15-4 レスティア王との話し合い
「ちょっと待って、今プラチナが助けを求めてる気がする! お父さんの出番なのではっ!?」
プラチナが建造物の雨あられから逃げ惑っている頃、祭りのパンフレットに目を通していたレスティア王が立ち上がり窓へと注目した。
「儂が颯爽と助けに現れその勢いで仲直り、そこから親子愛溢れるハートフルストーリーが展開されて……!」
「されないので座ってください。誤解が解けてから今日まで会話すらできてないのに何言ってんですか」
「わらわもそう思う。気まずい空気が流れるだけ。大事な訓練の邪魔をしちゃいけないよ」
そのレスティア王をシンシアとエネルが嗜めた。
中央にあるソファに座り直したレスティア王は、しなしなと萎んでいく。
その場にはオーハマーの姿もあった。少し離れた壁際で佇み、気まずそうな何処か困惑した表情で成り行きを見守っている。
太陽の騎士団司令室で行われていたゾルダンディーとの話し合いの最中だった。
レスティア王は空気が抜けた風船のように声を出す。
「そうでした……儂、未だプラチナとまともな会話すらできてないのです。お願いは来たけどシンシア経由だったし」
「お願い? 何それ、わらわ知らん」
「スター・スタイリッシュが探している二人を早く見つけろって、私を間に挟んで言ってきたんですよ。気まずいのは理解できますが自分で言えって話です」
「あーはいはい、プラチナ発メイド経由王様宛ね」
ぐだっ、としな垂れ落ち込むレスティア王にエネルが質問した。
「脱線するけど、クレアとネイトは見つかった?」
「いや全然、それに関しては成果なしで申し訳ない。全力で捜索しているが影も形も見つからない」
「まあ頼んでから時間も経ってないし、裏方自体もライネルだけになったから当然っちゃ当然か」
レスティア王はシンシアに紅茶のおかわりを催促をした。しかしシンシアが自分で淹れろと拒否したので、ついでだから全員分を淹れる事にした。
無論オーハマーの分も。レスティア王は気を取り直して、奥に佇むオーハマーを見やった。
「クレアとネイト・ネッシーは、ゾルダンディーでもミギドでも、把握している情報は似たようなものだ。液体のアノマリーと孤児院運営者。……そうだな、オーハマー?」
「うげっ、私に振るんすか」
「当たり前だろう。元ミギドの裏方」
「……まさかレスティア王と対面する事になるとは思ってもなかったっす」
オーハマーは気まずそうに顔を引き攣らせた。
ミギドは五年前の戦争で滅びた国。その裏方であったオーハマーは、ゾルダンディーに色々と工作した過去があったのだ。
「それはこちらのセリフだ。まさか裏で殺し合いを繰り広げていた敵が味方になり、こう話す日が来るとは……分からないものだ」
「ゾルダンディーは昔、内乱でボロボロだった時期があります。そこに水に落ちた犬にはロケランぶっ放せ、の勢いそのままにミギドが攻め込んで来ました。それ以降も衝突は続き裏で顔見知りになったわけです」
「例えは違う気がするけどわらわ把握した。国力低下の隙を狙ったわけだ」
「昔の話っすよ、私がまだ子供の頃の……」
オーハマーは一度レスティア王を見、今度は頭を抱えて続けた。
「レスティア王の態度が気味悪いんすよぉ。冷徹冷酷で容赦ない王様だったのに……何すか今のキャラ、ハートフルストーリーとか言わんでしょ。偽物を疑うっすよ」
「単に味方の顔と敵の顔を使い分けてるだけだが。ミギドは敵対国だったわけだし。それと偽物うんぬんの話は極力辞めてくれ。儂に効く」
「全く慣れない。違和感バリバリで気持ち悪いぃ」
「そんな事儂に言われてもなぁ」
「そもそも何で私なんすか? ベネットとカインに任せれば良いじゃないすか!」
「しゃーないじゃん。その二人の優先順位は何よりもスターなんだから。本部に戻ってきた以上オーハマーも手伝ってよ」
「優先順位? ほうほう……ちなみに、エネル剣は?」
「わらわはスターとプラチナの両方が大事。まずはそこから」
「……ふむ、そうか」
エネルに尋ねたレスティア王は、少し考え込んでから声を裏返らせた。
「ダイジョブ、ヤサシイオウサマダヨ。ヒソカニアンサツナンテシナイヨー」
「おごごごっ、全身が総毛立つとはまさにこの事っす……!」
「おっさんの裏声とかセクハラじゃないの?」
「セクハラかもしれんがそろそろ再開しないとな。儂の身にもなってくれ。ゾルダンディーに明確な被害を出した元敵の一人と対話している。僅かな警戒と困惑、どう接して良いか分からんのだ。……敵対姿勢で応対するか?」
「それはそれで嫌っす。つーか、最初に脱線したのはレスティア王の方っすからね」
作業は続けなければならない。レスティア王とオーハマーの気まずい雰囲気はそのままで話し合いは再開された。議題は祭りについて。
「ゾルダンディーからのヘルプ要員二百人は、事前に打ち合わせした通りで良いのか?」
「うん、分隊毎にパトロールをお願いする。異変や不審を見つけたら近くのベネットや騎士団員に伝達。多少観光してもおけ。ウイタレンの件と祭りの準備で騎士団は割とカツカツだから」
「ゾルダンディーと太陽の騎士団の同盟関係は、祭りで明確になるが問題はないな?」
「ない。今後とも良いお付き合いをしたいものです」
そのほかにも、ヘルプ要員達の報酬はハゲが治る洞窟への優先入場、パトロールの担当区域割り当てとローテーション、騒動が起こった時の手筈、ハゲが治る洞窟優先権の八百長話などをゾルダンディーと詰めていく。
しかしそれらは前もって決めていた事で、今行なっているのはただの確認作業だ。
議題は、この場で新しく話し合うべき内容へと移行した。
「コミタバ」
エネルがそう言った瞬間、会話は止まった。四人全員が顔を顰めてため息を吐いた。
「太陽の騎士団はコミタバの動向を掴めてないっす」
「ゾルダンディーも同様だ。数年前を境に奴らの情報は少なくなった。何らか理由で活動を抑える必要が出たと推測できるが、違うのかもしれない」
「つまり全く分からない。ハゲが治る洞窟の破壊を目指している。祭りにちょっかいを出してくる可能性がある。面倒臭い社会のゴミですね」
「ほんそれ、コミタバとか早く死ねよ」
今度のシンシアは紅茶を淹れてくれた。テーブル上から湯気立つ煙を頬杖ついて眺めた後、レスティア王は口を開いた。
「確かドミスボでデイパーマーと遭遇したんだったか?」
「そう、何の脈絡もなく唐突に襲撃してきた。本体じゃなく同一体発現の呪文でね。結局襲撃理由も連続殺人鬼やってた理由も分からないまま……マジで分からないままだからキレそうになるわ」
エネルは思い返す。
あの時はデイパーマーの意図を考える時間はなかった。住民達の見当違いの憎悪からプラチナを守る事とアルマンの元へと連れ戻しを優先した。
あれから時間が経っても、ドミスボの住民は今なおスターを殺人鬼だと思っている。のちに太陽の騎士団だと分かって、騎士団を否定する街へと変わってしまった。
レスティア王が紅茶を冷ましながら言った。
「まあ同一体や分身体を使う理由なんぞ皆一緒だ。大体が危険を遠ざけるために発現するのが主な用途になる」
強敵に対して数の暴力を活かす、罠が仕掛けられている場所での先行調査、撤退時の足止め。
他にも用途はあるが戦闘に限定するならば、大体はこのように扱われる。
「よく分からん殺され方をしたレオナルド・レングレーが良い例だ。奴は秘密都市という未知なる場所で、状況的に本体は最後まで出張らずに、分身体で危険回避を第一に行動していたのだろう? 発現できるのならそれは妥当な判断だ」
「それなら、デイパーマーも何らかな危険を回避するために同一体を発現したって事?」
「儂の見解ではな。もっとも何を避けていたのか分からんし、ただの推測に過ぎないが」
レスティア王が言い終わるのを待って、オーハマーが口を挟む。
「バルガス・ストライクはどうなんすか? あいつもコミタバのメンバー、だったんすよね? で、レスティア王は地下に監禁されていて……」
その言葉を聞いたレスティア王は、口をへの字に曲げてオーハマーを見据えた。
オーハマーはすかさず閉口して立ち上がり、そそくさとエネルの後ろへ移動した。
「暴力反対っす! 今は味方っす! 平和が一番っす!」
「いや落ち着け、ペロイセンとかいう悪性に一杯食わされたオーハマー」
「んががっ」
「儂は自分の無能さを思い出しただけだ」
「王様、自分語りは辞めてください。さっきから脱線しすぎです」
レスティア王は切り替えるように瞑目した。そして改めて、当時の事を話した。
「既に伝えてある通り、奴の事は儂にも良く分からん。ある日突然、都市二つを滅ぼした肉体変化のアノマリー。それには留まらず儂に成りすまし国を統治し始めた男だ」
バルガス・ストライクの立ち振る舞いは一貫性がなかった。
メラギラドラゴンに化けて滅亡させようと攻撃してきたと思いきや、王に成り代わり滅ぼした都市を復興させて更に国を豊かに発展させた。
権力が欲しいのなら、本物であるレスティア王を抹殺すれば良いものを最後まで生かし続けた。秘密都市での一連の行動も意味不明。
既にこの世を去っているため目的は分からない。彼は一体何がしたかったのか。ゾルダンディー側はトチ狂った狂人として認識している。
レスティア王はエネルを見た。
「償い……と言っていたのだろう? 奴は」
「死の間際にね。事を起こしたのは最悪な理由があるからって」
「ふん、何にせよ特大な迷惑話だ。理由がどうであれ罪のない人間を虐殺するなど馬鹿げている」
結局コミタバの話はこれで終わった。情報が掴めてない以上、臨機応変に対処していくしかない。
すなわち、コミタバは見つけ次第ぶっ殺せ。コミタバに関しては警告なしの攻撃が騎士団とゾルダンディーで決定された。
ただし周囲に被害が及ばないように。拘束呪文や急所パンチなど近接呪文が推奨される。
「まあ呪文というのがある以上、不法者に対し絶対的な対策など不可能だからな」
「そうだね」
議題は最も重要な、プラチナの話に移行した。
「まずは大事な確認だ。スター・スタイリッシュはプラチナを恨んでは……いないな?」
エネルは即座に否定した。
「百パーない。聞かなくても分かる。バルガスが死んだ事を残念に思っても、プラチナが結果的に殺した事に対しての悪感情は存在しない」
「そうか……そしてプラチナが、今後もアノマリーを発現していきたいと決断した」
「そう。きちんと自分で考えて決めてね。ならその方向性で行くしかない。伝えるよ、バルガスを殺してしまった事実を」
この先、プラチナが付与のアノマリーを使っていくなら絶対に話さなければならない。ペロイセンを打破した時のように、戦力として扱われるのだから。
しかしバルガス殺害してしまった事実が足枷になる。プラチナはスターとエネルに恩を返したい。
仮にコミタバ等の敵対者が殺害事実を口にした場合、プラチナの思考はフリーズして動けなくなってしまうだろう。そしてその隙を突かれて殺される。そんな事態はあってはならない。
憂いの目は事前に摘んでおく必要があった。
「私的にはさっさと伝えた方が良いと思いますが」
シンシアが紅茶を飲みながら言った。レスティア王が応じる。
「儂的にはアルマンの願いを叶えてやりたい。あいつはプラチナの幸せを願っていると言った。今は祭りを楽しんでもらいたい」
「わらわも同感。プラチナは落ち込むし、祭りを堪能してからでも遅くはないと思う。バランスは大事」
「今は忙しい時期っすからね。伝えるのは場を整えてからで良いっすよ」
「……まあ、それではそのように」
シンシアも絶対に反対というわけではなかった。レスティア王が真剣さを増して言った。
「それで儂から要望があるのだが……」
「要望?」
「伝える役目は儂に任せてほしい。そもそもプラチナの件は、ゾルダンディー側の問題なわけだし」
「それは、わらわ構わないけど……オーハマー?」
「私も構わないっす。てかベネットとカインも頷くはずっす。多分」
「ん、すまないな。前々から伝えようと考えていてな。どうするか決めるのかはプラチナになるが」
「わらわも同席しても?」
「勿論、問題ない」
最後に伝えた後の方針について議論した。プラチナが立ち直った後にはアノマリーの練度を上げなければならない。
付与のアノマリーを鍛えれば様々な手段を講じられる。例えば通常のアクセル・ボルトティアの性能を付与で三倍に向上させる事もできるだろう。騎士団のアノマリーとの連携も必要となる。
その他諸々を、予想される未来に対しての対応を詰めていく。
そして今日はこれにて終了になった時、レスティア王は何処となく言った。
「まあ、こんなものか。……何事も起こらず無事に祭りを終えられれば良いが」
「ほんとにね」
同調したエネルがため息混じりに返した。




