表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/105

17-4 モノリス戦

(ふーむ、これは失敗したか?)


 一方、死体操作のアノマリーであるコミタバ、モノリスという名の男は少し後悔していた。


(哀れで馬鹿すぎたから思わず吹き出してしまったが、不意打ち醤油で何人か殺せたかもしれん)


 ここ一年近くレアと行動を共にして、その人となりは見てきた。復讐をたてに好き勝手振る舞いイキリまくっていたクソガキ。

 しかしその結果がこれだ。騎士団の拠点での襲撃なのに奇襲の警戒もせずに、経験不足の素人丸出しの反応を晒して無力化される。無様で滑稽にも程がある。

 所詮はテッカの言う通り死体操作アノマリーの隠れ蓑、使い捨てのマッチのような存在だ。


(……まあ、勝利を確信した瞬間が最も狙われやすいってのは向こうも分かってる。警戒ぐらいはしていたか)


 モノリスは太陽の騎士団攻略に頭を切り替えた。


(……留まるって事はやり合う気か。撤退してくんねーかな。それなら楽に殺せるし)


 街の城壁内部には存在強化のアノマリーと重力系の呪文使いを複数潜ませている。このまま醤油の水位が増し、呑み込まれるのを恐れて撤退してくれれば、挟み撃ちで醤油の大海に落とし込める。

 逆に人質を奪還された今、ヴァニラ・コースキーが単騎で攻勢に出れば巨石の中に控えている同じアノマリーと醤油で負けはしないだろう。


(裏方らしき奴は念動力のアノマリー死体で感知できる。奴への警戒は絶対に怠らない)


 モノリスの注意は最も警戒すべき相手、ベネットに向かう。


(確か……対アウリリウエの矢、だったか。テッカが洞窟破壊をゴリ押ししない理由の一つ)


 テッカ曰く守護者としての能力。数には限りがあるが大規模な破壊をもたらす矢。それを撃たせないために人質を取り、今もテッカが守護者本体の意識を割かせるため洞窟破壊を敢行している。


(遠距離狙撃可能がヤバい。今も分身体が俺を凝視し続けている。ならあの目が標準となって洞窟からここまでの距離は狙撃範囲内か)


 モノリスはちらりと水位を増しつつある醤油を見た。

 このまま防御に徹し時間を掛けて街そのものを水没させるか、こちらから攻めるかは微妙な所だ。しかしもたもたして守護者本体に余裕ができ矢が飛んで来たら笑えない。


(元々この役所だった施設周辺には足場となる三角屋根はない。接近してくるならブロレジを足場にするか、連続ショートワープしか方法は……ない)


 街に配置していた死体共は醤油の中に潜ませている。隙を見て醤油の中に引きずり込む。それを陽動に使っても良い。

 その他諸々の、太陽の騎士団の戦力と自身の戦力を比較してモノリスは撤退に追い込む事に決めた。リスクが少ない選択を取ったのだ。


(まあ殺せるなら、それはそれで良い。殺した死体は有効に活用してやる)


 モノリスはネイトを操作し始めた。





 コミタバの後方でたゆたう醤油、その一部分が盛り上がってきた。

 下から上へ醤油が浮かび上がり集まり、超大玉な球体が二つ形成される。

 それを見てスターは指示を切り上げた。コミタバの攻勢がこれから始まるのだ。


「というわけで注意を引いてジクルドとエネルが決める。ライネルは投擲後の回収を優先で陽動してくれ」

「了解です。近接する必要もないですしそれで上手くいくなら」

「決まれば上手くいく。これは奴が知らない戦法のはずだ。失敗なら撤退、ヴァニラ」

「ええ、グリッド・ビィ・フロスト」


 ヴァニラが氷の兵隊達を新たに発現した。直後に球体一つが騎士団目掛けて投下された。

 それを散開して別々の三角屋根に移り回避する。ベネットとテン、スターとジクルドとエネル、それらに補佐として氷の兵隊達を付け残りは単独。


 数秒の時間差を置いて、退避してすぐのベネット組に醤油球がまた投下される。テンが連続で呪文を唱えた。


「ヴォルドア・グラズ・バルガライ! ディアニガル・キュール・バルガライ!!」


 アノマリーの醤油に対して威力増幅させる陣地呪文で対抗する。本来ならば醤油はアノマリーのため並みの呪文では迎撃できない。

 しかしエーテル・ブラスト計画で造られた彼女の本来の呪文火力と陣地呪文の組み合わせなら、この場合突破は可能だった。

 黒の醤油球と黒紫の特大玉は互いにぶつかり合い、テンが押し勝つ形で撃ち破り別の醤油に阻まれる。


「ユーラシア・フロスト!!」

「ラウンセント・ツノドリル!!」


 コミタバが同じように球体を形成する間に、ヴァニラとライネルが呪文を唱えた。しかしネイトの醤油で氷塊と回転ドリルは薙ぎ払われる。


 スター組は防御と阻害に徹していた。

 醤油の海から這い上がり騎士団とライネルを引きずり込もうとする死者達を剥がす。合間合間に盾手裏剣で死角からの襲う醤油を停滞させ、爆裂剣をジクルドと氷の兵隊達でコミタバへと投擲する。

 投擲に関しては、コミタバは醤油ではなく事前に巨石から出していた死者達を盾にして防御していた。予想通り敵の優先順位はアノマリーであるヴァニラと死体特効呪文があるライネル、醤油に対抗できる火力を持つテンとなっている。

 スター達三人には最低限の注意しか割いていない。


「これは舐められてるな」

「ああ、客観的に見ても俺達は脅威度が低いからな。だがこれで良い。エネル」

「分かった。配置に付くから唱えて」

「ミラロス・ブレイド」

「屈辱的で効果的な攻撃をしてやる……!」


 そう殺意増し増しで息巻いたエネルに触れてスターは透明剣の呪文を唱えた。ドミスボのデイパーマーの時と同様、エネルの姿を透明にする。

 補佐してくれている氷の兵隊二体に頼んで剣状態になったエネルを運搬してもらう。配置に付き次第攻勢に移る。

 

「スター、これは急いだ方が良い」

「……足場を壊してきたか」


 ジクルドが言った。スターは顔を顰めた。

 コミタバは騎士団の足場となる三角屋根を狙い始めた。大量の死者達を張り付かせ自爆呪文で爆破する。

 ブロレジのその場凌ぎの足場では騎士団の敗北は目に見えている。


 先程から醤油球体を形成する攻撃ばかりしてくるのも厄介だ。視線が上に向くため下と周囲への警戒がどうしても薄くなってしまう。

 コミタバは時間を掛けるだけで良いのだ。下で波打つ醤油の水位が上がりホムランを水没させれば勝ちなのだから。

 

「スター、投げた後は任せた」

「ああ、気にせず嘔吐してくれ」


 そしてジクルドと分かれ、エネルが配置に付いた事をヴァニラから聞き、攻勢に移る時がやって来た。

 スターが爆裂剣を上空へと投擲し、爆破したのが合図となる。


「バルガライ・ブラストホウ!!」


 テンが少し離れた距離で移動していたライネルに向かって極太光線を射出した。ライネルの身体は光線に飲み込まれた。

 バルガライ系の呪文は当てる対象を選べる呪文。極太光線の障害物でライネルを包み込み、コミタバの目線を切ってステルス呪文で姿を隠す。

 コミタバの注意を引くための第一手だった。


 続けてヴァニラがテンの元へ飛び移った。テンは即座にバルガライの陣地呪文を発現する。

 同時にヴァニラが周囲に冷気を発生させ全力でアノマリーをぶっ放す準備をする。


 これにはコミタバの警戒は二人に一気に集中した。浮かんでいた醤油は明らかに防御を意識した布陣に変わり、更には巨石から藍色の髪をした新たな死者が現れ出てきた。


(ジクルド、今だ!!)


 そのタイミングを狙ってジクルドが前に出た。ステルス中のライネルとジクルド自身が、ブロレジを足場を展開して上へ上へとコミタバに肉薄する。

 当然コミタバは迎撃した。今さっき出した藍色髪の死者がフロスト系の呪文を射出し阻害してくる。


 その攻撃を左腕一本の犠牲で掻い潜りジクルドは呪文を唱えた。


「カロン・ニカ」


 肉体収納化の呪文。唱えた直後、ジクルドの身体全体から様々な収納物が大量に吐き出された。

 壊れない剣、食料類、飲料類、チェス盤、書籍多数、包帯等を含めた医療品、その他必要な物、ゴミ多数。

 それら全ては目眩し。視覚的な数を増やし注意を分散させ、敵の意識を本命である鉄兜投擲に寄せないための行動だった。


 ジクルドは頭に被っている鉄兜を取り素顔を露わにさせ、右腕を振り上げて標的に投げ込もうとした。


「ヴァニラ!!」


 その直前にスターが大声で指示を出し、ヴァニラが周囲に漂っていた白銀の冷気を突き出していた右腕に収束させ、コミタバも同じように迎撃しようと藍色髪の死者が冷気を収束させようとして……。


 同じ二つのアノマリーがもう間も無く衝突しようとする時、ジクルドが鉄兜を投擲した。


「っ!?」


 コミタバは真意が読めない顔をして、とりあえず鉄兜を寄せ付けないようにした。

 特に仕掛けがあるわけではないと思われる飛び道具。鉄兜は真っ直ぐな軌道を描いて迫って来る。


 その軌道をスターが変える。発現していた透明剣の柄が当たるよう刀身を持って投げ込み鉄兜に当てた。

 ジクルドの鉄兜はコミタバから見て左に弾き飛ばされる。


「???」


 コミタバは一瞬の空白を経て戦闘に戻った。あらぬ方向へと飛んだ鉄兜の先に、透明化したエネルがいる事に気付かずヴァニラに意識を注ぐ。

 エネルは肉体強化呪文で跳躍し、勢いそのままで鉄兜を蹴り込んだ。


 がこんっ!


 鉄兜は透明化したエネルの蹴りによってコミタバへ吸い込まれていく。そして……。


 ばこっ!


 ジクルドが被っていた鉄兜はコミタバの頭に収まった。


「決まった! 退避、ここから離れろ!!」


 作戦は無事成功した。スターは声を上げて後退の指示を出す。同時にライネルが連続ショートワープ呪文でジクルドを回収した姿を見て自身も後退する。


 既にほぼ全ての、コミタバが陣取る建物周辺の三角屋根は破壊され尽くしていた。騎士団とライネルは建物三軒分から六軒分の背が高い建物まで後退した。


「これで良いの!? 言われた通り注意を引いてジクルドの鉄兜が敵の頭に被さったけど!?」


 ヴァニラが依然水位が増しつつある醤油を見、焦りながらスターに聞いた。ライネルも続く。


「確かあの鉄兜は人間の気配を感知できるとの事でしたが……」

「ああ、通称『お薬鉄兜』のオーバーパーツ。被っている最中は強烈に感覚が高揚する効果があるらしい。薬物が身体に投与された時のように。そしてその鉄兜を脱いだ場合はこうなる」


 スターは醤油の海に嘔吐しているジクルドを目で示した。


「おろろろろろろろっ!!」

「見事に吐いてますね。まるで薬が切れた時のような虚脱感……それで?」

「鉄兜を奪取すれば今のジクルドと同じように敵を行動不能にできる。後はヴァニラのアノマリーでトドメを刺す」


 スターは淀みなく説明している。だがそれでは駄目では? とスターとジクルド以外が思った。

 ライネルが眉を顰めて言った。


「つまりもう一度、今度はあの鉄兜を奪取しなければならない……という事ですか?」

「ああ」

「敵の周囲には足場となる屋根もなくなり、ブロレジの障壁だけでは近づくのは困難となりますが……」

「加えてコミタバは今、気分がハイになっている。呪文のキレも苛烈さを増すだろう」

「……どうするのです?」

「問題ない」


 スターは断言した。


「あの鉄兜は感覚が覚醒するが、人間の事をどうしても気持ち悪く嫌悪するようになってしまう。近くにいればその気持ち悪さを感じ取って、人間を感知できるようになるぐらいに。だったら非人間が鉄兜を奪い去る。俺達は攻撃を受けないように回避しながら時が来るのを待つだけだ」


 テンが首を捻る。


「非人間って誰です? ヒカリの召喚生物達はここにはいませんが……」

「エネル」

「あっ」

「あいつは人の姿をしているがその存在は剣。お薬鉄兜はエネルへの警戒を疎かにする」





「ぷはぁっ!!」


 潜っていたエネルは醤油の水面から顔を出した。

 人間ではなく剣だから口に入る醤油は無効。いくら飲んでも塩分過多で死ぬ事はない。

 正直自分でもお前何なんだ、と思う時もある。


「死体がわらわを引きずり込む事はなかったな……」


 流され泳ぎながら周囲を確認する。目論み通りコミタバはスター達を攻撃している。自分には意識を割いてないようだ。


 エネルはコミタバが陣取る建物の壁に辿り着いた。これから登って敵の背後を取る。


「よいしょっと。……デュラハンの奴、サッカーとロッククライミングが趣味だった。まさか教えてもらったのがこんな所で役に立つとは。壁登りはブロレジで補助できるし」


 昔の仲間を思い出して少ししみじみ。ペロイセンは死ね。


 そうしてエネルは登り切りコミタバの後方に到着した。

 複数の死者達が待機していたが佇むだけで何もされない。初めての目の先にいる人間達への嫌悪感で、意識が一杯一杯なのだろう。


 好都合だ。


「エ〜ク〜ス〜……!」


 標的の男への恨み増し増し、憎悪増し増しでエネルは駆け出した。両手を重ね合わせ人差し指と中指、計四本の指を突き立て構えを取る。

 障害となる物は何もない。エネルはコミタバの元まで駆け付け膝を曲げてしゃがみ込み、そして渾身の力を込めて両腕を思いっきり伸ばした。


 ケツの穴に向けて。カンチョー。


「ボルトティアーッ!!!!」

「ぁあああああああああああああああああ?!?!!?!?!」


 直後に膨大な電撃が指先から服越しのケツの穴に向けて発現された。

 青空が広がる日中のホムランでコミタバの絶叫が響き渡る。

 ジクルドの鉄兜も黒焦げになるが気にしない。ベネットのアノマリーで元に戻せる。


「クソがっ! やっぱ殺し切れないか!!」


 エネルは悪態をついた。

 前の実験通りプラチナの呪文才能はプラチナ以外が扱うと性能が落ちる。やはり才能の持ち主のように上手くはいかない。

 同時にこのカンチョーボルトティアを食らったコミタバは、事前に肉体強化の呪文を発現していた。それも普通のライズンではなく、より効果が高い上級の。

 それにより殺害には至らなかった。


「……いや」


 エネルはこのまま追撃してやろうかと考えたが鉄兜奪取を優先した。隙だらけだが余計な事はせず、当初の予定通りヴァニラにトドメを任せる。

 嘔吐しているコミタバを最後に蹴り飛ばし、エネルは建物から飛び降りた。


「アイシオ・ブレイド!」


 剣引き寄せの呪文でエネルはスターの元へ帰還した。すぐに鉄兜をジクルドに戻してヴァニラを見やる。


「場は整えた! ぶっ殺せ!!」

「ええ、言われるまでもないわね」


 再び周囲の冷気がヴァニラの右腕に収束していく。対するコミタバは行動不能。四つん這いになって嘔吐し続けるだけで何もできず、醤油も死者達も活動を止めた。


 全ての冷気はヴァニラに収まった。撃ち込む直前にスターが言った。


「出落ちにしてやれ」

「そうだ、出落ちにしてやれ!」


 エネルの同調も受けたヴァニラは呪文を唱えた。


「アノマリー・ブライニクル」


 それは広範囲に射出される超特大のブリザードだった。バルガライの陣地呪文も相まって、ヴァニラを起点にして扇状に白銀の突風が展開される。

 その凍える冷気にホムランの一部は次々に飲み込まれていく。建物、醤油、死者達。

 途中で。


「ばっ、馬鹿な……! 対策していた……のに。こんな馬鹿げた戦法でこの、俺が……や……るな、ん……」


 みたいな断末魔が聞こえたような気がするが、それすらも飲み込み街並みは一変した。

 後に残ったのはまだ早い白銀の雪景色。街の外まで雪々が広がり凍りついている。


 自分以外に発現すれば問答無用で氷結させるブリザードを放つ呪文。自分に向けて発現すれば存在変化。

 この二つの性質を持ち合わせているのがヴァニラのアノマリーだった。


「グリッド・ビィ・フロスト」


 氷の兵隊達に盾手裏剣を持たせ派遣し、状況を調査させた。

 安全を確保してから接近、ライネルの分身体が発現する死体処分呪文でコミタバの死を確認した。


 十分後、空中列車に乗った増援がホムランに来てくれた。

 コミタバが起こした襲撃はここに終結した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ