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20-1 ヴァニラとの出会い

 当時のスター達の仕事は暴動への対処だった。

 アカムとドバードから始まった戦争の戦火は拡大を続けており、その結果発生する暴動の波が城塞小都市ホムラン近郊まで迫りつつあった。


 それを食い止めるためにスター達、スターとビル、ニールとオーハマー、ベネットの分身体がホムラン周辺を奔走した。

 現地にいる住民達と協力し盾手裏剣による防衛陣地の構築や物資の運搬、実際に暴動が起こっている街や村落に急行しての鎮圧。

 しかし暴動の勢いは止まる事を知らず、更には暴徒の他にコミタバや悪性、悪性になってしまった召喚生物達も加わり対処は容易ではなかった。


 だが戦争からの平和を目指すのなら治安維持は絶対条件である。ホムランやその周辺を火の海にするわけにもいかない。弱音など吐いている時間もない。

 スター達一行は暴動への対処の日々を送っていた。



 そんな中、とある情報を入手した。

 各地で暴れ散らかしていた氷雪系の呪文使いが近くの村に現れたのだ。

 その情報を全て聞き終える前にスターは一目散に現場に急行した。ビルの制止の声が後ろから発せられたが、善行を積む事を目的としていたスターの耳には届かなかった。


 そして目的地に到着し、対象が近くの森の方へ移動したと住民に教えられた。スターもすぐにその跡を追った。


 広大な森の中はひんやりとした空気が流れていた。先程までの季節通りの暖かな気温ではなく、進むにつれ段々と冷気が漂い肌寒くなってくる。

 周囲の景色も緑色から白銀に少しずつ変化していく。地面や草花、屹立する木々に霜が降りていた。

 

 この発せられている冷気の中心に呪文使いはいる。

 スターはそう当たりを付けて警戒しながら歩を進めていった。


 そうして氷点下を下回る、周囲の半分以上が秩序なく白銀に染め上げられた空間に彼女はいた。

 色素が薄い藍色の髪、地面に突き刺された黒の極太十字剣、目の前に発現された氷塊の中で凍死していると思われる女性を見上げている。

 後に、太陽の騎士団の野良アノマリーになるヴァニラ・コースキーだった。


「あれが……」


 静かに眺めていたヴァニラは、スターの声に反応しゆっくりと首だけこちらを向けた。

 その瞬間、スターは発現していた盾手裏剣を構え臨戦体勢を取る。目先の標的は明らかに正気を失っているようだった。


 ぎょろりとボサボサの髪から覗く瞳は狂気的で口は半笑い。かと思えば無表情に切り変わり突き刺された十字剣をふらりと引き抜き、歯を食いしばり憤怒の形相で地面を蹴り肉薄してくる。

 まるで猛吹雪の如く荒れ狂う突進だった。スターは半身になってヴァニラの剣撃を盾手裏剣で受け止めた。


「っ!?」


 衝突と同時にヴァニラから氷雪が吹き荒れ拡散される。それを至近距離でヒビが入った盾手裏剣越しに、隙間風のように降り注がれたスターは目を剥いた。

 左手が凍結していく。指先から少しずつ冷たい氷の塊になっていく。

 堪らず右手で肉体強化の剣を発現してヴァニラを押し返した。だがすぐにヴァニラは距離を詰めてくる。

 スターは肉体強化の剣の柄を口に咥え、両手で盾手裏剣を持って応戦した。


 戦いの中で敵の情報をスターは分析した。

 どうやらこの呪文使いは戦闘に関して素人だ。力任せに十字剣をぶん回すフェイントなしの攻めばかり。

 しかし発現してくる呪文の才能は別格だ。

 氷塊射出も先端が鋭利な氷柱も、雪崩発現呪文もどれも規模が大きく全力で回避するしかない。既に盾手裏剣が何枚も割られている。

 それにこの氷点下での戦闘も忌避するべきだった。先程よりも更に気温は低下し凍てついている。

 最早寒いというより痛いに変わってしまった。早々にケリを付けなければならない。


(力任せの大振り、単調な攻撃、駆け引きも何もない……)


 距離を取って短期決着の方法をスターは考える。わざと隙を作ってカウンターで仕留める事に決めた。

 距離を詰めてくるヴァニラと同じように走り出しスターは迎え撃った。


「だっ、めえええええええええっ!!!」


 しかしその直前、スターは何者かにタックルを食らった。剣と剣が交わるほんの少し前、突如として左側面から駆け出してきた少女に抱きつかれたのだ。


「ぐっ!?」


 右に体勢を崩したスターはすぐに腰元に目を向ける。周囲の雪と同じ真っ白な髪が揺れているのが見えた。


(まずいっ!)


 スターは少女に覆い被さり守ろうとした。だがそれは悪手である。

 前方からヴァニラが十字剣を振り下ろそうとして……。


 そして次の瞬間、黒紫の超極太光線が三人を完全に包み込み、着弾を受けたヴァニラだけがあらぬ方向へと吹き飛ばされていった。


「間に合った! 無事か!」


 白髪の少女を抱き留めていたスターは顔を上げた。バルガライの光線が飛んできた方向を見やり息をつく。

 間一髪でこちらに駆けて来るのはアカム軍属時代からの付き合いがあるビル・フキャナン。スター・スタイリッシュの親友。

 彼は到着するなりスターの状態を確かめ顔を顰め、即座にメラギラの炎を発現した。


「早く手の氷を溶かせ。壊死する前に」


 スターは雪上で燃え盛る炎に少女と共に身体を寄せた。ビルは肉体収納化の呪文で外套を取り出し、口をへの字に曲げてスターの肩に被せる。


「で、スター。何か申し開きはあるか?」

「……ごめん」


 素直に謝られたビルはため息をついた。


「全く。その様子からして前に伝えた情報も忘れていただろ。氷の呪文使いは先に対話を試みろって」

「うっ……」

「暴れ散らかしてはいるがその被害は暴徒共がほとんど。殺るにしてもまずは、コミタバや悪性を無力化するために協力要請をするべき」

「ぅん……」

「それなのに制止も聞かず飛び出していきやがって……戦闘になってじゃねえか」

「いや、それは違う。狂乱してたから遭遇して即の戦闘だった」

「え、そうなの?」

「うん」


 ビルは首を伸ばし吹き飛ばされて、氷漬けされた女性付近で横たえているヴァニラを眺めた。どうやら完全に気絶して伸びているみたいだ。

 ビルは首を戻しこめかみを掻いた後、メラギラを更に発現して熱を増やした。そしてスターの腕の中にいる少女に視線を移す。


「それで、その子供は? 飛び出して来たのが見えたが」

「分からない。だが保護しないと」

「いや不明なのかい。ま、一応な」

「あぶっ!?」


 ビルは白髪の少女の頭をチョップした。少女はスターの腕の中で頭を押さえて呻いた。


「変身や分身体じゃなさそうか。嬢ちゃん、名前を教えてくれ。教えてくれたらチョコレートやるから」


 少女は言葉が詰まったように俯き、逡巡してから答えた。


「ア、アタ……っ、わたし、はヒカリ、です」

「ほうほう、ヒカリ。……何でこんな所にいて何で飛び出しそいつに抱きついた?」


 ヒカリと答えた少女はヴァニラを指差した。


「……あのお姉ちゃんが心配で、すっ、後ろのお兄ちゃんがイジメてたから、止めたくて……」

「止めたくて?」

「お姉ちゃん、私を守ってくれたから。暴徒達から」

「……そうか」


 ビルはちょっと悩んだ。普通に胡散臭い。

 知らない男に突然チョップされたのに泣く事なく返答できている。どう見ても十歳未満の外見で「暴徒達」という言葉を口にする。この年頃でそんな難しい言葉が言えるのだろうか?


(いやまあ、胡散臭いのは俺らも同じか。アカム出身とはいえ……もう滅んだから身分証明なんてできないし)

 

 ビルは怪訝に思う気持ちを棚上げにした。

 この少女を保護するのはスターの善行のためにもなる。既に同じような難民を保護しているから今更でもある。何かしらの敵対行動を取ってきたらぶっ殺せば良い。

 宣言通りにチョコレートを渡し、スターの凍結した手が動かせるようになるまで待って回復呪文を施した。


「さて、まだ起きないわけだが……」


 次第に周囲の冷気は霧散していった。痛いくらい寒い気温は影を潜め、少々肌寒いくらいの感覚に変わる。

 ヒカリという名の少女を連れてスターとビルは、未だ気絶中のヴァニラの元まで警戒しながら近寄った。


「薄かった髪が濃く、藍色になって……」

「ブライニクルのアノマリーか。存在変化」

「存在変化?」

「人間ではない別の存在に変化する呪文。冷気も弱まって今は元の姿に戻っているはずだ」


 ビル曰く、まだまだ練度が低く発展途上らしかった。このアノマリーを極めれば更に姿が変わり、一瞬で対象を凍らせる事ができる。

 それを聞いてスターは思わず眉を顰めた。

 あれでまだ伸び代が、盾手裏剣を何枚も割る力があるのに先がある。しかも周囲を凍結させる速度も上がる。

 仮にもっと練度が上がった後の戦闘なら、殺されていたのはこちらの方だったかもしれない。


 ビルが言った。


「ひとまずヒカリ共々保護だ。俺がこいつ担ぐからスターをヒカリに付いてくれ」

「この、氷漬けにされた女性は?」

「悪いが放置だ。きちんとした場所で埋葬してやりたいが仕事を優先する」

「……それは」

「スター、駄目だ従ってくれ。保護対象がいる状態はかなり危険だ。今敵が現れれば……」

「興味深いな」

「「!?」」


 ビルはしゃがみ込み、スターはヒカリを背中に隠して声がした方向を睨んだ。

 誰のものでもない男の声が聞こえたかと思えば、いつの間にか黒コートの人物が凍死した女性の元に佇み氷漬けの氷塊を眺めていた。

 白髪の後ろ姿はコミタバのデイパーマーだと思われる。


 スターとビルはすぐに迎撃できる体勢を取った。しかし男は反応せず氷を凝視し続けている。


「本当に呪文というのは興味深いの一言だ。口で唱えるだけで、これだけの物質を現れ出す事ができる」


 スターは盾手裏剣を発現し簡易バリケードを構築し始めた。

 ビルは隙だらけの背中に回転ドリルをぶち込もうとして手を伸ばす。

 それを男は視線そのまま声だけで制した。


「落ち着け、アカムの兵士二人。戦闘する気は全くない。この氷塊を観察したいだけだ」

「観察……?」

「昔は呪文などクソ食らえと思っていたが、とある出来事がきっかけで虜になってしまってな。それ以来呪文には目を引いてしまう」


 男は振り向いた。碧眼と左こめかみの傷跡を合わせて紛れもなくデイパーマー本人だった。

 戦争の際のモノリスを連想しビルが牙を抜いて唸る。


「お前の自分語りなんてどうでも良いんだよ! スター、今ここでぶっ殺す!」


 スターも無言で呼応し足に力を込める。

 それを見て、本当に戦う気がないような雰囲気のデイパーマーは嘆息してこう言った。


「衝突は避けられないか。……だがこれだけは伝えなければならない」

「あぁ?」

「さっき言ったのは……全部嘘だ」


 直後に、デイパーマーの後ろへ巨大生物が落下してきた。それを見てビルが顔を引きつらせ驚愕した。


蟲王こおう!?」


 スターも蟲王と呼ばれた生物を目に収めた。正視に耐えない悍ましい姿で総毛立つ。

 まるで上半身が天に反り上がった芋虫のような外見だ。身体全体が極太のピンク色で、六本の短い脚が胴から伸びている。

 見下ろす顔面はキモキモく醜悪、頭部には王冠らしか物体が浮かび、その巨体はコモドドラゴン原種と同等のサイズだった。


「これは……悪性なのに、何故?」


 ビルがそう呟いた瞬間、スターの頭にビルの声が突如響いた。念話の呪文を発現したのだ。


(スター、今すぐ撤退だ! 遅延しながら引くぞっ!!)

(ビル!?)

(今の状況は二対二じゃなくて二対ゼロだ! デイパーマー単体ならともかく、非戦闘員を守りながらは戦えない! それに蟲王がクソ面倒いっ!!)


 気絶中のヴァニラを左肩に乗せたビルの焦りようは、冷静に努めているが尋常ではなかった。

 それ程の敵なのかと思い、スターは素直に指示に従いヒカリを左腕で抱え後退した。


「なっ」


 駆け出してすぐ、後方を肩越しに確認したビルは眉を顰めた。


「………………」


 蟲王は追跡を開始した。しかしデイパーマーはその場で佇んで動かなかった。



 保護対象の二人を担ぎながら、先程よりは温くなった空気を吸い込んで足を動かす。

 初見の獣道を、茂みと茂みの合間の原っぱを、背の高い木々の間を駆け抜けながら全力でコミタバを引き離す。

 その過程で、呪文で蟲王を遅延させながらビルが簡潔に説明した。


「蟲王ってのは悪性、蠱毒の最中の密閉容器を用いて発現する条件召喚呪文!」

「ビル、蠱毒とは!?」

「後で教えるからそれは流せ! で、現れ出た蟲王は同じように入れられた虫の能力を扱えるらしい。毒液や脱皮、危険なガスなどなど。超常現象だから良く解ってないけどな!」


 後方からの音が徐々に大きくなっていく。既に緑になった草木や爆裂剣を無造作に蹂躙しながら蟲王は追って来ていた。


「加えて発現した奴全部、外皮が硬く銃での排除は困難になる。呪文の耐性もある。だから……いやマジかあれ。脱皮が早すぎる」


 蟲王がぴたりと立ち止まり、脱皮し始めたのを見てビルは顔を歪めた。

 逃げながらの呪文攻撃で傷を付けたのに、蟲王は外皮を脱ぎ捨て新たな外皮を身に纏う。

 その間、約二秒。とても早い。蟲王は再び走り出した。


「とりあえず森から出て一緒に来ていたニール・リオニコフとオーハマーと合流して蟲王を叩く。俺のメラギラ蒼炎を撃ちまくってな」

「それでも倒せなかった場合は?」

「爆裂剣数十本を設置、誘導しての爆殺。または脱皮の暇を与えず四人で呪文リンチ。パッと思い付くのはこれぐらいか。だが悪性の癖にデイパーマーを無視したのが気になる……それに他にも敵が、モノリスの兵隊共がやって来るかもしれない。どうしたものか」


 蟲王は更に速度を上げた。加えて口から茶色の液体を放水のように撒き散らしてきた。

 それをビルのブロレジと盾手裏剣、走る軌道を変え巨大樹木を遮蔽物にして防御する。浴びた三つは腐り溶けてしまった。


「毒液に脱皮。他にもまだまだあるわな」

「簡単に突破されて……」

「スター、絶対に当たるなよ。肉体強化で受ける事も考えるな。貫通してくる」

「っ……了解」


 森を駆けながらの遅延は続く。蟲王は傷を負うのを構わず距離を縮めるのを優先するようになった。

 そしてスターとビルにとって衝撃的な攻撃をしてきた。今度は毒液ではなく液体まみれの死体を繰り出してきたのだ。


「モノリスの兵隊っ……!?」


 のっぺらぼうの顔を目視したビルが絶句した直後、死者の一人が吹き矢の如く口から吐き出され、直線的に空を切り撤退する二人の前方に飛ばされていく。そして着地点で爆発。モノリスの自爆呪文。

 それを追跡しながら蟲王は次々と死者達を吐き出して前方に飛ばしていく。爆風と衝撃から担いだ二人を庇いながら逃走はどうしても遅れてしまう。

 結果、二人は徐々に追い詰められる形となった。


 そしてとうとう、蟲王が背後まで迫った。突如として上半身から生え伸びてきた巨大な腕で殴り掛かろうとしてくる。

 狙いは非戦闘員のヒカリ。しかしそれはフェイントでわざとスカし、体勢を崩しながらヒカリを庇ったスターを裏拳で盾手裏剣ごと横薙ぎにした。


「スター! くそっ、ラウンセント・オルギニス!!」


 ビルが右腕を伸ばし拘束呪文を発現した。白い手袋を装着したような巨大な手は蟲王の身体を握りつぶすように拘束していく。

 しかしほんの数秒で対処された。口から毒液を垂れ流し巨大手を溶かし拘束を振り払った。


「こいつ……!」


 スターの元へ急行しながらビルは息を呑んだ。

 蟲王とはこれまで何度か交戦経験がある。しかしそのどれよりもこの蟲王は強力だ。膂力もスピードも知能も高い。毒液も脱皮も性能が強すぎる。

 ネイトが今居てくれたらどれだけ楽か、と思わずにはいられない。


 蟲王は死体を連続で吐き出した。今度は数が多くスターとビルを周囲を囲むように転がしていく。逃げ道を塞がれた。


 短い脚を小刻みに動かしながら、前方から蟲王はやって来る。キモキモい顔が四人を見下ろした。


「スター! 俺が何とかする! お前は二人を背負って……」


 ビルが殿を務めようと吠えた。ヴァニラをスターに投げ渡し、呪文を唱えようとして……。その時。


 蟲王は突如として横から現れた特殊個体、ハードボイルド棒人間の飛び蹴りで吹っ飛ばされていった。


「なっ!?」

「にぃっ!?」


 二人が驚く暇もなく事態は進行した。

 ハードボイルド棒人間に続いてコモドドラゴン原種二体、ギネスファングを先頭にしたファング複数体、ヒトガタ三体、サカバンバスピス複数体が蟲王に群がり襲い掛かる。


 蟲王は驚いたように不愉快な声を上げて迎え撃った。しかし多勢に無勢で蟲王は削られる。

 抵抗はしているが、棒人間が木々を蹴り跳ねて縦横無尽にタイミング良く攻撃を繰り出すため毒液が上手く当てられない。

 コモドドラゴン原種による溶解液と爪、ヒトガタのグーパン、サカバンバスピス達の連続突進のせいで脱皮する暇もない。

 ファングの群れは出番がないらしく静観していた。


 これらの召喚生物達がいつ、現れ出たのか分からない。しかしスター達は彼らのおかげで生還できた。


「ビ、ビル……」

「お、おう……野生、か?」


 ビルはスターを見、未だ気絶中のヴァニラを見、恐怖で震えているヒカリを見た。

 そしてビルは言った。


「まあ、良く分からんけど今の内だよな。今度はスターが二人を担いでくれ。俺が先行して周囲を警戒する」

「わ、分かった……」


 いつまでも呆気に取られるわけにはいかない。

 スターはヴァニラを左肩に乗せ、ヒカリを右腕で担いでビルの後を追っていった。


 その後ろ姿が小さくなるのを見送って、召喚生物達は集団リンチを再開した。



○○○



「おい、テッカ」


 散々フルボッコにして、蟲王をズタズタのボロ雑巾して召喚生物達はその場を後にした。

 それからしばらく何者もやって来ないと確認してから、デイパーマーは蟲王に近寄り声を掛けた。


「お前何のつもりだ……不意打ちで殺すから注意を引けって言ったのに俺の後ろに落下しやがって」


 ズタボロになった蟲王は光に包まれ、その光が縮小し人間の形を形成していく。

 そして光は溶けるように霧散していき蟲王が死に絶えた場所には茶髪の女が仰向けで倒れていた。

 大の字で空を眺めるのはコミタバのテッカ・バウアー。


 テッカは声真似をしながら笑った。


「興味深いな、キリッ。落ち着けアカム兵士二人、キリッ。全部嘘だ、キリッ。ぷっくく……急なアドリブもできるなんてデイパーマーは役者だ。大根が前に付くけど」

「ラウンセント・ツノ」

「待って待って、デイパーマーって超イケメン、カッコ良いよ!!」

「バルガライ・ブラストホウ」

「あぎゃぁっー!!」


 黒紫の極太光線に被弾してぷすぷすと負傷したテッカを見てデイパーマーは嘆息した。


「で、理由は?」

「およよよよ……まあ、あの二人の真上に落下する気はあったんだよ。ただ直前になって虫の知らせがしちゃってねぇ」

「お前……またその臆病さが出たのか。過去のトラウマから慎重になるのは分かるが、慎重になりすぎるのもどうかと思うぞ」


 テッカはうつ伏せになりデイパーマーを指差して、くるくると回した。


「いやいやデイパーマー君。結果的には正しかったじゃないか」

「指を差すな」

「横槍を警戒していたというのに前触れもなく邪魔が入った。ならあのクソ強召喚生物達は、あの四人の誰かが繰り出したって事になる」

「それはつまり……」


 デイパーマーの言葉にテッカは頷いた。


「消去法でスター・スタイリッシュが担いでいたあの白髪の子供。あれ以外考えられないよ。全く嫌になっちゃう。隠れアノマリーとか実力を隠している呪文使いとか勘弁してほしいっての」


 デイパーマーが疑問を呈した。


「だが召喚生物が出て来る光のゲートはどうした? 遠目で見ていたが周囲にはなかったぞ?」

「そっこが分かんないんだよねぇ……何らかの呪文かオーバーパーツだろうけど」

「アカシックレコードには?」

「見当たらない。スター・スタイリッシュ達と同じでね。閲覧制限ほんと邪魔」

「むう……」


 テッカは仰向けに戻って跳ね起き、身体を起こした。服に着いた草や葉を叩いて落とす。


「ま、そういうわけだからさ、より一層慎重に行動しようぜ。せっかくアウリリウエなしで人類絶滅寸前まで殺れそうな勢いなんだし」

「……慎重を期すなら強敵との戦闘は避ける方向でいくか。無理に戦わず他を殺す」

「そだね。別に絶滅を目指しているわけじゃない。あくまで人間の数を減らす。強敵には引き気味メインで対処する。……でも、時には大胆に隙があればぶっ殺す。強敵なんていない方が良いからね」


 テッカは歩き出した。デイパーマーも後に続く。


「そろそろモノリスも投入して暴動の輪を更に広げよっか。さっき見せちゃったしもう温存する理由も何処にもないし」

「スミスの奴はどうしてる?」

「既にホムランに潜伏済み。でも知り合いが居たみたい。コソコソ作業で時間が掛かるって」

「そうか……やはりホムランは面倒だな。事前の準備で物資は潤沢だし盾手裏剣もある。防衛する側も要だと分かってる。攻略には時間が掛かりそうだ」

「大丈夫、焦らない焦らない。じっくりコトコト滅ぼせば良いんだよ。そして……」


 テッカは不敵に笑った。


「もっともっと、大勢殺して呪文神を発現する。ふふふ……待ち遠しいよ。その日が来るのが本当に楽しみだ」


 二人は死体回収のため森の奥へと消えていった。


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