと早く平和になってほしい。また気軽に剣旅行をしたい」
「剣旅行は犯罪ですよ。あなたを拾った人の金銭を盗んでの旅行なんて……」
「だってわらわ人権ないもん」
「身分はホムランで保証しますから」
「え、マジ? ついにわらわ人権得られるの? ……それはなんか感慨深いものがある」
「今まで結構苦労してたのねお前」
と言ったビルの番になった。彼以外の四人の視線が集まる中、ビルは言いにくそうに渋い顔になってから協力理由を述べた。
「自己紹介はアカムの軍所属ってだけだから割愛して……まあ、協力するはスターのため。俺はあいつに考えられる環境を作ってやりたい」
「考えられる環境……ですか?」
「ああ、俺は軍に入った直後のスターをイジメていた過去があってだな……」
ニール以外の三人が否定のリアクションを表した。
「えっ、ビルはスターをイジメてたの? それはいけない事だとわらわ思うよ」
「そうっすよ、イジメは最低最悪な行為っす」
「一体どんな了見でイジメを……?」
当時を思い出した罪悪感と予想できた反応に嘆息したビルは続けた。
「だってしゃーねえじゃん。スターは弟に似てたんだよ。行方不明になって居なくなってしまった弟と……軍に入隊してきたら追い出したくもなるって」
しかしスターはビルのイジメは意にも介さなかった。軍での活動中に様々な理不尽な行いをしても全く気にも留めなかった。
「後から謝って、バルガスとばーさんにケツ蹴られてから理由を聞いたら、ジャポニと比べたら何でもないって言ってた」
それ以外にも理由はあるが、それ以上は伝える必要はないと判断したビルは椅子の背にもたれて息を吐いた。
「その時からスターを気にするように俺はなった。で、あいつは色々と思い悩んでいると知った」
当時はアカムとドバード間の緊張が高まっていた。それから戦争へ。コミタバの介入から醤油特攻を経て戦火を広がり今の状況へ。
ゆっくりとスターが物事を考えられる環境は何処にもない。
「だからさっさと落ち着ける状態に戻したいと思ってる。だけど全くそうはならない。嫌になるわ本当に」
暴れ散らかしているコミタバと暴徒達を思い浮かべて、ビルは苦々しい顔で締め括った。
「以上が協力する理由。少し突っ込んで語ったのはスターの自己紹介は免除してほしいから」
「おや? 彼には聞かない方が良いので?」
「あいつは今、一杯一杯なんだよ」
「ふむ……」
少々重苦しい空気になった。ビルが頭を掻いてから言った。
「その分は俺が働くからさ。頼みます」
「了承しました。それではスター・スタイ……フルネームは長いのでその」
「問題ないよ」
「スターへの自己紹介はなしで。そもそも彼が一番頑張っていますから」
「助かる」
各地の混乱が収まり平和に戻る。オーハマー、エネル、ビル、スターも同じ想いだろうと確信してベネットは頷いた。
そしてニールの番になった。ベネットが眉根を寄せて困ったような顔をしているニールに視線を向ける。
「それでは最後、よろしくお願いします」
「あ、はい……うん」
「……そう言えば急に喋んなくなったすよね? 話の途中から」
「だね。どしたん? わらわ話聞こうか?」
「いやー……どうしたもんかなって思ってさぁ」
ニールはこう思った。
(オレって……この流れで人類八割虐殺計画とか故郷の村を壊滅した話をすんの? 危険人物扱いされるだろコレ)
適当に自己紹介をして平和が大事だから、と最初の内は考えていたが他三人の理由はしっかりと内容があるものだった。嘘を言うのはどうなのか。
(いやオレも内容はあるけど倫理観は……ない。アカン、どう見てもキチガイです)
しかも正直に伝えた場合、人類虐殺の具体的な方法である建造物のアノマリーも話す事になる。
それならば濁した方が良いのかもしれない。スター・スタイリッシュの自己紹介はなくなったわけだし。
腕を組んで唸っていたニールは、やがて誤魔化すため「ふっ」と悟った顔をして言った。
「まあ……協力理由は秘密って所だな」
「秘密、ですか」
ベネットの声にニールは返した。
「オレの経歴はちょっとアレでね。多分全世界変な経歴選手権があったらトップファイブに入るぐらいに変なんだわ」
「ごめん、わらわ意味が分からない。一般人じゃないの?」
「一般人っちゃ一般人だが……うーん、まあ元の世の中に、平和に戻ってほしいってのは嘘偽りはない。それで勘弁してくんね?」
ベネットは少し難しい顔をした。
「これまでの活動で信頼はできてますし言いたくないのであれば……まあ」
「おっ、マジか良かったー」
「ですがそれが我々に害を為すなどは……何となくですがビルの時とは違い不穏な感じがします」
「ないない。流石のオレも反省したし。ただ夏になったら避暑地に行方くらませるからよろしく」
「???」
ベネットは頭に疑問符が浮かんだような表情になった。他三人もわけが分からずぽかんとした。
「何を言ってんのお前……?」
「わらわもそう思います」
「話の意図が全然掴めないっす」
「平和になった後で教えてやるよオレの経歴。今は混乱が拡大しないよう行動で示す」
釈然としない感じで自己紹介は終わった。切り替えたベネットが咳払いをして改めて四人を見渡した。
「さて、要望に応えてくれてありがとうございます。これであなた方を信頼できる外部協力者とホムランは認識しました。ですが具体的な活動は明日からです。今日はゆっくりとお休みください」
用が済んだベネットは席を立った。そして部屋から出ていく前に言った。
「最後に何か質問や要望等はありますか? なければこれで失礼しますが」
「あ、あるっす」
オーハマーが尋ねた。
「前に伝えたカイン・アンダーソンの件はどうなったんすか? 何処の組織かは忘れたけど、ミギド時代に奴は裏方だって聞いて……」
「ああ、言いそびれていました。確認した結果彼は元裏方だと判明しました。何でも裏切り者を殺すためにホムランを拠点にしていたと」
「私と同じ元裏方っすか……」
「彼がホムランに来たのは数年前、おそらくその時からその裏切り者を探していたのでしょう。日常生活の隙間時間を使って」
ベネットの声色は穏やかった。裏切り者の抹殺を目的としている人物がホムラン内にいるのに問題としていない。
ベネットの様子をニールが指摘する。
「なんか危機感足りなくねーか? 怪しい奴がいるってのに」
「確かに怪しいです。ですが私は彼の言葉を信じる事にしました。カインもあなた方と同様、貢献してくれていますから」
「良いのか? それで」
ニールの言葉にベネットは苦笑した。
「行動で示している以上それで良いと思います。そもそもオーハマーやニール、この二人だって怪しいといえば怪しいですから」
「あー、それもそうか。オレも胡散臭いわ」
「様子見ってわけっすね」
「明日顔合わせをするので話をしてみてください。カインもオーハマーの事を知っていたみたいですし」
「あ、やっぱ向こうも把握してたんすね」
「ええそうです。他には……」
ベネットは四人を見渡して頷いた。
「なさそうですね。それでは私はこれで……」
そう言って無限カバンを手に持ってベネットは玄関から出て行った。
玄関の扉が閉まり鍵をかけられて三人は弛緩した。ビル、オーハマー、ニールはそれぞれ楽な姿勢になってリラックスをする。
今日は休息日なのだ。彼らの十日ぶりの休み。疲れはかなり溜まっている。
その様子を眺めたエネルは強く思った。
早く騒動が収束して元の日常に戻ってほしい、と。
そして誰も死なず無事に済んだら良いな、とも。
彼らはこんなにも頑張って正しい事をしているのだから。本当に。切実に。




