11-4 小休止 そして再開
程なく小高い丘にぽつんと建っていた、柵付きの大きめな屋外カフェ風の店に辿り着いた。
近くには綺麗な川が流れていて、せせらぎが聞こえてくる。周辺の景観も整備されていた形跡が残っていた。戦争前はここで愛好家達と召喚生物の食事会が行われていたとの事だった。
持参した携帯用コンロに火をつけて、お湯を沸かしてコーヒーを淹れる。荒らされていた店内から人数分の椅子とテーブルを持ってきて座る。
出来立ての熱々のコーヒーと携帯食をプラチナは口に含んだ。任務中だが一息つけてほっとした。
見晴らしが良く襲撃もすぐに察知できるため、ヒカリの召喚生物達も一緒に休憩している。三体それぞれがスターに密着するように纏わりついて離れない。
スターは少々迷惑そうな顔で椅子に座っていた。
「本当にスターの事が好きなんだ……」
プラチナがその光景を見て呟くと、隣に座るエネルが反応した。
「嫉妬?」
「うーん、うん。ちょっぴり嫉妬かも」
「えっ!?」
「私もタナチとヤマチとヒトガタに囲まれたい」
「そっちの意味か……わらわビックリした」
悪性ではない召喚生物は程度はあれど友好的。それを今、プラチナはしっかりと目にしている。悪い扱いをしなければ仲良く、そして協力して生きていけるのだ。
しかし彼らは人間の手によって悪性になってしまう。そして自分はその理不尽な末路を今日、この目で見てきた。
コミタバのデイパーマーの時のように衝撃とギャップ、そして嫌に思う気持ちを感じる。自分のこれからのスタンスが大体定まったように思えた。
「それにしても……」
それはそれとして、プラチナは今まで思っていた疑問を口にした。
「ヒカリちゃんって何歳なの?」
「んー、どうしたの急に?」
コモドドラゴン原種であるタナチに、食料を用意し終えたヒカリが不思議そうに首を傾げた。
「ヒカリちゃんは騎士団でも強い呪文使いで、召喚呪文が得意なんだよね?」
「そうだよー。この子達やまだ発現していない子達は私の大切な家族。昔からの付き合いになるね」
「その昔からって……いつから?」
「もう結構前くらいになるかな? 昔過ぎて覚えてないけど……ああ、そういう事ね」
「うん……ヒカリちゃん見た目の割に大人びてるし、十歳前後って感じがしないから聞いてみた」
ヒカリは質問の意図を察してスターの方へ顔を向けた。スターはタナチに舐められ、ヒトガタに頬擦りされて、ヤマチには寝転がれ助けを求めていた。それをジクルドが引き剥がしに掛かっている。
ヒカリはその光景を目を細めて眺めていた。プラチナはどういう感情で眺めているのかは分からなかったが、その大人びた雰囲気を見て呪文か何かで若返ってるのではないかと推測した。
やがてヒカリが揶揄うように人差し指を自身に向けた。
「何歳に見える?」
「……もしかして言いづらい事を聞いた?」
無神経に踏み込んだ質問をしたかもしれない、と気後れするとヒカリが少し気まずそうに返した。
「まあ私も過去に色々とあってね……それに関しては秘密って事にしておいてほしい」
「その、ごめんなさい。勝手な事を聞いて……」
「いやいや全然良いよ。プラチナがそう考えるのも分かるしね。ただ……騎士団の団員には戦争の被災者が多いから、私以外にはあまり突っ込んだ質問はしないほうが良いかもしれない。何気ない言葉で悲しい過去を思い出させる、なんて事があるかもだし」
静観していたエネルが口を挟んだ。
「かもしれないの思考だね。未来を予測するのは大変だ。でも引っ込み思案ばかりも良くないしバランス調整も大事。難しいね」
「うん……」
「ほらほら、そんなに落ち込まない! 私は全く気にしてないんだから!」
ヒカリが暗くなった空気をかき消すように続けた。
「それでプラチナはどうするの? 休憩後はモクリュウとメタルサソリの駆除も行うけど」
話題はプラチナの社会勉強に移行した。駆除に参加するのか、それとも今回は見学に留めるのか。
プラチナは切り替えて自分のスタンスの元に、しっかりと気持ちを伝えた。
「私も任務に参加したい。騎士団の一員になったのだから」
気持ちの入った声色にエネルが頷く。
「良し、ならプラチナには拘束呪文メインで任務に臨んでもらおうか。モクリュウやメタルサソリの動きを封じて、止めはこっちで」
「拘束って事はボルトティアのだよね? 網を発現するやつ」
「そう、プラチナは呪文訓練で電撃網を発現したりしたでしょ?」
「うん」
「それを遠距離から射出して拘束してもらうから」
「分かった」
具体的な方法を決めた後、ヒカリが新たに召喚生物を発現する球体を二つ出して言った。
「もう少しだけ戦力を増強しておくね。不測の事態に備えてこの子たちを」
巨大な光のゲートから現れ出たのは、もう一体ずつのコモドドラゴン原種とヒトガタだった。索敵の範囲を広げて、二手に分かれて騎乗して任務に臨む方針となった。
プラチナはヒカリの呪文使いとしての力量に驚愕した。何でもないように発現しているが、一体いくつの召喚生物を発現し、戦力を増強できるのだろうか。
そして勿論、新たに発現された二体はスターの元に急行する。
「いや、待っ……!」
揉みくちゃが加わったスターは、また助けを求めた。
○○○
一行は男女それぞれ分かれて二体のコモドドラゴン原種に騎乗した。男側の御者は棒人間のヤマチが担当している。
駆除対象である悪性モクリュウは、存在自体が木そのものの召喚生物のため、銃の効果があまり期待できない。しかも特殊個体ではないのに知能が高い個体が割合多い。
戦術的な面から二手に分かれて駆除した方が都合が良いと判断したのだ。
大平原内にある湿地地帯に到着した。土壌が水分で飽和している箇所が多く、浅い水に覆われている低地が散見される。
草は短く枯れ、点在する木々もほぼ全てが枯れている。丁度陽の光が雲で遮られ薄暗い。不気味な雰囲気がこの場所に漂っていた。
「んじゃ居場所を知らせて」
エネルが拳銃を上空に構えて数回発砲した。ファングの時と同じ手筈でおびき寄せて即時撤退、スター側が陽動と動きの制限、隙を狙ってプラチナの呪文で拘束して仕留める手筈だった。
少し待機の時間が続く。その間何かが起こる気配はなかった。陽が差し込んで明るくなったり風が枯れ草の匂いを運んだり、自然が自由気ままに活動している。
数分の時間が経過した。エネルが首を傾げ再度発砲してモクリュウをおびき寄せようとする。しかし待機状態が続くだけで襲撃の気配はない。
「……エネルちゃん、何も起きないけど?」
「起きないね。オーハマーの資料では湿地帯をメインに活動していると記載されてたのに」
「別の場所にいるって事?」
「その可能性はなくはない。モクリュウは水さえあれば基本何処ででも生きて行けるから。ただ水辺近辺を好む傾向はある」
エネルはヒカリに視線を移した。地上に降下していた一体のヒトガタから偵察情報を受け取っている最中だった。
「ヒカリ、どんな感じ?」
ヒトガタがまた上空に舞い上がってから、ヒカリが答えた。
「軽く見回した結果、この周辺にはモクリュウは見当たらないみたい。勿論見落としはあるかもだけど」
「二体のコモドドラゴン原種による感知は?」
「特になし」
「つまり不測の事態、か。面倒くせー」
「経過報告も含めてオーハマーに確認を取った方が良いな」
スターの声が近くから聞こえた。タナチではないもう一体の原種が真横についていた。
「エネル、俺の後ろに。背中の通信機で支部に連絡してくれ」
「わらわ了解」
「その前にこの場から移動だね。何が起こるか分からないし」
湿地帯から周囲の見晴らしがきく平原に戻って、通信機器で連絡を取る。
通信環境は良好で待機していたオーハマーにすぐに繋がった。
『はいはい、こちら騎士団支部長っす。何か問題でも?』
「緊急性はなし。ちょっと聞きたい事ができたから連絡した」
『聞きたい事?』
「湿地帯にモクリュウがいねぇっぽい」
『んん? マジっすか?』
通話越しにオーハマーの声がエネルの耳に届く。エネルは持ち込んだ資料を片手に疑問を投げかけた。
「資料によると悪性になったモクリュウ三体は、この湿地帯を住み処にしてるってあるけど?」
『そうっす。元々この街にいて平原にある湿地が好きだった個体っす。五年前に飼い主が死亡して悪性になってそこを住み処にして』
「資料に書いてる通りか……作成者は?」
『私っす。調査も』
「なら手抜きはないか」
『当然っす。熱量はなくても仕事は手を抜かず真面目にやってるっすよ。エネルが知ってる通り』
「いやいや、微塵も疑ってないよ」
『ういうい』
オーハマーが満足そうな相槌をした後、質問した。
『それでどうするっすか? 今回の任務は駆除と同時にプラチナの社会勉強も兼ねている。不測の事態が原因でプラチナが負傷死亡する事は避けたい。安全面を考慮して一旦戻るっすか?』
「たかが対象が見つからないだけで撤退? 逆に聞くけどどう思う?」
『まあ流石にそれだけじゃねぇ……別の場所にいたり住み処を変えたって可能性もあるし、撤退理由にしては弱すぎるっす』
「わらわもそう思う」
『ちなみに他にも何か不安要素はあるっすか?』
「特にないよ。ギネスファング二匹が率いる群れに挟み撃ちされたけど、特殊個体だしそれくらいの戦術はやるしね」
『なら現場の判断に従い、任務は続行って事で良いっすか?』
「うん、モクリュウからファングやメタルサソリに目標を変更する」
『一応出撃の準備はやっとくから、撤退の時は一目散に支部を目指す方針で。支部との距離が近ければ近いほど、こっちからの援護もできるっすから。部隊を編成して平原に足を踏み入れて距離を縮めてもいいし』
「分かった。一応部隊編成して待機させといて」
『了解っす』
「通信終了、アウト」
エネルが受話器を通信機に掛けて、ヒカリが乗る原種に飛び戻った。
「とりあえず任務は続行。モクリュウは見当たんないし今日は放置。メタルサソリを先に駆除するよ」
指示は全員が了承した。プラチナが純粋な疑問を口にした。
「悪性のモクリュウ……一体何処にいったんだろうね?」
「わらわ全く分からん」
一行はメタルサソリが生息される場所へ、進行していった。




