おまけ レアへの尋問
太陽の騎士団本部にある小さな地下牢だった。床も壁もコンクリートで構成され、鉄格子ががっしりと独房に張られている。
四つある独房はどれも同じ内装で簡易的なベッドと手洗い、丸見えのトイレがあり天井にある電灯が明るく周囲を照らしている。
その一つの独房で橙色のツナギ姿のレアが踏ん反り返っていた。首に取り付けられた黒の首輪が明かりを反射して鈍く光る。
「だーかーらー! 今までの活動を可能な限り見てきたんだよ! 秘密都市でもゾルダンディーでもウイタレンでも! お兄ちゃんに嫌な思いをさせるために!」
鉄格子の向こう側でカインが椅子に座り、その横で分身体のベネットが佇んでいる。その近くには別のベネット達が数体控えていた。
レアが続けた。
「で、騎士団がお兄ちゃんに注意を払っているのは分かってたから、私が皆の注意を引いてその隙に超上空からデイパーマーとモノリスのおっさんが降ってきた。事前にプラチナと交流してさ」
カインが疑いの眼差しそのままで応じた。
「スターに対して憎悪する理由は?」
「いやそれも復讐だって言ったじゃん! 高熱で寝込んでたお兄ちゃんが急に起き出して皆を殺した。それが動機だって。何、信じられないの?」
「信じられるわけがないだろ。スターの事はこの五年間で良く知っている。大事に想っていた家族を殺すとは到底思えない」
「もー、プラチナ王女様と同じ地雷を踏みやがって……分っかんないかなぁ私の気持ち。何で当事者の意見を無視すんのさ」
「別の要因を考えてみなかったのか? 呪文で操られ、幻覚。またはスターに化けた誰か。何らかのオーバーパーツ」
「幻覚とかふざけんな、ねーよ。クレアさんがお兄ちゃんおぶってベッドに寝かせて、私らが付きっきりの看病だったっての」
「そのクレアについてですが……」
ベネットが口を挟んだ。
「大人の死体はなかったと聞いています。スターをアカムの軍から連れ帰ったクレアの死体がです。あなたがいう孤児院での凶行はクレアが関係しているのでは?」
「…………」
ベッドの上で寝転んでいたレアは、真面目な顔になって身体を起こした。
「まあ、言いたい事は分かるよ。あの時のクレアさんはいつの間にか見えなくなっていた。大事なお兄ちゃんを放って一体何処に行ったのやら……私も心の片隅ではお兄ちゃんには理由があるんじゃないかと思う部分はある」
「ならここまでの騒動を起こす必要は……」
レアはカラッと戯けた。
「だってチヤホヤされてムカついちゃったんだもん。ただのラッキーでハゲが治る洞窟を見つけて復興してさ、新聞に載って復興の立役者みたいな扱いされてたでしょ? その間こっちは着の身着のままの放浪生活。凶行の時も相まってムカつきもするよ」
「感情を優先して行動ですか……」
「ガキなんだし当たり前でしょ。つーか馬鹿にして神経逆撫でしてやる。復興祭台無しになってザマァ〜、べーっ」
右人差し指で下瞼を下げ、舌を出して挑発したレアを見て、カインとベネットの冷静な表情が僅かに崩れた。
それを見て気分良く笑ったレアは続けた。
「しっかし、まさか負けるなんてねー。これでもしっかり計画を立ててホムランで殺す準備を整えての強襲だったのに」
レア曰く、人質に取ったプラチナは最初から殺すつもりだった。
ホムランにまで太陽の騎士団をおびき寄せ、絶対に間に合わない距離でアクセル・ボルトティアをぶち当てる。たとえ殺しきれなくてもプラチナは重症だ。
後は血相を変えて騎士団が同じ建物の屋上まで辿り着くのを待って、注意を引いた状態でネイト・ネッシーを用いて不意打ちし追い詰める。
更に適当な民家に配置していた自爆死者達、既に展開していた地上の死者達、城壁内部に潜ませていた重力呪文の死者達と存在強化のアノマリー死体も同時に動かして数の暴力で殺し切る。
これがコミタバが描いていた、おびき寄せた騎士団を殺す計画だった。
レアが忌々しげに舌打ちをした。
「それをまんまとあの覆面坊主に邪魔された。しかも死体を問答無用で無力化……あれって何だったの?」
「教えるわけがねーだろ」
「そりゃそうだ。当たり前の中の当たり前。……じゃあ、こうしてやろう。それっ」
「むっ」
ベネットがぴくりと反応した。レアはニヤついた顔で二人を眺めている。
「……?」
「ふふふ」
「むぅ……」
「ほうほう、聞いてた通り悪意に反応する」
引き続きベネットは身体をぴくりと動かした。状況が掴めないカインが疑問を呈した。
「おいベネット、どうした?」
付けられた首輪を指で弾いたレアが口を挟む。
「そう言えばさー、この首輪凄くない? さっきから無言呪文で発現しようとしてもさっぱりなんだよね」
「あぁ?」
「本来捕虜なんて基本は取らない。口を割らせるにも呪文が邪魔だから。唱えられたらまあ大変、無言呪文もある。でもこの首輪があれば話は別。取り付けたのはベネット・ウォーリャー。守護者の装備品的な物なの?」
「…………」
「襲撃前に聞かされた時は頭おかしいって思ったけど、よくよく考えてみたら……アノマリーを発現できて無数の分身体も出せる。今さっきの洞窟への悪意探知に加えてこの首輪。普通に凄まじい力だよね。これらが守護者としての能力なのかな? 他にも能力がある?」
話に着いていけないカインはレアとベネットを交互に見るしかできなかった。その様子を眺めレアが笑う。
「ぷぷぷ……蚊帳の外のカイン・アンダーソンさん。首輪の事も知らないって事は、守護者だと教えられていない。案外信頼されてないのかな?」
「このクソガキ……お前は何が言いたいんだよ」
「コミタバが今更、ハゲが治る洞窟の破壊を目指す理由を知りたいって言いたいんだよ。だってもう街ができてるし破壊する意味はあまりないじゃん。その理由を横に佇む洞窟の守護者なら知ってると思って」
カインは眉を顰めて耳に入った言葉を理解しようとした。レアの口振りはベネットがハゲが治る洞窟の守護者だと言っている。
しかしそれは自称のはずだ。ベネットが偶に口にしてエネルや誰かがツッコミを入れる。
それに復興が始まる前のベネットはホムランの市長だった。洞窟守護者ではないはず。レアの意図が分からない。
思い考えるカインにベネットが言った。
「カイン、後で私の事を詳しく教えます。今は除外してください」
「ベネット……」
「いやいや、今教えても良いじゃん。話してどうぞ」
「無理です。それよりもコミタバの情報を吐いてください。構成メンバー、発現できる呪文、所持しているオーバーパーツ、アジトの場所など色々」
「それこそ無理だよ。私は全然知らされてないし」
「……知らされていないのですか?」
「そうだよ。あいつら私を使い捨ての駒にしか思ってなかったからね。私もそれで良いと思っていたし……まあアジトくらいなら一、二個知ってるっちゃ知ってるけど」
「ではそれで」
レアはせせら笑った。カインとベネットは眉根を寄せた。
「やだよバーカ。誰が教えるか。ふふっ、囚われの身だけど拷問なんてできないでしょ? 私が痛い目あったらスターお兄ちゃんが悲嘆に暮れる。そんな事お兄ちゃんを信頼している二人ができるのかなぁ?」
「お前……捕まる事も殺される事も織り込み済みか」
「当たり前じゃん。どっちでもお兄ちゃんに嫌な思いをさせれるし。てか今回の襲撃だってただの嫌がらせだからね。テッカ・バウアーが確か……」
『汗水流して築き上げた物ぶち壊すのって楽しくない?』
「って言ってたし。洞窟破壊も真剣ではなかったはずだよ」
カインは舌を打った。冷静に努めていたベネットも嫌悪する感情が顔から僅かに漏れ出している。
「さてさて」
レアが陽気に言った。
「馬鹿にして気分が良くなったし、お前らもう帰って良いよ。これからこの窮屈な環境で、私の捕虜生活が始まるんだから。お兄ちゃん落ち込むかなぁ」
レアは演技臭くメソメソと嗚咽する。
「ううっ……何て可哀想な私。家族を殺された被害者なのにこんな仕打ち。ある日突然お兄ちゃんの凶行に巻き込まれただけなのに。救いは、ううっ、救いは何処にあるんだよ」
「……今日、民間人やホムランに常駐していた仲間が殺されたわけですが」
「別にそいつらはどうでも良くない? 人間はいつか死ぬ。それが今日だっただけだよ」
レアはあっけからんと返した。自らが犯した罪を何とも思っていない。
「時々、洞窟に悪意持ったりするけど怒らないでね。後自傷した時の手当てもよろしくね」
「……全てはスターへの嫌がらせですか」
「その通り。これからもコミタバとの戦いは続くだろうし捕虜の身で存分に嫌がらせをしてやる。チャンスがあれば脱獄もしてやる。騎士団の人達が大勢が死んだりしたら嬉しいなぁ」
レアは不敵に笑う。
それはカインとベネットが踵を返して、地下牢を立ち去った後でも変わらなかった。
「……それにしても、クレアさんは本当に何処にいるのやら」
しかしそれとは別に、ベネットの分身体が複数体監視している地下牢のベッドで、レアはそう首を傾げぼやいた。




