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13-5 リンチして地上へ帰還

 召喚生物ペロイセンはこの世に現れ出た瞬間から悪性だったわけではない。善良で思いやりがあり、他人のために頑張っていた時期が確かにあった。

 しかしペロイセンは拒絶された。アウリリウエという世界を滅ぼす力を持った存在との決戦後、その人外の見た目とすり抜けの能力を恐れた人間達によって排斥されてしまったのだ。


 意味も分からず追われ続け、逃げ回る日々。すり抜けは無限にできるわけではなく体力を必要とする。

 何年も命を狙われ、状況を理解し身も心もすり減らし、ペロイセンの人間に対する考え方は「ゴミ」と化した。


 表面上はニコニコと耳障りの良い言葉を口にして、裏では他者を蹴落とそうと画策する豚。何処まで行っても自分中心に回ってるゴミ野郎共。

 孤立無縁にするために自身を発現した呪文使いや、親しく頼れる者達も全員殺したのがそれを証明している。お前達と世界を守るために戦ったというのに。


 それ以来、生き延びたペロイセンは人間を雑に扱うようになった。かつてのような思いやる精神はなくなり、ただの玩具、暇つぶしの道具として壊れるまで痛ぶっていく。

 時に拉致して暴行、時に殺し合わせて生き残った方を殺す、時に食べたり。元々知能は高かったため思いつく限りの遊びを模索し大勢の人間を殺し続けた。


 しかし流石にやりすぎた。ある日退治しようとする人間が現れた。オリビアという名の金髪の女。ドン引きするほど強くボコボコのフルボッコにされてしまう。

 ペロイセンは涙目で逃げ出した。すり抜けの能力があるのにオリビアは攻撃を当ててくる。

 加えて壁をすり抜ければ壁を壊してやってくる。浮遊の能力で空を飛べば同じようについてくる。地面にすり抜ければ穴を掘って追ってくる。地中深くのマントルなどお構いなしの怪物女。

 命からがらの逃走劇は一ヶ月以上続き、何とか逃げ切った。トラウマを刻まれたペロイセンは自分より強い奴はいると反省し慎重さは大事だと悟った。


 人間への価値観はそのままでも、石橋を叩いて渡る。そうして今日まで生きてきた。

 今回もそれは同じ。ウイタレンにやって来た太陽の騎士団の力量を測る事を第一に動いた。

 

「ミスはなかったはずだ。安全地帯で相手の力を見極めて地下に落とし込むまでは……」


 ペロイセンは地上にある街中の空き家で独りごちた。既に街中に出した悪性達はヴァニラ・コースキーと守護者の分身体に掃討されパニックは収束しつつある。

 ウイタレンはもう放置一択。元々街の運営ごっこには飽きていたし、最後に住民のアキレス腱を地面から破壊するだけ破壊して別の街へ行けば良い。

 後は地下にいる連中をどうするか……。


「オリビアじゃないよな……うん、オリビアじゃない」


 ペロイセンは再度確認した。オリビアなら会った瞬間殺しに掛かっている。プラチナはオリビアではない。ならばより脅威度の高いヒカリに注目すべきだ。

 召喚生物の発現。多種多様な呪文の発現。継戦能力の高さ。それらは問題ではない。あるとするなら壁を開通しての合流の速さ。あれに関しては駆除任務の時には見ていない。


「消滅剣のアノマリー? ……念動力のアノマリー? 俺と同じすり抜け破壊じゃあるまいし」


 どれも違う気がする。何にせよ得体の知れないガキだ。奴に関してはすり抜け回避ではなく、全ての攻撃を絶対にかすりもしない方向でいく事にしよう。


「……残りはすり抜けまくって更に疲弊させ、念のため遠巻きに投石。悪性達を解き放って一緒に殺せば良いか。ヤバくなったら地球の裏側まで逃げる」


 頭の中で何度もシミュレーションして殺す事に決めた。ペロイセンはすり抜けで地下へと戻り騎士団と対面した。


 即襲い掛かってくるのは片腕のスター・スタイリッシュとオーハマー。

 予定通りすり抜けで様子を見ようとしたペロイセンの横腹に、壊れない剣の薙ぎ払いの一撃が決まった。



○○○



「ぐえっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 弓のように身体を曲げて、勢いそのままペロイセンは壁まで吹っ飛ばされた。

 それを見たスターは初動は上手くいったと確信して、息つく暇を与えずオーハマーと共に追撃に移る。


 プラチナが壊れない剣に付与した特性は二つ。剣がすり抜け中のペロイセンに命中する特性。そしてすり抜けの有無を問わず、命中した場合にはすり抜けができないに状態にする特性。

 後者が今、ペロイセンに付与されているはずだ。


「ドリ・グラジドン!」


 オーハマーが急所パンチの呪文を唱えペロイセンに肉薄する。当たれば悶絶する効果があるため、すり抜けが使用できるのならそれで回避するだろう。

 しかし体勢を立て直したペロイセンはスターの側面へ移動し、丁度スターを盾にするように立ち回る。オーハマーがスターの右側に着くならスターの左へ、左側に着くならその逆へ。

 地面でも天井でもすり抜け移動は可能のはずなのに、今いる空間に留まっている。ならばペロイセンはすり抜けができない状態になっているという事。オーハマーが気分良く口角を上げる。


「オーケー、作戦は上手くいったようっすね。いいザマいいザマ」

「さ、作戦……? え、いや、それはぁ……?」

「言うわけないじゃないっすか、この悪性野郎。濡れ衣を着せやがって……息の根を止めてやる」

「オーハマー、頭は冷静に」

「勿論分かってるっすよ」


 ペロイセンは錯乱状態にあるようだ。先程のような慢心した様子は微塵もなく、その身に起こっている現象を全く信じられていない。

 しかしスターは油断なく目標を見据えた。ペロイセンの身体は頑丈、全力で剣を振るったのにダメージは少量。すり抜けがなくても戦闘能力は高い召喚生物なのだ。余裕を与えてはならない。


 再び戦闘を開始した。引き続きオーハマーに急所パンチを発現させて注意を引いておく。

 スターの背中に貼り付いていたヤマチを戦闘に投入して手数を増やした。ペロイセンは自身のキャパを減らされて更に錯乱していった。


「ブロレジ!」


 そこにヒカリの障壁呪文が発現され、ペロイセンの移動は阻害される。騎士団の数は四になり追い詰められた。


「ちょっ、お前ら、待って……!」


 悲痛な叫びを無視するのは目の前の三人。内一人は急所パンチ持ち。その後方には障壁呪文でサポートしてくる呪文使い。更に後方には、いつの間にか発現された黒のギネスファング、エネル、プラチナ、ジクルド。

 遠くにいる悪性を呼ぶ暇もない。すり抜けも何故かできない。この戦況じゃ変身能力も意味をなさない。ペロイセンは自身の膂力と浮遊の能力で迎撃するしかなかった。

 しかし数の暴力と連携の高さ。騎士団は集団リンチにより徐々にペロイセンを削っていく。


「がっ、ごぅっ、お、あぎゃっ、あぁあ……!?」


 剣で斬られ急所パンチで殴られ障壁の角を差し込まれる。剣を刺されヤマチに殴られ障壁で阻害されまた急所パンチ。

 ペロイセンはズタボロになって血反吐を吐いた。いくら身体が頑丈でも限界があった。障壁を含めて囲むようにリンチしてくる。


 油断も隙もない連続攻撃にペロイセンは何とか突破の糸を探し手繰り寄せようとした。

 しかし約一分後、突破口など皆無でペロイセンは騎士団の猛攻により倒れ伏した。騎士団のアノマリー相手でも無双できる召喚生物は、数本の剣が身体に刺さり貫かれピクリともしない。

 

「死んだか?」

「多分死んだっす。剣で頭をグサグサ刺しても動かないし……念のため首を切り離した方が良いっすか?」

「首だけじゃなく身体を細かく切り分けて熱線呪文で焼いてしまおう。肉片を黒焦げにして踏み砕く」

「「了解、ヒカリ」」


 ペロイセンは歴史上、別個体がいない極レアな召喚生物。すり抜けや変身の他にも能力を持っていて復活するかもしれない。騎士団は最後の最後まで気を抜かない。


 血の匂いに慣れているスターとヤマチとオーハマーで、ペロイセンの身体を細かく解体していく。未だ体力が残っているヒカリが熱線呪文で処理する。

 順次出来上がる焼き焦げたペロイセンの肉片を踏み潰してバラバラにする。流石に頭から足先まで原形を留めず破壊し尽くせば、ペロイセンは復活しないと皆が思った。


 そして一行はその場を後にした。

 ヒカリとギネスファングを先頭にして地下遺跡を練り歩き、とあるエリアで上に続く階段を発見した。

 ジクルドの予想通り地下遺跡は街に繋がっていて、登り切ると物置らしき部屋へと到着した。おそらくペロイセンがすり抜けの実体化で開通したのだろう。


 扉から廊下に出た。空き家らしく人の気配はない。

 窓から外の様子を眺めると、ペロイセンが起こした悪性達の騒動は既に収められ、ベネットの分身体が複数散見された。


 それをしっかりと確認して、地下空間に落とされた騎士団は息を吐いて気を緩めた。

 彼らは地上への帰還を果たしたのだ。


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