12-1 駆除任務を終えて
「この度は誠に申し訳ありませんでした」
増援部隊と合流し、召喚生物達が去った大平原をしばらく監視警戒してひとまずは、脅威はなくなったと判断し支部長室に戻って即オーハマーが謝った。
深々と頭を下げて駆除任務の下調べの不備を詫びたのだ。
任務に出た全員がソファや椅子に腰を下ろしてから、エネルが口火を切った。ヒカリの召喚生物達は外で待機している。
「今回の任務……情報収集したのはオーハマーだったよね?」
曲げた人差し指をこめかみにやるエネルに、オーハマーは気落ちした様子で応じる。
「そうっす……下調べは私がしたっす。今回の任務は駆除任務。万が一にでもレスティア王の娘であるプラチナが、死亡する事がないように対象の悪性調べは念入りに。でも……」
オーハマーは先程の場面を思い出して長くため息をついた。
「まさかメタルサソリがあんなにいたなんて……調査に手なんか抜いてないのに。モクリュウの件にしても本当に申し訳ないっす」
オーハマーは騎士団設立初期のメンバーである。言い換えればハゲが治る洞窟が見つかる前から復興を目指していた一人。
とある個人的な理由で本部から支部に異動になったが、その信頼度はベネットやニール等の他の初期メンバーと同じ。
プラチナは別として駆除任務に出た全員が、オーハマーが罠に嵌めたとは思っていなかった。
エネルが意気消沈するオーハマーを見て続けた。
「ぶっちゃけわらわ達も疑ってるわけじゃないよ。でもあれは明らかに待ち伏せされていた。任務内容が漏れていたと考えざるを得ない」
「はいっす……」
「尋問みたいで悪いけど正直に答えて。今回の任務を知っておる奴は誰がいる?」
「任務内容については支部の団員全員とカーモン氏。でも街を挙げての催し物を開催する関係から、騎士団が大平原に出て駆除するってのは結構の数が知っていると思うっす」
「ああそうか、騎士団に依頼する前に街の人間で駆除しようとしたって言ってたか……」
カーモンから騎士団が駆除する話は当然伝わっている。細かい人間も含めれば該当者が多すぎて、誰が騎士団を陥れようとしたのかは見当がつかない。
エネルは別方面でアプローチする事にした。
「ヒカリ」
「うん、擬態の件でしょ?」
「そう。あれ具体的にはどんな感じだったの?」
「メタルサソリはボディ全部の色を変更できるみたい。草むらに潜むなら緑色に、岩場の目立たない箇所に潜むなら岩肌色に、空のプールの底に潜むなら白色に。モクリュウから逃走した瞬間に、一斉に擬態を解いて銀色に戻ったのをヒトガタが確認したから」
ヒカリの情報伝達にスターが顔を顰めた。
「メタルサソリが擬態するなんて初めて聞いたが」
「私も、死んだふりだけだと思ってたよ」
「……なら奇襲される前にいた無抵抗のメタルサソリ達は一体?」
「多分奇襲の下準備、かな。目立つ箇所ばかりにメタルサソリがいて伸びてたし、本命の擬態中の個体の位置が露見しないように注意を引いてたんだと私は思う。で、密かに包囲と集結。前後左右の数の暴力で圧殺するために……勿論推測の域を出ないけど」
「仮にそうだとしたらかなり計画的だ。真っ先に出入口をメタルサソリで塞いでいたし……指揮していた何者かが、あの場にいた可能性がある」
「でもモクリュウも大軍のメタルサソリも全部悪性だったよ。わらわの経験でも悪性召喚生物は、人間の言う事なんて聞かないはずで……」
エネルの隣に座って静観していたプラチナが、ぽつりとこぼした。
「コミタバ、かな?」
スターとエネルがその言葉にすぐ反応して顔を向ける。プラチナは慌てて謝った。
「コミタバか」
「あ、口を挟んでごめんなさい。えっと、コミタバなら擬態を知ってて騎士団と敵対してるからそう思って……」
「……そういや、デイパーマーに関してもレオナルドに関しても、何故襲撃してきたのか不明のままだったのをわらわ思い出したよ。レオナルドはぶっ殺したけどデイパーマーは取り逃したわけだし……あのゴミカス共、何が目的でカチコミ入れて来たんだか。そして今回はコミタバの可能性が……」
少しだけ元気を取り戻したオーハマーも口を挟んだ。
「コミタバは最悪のオーバパーツ、モノリスを所有してるっす。それに強力な呪文使いが所属する組織。擬態の件も悪性召喚生物を指揮する方法も知ってるかもしれないっすね」
エネルが不快な感情を隠さずに肩をすくめた。
「ごちゃごちゃ議論してるけど、結局推測だけで
確かな事は何もなし。そろそろ今後をどうするかを決めようか。オーハマー、ここから騎士団本部に連絡できるでしょ?」
「勿論できるっす。少々お待ちを」
スターは立ち上がり口を開いた。
「俺はカーモン氏に事の説明と軽い事情聴取をしてくる。ジクルド、一緒に来てくれ」
「ああ、了解した」
「待ってスター、私のヤマチとヒトガタ一体も連れてって。状況が状況だから戦力は余分に」
「分かった」
ヒカリの声に頷いて、スターはジクルドと一緒に支部長室から出て行った。
エネルが受話器を取って騎士団本部に連絡をする。オーハマーの言う通り、本人コードを伝えてすぐに電話が繋がった。
『はい、こちら騎士団本部。電話口はベネット・ウォーリャーの分身体です』
「こちらエネル、ウイタレンの支部長室から電話してる。要件はホウレンソウ」
『任務経過報告には早すぎますね。問題発生、状況ををお聞きかせ下さい』
話が早いベネットにエネルが事の次第を簡潔に説明する。一分後、エネルの耳に眼鏡が上げられる音が届く。
『そうですか、悪性召喚生物が百体以上……しかも統率が取れている。そして擬態という新情報も出てきた』
「明らかに待ち伏せされていたのも加えてね」
『そこにいるオーハマーは本物ですか? 変身呪文を発現中の偽物かもしれません』
「さっき支部の団員全員に腹パンして確認したからそれはない。逃亡した団員も一人もいない」
『現在の状況は? 声色的に今は一息つけている感じはしますが?』
「一息つけてる。スターとジクルドは街の代表の元へ説明に行ってる」
『……ふむ、分かりました。ひとまずアルス・リザードを追加人員として向かわせます。彼なら実力も申し分ないですから』
「オーケー、アルスは祭りの仕事はないしね」
『そして真夜中辺りに、私の分身体をそちらに派遣し翌日に大規模駆除を実施します。数は百』
エネルが疑問の声を出す。
「真夜中なんだ? 別に今すぐ来ても良いけど」
『街にやって来る人間が多くてかなり忙しくなっています。事前に決めていたゾルダンディーのヘルプ人員を今、ニールが空中列車で輸送中です。その他雑務を考えて今すぐの派遣は少し厳しいかと。無論必要ならばそちらを優先して分身体を送りますが……』
「いや、現状その必要はない。街は平穏だから」
『分かりました。では大平原での駆除は翌日から再開。今日一日は街で待機して様子を見る。方針はこんな感じでいかがでしょう?』
「ちょい待って、確認する」
エネルが部屋にいる三人に了承を取った。
「それでいく。要件は済んだしベネットからは何かある? 何もないならこれで電話切るけど」
『……スターの様子をお聞きしたい。任務に集中させてバルガス・ストライクの件を頭の隅に追いやろうと画策したわけですが、調子は如何様に?』
エネルはプラチナに聞こえないよう、小声で囁いた。
「正直分からん。表面上は何も変わらないからね。でもわらわの所感を述べるなら、任務で頭の隅に追いやろうとしても効果は薄いと思う。……スターは変わらず、引きずっている」
『……分かりました。ならばもっと頑張って、スターの探しものを見つけ出さなければいけませんね。バルガス・ストライクが見つかったように、他二人が見つかればスターは今よりはマシになるのですから……そして死者と対話する方法も』
「でもベネット、無理はしないようにね。倒れちゃったら本末転倒なんだから。カインと裏方達にも伝えといて」
『ええ、それでは通信終了で』
「うん、また何かあったら電話するから。アルスによろしくね」
『準備が整い次第出発させます。では……』
通話が終わりエネルは受話器を置いて息を吐いた。そのままソファまで歩き、プラチナの横にどかっと座る。
オーハマーは方針が決まって、尋問も終わった事で気を緩め盛大にため息をついた。
「はあああぁぁ〜、もう誰っすかホント面倒な事しやがってぇ」
ヒカリが大平原が見える窓から視線を戻して言った。オーハマーは椅子の背もたれに身体を預けだらけている。
「一応オーハマーもまだ、嫌疑が掛かってるよ」
「それは分かってるっすよ。でも本当に私は何もやってないっす。いや下調べが甘かっただけかもしれないけど。いやでも……」
「元裏方的には誰の仕業だと思う?」
「……順当に考えたらカーモン・ハワードっす。駆除任務に関しては、人員以外は私と同じ内容を把握していたし。駆除対象とか移動ルートとかは彼からの情報を元に作成したっすから」
裏方と耳にしてプラチナは疑問を挟んだ。
「オーハマーさんって裏方だったんですか?」
「そうっすよー、でも騎士団の方じゃないっす。戦争前のとある国の裏方っす」
オーハマーは姿勢を元に戻して疑問に答えた。
「一口に裏方って言っても色々あるっすから。破壊工作、要人暗殺拉致、ハニトラ、現地潜入しての技術や情報、呪文奪取とかとか。私は現地人や組織に入っての情報収集がメインだったっす。潜入任務だから疑いを持たれないように気さくで笑顔でいないといけないから、糸目じゃないと落ち着かなくなったし、この後輩口調がデフォルトになっちゃったっす」
「職業病だね。お葬式の時、理不尽に怒られたって言ってたっけ?」
「そうっす! 何仲間が死んだのにニコニコしてんだお前っ! てな感じで。こっちは好きで笑顔でいるわけじゃないのに」
「脱線してるってわらわ思うんですよ」
「おっと」
嘆息して肩をすくめていたオーハマーはプラチナを見た。
「戦争で国が滅んで私はフリーになった。でも孤児から教育されて裏方になった私は、裏方以外私というのがなかった。それは復興した後も変わらなかった」
「じゃあ、オーハマーさんが支部に異動になったのは……」
「プラチナは冴えてるっすねー。察しの通り、とりまウイタレンで支部長の仕事をしつつ自分のやりたい事を探してたんすよ一年前から。結局は見つからなかったけど」
なるほど、とプラチナはとある個人的な理由を聞いて納得がいった。
騎士団とオーハマーの間には、戦争からの復興を一緒にやり遂げてきた信頼関係がある。だから騎士団はオーハマーをそれほど疑っていないのだ。
だがそれなら、一体誰が待ち伏せをしたのだろうか。あんな大規模な待ち伏せをする存在なんてコミタバぐらいしか考えられない。
ヒカリも同じ考えを口にした。
「話を戻すけど、実際問題誰が待ち伏せやったんだろうね。候補が多すぎて絞り込めないし」
「私じゃないのは確かっす。大事な事だからもう一回」
「つーかもっと具体的に下調べをどうやったか聞いておくか。そこから分かる事があるかもだし」
エネルの声にオーハマーは頷いた。
「勿論っす。私も誰が濡れ衣を着せてきたか気になるし」
資料に書いてある以上の細かい所までオーハマーから聞いてると、扉が開きスター達が戻ってきた。急いで戻ってきたようでやや息を切らしている。
エネルがスターを見て眉根を寄せた。
「どうしたの、何かあった?」
「カーモン・ハワードが行方不明になった。時間帯は挨拶してから事情聴取に行く間。何処にも見当たらない」
容疑者の一人が姿をくらましたと聞いて、待機していた四人が怪訝な表情を浮かべた。




