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18-4 レスティア王の願い

「まさか被るとはな。……だが親子だしそういう時もある」


 談話室に入るなり、レスティア王は口火を切った。


「実は儂もプラチナにプレゼントを用意していたのだ。会話のきっかけになればと思って密かに……」


 そう言って右手に持っていた時計をプラチナに見せた。

 手乗りサイズの目覚まし時計。まん丸な形で持っている本人の似顔絵が貼り付けられている。

 散々塞ぎ込んで僅かに落ち着いたプラチナはシンプルに要らないと思った。

 

「ゾルダンディーの技術を結集させた目覚まし時計だ……! この世に一つしかない完全オリジナル……! 儂の声が録音されておりプラチナの朝の目覚めはこれでスッキリ!」

「わらわ普通にゴミだと思うんですが」

「そうだせ。需要を考えろよ」

「それだけではない! タイマーをセットした時には儂の子守唄が流れるようにしてある。プラチナが安心して眠れるように。どれ、ちょっと試して……」


 レスティア王は目覚まし時計を弄り始めた。しかし数秒後、頭に疑問符を浮かべたような顔をして唸った。


「ぬ、むむ、うぅむ。おかしいな。流れるはずなんだが……仕方あるまい。儂が歌うか。せーの」

「王様、王様」

「ねーむれぇ〜! プラぁチナ〜! ねんねんプラプラプラーチおおうっ!?」

「気持ちは分かりますが早く本題に入ってください」


 シンシアに尻を蹴られたレスティア王はたたらを踏んだ。体勢を戻してため息を一つ。


「……では、本題に入るか」


 真面目な表情になってプラチナに向き合った。


「プラチナ、そろそろゾルダンディーに帰るか」

「……え?」

「元々社会勉強のために騎士団に入れたわけだがもう充分だろう。呪文の訓練と常識。ウイタレンでの駆除任務。今の世界の現状。予想外な出来事もあったが良い経験になったはずだ」

「お、お父さん……」

「後はこれらの経験を元に、今後の勉強や訓練も合わせ将来的には儂の跡を継いでゾルダンディーの女王になってもらう。何、大変だろうが気負う事はない。儂らも全力でサポートをする」


 一息に言い切られ面を食らったプラチナに代わり、エネルが疑問を呈した。


「……どういう事?」

「言葉通りだ。プラチナを連れて帰る事にした。太陽の騎士団よりゾルダンディーの方が安全だからな」


 曰く、レスティア王はプラチナの身の安全を危惧していた。レアへの尋問結果と彼女の一連の言葉から、プラチナがアノマリーなのは既にバレていると断定できるからだ。

 呪文は超常現象を起こす不思議な言葉。その言葉を狙って刺客やら敵が放たれるのが世の常。

 コミタバがプラチナの情報を放置するわけがない。既に騎士団とゾルダンディーの敵対勢力に流され済みだろう。

 プラチナ今後、背中に気を付けて生きていかなければならなかった。


「襲撃前までなら儂も、好きなだけ騎士団所属で良いと思っていた。だがアノマリーだとバレた今では話は別だ。ゾルダンディーと騎士団では優先順位が違うからな」


 レスティア王はエネルを見据えた。


「人質に取られたプラチナを見捨てる選択も視野に入れていたと聞いた」

「むっ……」

「いや、誤解のないように明言しておく。儂は全く持って含む所は何もない。無事の救出を果たしてくれたしむしろよくぞ、あの状況下で奪還し敵を撃破したものだ」

「……ライネルが来てくれたからね」


 レスティア王はプラチナに視線を移した。


「プラチナ、物事には優先順位というものがある。そしてそれは騎士団とゾルダンディーでは違う。仮にまた今回とは違う選ぶ場面が来た場合、例えばプラチナか洞窟のどちらかを選択しなければならない場合、騎士団は洞窟を優先するだろう」

「……それをなくすために、私はゾルダンディーに」

「そうだ。儂は成り行きで賢王になり、ジョズを筆頭に彼らには貸しがある。そもそも儂は王だし権力も財力もあり、全ての事柄に対してプラチナファーストで行動できる。儂はプラチナに万が一があってほしくないのだ」


 少しの間、沈黙が談話室に行き渡った。

 突如として現れたレスティア王の宣言にプラチナは言い淀み、エネルはどう言うべきか思案中になった。ニールとシンシアはそれぞれ静観して事の推移を見守っている。


 プラチナは本音を語るなら帰りたくなかった。

 太陽の騎士団は居心地が良い。皆が優しくしてくれる。毎日が楽しいし、なによりスターとエネルがいる。離れたくはない。

 しかし父が言っている事は理解できる。万が一があるかもしれない。実際に今日、人質になって迷惑を掛けてしまった。もうみじめな思いも嫌だ。これから頑張ろうとしても騎士団の環境では甘えが出るかもしれない。

 でもスターに対して負い目がある。エネルを含めて未だに何も返せていない。


「……なんてな」


 そう考えているとレスティア王が態度を変えた。真面目な面持ちからさっぱりと、朗らかな調子で沈黙を破った。


「いやいや、やっぱ嘘。よくよく考えたら儂、無能だし帰らなくても良いかも。そもそもこの選択が正しいかどうか全く分からん。プラチナはこのまま騎士団に居て良いかもしれん」

「「はぁ?」」

「シンシアはどう思う?」

「ノーコメントです」


 エネルとニールが急に態度を変えたレスティア王に唖然とした。プラチナもそうだ。


 エネルが言った。


「……さっきまでプラチナを連れて帰るって話をしてたよね?」

「ああ、してたな。だが思い返してほしい。儂は熟考してプラチナを幽閉したわけだが……その結果はどうなった?」


 それは、いつしかレスティア王が風呂場で吐露した後悔の気持ち。


「全てが裏目に出て儂は選択を間違ってしまった。そのせいでプラチナには嫌われ、オリビアには先立たれ、裏方を引退し自由になったアルマンにまた任務を押し付けてしまった」


 レスティア王は切り替えるように息を吐いてから続けた。


「しかし結果ではなく客観的な視点では儂の選択はどうなのか? 幽閉した選択は間違っていたのか、それとも間違っていなかったのか? ……ただ運が悪かっただけ、と言えるのではないか?」


 レスティア王はプラチナを幽閉した。何故なら当時は世界は不安定な情勢で、各国が情報収集に勤しんでいる中でプラチナがアノマリーだと判明したからだ。

 レスティア王は幽閉せざるを得なかった。アノマリーだとバレるわけには行かず、まだ幼いプラチナに呪文の常識を解いても理解できるわけがないと思って。

 だが情勢が不安定でない平和の時ならそうではない。幽閉せず時間を掛けてプラチナに教え伝え、呪文常識を授けるつもりだった。


「加えて突如襲来したバルガス・ストライク。奴が都市を滅ぼし儂に成り代わって国を統治しなければプラチナを国外へと避難させずに済んだ。ライネル以外の裏方達も死なずに、アルマンも馴染みのない土地で死なずに済んだ。……運が良ければ儂は後悔などしなかっただろう」


 レスティア王は言った。人生は結局は運だと。

 どれだけ未来を予測して備えてようが、運の良し悪しで未来は変わる。

 秘密都市でのレオナルド・レングレーが良い例だ。

 分身体を用いて最後まで戦闘をしなかったのに死亡した。慎重を期していたのにガチオーガに殺された。運が悪いにも程がある。


「そこでプラチナ。お前のこれまではあまりにも運が良かったと思わないか? 遭遇した敵はどいつもこいつも曲者揃い。もしかしたらプラチナが殺されていた今があったかもしれない」


 仮に呪文教の際にスターとエネルが間に合わなかったら。

 ドミスボで来襲したコミタバがデイパーマー以外にもいたら。

 秘密都市で地下に落とされ離れ離れになった時に、ドバードの兵隊がもっといたら。ジクルドとエーテルではなくレオナルド・レングレーと遭遇したら。

 駆除任務の最中に初手ペロイセンが悪性と共に強襲を仕掛けてきたら。

 今回の人質でライネルが間に合わなかったら。

 呪文教の時に接触してきたテッカ・バウアーが殺しに来ていたら。


 プラチナはこの時、テッカ・バウアーがコミタバだったと初めて聞かされた。


「運というのは平均化するものだ。良い運の後には悪い運が訪れる。これから予期せぬ振り戻しがプラチナを襲うと思うと儂は怖い。そして、その振り戻しにスター・スタイリッシュやエネル剣が巻き込まれ、そのせいで二人が死んだ時プラチナは耐えられるのかと危惧している」


 レスティア王はゆっくりとプラチナを見据えた。プラチナは心臓を鷲掴みされたような心持ちになった。

 耐えられるわけがない。恩人二人が自分のせいで死ぬなんて絶対に嫌だ。  


「……無論、これはあくまで儂の妄想だ。何も起こらずのより良い未来もあるだろう。しかし可能性は捨てきれない。太陽の騎士団の敵はコミタバ以外にも存在する。ペロイセンという予想外なケースもあったからな」


 嘆息してレスティア王は話を締め括った。シンシアも続く。


「以上二つが、状況的判断と成り行きで王になった儂の妄想がプラチナを連れて帰る理由になる。明後日には儂らはゾルダンディーに帰るから、それまでに残るか帰るか決めておいてくれ」

「プラチナ様、結局未来の事など誰にも分かりません。幽閉された時とは違い、今度はあなたが決めてください。どうか悔いが残らないように」

「良し、伝えたい事は伝えたし儂は部屋に戻る! 邪魔者は退散!」


 そう言ってレスティア王はシンシアと一緒に談話室から出て行った。


「……あひん」


 廊下を少し歩いて早々、レスティア王は崩れ落ち床に倒れ込んだ。しなしなと萎んでいく。


「駄目だ……儂、もう駄目。シンシア……運んで」

「はいはい。お疲れ様でした」


 シンシアはレスティア王の右脚を持ってズルズルと引きずった。レスティア王はしくしく泣いて呻く。


「うぅ……親子愛溢れるハートフルストーリーはどこぉ?」

「見事にハートフルボッコストーリーでしたね。物事というのはそう上手くいかないものです」

「つまり、コミタバは死ね……で、さっきのどうだった? 感想を聞かせて」

「久々の親子間の会話で説教かますってマジぃ?」

「ぐはっ!?」

「冗談ですよ流石に」


 辛辣な感想を入れられてレスティア王はのけぞった。シンシアは続けた。


「現状を考えればこうするしかないと私も思います。騎士団の奮闘があったにせよ、これまでのプラチナ様は運が良かった」

「……だよなぁ。ぶっちゃけ儂の救出作戦も誰かが死んでいてもおかしくはなかった。これから先、万事同じようにいくとは到底思えない……」

「ですがこの方法がプラチナ様のためになるかどうかもまた微妙な所」

「そうだ。もしかするとゾルダンディーに連れて帰る事自体が失敗になるかもしれない。だが……」


 すれ違った騎士団員が怪訝な視線を向けてくる。しかし二人は気にせずため息混じりの会話を続く。


「逆もまた然り。ままならないですね、本当に」

「はぁ、何処に儂だけが扱える未来予知とか脳内盗聴の呪文、オーバーパーツがないものか」

「それはそれで別の厄介事を引き寄せるような気がしますが……」

「引き寄せないかもしれんぞ?」

「見つけてから言ってください」


 ズルズルズルズル。シンシアはレスティア王を引きずって部屋まで運んで行った。



 話が終わり二人が去ってからエネルが口を開いた。


「運次第、か。まあ最終的にはそこに落ち着くか。シンシアが言うように未来なんて誰にも分からない以上、様々な可能性がほんの僅かにでも存在はする」


 父親からの宣言を突きつけられ思い悩むプラチナにエネルは続けた。


「例えば今まで殺してきた敵すらも、運次第で味方になる今があったかもしれない。呪文教の教主、レオナルド、ペロイセン。こんな感じで……」


『ふむ……確かに私は呪文教の教主だが此度は違う。今は仲間として悩みを聞こう』

『同じ電撃呪文の使い手だしな。傭兵だが金は取らねえよ。相談に乗ってやる』

『人間の事は嫌いだがお前は特別だ。悩みがあるなら言ってみ』


 ニールがツッコミを入れた。


「何で全員ツンデレ風なんだよ」

「いやだって、わらわそいつらの背景知らんし。つーか逆にニールだって敵になっていたかもしれない」

「おん?」


 エネルはニールに尋ねた。


「人類の八割を虐殺する寸前だったんでしょ?」

「おうよ、実行する一歩手前で辞めたけどな」

「……スターは殺した人間の関係者の未来を奪ったとして悩んでいるけど、ニールならどうする?」

「ん? 全員ぶっ殺せば良くね? 関係者皆殺しにすれば憎しみも悲しみもゼロになるし」

「……普通の感性はそうならんて。何故ニール・リオニコフは味方なのか?」

「知らね。むしろオレが聞きたいくらいよ」


 エネルは改めてプラチナに向き合った。


「でもねプラチナ、そんなのは全部蹴り飛ばして良いんだよ。運に介入する手立てはないから無視してオーケー。重要なのはプラチナが悔いが残らない選択をする事だとわらわは思う」

「……それ、前にエネルちゃんが言ってた」

「そう、髪を切った時にね。そしてあの時に伝えた事と気持ちは変わらない。わらわはプラチナがいつか死ぬ時、悔いなんて残してほしくない。……だから今から回想に入る事にします」


 回想に入る。唐突な言葉にプラチナは目を丸くしてエネルを見た。


「ゾルダンディーに帰ろうが、騎士団に残ろうが、プラチナがわらわ達と密接に関係していくのは変わらないからね。復興過程の振り返りを聞いて選択の参考にして」

「私のために……」

「うん。プラチナのこれからのための回想。回想を通して結局は、自分第一に選択した方が良いってのを分かってほしい」


 他人ではなく、まずは自分から。


「それでは、ご清聴願います」


 エネルはそう言って、復興過程を回想し始めた。


第3章はこれで終わりです。4章へ続きます。

良ければ評価をよろしくお願い致します。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

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