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13-2 ペロイセン ①

 ペロイセン。確かにエネルはそう言った。プラチナはこの時初めてペロイセンの姿をその目に収めた。


 まるで昔見た歯の絵本に出てくる、虫歯の元凶キャラが服を着ているような外見だった。

 四肢があって人型で頭に二本の角のような突起があり、見える範囲の肌が灰色に燻んでいる。スターと同じぐらいの背丈で、磨かれたブーツで地面を踏みしめ黒のロングコートを纏っている。

 もっとも目を引くのは顔中央にある大きな赤色の単眼。小馬鹿にするように細められ、今もなお不敵にエネルに対して視線を投げていた。


 そのペロイセンがそのままの表情でせせら笑い語りかける。


「ははっ、お前相変わらずわらわわらわ言ってんのか? 喧嘩別れする前から思っていたが頭おかしいんじゃねえか、その一人称」

「ああそうだな! 悪性のドブカス野郎がっ!!」


 しかしエネルに取り合う気は一切ない。罵倒と同時に敵だと暗に伝えて二人に指示を出す。


「ヒカリ、オーハマー!! ぶっ殺せっ!!!」

「ランザック・グラゴング!!」

「ザサボン・カロソクヴァ!!」


 騎士団初期メンバーの阿吽の呼吸で呪文が解き放たれた。重力で対象を押し潰し、大蛇の形をした朱色の爆発ジャポン玉が噛み付く瞬間を狙って、重力呪文を解除する。

 攻撃は上手くいったように見えた。上からの圧力はペロイセンを押さえつけ、無防備な弛緩した状態で大蛇が目標へ到達し衝撃と爆炎が巻き起こる。ペロイセンの耐久力は誰にも分からないが、少なからず負傷しているはずだ。


 しかし夜風が煙を押し流し、その姿が露わになって騎士団は顔を歪めた。ペロイセンは腰に手を当て呆れ顔で佇んでいたのだ。明らかに健全な状態。


「会話もなしにいきなり殺しにくるか……野蛮な猿共だなぁ全く」

「ディアニガル・キュール・バルガライ!!」


 間を置かずオーハマーが追撃した。黒紫の大玉がペロイセンに向かい着弾拡散するも、またも無傷で終わってしまう。

 ペロイセンは変わらずその場に佇み見下し続けている。その様相にエネルが怒気を更に露わにさせ、ヒカリが舌打ちをした。


「ノーガードでノーダメージ。重力呪文も手応えはなかったように感じた……あれ、どういう原理? 知り合いなんでしょ?」

「わらわ知らん……悪性だけど力の程は知らん。ただ当時一緒にいたデュラハンを殺したのはあいつ。のたれ死んでろやクソ野郎が……!」


 その発言を耳にしてプラチナは後方からペロイセンを覗き込んだ。エネルが言うデュラハンとは、アルマンの時に説明した徒手空拳タイプのデュラハンの事だろう。

 あの時エネルはデュラハンをくそ強かった、と断言した。ならば目の先にいるペロイセンはその強さを上回る実力を持っているのだ。先程の攻撃での無傷といい、得体のしれなさといい最大限の警戒が必要だった。


 両陣営の睨み合いは続く。中距離からの呪文が駄目なら接近戦で無傷の理由を探るべきである。しかし騎士団側は他の悪性が襲撃する場合に備えて、プラチナの守りを優先させなければならなかった。

 逆にペロイセンは余裕な態度で街灯に照らされている。二度の攻撃でコートに舞い付いた土埃を手で払い落としていた。


 切り出したのはペロイセンの方からだった。


「さて、やっと話せるか下等生物共? 駄目だぜ世の中には格の違いってのがあるんだから調子に乗っちゃ」

「ああんっ!? 下等生物はそっちだろこの畜生がっ!?」

「下等生物ってエネルお前、召喚生物の俺に何て言い草。ああ、なるほどなるほど……普段善良な召喚生物に対しても下等な畜生って見下しているからこそ出た言葉か。なんて薄情な奴ぅ」

「この、ああ言えばこう言う……!」


 テメェに対してのみに決まってんだろ、というエネルの返しを笑って聞き流しペロイセンは続ける。


「まあ本題だ。正面から確かめたい事があってわざわざ姿晒してるわけ。後ろに隠している金髪のガキがちょいと気になってな」

「えっ、私……!?」

「そうそう私……お前、何者? 自己紹介してくれると助かるんだけど」


 ペロイセンはエネルからプラチナへと視線を動かした。その大きな丸い瞳はじっくり、探るように凝視されている。

 経験豊富なエネルが自信と嫌悪を持って社会のゴミだと断言するペロイセン。その存在が何故、自分に興味があるのかプラチナには全く心当たりがない。

 しかし明らかにペロイセンはこちらを警戒しながら注目していた。プラチナの頭に戸惑いと疑問が浮かぶ。初対面だというのに。


「……オリビアでは、ないな。そのはずだ」


 そのセリフを吐いてペロイセンは前屈みの姿勢を戻し首を捻った。直後に爆発が周囲で起き、地響きが騎士団の足元を揺らす。

 プラチナとエネルが驚愕する最中、ペロイセンの背後に悪性のメタルサソリ達が路地裏から顔を覗かせた。その間も爆発は続く。


 そして何が軋む音がした。ビキビキというひびが入るような音が下から聞こえてくる。プラチナが意識を下に向けるよりも早く、ヒカリがすぐさま状況を察し退避の声を出そうとして……。


「逃さねえよ、突っ込め」


 複数のメタルサソリに飛び掛かられた。その結果更に重量が加わる形となった。ヒカリとオーハマーが応戦する間にも地面のひび割れが辺りにも広がる。


 そして次の瞬間、石畳の地面が割れるように開かれた。地を踏む感覚がなくなりプラチナの身体は沈んでいく。ペロイセンやメタルサソリを見上げる形となった。

 一瞬の思考の空白後、自分達は落下する。そうプラチナが理解した時には下へ下へ、重力に逆らえず太陽の騎士団の四人は真っ暗な闇へと落とされてしまった。



「流石に落としただけじゃ死なねえわな。追撃だ、行け行け」


 目の前の四人が落ちたのを確認してペロイセンは指示を出した。不規則に割れた地面の穴に向けて多量のメタルサソリを次々と投入し、そこからの脱出を阻んでいく。


 作戦は上手くいった。地下深くある古代遺跡にスター・スタイリッシュ達を含めて閉じ込める事ができたのだ。

 これで駆除任務の時のように複数のブロレジ障壁での空中脱出は使えない。生き埋めを恐れて範囲攻撃呪文の発現も控えるだろう。後は地の利がない場所で悪性共をぶつけて疲弊させ、俺が多少遊んでなぶり殺す。それでいい。


「まずはスター・スタイリッシュの方からか」


 しかし懸念点が一つあった。結局あのオリビアに似たガキは何者だったのか。確信を得るために正面からしっかりと見据えたがその正体は分からずじまい。オリビアではないのは確かなはずだが。


「……アホくさ、危なくなったら逃げるだけだろ」


 そこまで思考してペロイセンは切り替えた。いつもと同じ。アノマリーの呪文使いすらも屠れるすり抜けの能力があるのだから何も問題はない。


 ペロイセンの身体はゆっくりと地面をすり抜けていく。まるで幽霊のように足から膝元、腰へと順番に。

 そして頭が完全に消え去り辺りは戦闘の形跡だけが残った。オーハマーが射殺したファングの死体、地下遺跡に繋がる穴、爆発呪文の痕跡が残る地面。

 遠くでは火災の煙が昇って悪性召喚生物が住民を襲っている。ペロイセンが起こした混乱はまだ続く。



○○○



 プラチナは長時間落下する感覚を味わっていた。いや、実際にはまだ五秒も満たない落下だが不快な感覚に変わりはない。

 まるで突風を全身で受けているようだった。加えてお腹の中がフワァと浮く気持ち悪い感じがする。そしてどんどん下へと加速する落下スピード。間もなく訪れる死の気配が身体に纏わりついてくる。秘密都市でガチオーガに殺されたと思われるレオナルドの末路が頭に浮かんだ。

 それらを絶叫しながら体験していると、ガシッと強く腕を掴まれた。

 暗闇の視界に映るのは、はためく長髪に虹彩が強く光る瞳。糸目を見開いたオーハマーだった。


「二人確保っ!! ヒカリは!?」

「こっちは要らない! 上は私が足止め! 二人は任せた!!」

「了解っす!」


 地面に激突するのはプラチナ以外も同じ。危機を脱するために最小限のやり取りで行動していく。


「ユーラシア・ザサボン・ルクセルト!!」


 その第一歩としてオーハマーが発現したのは橙色の巨大なシャボン玉だった。それを即座に下方に落とし込む。


「プラチナ、これをクッションにするっす! 舌を噛まないよう……いやエネル、プラチナの口に手ぇ突っ込んで!!」

「分かった!」

「モゴォッ!?」


 エネルはオーハマーの右肘付近に腕を回してしがみ付いていた。その片方の腕を解いてプラチナの口に指三本を無理矢理入れる。


 そして地面へと到達した。本来は激突のダメージで致命傷か即死だが、間にはクッション性を持つ巨大なシャボン玉があった。

 三人の身体はシャボン玉に深く沈み込まれ、反発で真上へと跳ね上がる。続けて重力に従いまたシャボン玉に沈み込み、今度は真上へ最初の半分ほどの反発で跳ね上がる。

 トランポリンのように繰り返して最後にはシャボン玉が身体全体を受け止めた。うつ伏せのプラチナの顔にベッドとは違う弾力の感触が伝わる。


「切り替えて! 上からメタルサソリが降ってきてるっす!!」

「退避! エネルはプラチナの手を取って!」


 オーハマーがシャボン玉呪文を解除すると同時に、同じく目の虹彩が光るヒカリも地面に降り立った。すぐにその場を離れ敵の追撃に備える。


 メタルサソリは次々と上から落ちてくる。だが彼らも高所からの落下で無事では済まなかった。その無防備な状態を騎士団は見逃さない。

 ヒカリとオーハマーのバルガライ呪文が地下に煌めいていく。しかしメタルサソリは引き続き落下し留まる所を知らず、落下被害が軽微な個体も出てきた。キャパオーバーは目に見えていた。


 オーハマーが呻く。


「だああ、もー! どうするっすかこれ! 場所が悪すぎて薙ぎ払えないし!」

「メラギラもツノドリルも駄目だね。バルガライか近接で迎撃しないと。プラチナ、電撃網で手伝って」

「こほっ、わ分かった……!」


 エネルの指示の元、プラチナは暗闇に小さく光る四つ目を目掛けて拘束していく。機械のためか電撃は有効のようだ。

 ヒカリとオーハマーの対応会議は迎撃しながら続く。


「追加の召喚生物はどうっすか? 黒のギネスファングがいるっすよね?」

「無理。今日は気圧が低いから呼び出すなって顔に出てた。発現したら怒って私以外を殺しちゃう。急所パンチはどう?」

「無理寄りの微妙っす。メタルサソリに毒がないなら殴り飛ばすけど、数が多すぎて近寄れない」

「分かった、なら逃走」

「そうっすね。一体何処に向かうのやら」


 ヒカリは複数の障壁を発現するブロレジ・ラウンセントを唱えた。真四角で半透明に明滅する障壁を操作し、様々な角度から障壁の尖った部分を命中させ足止めをする。


「移動するっす! 私が前、ヒカリが殿!」


 そして騎士団は戦術的撤退を決めた。

 プラチナには見えないが今いる地下空間には二つ、この場を離脱できる道が伸びていた。そのうち近い方に向けてオーハマーを先頭に疾走する。


 灯りがない通路らしき道だというのに三人の足取りに迷いはなかった。プラチナが話を聞くと暗視の呪文を発現中との事だった。エネルは剣だから夜目は利くらしい。


「プリセクト、って唱えれば見えるようになるっす。プラチナは才能あるから多分」

「はい、プリセクト!」


 途端にプラチナの視界が明瞭になった。光がない地下の床や岩壁、天井がはっきりと見える。三人の姿も捉える事ができて、自然形成された洞窟のような凸凹道にも難なく応じられた。


「これならメタルサソリの姿も……」


 暗闇でほぼ見えない敵だったが、これでやっと見据えて対応できる。そう思ってプラチナは後方を確認すると、メタルサソリの追尾は停止していた。


「むっ、ちょい待ち!」

「追ってこないっすね」


 プラチナ以外の三人もその様相に気付いた。足を止め同じように後方を睨む。遠方でメタルサソリ達はこちらをじぃっと見つめて動かない。


「ヒカリ、どう思うっすか?」

「全く分からないけど呼吸を整えるのを優先して。終わったらまた走る。私が敵側ならこの場所を使って挟み撃ちにするから」


 ヒカリは考えるのは後だと暗に言っていた。三人は指示された通りに、警戒しながら乱れた息を整えて再び疾走した。

 メタルサソリはそのまま停止し続けて、追いかけてはこなかった。



 ぼどなく一行は、背が高い両開きの扉の前に到着した。焦げ茶色の木で造られた重厚な扉で、光が届かない地下であっても多少の劣化だけで門のように健在している。

 更に地下の雰囲気も変わった。自然のまま時間が過ぎ去った迷路のような洞窟空間は薄れ、土や岩から古びた大理石の地面や壁に、天井も高くなっている。

 そもそもこの大きな扉には石の階段が備わっている。まるで遺跡か神殿の入口を連想させるありようになっていた。


「どう見ても木の扉。しかもこんな地下深くに。この地下の事、知ってた?」


 ヒカリの疑問に対し、ため息混じりにオーハマーは首を振った。


「まさか。ウイタレン支部に着任して一年、こんな遺跡みたいなの初めて知ったすよ。副長達も知らないはず」


 慎重に調べてから、四人で一緒に押す形で扉を少し開けた。その隙間から中の様子を覗き込んで大丈夫そうだと判断し、更に力を込めて身体を滑り込ませる。


 一行が足を踏み入れたのはとても広い空間だった。奥行きあって複数の通路口が奥に見える。天井は更に高くなっていて、両サイドには背の高い石像が連なって威圧的に見下ろしていた。

 加えて中は暗視呪文が必要ないくらいには妙に明るく、その部分だけが違う物質になっているかの如く床や壁、石像や天井の所々が鈍く光っている。ツチノコクリスタルとは違う、白濁とした結晶のような何かの輝きだった。


 全員が顔を見合わせて今の状況に困惑の気持ちを共有すると、幾度も後方を警戒していたヒカリが緩めて言った。


「少し、休憩しようか。ひとまずの脅威はないみたいだし」

「私も同感っす。暗視呪文と攻撃呪文の併用は疲れるっす。少しでも気を休めて体力を回復させないと」


 その提案にエネルとプラチナも異存はなかった。暗視呪文を解いてすぐ、休憩に適した場所を探し陣取った。

 駆除任務のように物資を持参してはいないが、ヒカリとオーハマーも人体収納化の呪文を練度は低いが発現できる。身体から水筒と携帯食料、携帯用コンロを取り出してお湯を沸かす準備をした。敵が襲来する気配ない。


 熱々の白湯とチョコをプラチナは胃に落とした。身体の真ん中から火が灯り、ゆっくりと熱が全身に広がっていく感じがする。

 一息付けた頃合いでヒカリが口火を切った。


「エネル、落ち着いた?」


 その言葉を聞いて、エネルは自身を悔いるように嘆息してから返した。


「うん、落ち着いた。……ホントごめん。あのドブカスを前にして感情を抑えられなかった」


 あのドブカスとはペロイセンの事。遭遇して即殺害の指示を出すぐらいにエネルは激怒していた。


「完全にブチギレてたっすよね? あの虫歯のバイ菌キャラみたいな単眼に……あれがペロイセンなんすか?」

「そう、あいつがペロイセン。呪文でこの世界に発現した召喚生物」


 状況が状況のためペロイセンの説明は最小限に行われた。

 数十年以上前、剣旅行の過程で出会って意気投合した事。普通に仲が良くデュラハンも含めて一緒に落とし穴を作成したりして人間に悪戯し、面白おかしく過ごしていた事。実は思考の三割ではなく十割が人間死ね、という悪性召喚生物で悪戯後の放置されていた人間はペロイセンによって殺害されていた事。


「流石にそこまで望んでなくて、悪びれる様子がない態度に相容れなくなって、それでわらわとデュラハンはペロイセンと交戦した。わらわは有効だと思って銃で、デュラハンはインファイトで……でも」


 銃弾は当たらず格闘は押し負け、まるで歯が立たなかったのだ。結果、二人は敗走する形となった。

 命からがら逃げ出して追いつかれ、デュラハンが足止めをしてくれて、追いつかれて物言わぬただの鎧になったデュラハンを投げられて、エネルは見逃された。


「わらわは殺人の片棒を担いでいたんだよ。知らなかったとは言え、結構な数を手伝ってた。それ以来人間に変な事すんのは辞めた」

「……元裏方の私が言うのもアレっすけど悪戯の方も悪どいっすよ。落とし穴は超危険っす」

「それを言われると返す言葉はないです、はい。……更に窃盗とかもしてた」

「窃盗もしてたんすか」

「してたんです。当時は荒れてたから、後先考えず罪の意識なんてなく。人間は何て愚かなんだって思ってたし……」


 そこでエネルはプラチナに視線を向けて、恐る恐る尋ねた。


「その……わらわの事、どう思う?」


 プラチナは純粋な疑問をぶつけた。


「流石に理由もなく、人間に悪戯してたわけじゃないよね? 何かそうなる事があって」

「そりゃあ、ね。剣になって各地を剣旅行した結果、人間に対する見方が決まったわけだし。それにわらわ住所不定の無職だったから窃盗は必要だった。……言い訳だけど」

「はい、そこまで。エネルの過去はどうでも良いよ。優先すべきは他にあるでしょ」


 落ち込みながら話すエネルを遮って、ヒカリが話の軌道を元に戻した。


「大事なのは当初の目的通りスターとの合流。そのためにこの地下からの脱出を目指す。邪魔してくる障害は必要に応じて排除。それ以外は合流してから考えよう」


 ヒカリの言う通りだった。

 ペロイセンが何故母オリビアの名を口にしたのか、変わらず行方不明になっているカーモン・ハワードとペロイセンは関係があるのか、この地下遺跡らしき明るい空間は何なのか。

 色々と気にはなるが後から考える事にして、スターを優先すべきだ。


 ヒカリが続けた。


「エネル、ペロイセンの能力を教えて。無傷の理由が知りたい」

「ごめん、能力って言ってもわらわ分からん。ただ銃が効く感じはしなかった。後、膂力は結構ある。デュラハンの格闘に勝ってたから。先ほどの呪文攻撃が無傷だった理由は知らない……」


 そこまで言ってエネルは腕を組んで思案した。数秒後、思い出すように言った。


「確か変身能力もあったか。昔店に買物に行く時に適当な人間姿に変身してたし」

「変身能力?」


 オーハマーが驚いて復唱した。そしてすぐに面倒臭さそうに顔を歪めた。


「うっわ、変身の幅は知らないけど厄介な能力っすね。つーか変身できるならカーモン・ハワードがペロイセンだったんじゃないっすか?」

「ヒカリちゃんは居なかったけど、挨拶で部屋に入ってすぐ動揺してた……」

「なら本物のカーモンは既に殺されている可能性があるのか。駆除任務の襲撃もあいつが手引きして……?」

「とりあえずこの四人は本物っすね。エネル以外は暗視呪文を使えたし、そもそも落とされてから入れ替わってないし。……入れ替わってないっすよね? エネルは本物っすよね?」

「スターは風呂やシャワーで身体を洗う時、左腕から洗う。これは多分わらわだけが知ってる」

「いや、本人確認するなら私が把握してる情報を」

「スターが死者と対話する方法を探す理由には、探し人の三人を見つけ出すのも含まれる。仮に対話方法を見つけた場合、死んでいないのなら対話は不可能だから」

「あっ、このエネルは本物っすね」


 何だか物凄く気になる情報が耳に入って、プラチナは目を丸くした。かなり詳しく聞きたい。でも今は関係がないから余計な質問はしない方が良い。でも……。


 そう悩んでいるとヒカリが急に立ち上がった。カップがそれで倒れるのも気にもせず、身体を半回転させ空間奥の通路を見つめて動かない。


「ヒカリ? 何か感知したっすか?」


 オーハマーの問いに背を向けたままヒカリは答えた。


「……密かに付けていた私の召喚生物から連絡が入った。救援に向かった二人とヤマチもこの地下遺跡にいる。特殊個体を含めた悪性による襲撃を受けている」

「「「なっ!?」」」

「私、行かなきゃ。最短で向かうから後を追ってきて」


 三人の驚愕を他所にヒカリは駆け出した。通路口ではなく通路と通路の間の壁で止まり右手で触れる。

 すると次の瞬間、道がぽっかりと空いた。最初から壁や壁の向こうの物質がなかったようにアーチ状の穴が瞬時に空いたのだ。穴は奥へと続いている。


 ヒカリは再び駆け出した。後方で違う驚きを浮かべる三人に振り返りもせず、真っ直ぐに穴の中に飛び込んでいった。


 残された中でオーハマーが一番先に我に返った。


「えっ、ちょ……何なんすか。ヒカリは何か呪文唱えたっすか!?」

「わらわも分からん。ヒカリが戦闘スタイルは知ってるけど、今のは初めて見た」

「あれが駆除任務の時に言っていた、ヒカリちゃんの本気……?」

「物質消滅……っすか?」


 三人で考えてみても答えは出なかった。その間にもヒカリの後ろ姿はどんどん小さくなっていく。

 エネルが言った。


「まあ信頼は今までの言動で保障されている。ヒカリはこの五年間ずっと味方だった。スターを心配しての行動で駆け出して行ったのなら……」

「事情は後回しで続けばいいって事っすね」

「そういう事。プラチナ、また走るよ」

「あ、うん!」


 つい先ほどのヒカリの言葉をプラチナは思い出す。今大事なのはスター達との合流。それを優先。

 三人はヒカリの後を追って走り出した。


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