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14-1 コミタバの二人

「確かこれが……ガラス化だったか?」

「そうそう、ガラス化。アウリリウエの能力」


 騎士団と召喚生物達が戦いを繰り広げた地下遺跡の一角で、白濁の結晶をまじまじ眺めるデイパーマーにテッカ・バウアーが答えた。

 

「どんな物体でも問答無用でガラスに変えちゃう。アウリリウエとの決戦で、能力の余波が遺跡まで及び所々がガラス化しちゃったんだろうねー」

「その遺跡が何故こんな深い地下に?」

「そりゃ長い年月人気がないなら埋もれるよ。この辺は大昔、乾燥地帯だったわけだし」

「なるほど……」


 聞きながらデイパーマーは手を伸ばし、ガラス化した石壁の一部に触れようとする。しかしその前に確認を取った。


「触っても大丈夫だったよな?」

「おっ、やっぱ気になる? 科学者の血が騒いじゃった?」

「皮肉は辞めろ。それで……?」

「大丈夫だよ全然。時間が経ってるしガラス化する事はない」

「そうか……長い時を経てもガラス状態は維持され続けている。凄まじいなアウリリウエというのは」

「凄まじいのはどうでも良いんだよ。問題はアウリリウエの本体が何処に封印されているか」

「…………」


 デイパーマーは応えなかった。視線を向けず集中し壁の観察を続けている。テッカが軽く嗜めた。


「こらこら、守護者の分身体が探索に来るかもしれないんだから急いで急いで。石壁の部分を切り取って持ち帰れば良いでしょ。観察はアジトでゆっくりしてさ」

「……その手があったか。もっと早く言えよ性悪女」

「こんにゃろめ」


 質問に答えて提案もしたのにこの言い草。テッカは凝視しているデイパーマーの尻をげしっ、と蹴って剥がし目的地へと連れていった。


 そうして到着したのはペロイセンの肉片現場。地面には小さな水溜りのように血が点々とし、所々が乾いている。その上に粉々に踏み砕かれた黒焦げの肉片が多数転がり、焼け焦げた匂いと血の匂いが今も漂っていた。


「……ペロイセン、この状態でまだ生きてるのか?」

「生きてるよ。伊達にアウリリウエとの戦いで生き残っちゃいない。しぶとさは折り紙付き」


 少し待ってると肉薄全てがプルプルと震え、一箇所に集まり出した。次々と合わさり人型の形を形成する。頭、胴体、両手、両足。

 そして本来より二回り小さいペロイセンが復活した。息も絶え絶えにうつ伏せ状態から起きあがろうとする。その横腹をテッカが蹴り込んだ。


「がっ!?」


 地面を低空に飛んで転がって止まる。力ない片腕を支えに蹴り込んだ相手を見ようとして、疲労困憊のペロイセンは固まった。


「お前……テッカ・バウアー!?」

「やあやあペロイセン、勧誘の時以来だね。元気してた?」

「殺したはずだろ、何故生きている……!?」

「うんうん、元気そうで何よりだ。じゃあもう一発蹴り入れとくか」

「ぶっ!?」


 テッカは顔面目掛けて蹴りを入れた。ペロイセンはデイパーマーの足元まで転がって、また蹴り飛ばされてテッカの足元まで戻ってきた。


「野暮だなぁ……この世界には呪文とかオーバーパーツがあるのにそんな事聞くなんて。オツムが足りてないんじゃないのペロイセン?」

「がはっ……」

「あのさぁ、言っちゃうけど私怒ってるんだからね。すり抜けという無双できる能力があるのにこの体たらく、スター・スタイリッシュぐらいは殺しておけよお前。つーか何大物ぶって出待ちしてんの。初手悪性達と一緒に不意打ちかませば全滅できたのに。これだから低能な召喚生物は」


 心底呆れながら、心底軽蔑しながらテッカは見下ろした。見上げる側のペロイセンは乱れる呼吸で返す。


「そうか、オリビアに似たガキがやって来たのはお前が糸を引いて……」

「はぁ? 自惚れんなよこのカス。騎士団のリソース削りのために、街が適度に遠く適度に近かったから標的にしようとしただけで狙ってねーよ。お前がいたのはマジで偶然」

「ぐう……ぜん」

「勧誘した時の場所が違うだろ。一応同じ奴に殺されかけた仲だから優しく勧誘したのにぶっ殺しやがって。まあ結果的に、オリビアの娘だと気付けない無能を仲間にしないで済んだけどさ」

「む、娘なのか……!」

「駄目でしょ、ちゃんと情報収集のアンテナ張ってないと。だから敗北して地べたに這いつくばってるんじゃないの? 人間に排斥された召喚生物」


 ゼイゼイとした呼吸を整えるのを優先し、しかし話の内容から察した事実が信じられなくて、ペロイセンは思わず口にした。


「お前、いくら何でも正確に知りすぎてる……」

「あ?」

「常に追跡の有無を警戒していた俺の居所を突き止めた事、コミタバの活動、アウリリウエ……」

「排斥の言葉でアウリリウエを察したか」

「つまり、お前は持っている。アカシックレコードを……!」

「「バルガライ・ブラストホウ」」


 地下遺跡内に黒紫の光線が二つ煌めいた。バルガライは当てる対象を選べる呪文のため、壁や床は無傷でペロイセンだけに被弾する。

 元々グロッキー状態のヘロヘロ。未だすり抜けを封じられているペロイセンは完全に動けなくなった。


「余計な事を言われたな」

「ほんそれ。何処のどいつが聞いてるかもしれないのに余計な事言いやがって、このドブカスがっ」


 再度テッカが無抵抗のペロイセンを蹴った後、その首根っこを右手で掴んだ。


「さてさて、早く済ませちゃうか」

「な、にを……?」

「ペロイセンは低能だけどさ、すり抜けの能力だけは私認めてるんだよね。だからそれ、貰う事にしたの。まあ今から取り込まれて死ぬお前には関係のない事だけど」


 そう言ってテッカは顔を上に向けて、顎を外し口を大きく開いた。そのままペロイセンを持ち上げて「いただきまーす」と声を出した後、蛇が丸呑みするように頭から踊り食いをしていく。


 ごっ、んぐっ、ぎょっ、んぐっ、ごっ、ごっ、ごくんっ。


 力ない抵抗と共にペロイセンは死亡した。今度こそテッカに飲み込まれこの世を去った。


「……………………」


 ペロイセンを取り込んだテッカは先程とは違って黙り込んでいた。デイパーマーが首を傾げる。


「どうした? すり抜けを使えるようになったか呪文を撃ち込むんじゃなかったのか?」

「……あぁ、うん。やっちゃって。確かめないとね」

「……? バルガライ・ブラストホウ」


 予定通りデイパーマーはテッカに当てるつもりで呪文を唱えた。黒紫の光線は命中せずに壁の向こう側へと消えていく。テッカが被弾した様子は見受けられない。

 

「…………うーん」


 変わらずテッカは黙り考え込んでいた。流石にその沈黙は長く、今度はデイパーマーがテッカの尻をげしっ、と蹴って我に帰らせた。


「呆けるなよ。気になる事があるなら早く言えって」

「……ペロイセンは単独ってわけじゃなかった。裏にアノマリーが付いていた」

「えっ、マジで?」

「マジで。そいつがメタルサソリに擬態やら何やらを施してて……しかもアカシック・レコードを持っている」

「なっ……!?」

「だからペロイセンは知っていたわけだ。そしてそのためのメタルサソリ。今知って固まっちゃった」


 アカシック・レコードは閲覧制限がある世界記録のオーバーパーツ。現在と過去の記録がリアルタイムで記録されている。

 テッカ・バウアーとデイパーマー。この二人が目的達成の手段として欲している物体。


 気を取り直りしたテッカが嘆息した。


「これは面倒臭くなったかも。目的は違えど手段は同じだし」

「なら太陽の騎士団の邪魔は中止か?」

「いや、バルガス・ストライクが死んだおかげで動きやすくなったし……それは続行。これからも平和を祈っての祭典なんだから台無しにしないと。……ふふっ、大勢の人間が汗水流して築き上げた物をぶち壊す。これ以上の娯楽がこの世にあるかね、デイパーマー君?」

「性悪な性格が戻って何よりだ」


 嫌そうに顔を歪めたデイパーマーは尋ねた。


「ところでプラチナ・アリエールの件だが……」

「うん、オリビアの認識阻害で勘違いしてたガキね。バルガスを殺してくれてラッキーだよ。今度機会があったら煽ってやろう。利敵行為センキューって!」

「いやそこはもう、どうでも良くて……」


 デイパーマーは続けた。


「今更だが大丈夫なのか? モノリスが付いているとはいえあんな子供に一任して。復讐で前が見えなくなっているだろ」

「いやいや、本当に今更。決めて納得したんだから蒸し返さないでよ」

「それは分かってるんだが……」

「良いじゃん失敗しても。使い捨てのマッチみたいな物だし、洞窟を破壊できなくても騎士団の戦力を削れれるかもだから期待はしておこう!」

「……まあ、それもそうか」


 二人は踵を返した。ペロイセンを吸収した以上、もうこの場所に用はない。


「さあ、これから忙しくなるよ! 密かに人間どんどん殺して行こー!」

「それが呪文神の発現に繋がるからな」

「そうそう、そのために騎士団の動きを阻害しなきゃならない」

「事を上手く運んで可能なら洞窟破壊」

「うんうん、まあ多分それは難しいだろうけどねー」

「守護者か。邪魔だよな」

「ねー」


 そうしてコミタバの二人は地下遺跡の奥へと姿を消した。その足取りは軽く、未来が希望に満ち溢れているようだった。








 その二人をとある召喚生物が追尾する。ヒカリが発現していた特殊個体、ステルスサカバンバスピス。

 細長い魚のような姿は背景に溶け込んで目視できない。気配に関しては封印のアノマリーで遮断している。

 彼は宙を泳いでコミタバを追尾する。バレずにゆっくりと。目先の二人をいずれ抹殺するために。



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