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15-1 クレアとの出会い(夢)

 視界に映るのは荒廃した市街地。多くの建物が無造作に破壊され瓦礫に成り果てている。

 鼻を刺すのはとてつもない悪臭。探せば簡単に見つかるくらいには死体が放置されており埋葬される事ない。


 普段とは違う低い目線と着ている服で、その場に佇んでいたスターはこれは夢だと思った。

 幼少期の頃の記憶。身体は勝手に動く意識だけの明晰夢。ジャポニはスター・スタイリッシュの出身地。


 かつては極東の島国特有の文化があったが、今では見る影もない。世界中の国々からの介入によりジャポニという国は呪文と科学の巨大実験場と化してしまった。


 海に囲まれている土地が悪かった。他国からの干渉は限りなく少なく、呪文や科学の実験でいくら悪影響が出ようが本国には及ばない。

 人も大勢いた。普段発現する事ができない非人道的な呪文の訓練や、兵器開発のための人体実験が可能だったのだ。


 国力拡大のため複数の大国が秘密裏に実行した。島国ジャポニを手中に収めようと、ジャポニを舞台に争奪戦が発生した。

 更には、そんな酷い事を許さないとする国の人間も入国した。酷い事を許さないと称して無法を働こうとする国の人間も入国した。

 国でなくても個人や団体も、人道支援をする者と非人道的行為をする者もジャポニに降り立った。もはや収拾はつかなくなり争いは激化した。

 その結果、最終的には荒廃した島国が残った。未来も希望もない呪文と科学の実験場に成り果ててしまった。だから……。


 何故クレアという女性が、遠いアカムからこのジャポニにやって来たのかスターには分からなかった。


『行かないで』


 今でも覚えてる。

 その日、食べ物はないかと死体漁りをしていた時、人の気配を感じて振り向いたらクレアはいた。

 

 くたびれたような、心労がありありと纏わりついている姿。その横には棒人間。幼いスターは即座に物陰に隠れて距離を取った。子供さらいだと思ったのだ。

 しかしどうやら違うようだった。白い髪はボサボサでやつれた顔をしたクレアは、その場で突然崩れ落ち嗚咽を漏らすだけ。誘拐する感じは何処にもない。


『泣かないで』


 その様子を覗き込んでいたスターは駆け出した。肩を震わせ泣きじゃくるクレアを安心させられるよう抱きしめて言った。

 何ができるかなんて知らない。ただそうしないと目の前にいる女性は壊れてしまいそうで、どうしても繋ぎ止めたくて、失ってばかりの毎日はもう沢山だからスターは抱きしめただけ。視界の端で棒人間が肩をすくめているのが見えた。


 少し経って、クレアは泣き止んで立ち直ったようだった。辺りの適当な瓦礫に腰を下ろして話をする。


『大丈夫?』

『ええ、急にごめんなさい。本当に限界だったから……我慢できなくてつい、ね』

『そうだったんだ』


 変わらず髪はボサボサだったが、顔には生気が宿ってきている。事情は分からないがスターは良かったと思った。

 クレアは言った。


『あなたは……』

『?』

『……いえ、ここで何をやっていたの?』

『食べ物探してた。食べられる物を見つけて持って帰らないと。皆お腹空かせてる』

『食べ物を……』

『うん』


 するとクレアはポケットを探って、とある物を手渡してきた。銀の包み紙、飴玉三つ。


『……良いの?』

『ええ、初対面の私に寄り添ってくれたお礼。こんな程度じゃ返した気にもなれないけど』

『初対面……』


 スターは少し、座る人二人分クレアから距離を取った。もしかして泣き崩れたのは演技で餌を与えて連れ去る気ではと考えてしまった。

 間を置いて空気を察したクレアが慌てて弁明する。


『……? はっ!? 違う、違うから! 誘拐する気何て全くない!!』

『うーん……』

『本当にないから! 両目は駄目だけど片目潰したって良い! 片腕だって切り落として見せあいたっ!?』


 あたふたと狼狽するクレアを膝カックンして、低くなったその頭を棒人間が叩いた。

 落ち着けと言ってるようだった。それくらいクレアは取り乱していた。


『本当に……アタシはあなたに変な事はしない。あなたはアタシを救ってくれた恩人。あなたのおかげで、また頑張れるのだから』

『???』


 見れば頭をぶっ叩いた棒人間がその頭部を下げてお願いしていた。クレアも縋るように許しを乞うてくる。

 警戒するよりも困惑が優先される。今日初めて会ったはずなのに何故そんな事を言うのか。


 それから半日歩いて、クレアと棒人間の三人で拠点へと向かった。スターは当時、支援活動をしてくれる人の世話になっていた。

 古びたボロボロの教会を少ない材料で改修して、何とか住める状態にした家。そこで同じ行き場のない人達と助け合いながら暮らしていた。


 しかし家は全焼していた。真っ黒に焼け焦げ煤が風で流れ焼死体がいくつも転がっている。僅かな支援物資を狙ったのか、それともジャポニの復興を許さない勢力の所業か。

 何にせよスターは一人になってしまった。『行かないで』はスターの心からの願いだった。

 


 その後は家族の遺体を埋葬して疲れて寝ていたら、不憫に思ったクレアにおんぶされアカムへと保護された。ただそれだけ。

 そう回想をしていると、視界に映るのは景色は色褪せて意識も薄れていった。

 そろそろ夢は終わって目覚める、とスターは理解した。


 果たして、救ってくれたとはどういう意味なのか。救ってくれた恩人はクレアの方だというのに何故彼女はそう言ったのか。

 行方不明になったクレアは未だ見つからないから分からない。


 やがて、パチパチと暖炉の木が鳴る音が聞こえてきた。炎の暖かい空気を身体に感じる。

 自身の自室。夜遅くまで資料解読を試みていて寝落ちしたのだ。大きめのソファーに横になっていた。


「おはよう、スター」


 目を開けると悲しげな微笑みを浮かべていたヒカリが、寝起きの視界に映った。

 そう言えば、ヒカリとクレアさんは少し似てるなとスターは思った。

 スター・スタイリッシュは目を覚ました。



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