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17-1 コミタバ強襲

 ぷつぷつ、と鳥肌のように巨石表面が灰色に隆起したかと思えばそれは顔だった。

 目と鼻と口がなく、髪はあるのっぺらぼう。大道芸区画の公園広場にそれらが溢れ出し、襲い掛かって来る。


 モノリス。コミタバが所有する死者の肉体を操る非人道的オーバーパーツ。

 事前情報として聞いていたが、いざその人型異形の死者達を目にするとプラチナは戦慄した。


「「モノリス!?」」


 エネルとシンシアが同時に吠えた。即座に対応しようと動き出す。しかし二人の初動は失敗した。

 シンシアはモノリス表面から飛来した氷塊により吹き飛ばされ、エネルに至っては肩車の状態のため、咄嗟の行動はスターに依存する。


「ぁ……」


 スターは対処できずに呆けていた。レアを凝視する無抵抗な状態で複数の死者達に飛び掛かられる形となった。

 そして次の瞬間、死者達の身体は光輝き爆発した。


 アポートス。身体が爆発する自爆呪文。

 ゼロ距離でエネル共々爆発に巻き込まれたスターは、あらぬ方向へと吹き飛ばされていった。


「スター!」


 しかしスターは無意識に呪文を唱えていた。

 プラチナが爆発の被害に遭わぬよう、間に複数の盾手裏剣を発現していた。

 そのおかげでプラチナは熱波と衝撃から逃れる事ができた。


「ふーん、流石はお兄ちゃん。ぼーっとしても最低限の仕事はするか」


 たった今、この暴挙を起こしたレアは先程とは違い無機質な声色だった。外見は同じでも明らかに敵性を帯びている。


 戦慄する時間はほんの僅か。これまでの経験でプラチナはもう動けるようになっていた。

 今すぐにスターに回復呪文を施さないとならない。肉体強化なしであの爆発は致命的だ。周りにはベネットの分身体もパトロールしていた。すぐに集結し制圧してくれる。一目散にスターの元へ。


 プラチナは肉体強化の呪文を唱え行動を開始しようとした。しかしその耳に信じられない言葉が届けられ、その動きは停止してしまった。


「あれぇ、使うの? バルガスおじさん殺したアノマリーを」

「えっ……?」


 とぼけた、小馬鹿にするような声だった。


 呼吸するのも忘れ身体が固まる。頭が真っ白になり今聞いた言葉の理解に時間がかかった。

 バルガスおじさんは……決まってる、バルガス・ストライクの事だ。その人はスターが今も探し続けている大事な友達。スターがそう言っていた。

 それを殺した……? 誰が? 確かにあの時、付与のアノマリーを使ったけど逃亡したって皆が言っていて……。


 硬直するプラチナにレアが呪文を唱えた。


「ふふっ、ウェル・レブス」


 両頬を膨らませて、片目を閉じて人差し指を当てた口から吐き出されるのは桃色の煙。顔全体に吹きかけられ吸い込んだプラチナは急激な眠気に襲われた。


 突如として思考が曖昧になり何も考えられなくなった。勝手に降りてくる重い瞼。何とか踏ん張ろうとしても意識は闇へ闇へと落ちていく。


 役に立ちたい。足手纏いにはならないと決めたのに。


 そしてプラチナは意識を手放した。レアが続けて発現したシャボン玉の中へと囚われてしまった。

 

「「「「「「ヒャッハー、騎士団のお膝元で喧嘩売るとは良い度胸じゃねーか!!!」」」」」」


 無論、周囲にいたモヒカン分身達やスターを遠くから見守っていたヴァニラが指をくわえて見ていたわけではない。

 モノリスが落下してすぐ、初動を抑えるために急行していた。

 しかし追加の敵がそれを阻止する。


「おっと、お前らの相手は俺だ」

「なっ、デイパーマー!?」


 遅れて上から落下してきたのはコミタバのデイパーマー。地面に着地するなり右手を騎士団に伸ばし呪文を唱えてきた。


「ブロレジ・ラウンセント」


 続けて左手を祭りに来ていた観光客達に向けて。


「メラギラ・ヴォルバヒド。メラギラ・ヴォルバヒド」


 メラギラの火炎竜巻を二つ、射出した。より被害が拡大するように間隔を離して。


 大道芸が行われていた公園広場は大パニックと化した。突如として発現された巨大火炎竜巻二つに人々が次々と飲み込まれていく。

 騎士団もデイパーマーを止めるべく障壁を破壊し肉薄しようと試みる。しかし器用に十数枚の障壁を動かしそれを阻んできた。

 残り枚数が半分まで減り、火炎竜巻を公園広場の外に移動させながらデイパーマーが言った。


「さて、民間人をもっと殺しに行かないとな。止めたければついて来てくれ」


 そう言い残して障壁を自身に追尾させたまま離脱していった。明らかな分断だが今すぐ息の根を止めなければならない。

 非モヒカン状態のベネット一体とヴァニラを残し、全てのベネット達はデイパーマーの後を追った。


「おーい、ヴァニラ・コースキー。聞こえるー?」


 デイパーマーが走り出してすぐ、モノリスの上へ跳んで腰を下ろしたレアが言った。


「近くのホムランで待ってるからお兄ちゃん連れて来てね〜。連れて来なかったら……言うまでもないよね?」


 真四角真っ黒の巨石、モノリスは宙に浮かんで上昇していく。その横では同じように追従する、シャボン玉の中で気を失っているプラチナもヴァニラは見た。


「それじゃ、出発進行ー!」


 快活な掛け声と共に建物の上まで上がったコミタバは、プラチナという人質を連れて東の方角へと飛んでいってしまった。


「ちっ……いや、スターは!?」


 舌打ちを一回してヴァニラは切り替えた。吹き飛ばされた方向を見ればエネルが、プラチナの回復呪文をスターに発現している最中だった。


「くそっ、わらわを庇ったせいで肉体強化は……!」


 急いで駆けつけたヴァニラは息が詰まった。黒焦げの大火傷状態でスターは横たわり淡い光に包まれている。明らかに重症だ。

 肉体強化の剣はギリギリで間に合わなかった。爆発に巻き込まれてからの発現でダメージの軽減は少ししかできなかったのだ。


「ベネット、早くアノマリーでスターを!!」

「申し訳ありません。今、洞窟防衛中で私本体が対応に割かれています。デイパーマーやあの少女以外にもコミタバが来襲しているのです」


 レアやデイパーマーだけではなく、一部解放されていた騎士団領域内で襲撃が発生している。

 現在、その鎮圧に騎士団は対応中。コミタバによる多重攻撃だった。


「なので近くにいた二人を急行させ……着きましたね」

「ベネット! スターは!?」


 エーテルとジクルドもこの場に到着した。スターを目視するなり即、エーテルが回復呪文の発現のため駆け寄る。

 その間にベネットがヴァニラとジクルドを集めて、回復作業中の二人に聞こえないよう小声で言った。


「スターが起き次第、ホムランへ向かう事になるでしょう。……スターに状況を話せば率先して向かうはずです」

「はずじゃなくて絶対行くでしょ。あのレアとかいうの知ってたみたいだったし」

「問題はプラチナが人質に取られている点です。敵が準備をして待ち構えている場所での戦闘。しかもモノリスの兵隊は呪文を行使してくる」

「……つまりそれは」


 ジクルドの察し声にベネットは頷いた。


「場合によってはプラチナを見捨てる選択も視野に入れといてください。人質諸共ヴァニラのアノマリーで一掃する。……スターの生存が優先されるのは私とヴァニラでも一致しているはずです」


 人質がいる条件下ではその行動は制限される。どうしても人質の生存を諦めきれないため、相手の指示に行動が左右されてしまう。

 コミタバ相手にそんな事は自殺行為に等しい行動である。絶対的に言語道断な行いだった。


 無論ヴァニラもそれは理解している。しかし感情というものがあるため即答はできなかった。

 返答に窮するヴァニラにベネットが続けた。


「あくまで最終手段です。プラチナが救出できてコミタバを消せるのなら、それに越した事はありません」

「……そう、ね。最悪な事態にならなければ良いけど」


 ヴァニラはふらりと上体を起こしたスターを見、瞑目してから沈痛な声で言葉を吐いた。


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