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12-2 プラチナのスタンス

 整備された道路に石畳の歩道。立ち並ぶ家々に喧騒が聞こえてくる遠くの市場。街の人々と召喚生物達。

 先程までいた大平原とは真逆の世界がそこにはあった。悪性はおらず人間と召喚生物が仲良く共存している。


 そんな街中をプラチナはスターとエネル、棒人間であるヤマチと一緒に歩いていた。三人と一体は明日の大規模駆除に備えて食料の買い付けに出ていた。


「豚肉、鶏肉、リンゴにバナナ……野菜とお菓子も。タナチ達は色々と食べるんだね」

「コモドドラゴンは雑食だからね。原種は身体が大きい分沢山食べる。調理した美味しい料理なら喜んで食べる」

「リストには骨って書かれてるけど、これも?」

「骨はヒトガタ。顔全体を縦に口のように開いてバリバリボリボリ」

「え……食べるの、骨?」

「そだよ。初見の食事シーンは結構ビックリするかもね。ヒトガタの外見は悍ましいし」

「人間の骨を用意するの……?」

「「いやいや鳥の骨」」


 スターとエネルが同時にツッコミを入れた。ヤマチも右手を振ってそうじゃないと示している。


「まあ悪性に関しては、好みが変わるのか人骨しか食べなくなるんだけど」

「やっぱりいるんだ……ヒトガタにも悪性が」


 悪性になる召喚生物は必ず出る。出てしまう。その覆しようのない事実に、暗い気持ちになったプラチナは息を吐いた。



 スターの報告を聞いて騎士団が即座に取った行動は、再び騎士団本部に連絡を入れる事だった。

 ベネットに事態の変化を説明。敵の正体も不明な後手後手の現状を、戦力になるアルスを即派遣させ、そして真夜中よりも早い時間帯にベネットの分身体を先に五十体到着させる手筈になった。


 行方不明になったカーモン・ハワードについては、今日の所は捜索しない方針となった。駆除任務は終わったばかりで、明日には大規模駆除作業が控えている。今日の仕事は終わりにしておきたいからだ。

 それに、勿論何者かに誘拐された可能性はあるにはあるが、状況的にカーモンが騎士団を陥れようとしたとどうしても考え至ってしまう。

 時間が経っているし、行方不明になってから街の人間で先に捜索して見つからなかったのも含めると、今更探しても見つからないだろう。カーモンが裏で糸を引いているなら尚更だ。


 街の副代表に捜索を手伝わないと伝えたら難色を示された。しかしメタルサソリ百体の件を聞かされれば、顔を真っ青にして大平原からの襲撃を警戒してほしいとお願いされた。


 境界線付近の平原にスターの盾手裏剣をこれでもかと隙間なく、膨大な数を設置し襲撃を妨害する策を実施した。スターの呪文は本人が解除または、盾手裏剣が破壊されない限り半永久的に発現し続ける。更に追加で設置用の盾手裏剣を同じ数近くに集めておく。これでとりあえずの備えは良いはずだ。

 薄緑色の盾手裏剣の光に埋め尽くされた大平原を見て、プラチナは無限に呪文を発現できるスターを改めて凄いと思った。


 後は明日の大規模駆除に備えて食料の買い付けである。

 一応ほんの僅かな嫌疑が掛かっているオーハマーにはジクルドを付けて、駆除任務で負担が大きかったヒカリは支部でのんびり待機をする。

 プラチナも待機をヒカリに勧められたが、初めての駆除任務を終えた後はスターとエネル、この二人と一緒にいたかったため同行を申し出て今に至る。


「さてさて、まあこんなもんでしょ」


 召喚生物用の食料と携帯食を大量に購入し、荷馬車に積み込んでエネルが手をパンパンと叩いた。空は既に夕焼けに染まり始め、街の街灯がぽつりぽつりと点灯している。


「宅配サービスを頼んだから、後は送ってもらうだけ。ここからはリフレッシュの時間です」

「リフレッシュ?」


 エネルは荷馬車からプラチナに視線を移した。

 

「プラチナ、何処か行きたい所はある? 今日の仕事はもう駅でアルスを迎えに行くだけだし、到着の時間まで気分転換でもしないとね」

「いやエネルちゃん、今はそんな事をしてる場合じゃ……平原からの襲撃もあるかもなんだし」

「そして明日には大規模駆除が控えてる。もしかすると今日よりも悪性の数が増えてしんどくなるのかもしれない。気分転換の時間なんてないのかもしれない。ずっと気を張っていて平気?」

「それは……」


 プラチナはスターを見た。ヤマチを肩車してるスターも同調するように頷いた。


「プラチナは初めての駆除を終えたばかり。勿論疲れてるなら支部に戻るが、何か気晴らしをした方が良いと思う。平原には盾手裏剣を設置してるからすぐには問題はない」

「オンオフの切り替えは大事だよ。ずっと仕事に追われて過労で倒れちゃう人もこの世にはいるんだし、リフレッシュができる時はするべき。まあ時間的に一箇所ぐらいだけど」


 プラチナは今日初めて、召喚生物の駆除という胸糞悪くなる仕事に従事した。タナチに乗ったままの見学に近かったが、実際に自身の呪文でメタルサソリを駆除した。

 召喚生物の駆除は普通の人間ならやりたくない事柄だ。必要性のある仕事だとしてもやれば気分は沈む。沈んだままの状態は精神衛生的によろしくない。二人はそれを心配している。


 そう理解したプラチナは自分の今の状態を確認した。

 疲れはそれほど溜まっていない。適度に休憩をしたし移動はタナチが担当した。待ち伏せには焦ったが無事に支部に帰還できた。身体の状態は普通だ。

 駆除した実感は未だ湧かない。一息ついたのに何故湧かないのか疑問に思う。メタルサソリは機械だからだろうか。これが呪文ではなく銃や刃物なら湧くのだろうか。ファングだったらどうなっていたのだろうか。

 不快ではない何かに抑えつけられてるようにも感じる。これは気のせいなのだろうか。


「……プラチナ?」


 プラチナは実感を横に置いて、表面上変わらないスターの顔を再度眺めた。スターは自分を見てくるプラチナに首を傾げている。


 仮に気分転換をするのなら、あの時見た場面を再現できるとプラチナは思った。太陽の騎士団に保護されてからの翌日、ファング触れ合い店で見たスターの様子。

 あの時はバルガス・ストライクに邂逅した後で、スターはテンションが高かった。しかし今では、任務中は別として……。


 プラチナは自身のリフレッシュと並行して、既に察している事の再確認をしようと考えた。


「……それじゃあ、一箇所だけ」


 向かったのはウイタレンにある召喚生物触れ合いの店だった。愛護の街なだけあって、プラチナがよく利用している触れ合い店より規模が大きく、二階建ての広々とした店内で、ファング以外の召喚生物達とも接する事ができる。

 コモドドラゴン、モクリュウ、棒人間……。


「って、エネルちゃん。もしかしてあの棒人間、特殊個体じゃ……」

「これは珍しい。わらわ棒人間の特殊個体は久しぶりに見た」

 

 丁度ヤマチが特殊個体の近くにいるため、通常の棒人間との差異が見て取れた。

 エネルと同じ背丈であるヤマチより頭半個分、背が高い。スターによく絡む陽気なヤマチに比べて物静かな重厚的な雰囲気を纏っている。

 そして一番目に着くのは、動きに応じて揺れる絵に描いたような白のマント。首元に結び目があり動くたびにヒラヒラ波打っている。

 まさか特殊個体と触れ合いができるなんて、とプラチナは思わず目を見開いた。


 エネルがふと、思い出したように言った。


「そうそう、頭部が白から黒になってる棒人間は悪性。これは忘れないようにね」

「頭が黒くなっちゃうんだ……」

「頭部から下の棒も合わさって全身が真っ黒になる。それともう一つ、特殊個体は侮ってはいけない。任務時のギネスファングは不意打ちが成功しただけだから」


 店内に他の客はおらず貸切状態で、プラチナは時間の許す限り召喚生物達と触れ合った。

 緑色のコモドドラゴンへの餌やりと膝乗せ体験、モクリュウ森林浴、人懐っこいファング達の密着もふもふ祭りとボール投げ、ハードボイルド棒人間との組体操サボテン、その他写真撮影など含めて色々。


 召喚生物達との触れ合いは楽しく、皆が友好的で面白おかしくプラチナは過ごせた。駆除任務を終えた後で感傷的になってしまう部分があるが、気を緩められるとてもいいリフレッシュになった。

 そしてその合間合間にスターの様子を盗み見る。スターも召喚生物達と触れ合っているが、あの時のように気を張らずに済む穏やかな感じはしない。友好的な彼らの絡みに対して、ただ静かに微笑んで合わせているだけ。


(やっぱりスターは元気がない……)


 その姿を確認してプラチナの気分は沈んでしまった。今のスターを見ると胸が締め付けられて切ない気持ちになる。


 プラチナはかもしれないではなく、スターに恋心はあると結論付けて自覚した。どう考えてもスターが気落ちしてる姿なんて見たくない。穏やかに何の憂いもなく笑っているのを隣でずっと眺めていたい。本当にそう思う。

 しかしスターの落胆は終わらない。その理由は既に察しが付いている。ずっと探してきたバルガス・ストライクがまた行方不明になったからだ。その事実がスターの心を暗くしている。

 ならば、とプラチナは自分に何か出来る事はないかと考えた。どうにかしてスターが少しでも明るく元気付けられるように、スターの力になれるように、プラチナは一生懸命考え続けた。

 

 その思考は触れ合い店を出た後も続く。場所は変わって駅のプラットフォームにあるベンチに並んで座り、到着するアルスを待つ間も続く。

 辺りは既に黄昏ていて、日の入り間近の夕日が最後の輝きを線路に反射させている。併設された時計台から午後六時を報せる鐘が鳴った。


 二人と一体はプラチナの様子を窺っていた。

 リフレッシュの途中から急に口数が少なくなったので、スターもエネルもヤマチも心配になったのだ。

 プラチナは眉間に皺を寄せて目を伏せているばかり。流石にその調子を案じてスターが口火を切った。


「プラチナ、大丈夫か?」

「……えっ?」

「いや、何だか元気がないように思えて」

「スター……」


 気遣ってくれるのは嬉しく思うのと別に、元気がないのはスターの方。そう心で想っているとエネルも言った。


「駆除の実感が出て気分が悪くなった? わらわ心配だよ」

「ううん、それは大丈夫。実感は全然湧いてこないから。ただ気になる事があって……」

「気になる事?」

「スターは元気がないなぁって」

「ぁっ……」


 スターは目をぱちくりさせて、プラチナを見た。エネルは口からほんの僅かな空気を漏らした。


「元気がない? 俺が?」

「はい、スターは元気がないです。バルガ――」

「そ、そう言えばさ! わらわブレイクダンスできるんですよ!! アルスが着くまで退屈だしここは一つヤマチと一緒にどっちが上手いか勝負して」

「エネルちゃん。これは大事な話だから後にして」

「え……いや、大事な話は……大事、だよね」


 急にうるさくなったエネルをピシャリと制して、プラチナはスターに向き合い自身の心境を伝えた。


「スターは落ち込んでいる。探していたバルガス・ストライクがまた行方不明になったから。だから今のスターはテンションが低くて、私はそれが心配で……」


 スターはその指摘には応えず、沈みゆく夕日へと視線を逸らした。そして僅かな時間眺めてから、元に戻して少し困ったように寂しげに言った。


「ベネットとカインにも似たような事を言われた。根を詰めすぎで心配だって」

「はい……」

「プラチナにもそう思われていたのなら、騎士団の皆にも迷惑を掛けていたかもしれない。……プラチナ、迷惑を掛けて申し訳ない」

「いえ、私は迷惑なんて全然。……それでやっぱり」

「うん、バルガスについて少し後悔している部分がある」


 スターは過去に二度、バルガスに出会っている。ハゲが治る洞窟を見つけてからやって来た偽レスティア王。そして秘密都市で邂逅した偽ジクルド。


「確実なチャンスは二回あった。あの時、正体を見抜けていれば今と違う未来があったのかもしれない。そう考えると、少しだけやるせない気持ちになってしまう」

「……っ」

「……同時に、もしかしてバルガスはもっと前から味方だったかもしれないとも考えてしまう。秘密都市でのゴライオンについては知っていたはず。ならあの時の行動はゴライオンが暴れた場合に備えて高台に登ったと推察できる。あいつはメラギラドラゴンに変身できて……万が一には手伝うつもりはあった、と言っていたから」


 そこまで口にして嘆息したスターは、どうして気が付かなかった、と呟いて首を横に振る。

 プラチナはその様子を沈痛な想いで見ていた。質問に答えてくれるスターは痛々しい。とてもじゃないが見ていられない。逆だ、逆がいい。


(……そうだった、今は逆だ)


 ゾルダンディーへの同行をお願いした無力な時とは違う。自分には呪文の才能が、付与のアノマリーという力がある。一国のトップである父には貸しがあり、言う事を聞いてもらえる。スタンスもほぼ明確になった。

 ならばこそ、自分が辛くて大変なのに心配してくれるスターに対して、今度は自分が役に立つ番なのだ。そう決めたじゃないか。


 元気付ける考えは纏まらないままだが、何とか元気付けようと勢いに任せにプラチナはスターを見据えた。


「スター! 私はスタンスを確立しました!!」


 唐突の宣言にスターは首を傾げる。


「……スタンス?」

「はい。スタンス、立ち位置です。自分の呪文をどう使っていくか、考えて決めました。それをスターに聞いてほしいのです。それは私にとって大切な事だから」

「なるほど、確かに今後のプラチナには一定の基準は必要だ。しかし聞くのは俺よりもレスティア王の方が……」

「嫌です。スターとエネルちゃんが良いです」

「わらわ、的には……後でも良いかなって思ったりして」

「駄目、今がベスト。明日から忙しくなるってエネルちゃん言ってたでしょ」


 ヤマチもいるが信頼できる大事な二人に。プラチナが決意を秘めた眼差しを向けると、スターは聞く姿勢を取って頷いた。

 深呼吸で心を落ち着かせてプラチナは、意を決して自身のやりたい事を、スタンスを伝えた。



「私とって呪文というのは誰かの助けになるもの、そう思っていました。本の物語みたいに弱きを助け悪を挫くように」


 やる事が限られた幽閉中はずっと書物と睨めっこだった。幼少期からの価値観。


「でもコミタバのデイパーマーで、呪文を使ってあんな酷い事をする人がいるのだと知りました。そしてとても嫌な気持ちになりました」


 知った直後は衝撃を受けた。飲み込めてきた頃からは嫌な気持ちに、胸糞悪く。それは召喚生物駆除の時にも同じように感じた。


「どうやら私は呪文を酷い事に利用する光景を見たくないみたいです。嫌な気持ちになってしまうから。だから、少しでも目にする機会を減らすために、自分の呪文を鍛えて使って活動していこうと決めました。……決めただけでどうするかの具体的な方針は、まだ何も決まっていませんが」


 両隣に座る二人の聞く姿勢は違う。スターは必死に言葉を繋ごうとするプラチナを静かに見守り、エネルは顔を歪めてプラチナよりスターの様子を窺っている。


「そして、そう思い至ったのにはもう一つ理由があって、このスタンスなら呪文を鍛えられて……スターとエネルちゃんの役に立てると思ったからです。私は二人に恩返しをしたい」

「……いやプラチナ、別に恩返しなんて」

「エネルちゃんも言ってたけどそれは駄目です。二人のおかげで今の私があります。恩を返さないと私の気が済まない」


 スターの言葉を遮って、プラチナはまとめに入った。


「だからスター、どうか私を頼ってください。私に出来る事なら何でもお手伝いさせてください。私はスターが落ち込んでる姿は見たくない。バルガス・ストライクもこの先きっと見つかるはずです。だから前向きになって、私はスターが笑ってる顔、が……」


 そこまで言ってプラチナは語気を弱めた。勢い任せに元気付けようとしたが、果たしてこれで良いのかと思ってしまったのだ。

 バルガス・ストライクはゾルダンディーの都市二つを滅ぼした極悪人。仮に彼の行方が掴めて合流できたとしても、その後は罪を償わなければならない。

 そうなった場合、スターは今以上に曇る事態になってしまう。そしてスターもそれは当然理解しているはず。


 元気付けるつもりが見当違いの事を言っているのではないか。伝えた言葉は逆にスターを傷付けているのではないか。

 そう考えると胃に冷や水を掛けられた心持ちにプラチナはなり、恐る恐るスターの様子を窺った。


「前向きに……」


 予感に反して、スターは呟いて何かを考え込んでいた。


「あの、スター?」

「ん、ああ」


 呼び掛けるとスターは応えた。


「別れる前のバルガスを思い出してた。あいつは、どうか前向きって言葉を残してたから」

「そう、なんですか? ……行方不明になる前に話せて?」

「少しだけ話せた。あいつはプラチナの事も案じていたよ」

「私の事を……」


 不意に、汽笛の音が遠くから聞こえプラチナは線路の向こう側に顔を向けた。

 ほんの薄らな白煙が夕闇を背景に吐き出され、汽車がライトを灯してこちらを目指し遠くから駆けて来ている。増援のアルス・リザードがもう間も無く到着するのだ。


 意識外の横槍で会話を打ち切られたプラチナはスターに視線を戻した。スターは口を閉ざして何かを思案して動かなくなっていた。

 とりあえずその横顔を見て、変に傷付けてはいないと判断しプラチナはほっとした。一安心していると今度はエネルの手が頭に乗せられた。


「エネルちゃん?」

「いやープラチナは可愛いなぁ、ってわらわ思ってねぇ」

 

 撫でられる感触は秘密都市の時と変わらず、優しくて柔らかい。しかし何処か哀しげな感じが漂っている気がする。


「可愛いから頭撫でちゃう。まるで自分の娘のように思えてきちゃった。娘じゃねえけど」

「う、うん」

「で、よくよく思い返したらプラチナは結構アクティブだった。幽閉娘だったけど活動的幽閉娘って感じで。……認識を改めないと」

「認識?」


 エネルは撫でるのを止め、微笑む表情そのままで続けた。


「大丈夫だよ、プラチナ。何も悪くないんだからそのまま方向性で成長して。間違ってもコミタバみたいにはならないでね」

「いやそれは絶対ないよ。あり得ない」

「うんうん、そうだよね。その通りだ。さて……アルスを出迎えますか」


 そうこうしている内に、汽車は駅に到着した。他の乗客達と一緒にアルス・リザードも任務地に現着した。


「いや、何その服装……」


 エネルが疑問を呈するとアルスが困惑気味に答えた。黒のパンツにワイシャツ姿、エプロンを付けて三角頭巾を頭に被っている。右手に持つのはお玉。


「えー、騎士団の食堂で手伝いをしていたら複数体のモヒカンに突如拉致されまして……」

『ヒャッハー? お兄さんちょっとお時間よろしいですかー?』

『グヘヘへへ、良い身体してんじゃねぇかぁ?』

『イケメン、ゲットだぜ! ヒャッハー!!』

「あれよあれよと汽車に乗せられて、ウイタレンで降りろと指示され今に至ります」

「あー、そういや準備なしの着の身着のまま投入だったか。ごめん、説明もなしでいきなり任務地に呼んじゃって」

「いえいえ、急で驚きましたがそれは別に。私を受け入れてくれた騎士団への貢献は望む所ですから」


 アルス・リザードは百年以上この世界に存在している呪文人間である。戦闘経験は勿論、呪文知識も豊富。支部に戻る間に状況を説明し、今回の出来事の意見を聞く事にした。

 陽は既に落ちている。街灯が街路を照らす中、アルスは少し思案してから答えた。


「パッとすぐ思い付くのは二つですね」

「ほうほう、二つ?」

「知能が高い召喚生物が指揮しているケースと、呪文使いが何らかの呪文を発現し操り襲撃したケース。この二つです」


 事前に目立つ位置にメタルサソリを配置し擬態個体を隠す、逃げ場が限定される豪邸を待ち伏せ場所に選択、組織的に統率された逃げ道の塞ぎ方。一連の襲撃は計画的に為されていたと考えられる。

 人間並みの知能があって知識を蓄えれば召喚生物でもそれは可能。しかし……。


「カモーン・ハワードが行方不明になったのが引っかかります。彼が首謀者ならば呪文を駆使して指揮していたやもしれません。後者のケースです」


 アルスは静かに周囲を探り、人の気配がないのを確認して小声で続けた。


「呪文の中には、あらゆる特性を付与できるアノマリーの呪文が存在します」


 プラチナの身体が僅かに跳ねた。


「練度次第で付与できる特性は様々。擬態や洗脳もおそらく可能になります。死んだふりをしたメタルサソリが無反応だったのも、二種類の悪性召喚生物が協力していたのも洗脳して言う事を聞くようにしていたからかもしれません」

「それをカーモンがやった可能性があるってわけか」

「ええ、話を聞く限り彼は駆除計画を熟知していたようですし……しかし」


 そこでアルスは手を顎にやって考え込んだ。束ねられた水色の長髪が歩く度に揺れる。


「カモーン・ハワードについては私も知っています。会った事はありませんが長年召喚生物愛護の活動をしていた凄い人物。それが何故今日になって突然、太陽の騎士団を攻撃しようとしたのか。彼が敵対していたと仮定して、その理由は一体何なのか……」

「そう言えば、カモーンが驚いていたのをわらわ思い出した。任務前の顔合わせをした時に。ね、プラチナ?」

「うん……驚愕して固まってた。すぐに立ち直ったけど、それが原因だったりするのかな?」

「いや初対面だし……それが原因だとしても全く心当たりないんだけど」

「行方不明のため事情聴取もできない。後手後手で面倒な状況ですね」


 一行は何事もなく支部に到着した。昼間と違い強い警戒の空気が建物から漏れ出している。

 物見台からの監視は一欠片の油断なく行われ、付近にはライフル銃を携帯している団員達が歩哨に立っていた。ヒカリの召喚生物達は近くの車庫を小屋代わりにして外で待機である。


「コモドドラゴン原種にヒトガタ……」


 既に夕食を済ませて寛ぐヒカリの召喚生物達を目撃し、アルスは目を見開いて驚いていた。


 中に入るとカレーの匂いが漂ってきた。買い付けに出なかった待機組が材料を用いて作ってくれていた。

 支部の団員達にアルスの顔合わせをして夕食を取る。プラチナはスプーンを口元に運びながら、伝えられる翌日の任務内容に耳を傾けた。


「じゃ、おやすみプラチナ」

「うん。おやすみエネルちゃん」

 

 その後、食べ終わって用意してくれた宿泊部屋にプラチナは入った。清潔なベッドの上で仰向けになって今日一日を反芻した。

 とても濃い一日だった。色々なやり取りが頭に浮かんでは消える。ヴァニラのツンデレに召喚生物達の実情、駆除任務、付与のアノマリーは洗脳もできる、スターの落ち込み理由。


「スターは大丈夫かなぁ。結局元気付けられなかったし」


 プラチナはうつ伏せに寝っ転がって呟いた。ある意味告白以上の心境を伝えたのだが、恥ずかしさより心配の方が上回ってしまう。

 スターは夕食の時も何かを考え込んでいるようだった。翌日の任務の内容を聞きながらも何処か上の空。アルスを連れて支部に戻る時もそれは同じだった。

 彼の落ち込んだ気持ちを上向きにしたいとプラチナは思う。


「……任務が終わって騎士団本部に戻ってから、エネルちゃんにどうしたら良いか相談してみよう」


 次第に眠気が襲い掛かってきた。身体を包み込むベッドの柔らかさも相まって瞼が重くなっていく。

 流石にシャワーを浴びてから寝るべきだ。プラチナはそう思い、そのままベッドに沈んでいたい誘惑を押し退けて立ち上がった。


 そして次の瞬間、事態が動いた。



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