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13-1 大平原での防衛戦

 プラチナの耳に届いたのは何かが爆発する音だった。まだ人々が寝静まる夜中前、一日が終わり夜を楽しもうとする住民達が往来する街の中心部から爆発音が聞こえてきたようだった。


 音の方角に振り返ると同じような爆発が三度続く。地響きのような鈍い音が空気を伝わって騎士団支部まで轟いてくる。プラチナは急いで窓辺に駆け寄って状況を確認した。


「あれは……火災!?」


 月明かりに照らされ雲が少ない夜空に立ち昇る黒々とした複数の太い煙、その根元には赤々とした炎が燃え盛っているのが遠目から視認できた。背が高い建物が爆破されたらしい。

 カーモン・ハワードかコミタバか、いずれにしても正体は分からないが太陽の騎士団に敵対する勢力が牙を剥いてきたのだ。


「あっ、スター!」


 プラチナは視界の端で疾走する三つの影を捉えた。盾手裏剣を所持したスターを先頭に、ジクルドとヤマチだと思われる棒人間も爆発現場に急行している。

 その姿を見て自分も騎士団員として対処に追われなければならない、とプラチナは思考を切り替えた。急いで支度をしていると部屋の扉が勢いよく開かれる。


「プラチナ、いる!?」

「エネルちゃん!」

「良し、いるな! 支部長室に集合!!」


 エネルに連れられて二階の支部長室に向かう。既に支部の団員も各々が役目を果たそうと慌ただしく動き出していた。

 支部長室の雰囲気は指令室のように変わっていた。街の地図が壁に大きく張り出されていて大小様々な書き込みある。中央のテーブルには通信機器が多数設置され、ヘッドフォンを付けた団員二人がソファに座り待機している。バルコニーは開け放たれて夜風がプラチナの肌に触れた。

 ヒカリとオーハマー、応援のアルスの姿もそこにはあった。プラチナは先程目視した光景を伝える事にした。


「オーハマーさん、爆発の後スターとジクルドさんが街中に向かうのが見えて」

「急行させたっすよ、支部からの指示で。スターの盾手裏剣とジクルドの人体収納化の呪文は便利っすから」

「私達も現場に急行した方が……」


 プラチナの気持ちを察した上でオーハマーが手を振る。


「いや騎士団支部はあくまでウイタレンの補助が役割だから、今はあの二人とヤマチだけが適切っす。街は街で対処するし邪魔しないためにも派遣は最小限で。支部としては救援要請の通信が来たら即動けるように準備しておく。大平原からのメタルサソリも警戒しないといけないっすから」

「スター達には通信機器を持たせてるから、どうするかは連絡が来てから。今は待機ねプラチナ」

「あ、そうなんですか……」


 オーハマーとエネルの説明を聞いてプラチナは、余計な質問をしたのかもしれないと思った。

 新人の自分とは違って彼女らは経験が培われている。素人が作業の邪魔をしてはいけない。本当に聞きたい事があれば聞いて、それ以外は指示に従う。そう心に決める事にした。


 待機していると通信機器から通話要請の音がした。通信の団員が応対し一言二言会話を交わす。

 スターからの連絡だった。スピーカーにして部屋にいる全員に聞こえるように設定した。


『オーハマー? 聞こえるか?』

「こちらオーハマー、スピーカーにしてるっす。状況説明を」

『爆発箇所は警察署、病院、役所。かなり大きな爆発で今、消火と救助活動が行われている。まだ寝静まる前だから野次馬がかなり集まって来ている』

「……警察署が爆破された?」

『ああ、警察署にある武器保管庫が吹っ飛ばされたとの事だ。ウイタレンの治安組織の機能停止、誰の仕業かは知らないが騒動はまだ続くだろう』

「街の人手は足りてる感じっすか?」

『現場は混乱しているが人手は足りているように見える。多分騎士団は邪魔になる。引き続き大平原からのメタルサソリを警戒するべきだと思う。そっちはどうだ?』

「現時点では変化なしっす。大平原もいつも通りの静けさで……」


 オーハマーがそう言ったその時、支部全体にサイレンが鳴り響いた。続けて団員だと思われる男の声がアナウンスで流れてくる。


『敵襲!! メタルサソリが大平原から接近中!! 繰り返す、メタルサソリが大平原から多数接近中!!』


 即座に通信担当以外の全員がバルコニーに出た。支部の屋上から照明弾が複数個発射され、盾手裏剣が設置されている更に先の暗闇が広範囲に照らされる。

 遠目から見えるのは顔にある四つの目が全て点灯している銀のサソリ達。悪性メタルサソリの大軍が大平原から押し寄せて来ていた。


「副長! 迎撃準備は!?」

「いつでもオッケーです! 合図を!!」

「良し、迫撃砲撃て――――ッ!!」


 オーハマーが女性団員に号令を出し、屋上と車庫の屋根上に待機していた団員達が耳を塞ぎ、筒のような物から砲弾が発射された。

 数は十数個。一定の間隔で次々と砲火の光が漏れ出し、次の瞬間砲弾が山なりの軌道を描きながら盾手裏剣を乗り越えようとするメタルサソリの群れに着弾する。

 まるで雨の日の雷が近くで何度も叩きつけられる感覚をプラチナは味わった。大気が震え凄まじい轟音が大平原に響き渡り、身体全体を揺らす。

 初めての経験で歯を食いしばって目を逸らさずに見ている事しかできない。これが支部規模の大量の悪性召喚生物に対しての防衛。本部ならもっと派手に高密度で行われる。頭がクラクラしてきた。


「ストップ! 打ち方やめぇっ!!」


 盾手裏剣まで接近していたメタルサソリ達を蹴散らしたと判断してオーハマーが大声で合図を出した。未だ落ち続け周囲を照らしている照明弾の灯りも爆煙で遮られ見えにくくなっている。

 煙が晴れて状況が露わになった。盾手裏剣付近にはメタルサソリの残骸が散らばっていて、砲撃で地形が少し変化している。襲撃して来たメタルサソリ達は迫撃砲が届かない距離まで後退していた。


「駆除任務の時点で百を超える数がいるって話だったけど、その倍はいるみたいっすね。しかもすぐに後退して被害は軽微にしてるし」


 照明弾の追加を指示し、双眼鏡で状況を確認しながらオーハマーが言った。その横で目を細めているアルスも会話に加わる。


「ひとまず初動を抑えて膠着状態になりましたが今後の展開はどのように?」

「最短で三十分、長くて一時間そこらでベネットの分身体が街に到着するから、それまでこの状態を維持できればオーケーっす。モヒカン達が前に出て後方から呪文やら砲撃やらで撃退する感じで」

「なるほど。しかし相手は戦術を駆使してくる。このまま状態を維持するとは思えませんね」

「そうなんすよねー、まあったく面倒臭い」


 追加の照明弾が射出された。迫撃砲の範囲外の先、メタルサソリの数が半分ほど照らされる。

 このまま睨み合い続けばいいと誰もが思っていが、しかしその願いに反して事態が動く。メタルサソリの前列の一部、八体の銀のサソリ達が前進を始めたのだ。


「むっ」

「何だろ?」


 エネルとヒカリが疑問を呈する中、メタルサソリはほどほどの速度で盾手裏剣まで到達した。そのまま乗り越えようとせず停止して銀のボディを丸めて何かをしている。八体全てが同じ動作を行なっている。

 やがてメタルサソリは上体を起こして地面から何かを掘り出し掲げた。騎士団が見たのは薄緑に輝くひし形の盾手裏剣。八体全てが同じタイミングで盾手裏剣を引き抜き即座に後退していった。

 バルコニーにいる全員が敵の意図を察した。


「これは不味いですね」

「スターの盾手裏剣で自陣を防御を強化する腹積りっす」


 メタルサソリの戦術は続く。同じように迫撃砲の範囲外から数体だけ前進させ、盾手裏剣を回収し掲げて群れへ後ろ歩きで戻る。既に十数個が回収されている。

 騎士団の物資的に数体の回収メタルサソリに砲弾を撃ち込むのは躊躇われた。どう見てもコスパが悪すぎる。しかし手をこまねいていれば状況は悪化する。騎士団は対応を迫られる形となった。


「プラン変更っす。団員の発現する分身体にロケランやら迫撃砲やらを持たせて、盾手裏剣を遮蔽物にしてぶっ放す。本部から補給で数はあるし呪文も併用して敵の数を減らさないと」

「オーハマー、本部からの物資で無限ロケットランチャーがある。それも使って」

「了解エネル。で、準備が整うまで盾手裏剣の回収を阻害しないといけない。遠距離攻撃呪文で対処しても良いけど、射程が遠いし既に回収した盾手裏剣で防御される……」


 支部にある物資等のリソースの残量、団員達の継続戦闘能力、ベネット達が到着する残り時間、まだまだ悪性召喚生物達の増援が来るかもしれない。街の様子も気になる。

 オーハマーはそれら諸共を思案した後に、横に立つアルスの方を向いた。アルスも視線に気付き目を合わせる。


「ベネットからは戦闘要員として派遣されたって聞いているっす。そしてこの世界で百年以上生きている人間創造のアノマリーで発現した呪文人間とも……」

「ええ、そうです。つい最近までドバードの秘密都市にいました」

「それら経験を元に、メタルサソリに対する行動阻害の意見が欲しいっす。何か効率的な方法はないっすか?」

「ふむ……」


 アルスは大平原を見据えた。コツを掴んだのかメタルサソリによる回収は少々早くなっているようだった。しかも既に回収した盾手裏剣を持った個体が発掘の護衛をしている。遠距離からの阻害は面倒に思われた。

 アルスは視線を戻して言った。


「効率を優先するなら、私が単騎で突っ込んで回収の邪魔をする。この方法を進言します」


 ヒカリ以外の全員が唖然とした。


「いやいやいや、流石にそれは無理あるとわらわ思うんですけど……えっ、いけるの?」

「ええ多分、何とかなるかと。そもそも私は火力担当としてマスターに発現されましたし。着地地点に呪文を投下して荒らすだけ荒らして即退散すればどうにでも……あっ、自慢じゃないですよ? あくまで一つの意見として方法を提示したのです」

「いやそれはどうでも良いけど……」


 手を振って否定するアルスにオーハマーが言った。


「確認っすけどマジでいけるんすか? 多勢に無勢で囲まれるしメタルサソリは鋏と尻尾に毒があるっすよ?」

「勿論頭に入っています。危険性をしっかりと認識した上での意見です。最終的には支部長の指示に従いますので」


 アルスは冷静に客観的に意見を述べている。それは彼の声色と醸し出す雰囲気で全員が真面目に口にしていると理解できた。

 しかし単騎で突っ込ませるのはどうなのか。オーハマーが再び思案し始めるとヒカリが口を挟んだ。


「良いんじゃない、本人が言ってるんだし」

「えっと、良いんすか? 確かに本人が言ってるっすけど」

「うん、これ以上の停滞は駄目だし。それに……」


 ヒカリがアルスの方を向いて言った。


「大丈夫、なんでしょう?」


 プラチナ的には若干冷めた声色に聞こえた言葉に、アルスは頷く。ヒカリをじっと見つめた後に。


「ええ、指示を出してもらえればすぐにでも」


 オーハマーはエネルを見た。エネルも頷いたので決断した。


「それじゃあ、よろしくお願いするっす。準備完了次第サイレン鳴らすんで」

「了解、アクセル・ボルトティア」


 アルスが呪文を唱えた。バルコニーを足場に右手を天に伸ばし電撃球を発現した。続けて別の呪文を発現していく。


「バルガライ、バルガライ、バルガライ、バルガライ……」


 空いた左手を真横に広げ電撃球目掛けて、黒紫の球体を連続して打ち込む。アクセル・ボルトティアは呪文を吸収して、その威力を増大する性質を持つ。阻害する前に電撃球の威力を最大限まで引き上げているのだ。

 そして電撃球がパンパンになるまで肥大化したのを見計らい、右手を掲げたままバルコニーの手すりに足を乗せ、アルスは悪性召喚生物達がひしめく大平原に向けて夜空を飛んだ。


 そこから先はアルスの言った通りになった。彼は完璧に盾手裏剣の回収を阻害してみせた。

 着地地点、メタルサソリの前列付近に威力最大まで上がった電撃球を投下してスペースを作る。その後ボルトティアの自動迎撃呪文を二回唱えて手数を増やす。火力担当だけはあって無言呪文や複数発現はお手のもの。

 周囲のメタルサソリ達は多種多様な攻撃呪文で次々と蹴散らされていった。巨大な回転ドリル、巨大な氷塊、バルガライ・ブラストホウ、アクセル・ボルトティア……。

 更に大玉光球のユーラシア・フォスンを各所に投げ付けて照らす範囲を拡大し、メタルサソリが黒色に変色して遠回りに接近していたのを発覚させた。


 まるで台風の目の如く敵を寄せ付けない戦い振りだった。オーハマーがその光景に舌を巻いているとヒカリが言った。


「回り込んでくるメタルサソリはタナチ達が処理するから。……オーハマー、プラン変更を急がせて」

「おっと、そうだった。流石にアイツ一人だけで良いんじゃないの、は無理っすね」


 呪文で敵を寄せ付けないにしても限度がある。蹴散らされているメタルサソリも何もしないわけではなかった。

 攻撃され再起不能になった仲間を盾に、またはその盾と盾手裏剣を掲げて徐々に接近を試みている。盾手裏剣の回収阻害に成功してるものの、数の暴力で圧殺されるのは誰にでも予測できた。


 用意していたヒトガタの手にロケランを、コモドドラゴン原種の背中にロケランの予備を乗せてヒカリが送り出す。

 オーハマーが支部の副長に指示を出して、盾手裏剣付近にロケラン部隊と迫撃砲を移動させる。準備は整った。


「それじゃ、鳴らしてっす!」


 本日二回目のサイレンが大平原に響き渡った。同時に照明弾をもっと奥まで発射し、迫撃砲の射程が伸びた事を示す。

 アルスはそれを契機に口から白煙を吐き出す呪文を唱えて姿を眩ませた。メタルサソリの大軍の四分の一ほどの視界を失わせて、混乱に乗じて元いたバルコニーに帰還した。

 

「はい、水! 後タオルも! 他に何か欲しい物ある!?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 エネルから受け取ったアルスの疲労度は程々にプラチナは見えた。息を弾ませ汗をかいているが、まだまだ継続戦闘は可能。彼は見事に有言実行した。

 仮に自分ならできたかと考えて、プラチナは内心首を振った。普通に無理だ。鍛錬を積まないと恩返しや貢献なんて到底無理である。もっと努力しなければ……。


「支部長!!」


 そう考えていたら通信の団員から大声が飛んできた。オーハマーがすぐに駆け寄り話を聞く。スターとの通信が途絶したとの事だった。


「サイレン後もこっちの状況を逐一伝えていたのですが、つい先ほど急に繋がらなくなって……街中に複数のファングやモクリュウが現れたと途絶間際に聞こえました」

「確かっすか?」

「ええ……おそらく悪性で住民を襲っているかと」

 

 召喚生物達を送り出したヒカリが戻ってきた。


「どうしたの?」

「街中に悪性が発生、スター達との通信途絶、誰を派遣するかどうか考え……」

「分かった。私が行ってくる」


 オーハマーが言い終える前にヒカリが即断した。


「私的にもう大平原は大丈夫だと思う。戦況はこっちが優位になったしマ……アルス・リザードもまだ戦える。そして多分予定より早くベネット達が到着するはず」

「……まあ、そうっすね。アノマリーを発現できる分身体を一体持ってくるって言ってたし、汽車から街の様子が見えれば最高速度を超えて汽車を動かすだろうし」


 オーハマーは僅かに考え外の戦況を判断し指示を出した。


「ここの指揮は副長に任せて私、ヒカリ、エネルとプラチナが現場に急行する。アルス・リザードは副長の指揮下に、まだ戦闘は可能っすよね?」

「ええ、まだまだ大丈夫です。しかし支部長が指揮しないでいいのですか?」

「私はお飾りの支部長っすから。別の任務があって通常業務はほぼ副長に丸投げで……プラチナ」


 急に話を振られてプラチナはワンテンポ遅れて反応した。


「はっ、はい!」

「プラチナも救援に向かうって事で良いっすか? 私やヒカリの目の届く範囲にいてほしいっすから」

「あっ、はい。全然大丈夫です……」

「良し。呪文の発現に関しては私やエネルの指示に従って、勝手に発現はしないように。何か気になる事や気付いた事があったら遠慮なく教えてほしいっす」

「りょ、了解……!」


 せめて足手纏いには絶対にならないようにしよう。プラチナはそう心に刻み込んだ。

 副長に支部を任せる事を伝えてすぐ救援組と一緒に外に出た。街の様子は騒がしく、火災が未だ続く場所に近づくにつれ慌てふためく人々が多くなっていくようだった。


「支部は駄目っす! 避難は警察官とかの指示に従って! 大平原では今、迎撃中で非常に危険!!」


 騎士団に助けを求める住民を走りながら説得する。パニック寸前の状態でも迫撃砲の音は響くため、皆が素直に従ってくれていた。

 プラチナも一生懸命それに倣う。住民の中には悪性ではない召喚生物と一緒に避難する者もいた。どうか無事に避難できればと願った。


 そして、悪性召喚生物との戦闘もする事になった。路地裏に続く細い横道から悪性ファングが一体飛び出してきたのだ。


「ブロレジ!」


 それをオーハマーが障壁で阻み、跳ね返り怯んだ隙を拳銃で射殺する。その手前は鮮やかで淀みなく拍手が一人分聞こえてくるようだった。

 いや、拍手の音がプラチナの耳に届く。確かに誰かが実際に手を叩いているのだ。

 プラチナ以外の三人も聞こえ、足を止めて周囲を見渡す。どうやら拍手は前方の路地裏に続く道付近から聞こえてくる。


 エネルがプラチナの前に出て、ヒカリとオーハマーが更に前に出る。拍手の主は石畳の地面を歩いてその姿を表した。


「お前、ペロイセン……っ!?」


 エネルが驚愕で目を見開いて息を呑んだ。ペロイセンと呼ばれた存在は、頭に被っていたシルクハットらしき帽子を優雅に投げ捨てて応えた。


「久しぶりだなぁ、クソ駄剣」


 ペロイセンは不敵に笑った。


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