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15-3 ニールのアノマリーと肉体強化の呪文

「ほーい、アノマリー・シロデリカ」


 騎士団の敷地内でニールが呪文を唱えた。芝生の上に発現された三両編成の蒸気機関車は、プラチナが数度ほど乗車した空中列車と同じ物である。


 明後日、ついに太陽の騎士団が主催する祭りが始まる。ウイタレンの修復作業に人員を割かれたり、観光客の増加などの対応に追われながらも、何とか開催に漕ぎ着けた。

 祭りは復興から五年経過しているのに因んで、五日間の日程で行われる。その二日前である今日は大まかなリハーサルに費やされていた。ニールが空中列車を発現したのもそのためだ。


 騎士団側の出し物の一つ、敷地内を少し開放しての空中列車乗車体験。プラチナは抜群の需要があるだろうなと思った。


 数分後、数十人のベネットのモヒカン分身体が現れ乗車した。空中列車は線路上でもないのに、白煙を吐きながら緩やかな軌道で上へ上へと駆けていく。

 そして雲の下辺りまで上昇し北の方角を目指して小さくなっていった。規定のコースを十分ほど走って戻ってくるとの事だ。


 一連の流れを見ていたプラチナが驚きの声を出した。


「何度か乗った事あるけど空飛ぶ列車を発現できるなんて本当に凄い。しかもあれは自動運転……これがニールちゃんのアノマリーなんだ」

「おうよ、建造物のアノマリーだからな。建造物っぽいのなら色々と出せる」

「建造物って家とか施設みたいな建物を想像するけど……空中列車も対象なの? ただの飛ばない汽車なら分かるんだけど」

「なんか適当に発現してたら、ふとした瞬間空を飛んだんだよ。超常現象って不思議だね」

「……それって明日、お客さん乗せてる最中に落下したりして?」

「そん時はしゃーない、切り替えていけ。乗車体験に関しては、一切のトラブルは客の自己責任にしてんだから放置一択よ」


 屋外カフェにあるようなテーブル付きの椅子座ったニールが応えた。プラチナももう一個の椅子に腰を下ろしている。


 ニール・リオニコフは建造物のアノマリーだ。建造物っぽい物は結構色々と発現できる。

 一軒家、トロイの木馬、金色の筋肉モリモリ銅像、モアイ像、トーテムポール、公園の遊具、アイアンメイデン。クソデカピラミッドなどなど。

 戦闘時にはこれらを発現して敵に向けて投擲するのが主なスタイルになる。質量のある攻撃でアノマリーの呪文で発現した建造物のため、並みの反撃で破壊される事はない。

 ギャグではなく真面目に人類の数を減らそうと努力した過去もあるので、何度でも発現できる体力もあった。


 それらを聞いてプラチナは合点がいった。確かにこれなら戦争からの復興は可能だと何となくイメージがついた。

 ニールの建造物で避難民の受け入れ、モヒカン分身体とスターの盾手裏剣で外敵からの防衛、ベネットの時間のアノマリーでの修復、エネルの無限カバンの中にある大量の物資類、その他復興に協力してくれる人達。

 ハゲが治る洞窟を見つけて復興を成し遂げたと言われているが、洞窟を中心にそれ以外の要因も合わせて復興を成し遂げたのだ。


 しかしそれなら洞窟はいらないのではと思う。ハゲが治る効果での復興が理解できないからだろうか。そもそも洞窟はどのような経緯で見つけたのか。

 プラチナが尋ねるとニールは「あー」と少し逡巡してからこう言った。


「別に教えてやっても良いんだがなぁ……気持ちの準備がいるわ」

「もしかして機密的な話になるの?」

「いや全然。オレの気持ちの準備がちょいと必要なだけ。あの時は出会ったばかりの奴らが復興を目指していた。だから互いの手の内、アノマリーは提示しなかった。ベネットもオレも……それが原因でスターの友達が死んじまったと頭によぎっちまう」


 プラチナは呆気に取られ、思わず復唱した。


「スターの友達……?」

「ビル・フキャナン。確かアカム時代のスターの戦友だったか。忖度度が高くて気の良い奴だったが、口から毒ガスを出す呪文で殺された」


 ハゲが治る洞窟がある街から少し離れた場所には、ホムランという太陽の騎士団が保有している実践訓練用の小都市があった。

 洞窟が見つかる前はその都市で戦争からの復興を目指していた。しかしある日、暴動が発生して街は火の海になってしまった。


「避難民の中にコミタバの息が掛かったゴミ野郎共がいたんだよ。そいつらがオレとビルとスターが出払ってる時に暴動を起こしやがった」


 更にはデイパーマーを含むコミタバが街の外から被害を拡大しようとしてきた。当時はまだ連携がほぼない状態のスター達は、内側と外側から挟み撃ちで劣勢を強いられた。


「んで、スミスって既に殺害済みのコミタバが毒ガス吹いてきた。食らって瀕死のビルを背負ってスターが近くにあった森の中を疾走した」


 森の中を彷徨い、何処か最適な隠し場所を探して盾手裏剣のバリケードで安全を確保する。そして回復呪文を発現できる者を探して一命を取り留める。

 しかし追跡してくるコミタバの召喚生物を切り倒しながらの退避だった。結局ビルの回復は間に合わず息を引き取ってしまった。

 その過程で見つけたのが今あるハゲが治る洞窟の入り口。太陽の騎士団はそこから森を開拓して、今ある街を築き上げたのだった。


「……聞かなきゃ良かった。そんな事があったのなら」


 好奇心で質問したプラチナはぽつりと呻いた。姿勢を低くしてテーブルに身体を伏せたニールが嘆息した。


「まあ、聞いてて気分が良くなる話じゃねーよな。スターの事が好きなプラチナなら尚更」

「うん。聞いて後悔し……うん? 今なんて?」

「スターの事が好きなプラチナなら尚更〜」

「何で知ってるの?」

「駄剣が言ってたぜ。おっと安心しろ。ヴァニラは知らねえから、遠慮なくアタックしてくれ」

「いや、今はそんな気にはなれないよ」


 今度はプラチナが嘆息した。変わらずスターは元気がないのだ。ヴァニラの機嫌の悪さも含めてそれは確定している。

 加えて祭りの後で伝えられる話というのも一体何なのかと考えてしまう。

 自分の父が関係し、今後も付与のアノマリーを使用していくなら絶対に伝える大切な事柄。

 今横にいるニールに聞いても、待っているエーテルに聞いても教えてはくれない。ちょっとしたフラストレーションが溜まりつつあった。


 その不満を軽減させるために今日、プラチナは呼び出された。呪文の訓練で身体を動かして頭から追いやるのだ。

 景色を眺めたりモヒカン分身が淹れてくれた紅茶を飲んでると、エーテルが走ってきた。


「ごめん、ごめん。やっと仕事終わったよー」

「おせーぞ人造人間」

「後で忖度しないから許して」

「忖度するなら仕方ねぇ……ってしないんかいぃ」


 三人は騎士団敷地内にある訓練場に到着した。祭りの前なので他の団員はおらず貸切状態である。

 ニールが呪文を唱えた。


「アノマリー・シロデリカ」


 ドスン、と真横に細長い振り子時計が発現された。三メートルを超える大きなのっぽの古時計だ。


「んじゃプラチナ、これ持ち上げて運んで」

「えっ」


 ニールが親指で指し示しプラチナは目をぱちくりさせた。


「無理だよ。見るからに重たそうだし……無理だよね?」

「ところがどっこい。肉体強化の呪文ならできるんだなこれが。エーテル」

「オッケー。ライズン」


 呪文を唱えたエーテルは時計に向き直り、しゃがんで両腕を回し立ち上がった。

 間違いなく振り子時計は宙に浮いている。腕力が同じぐらいのエーテルが楽々と持ち上げている。


「これがライズン系の呪文。肉体強化だね」

「それって確かスターも唱えてた。でもあれは剣の呪文じゃ?」

「ソード・ブレイド・ライズンだな。発現した剣に触れている最中は、肉体が強化される効果が身体に現れるやつ」


 肉体強化はその名の通り、一時的に身体能力がパワーアップする呪文である。打撃時の威力増加、攻撃被弾時の耐久力増加、移動速度の増加。鍛え上げれば五感の強化もできるようになる。

 しかしその反面、身体を動かせば体力消費が大きくすぐに消耗してしまう。普段より身体の動きが先鋭化されるため、発現し続けて慣れると日常での感覚のズレも生じてしまう。瞬間瞬間での発現が多い。

 効果は絶大だが扱いが結構面倒臭い呪文である。


「私も唱えれば、エーテルちゃんみたいに持ち上げれて……」

「一回唱えてみ。発現しなかったら付与アノマリーの練度上げに切り替えるから」

「分かった。……ライズン」


 呪文を唱えてプラチナは既に降ろされた時計の前に立った。そのまましゃがみ込み、先程のリプレイを行う。

 多少重く感じたが、エーテルと同じ箇所を掴んで問題なく持ち上げられた。

 遅れて気持ちが追い付きプラチナは感激した。もっと力を込めればブンブン上下にも振れる。


「凄い、普通に持てる! もしかして腕力だけじゃなく」

「脚力も強化されてるよ。早く走れるし通常よりも高いジャンプも可能」

「その分くっそ疲れるけどな。汗っかきには肉体強化は発狂するほど辛えわ」


 ニールは発現していた時計を消し、新たな建造物を発現した。


「んじゃ前置きはこれぐらいにして、訓練開始なプラチナ。これから色々投げ込むから回避するなり凌いでくれ」

「えっ」


 ニールが無言呪文で発現したのはモアイ像だった。先程の置き時計より一回り大きい五メートルのサイズの物体。それを天に伸ばした右手で持ち上げている。

 プラチナはこれから起こる出来事を想像して、恐る恐る尋ねた。


「ニールちゃん、それは?」

「モアイ像だな。どう見ても」

「それを私に投げ込むの?」

「そうだよ」

「下敷きになったらどうなるの?」

「肉体強化中だし大丈夫だろ。死にかけたらベネット呼べば良いし。同じサイズ間を置かずにぶつけるからよろしく」

「……え」

「ブロレジとかボルトティアも並行して使っても良いぞ。付与は禁止な。対応次第じゃ一軒家とか集合住宅とかも追加するか」


 これってもしかして物凄く危険な訓練なのでは?

 プラチナはエーテルに視線を移した。エーテルは親指を上げるポーズを取った。


「エーテルちゃん……」

「プラチナ、頑張って! 練習や訓練は本番を想定しないとだから! 流石にニールも殺さないし!」

「ところがプラチナを殺してゾルダンディーとの戦争を僅かに考えるオレもいたのでした」

「いやいやいや」


 ニールは朗らかに言った。


「まあ安心しろって。流石には殺す気はねえよ。多分……エーテル、カウントダウン開始」

「五秒前、四……」

「えっ、ちょ今多分って……!」

「二、一……ゼロ。プラチナ頑張れー」

「よっしゃ、プラチナ狩りじゃー!」


 そして呪文訓練が始まった。この最中、エネルのあの言葉をプラチナは思い出した。

 ニール・リオニコフはコミタバとペロイセン同等の社会のクソゴミ。

 訓練を生き延びたプラチナは味方で良かったと思った。次々にポンポン建造物を投擲してくる敵なんて恐ろしくて堪らない。


 翌日のプラチナは疲労困憊で動けなかった。


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