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11-3 駆除任務開始

「コ、コモドドラゴン原種……!」


 プラチナは赤い大トカゲを見とめて、すぐさまスターの背中に身を隠し、そしてエネルの後ろに移動した。

 気恥ずかしさと、どう見てもコモドドラゴン原種はスター目掛けて接近しているのが見て取れたのだ。

 更にヒカリとジクルド、棒人間のヤマチが原種の上に騎乗していた。プラチナの驚愕に困惑の色が混ざった。


「準備運動から帰還〜。久しぶりの運動だからこの子もはしゃいじゃったよ」


 頭上からヒカリの声が耳に届いた。コモドドラゴン原種がこの場に到着した。

 そのまま人を楽々飲み込める大きな口を開けて、舌を出して嬉しそうにスターを舐めに掛かる。スターに対してかなり懐いているようだ。


「ヒカリ……そろそろ止めさせて」

「こーら、舐め過ぎ。撫でられるだけで我慢しなさい」


 顔を中心に全身をベロベロに舐められ続けたスターが静止を求め、ヒカリが赤鱗の後頭部ら辺を叩いて言い聞かせる。

 コモドドラゴン原種は素直に口を閉じ、長い口先の横をスターの手に擦り寄せた。撫でられて気分を良くしている。


 その光景に呆気に取られていたプラチナが、やっとの思いで疑問の声を出した。


「……エネルちゃん、説明をお願い」

「あー、そういや呪文教地下で別個体に襲われたんだっけか」


 エネルが答えた。


「見ての通りコモドドラゴン原種。ヒカリが発現した召喚生物で名前はタナチ。あれの背中に乗って任務を遂行していくよ」

「背中に乗るって……本当に? それに物凄くスターに懐いてない?」

「本当に。で、ヒカリが発現する召喚生物達は皆スターに懐いてるんだよ。棒人間のヤマチだってスターに絡んでたでしょ」


 プラチナは行きの汽車を思い出した。確かにヒカリが発現した棒人間が、馴れ馴れしい気安い感じでスターにくっついていた。


「でもスターとヒカリ以外には中々心を開かないんすよねぇ。私なんかは……」


 そう言ってオーハマーがタナチの元へ歩く。撫でられ途中のタマチは動きを止めて、真紅の瞳でオーハマーを凝視した。


「こんな感じで警戒されるんす。超悲しい」

「……なら背中に乗せてもらえないんじゃ?」

「スターやヒカリがお願いすれば大丈夫っすよ。スター、私も触れても良いようにお願いしてほしいっす」


 オーハマーの要請を受けて、唾液まみれのスターが尋ねた。


「頼めるか?」


 スターの顔をその瞳に映したタナチは、不承不承の顔で頷きオーハマーの撫でを許してくれた。

 エネルが説明を続けた。


「言葉を発せないけど、こちらが言ってる事を理解してるみたい。知能がある召喚生物の特徴だね」

「味方……何だよね?」

「勿論」


 プラチナは目の前の大トカゲには、最初の出会いが襲撃だっため、あまり良い印象を持っていなかった。

 しかしヒカリに勧められて恐る恐る触れてみると、特に反応を示さず、不承不承の態度そのままで大人しく受け入れてくれた。

 その様子を見てプラチナは考えを改めた。初めて会った個体とは別物なのだ。仲良くやっていければいいなと思う。

 そして背中に乗って大平原を駆け回ると聞いた。それは一体どんな感覚なのだろうか、と未知への好奇心の気持ちが浮かび上がってきた。


 スターが着替えから戻ってきて、任務に臨む全員でタナチに乗り込む。騎乗用の大きな鞍が背中に備え付けられており、そう簡単には落下はしなさそうだ。


「それじゃ、わらわ達は行って来るから」

「了解っす。暗くなる前には帰還してほしいっす」

「分かってるよ。数日かけての任務だし無理はしない」


 先頭のヒカリが赤鱗を叩いて指示を出す。タナチが低音の鳴き声を出して大平原へと走り出した。


 太陽の騎士団の駆除任務が始まった。



○○○



 一行はコモドドラゴン原種に乗って、青空の下の大平原を闊歩していた。

 機動力と化したタナチの背中は広々としていて、二人横に並んで騎乗できた。

 順番は先頭がヒカリ、次にエネルとプラチナ、三番目がスターとジクルド、最後尾が棒人間のヤマチとなっている。

 今の乗り心地は快適で、ゆっくりよりかは早いペースで風を切り、騎乗者達に配慮してくれているらしく、揺れはそんなに感じない。


「あちこちが荒れてるね……」

「五年も放置されてた平原だからね。召喚生物の他にも天候とかもあるし」


 プラチナは周囲を見渡した。大平原と言っても野原が広がっているわけではなかった。

 長い間人の手が入ってないのもあり、草が茫々に茂っている場所があれば、草が短い平野地帯もある。

 地面も起伏に富んでいる箇所や小高い丘もあり、真っ平ではない。湿地地帯もあって遠く離れた向こうには背が高い木が密集する森や山々がある。湖もあるらしい。

 まさに召喚生物達が暮らせる、人の手が入らない自然豊かな楽園に、この大平原は成り変わっていた。


「それで、どうやって悪性のファングとかを探すの? こんなに広いと簡単にはいかないんじゃ……?」

「わらわ達の居場所を知らせれば良いんだよ。悪性のあいつら、人間が大嫌いだから」


 そう言ってエネルは拳銃を取り出して、上空に向けて何度も発砲し続けた。周囲に銃声と硝煙が拡散される。


「これで良し。ヒカリ、予定通り進んで」

「了解」


 それから進行しながら同じ事をしていると事態が動いた。タナチが警戒の唸り声を発してヒカリが身体を右に向けた。


「悪性ファング三匹、右から接近中!」


 スターとエネルが双眼鏡を構えて状況を確認する。プラチナも目を細めて平原向こうの光景を見やった。


「やはり突っ込んで来るか。コモドドラゴン原種という脅威があろうが、憎悪優先で人間をぶっ殺しに」


 そう言ったエネルから双眼鏡を受け取り、プラチナも徐々に大きくなる白い点を見とめた。身体が小柄の犬から大柄の狼に変化して、目が憎悪で満ちる悪性ファング達が接近して来ている。


「スター」

「ああ、ザンボムボ・ブレイド」


 ジクルドの呼び掛けにスターが呪文を唱えた。爆裂剣を次々に発現しては、悪性ファング達の方向にジクルドと一緒に投擲していく。

 無論距離が遠いため、十数個の爆裂剣は命中する事なく地面に転がり突き刺さる。そのまま騎士団一行を殺すために、悪性ファング三匹が散らばる爆裂剣の間を一直線に素通りしていった。


「爆破」


 その瞬間を狙って、スターが爆裂剣全てを爆発させる。爆発する剣だと知らないファング達は容赦なく爆風に巻き込まれ吹き飛ばされていく。

 ヒカリがタナチに指示を出して、ライフル銃が撃ち安い位置へ移動する。


 ダメージを負った動きが鈍るファング達に、スターとジクルドと棒人間のヤマチが、離れた場所からライフル銃を構え発砲した。

 撃ち出された弾丸は頭部に命中し三匹全てが絶命する。人間の所為で憎悪するようになったファング達は、人間の手によってこの世を去ったのだ。


「…………………」


 作業的で手慣れた無慈悲な駆除だった。

 プラチナはその光景を見て顔を伏せた。だがすぐさま、感情を押し潰して顔を上げた。

 駆除任務はまだ始まったばかりだった。



 それからも同じ作業が二度続く。

 居場所を知らせて悪性ファングが近づいて来る前にタナチが察知して、スターが爆裂剣を爆発させるの繰り返しで、ファング達の死が積み重なっていく。

 同時に地形調査や無人となった建物の状態確認も並行する。カメラで撮影して状態を記録するのだ。

 五年も経過すれば、地形の変化を確認できた箇所もあったり、建物内部が荒らされていたりもしていた。


 駆除は順調でこのまま任務は問題なく進むと思われた。しかしヒカリの強い警戒を促す声で、その考えは破られた。


「ギネスファング二匹、通常のファング十数匹を引き連れて後ろから接近中!」


 状態確認を終えた廃屋から出た直後に、特殊個体の存在を知らされて全員に警戒が伝播される。

 ファング数匹による途切れ途切れに続いた襲撃は、規模が大きくなって騎士団に降り掛かろうとしていた。


「ザンボムボ・ブレイド。ヒカリ、距離を取ってくれ」

「了解!」


 後方から迫る脅威に対して、逃げる形でタナチが前へと突き進む。その移動の間に、スターが爆裂剣を複数発現し続けて地面にばら撒く。

 先程と同じように、爆裂剣付近を通過したファング達を爆発に巻き込む腹積りだった。


「むっ」

「マジか」


 スターとエネルが反応を示す。作戦は失敗した。

 ギネスファング含む群れの一団は、爆裂剣を避けて遠回りで駆けて来ていた。

 騎士団の方が機動力に劣るため徐々に距離が狭まってきている。

 エネルが後ろを見ながら眉を顰めた。


「あのギネスファング二匹、こっち手順を見ていたな。数も増やして襲撃してるし考えて殺しに来てるわあれ」

「あっ!」


 ヒカリが突如驚きの声を上げた。全員が何事かと前方を視認して状況を理解した。

 タナチが走る先に特殊個体なしの悪性ファング達が、十数匹の規模で肉薄していたのだ。騎士団は前後に挟まれる形となってしまった。

 エネルが再び眉を顰めて唸った。


「挟み撃ちぃ? うっわ……タイミング的に同じ群れか」

 

 この広大な大平原では味方の増援も期待できない。振り落とされないよう掴まっていたプラチナが、不安な声を出す。


「このままじゃ……ど、どうすれば!」

「逆進で問題なし」

「ヒカリちゃん!?」

「大丈夫、他にも発現してる子がいるから。見てれば分かるよ」


 タナチが反転して地を蹴った次の瞬間、前方から突撃してくるギネスファング二匹が突如、釣られるように宙に浮かんだ。何やら真っ黒なのっぺりとした存在が、目にも留まらぬ速さで上空より急降下してきて、ギネスファングの後ろ脚片方をそれぞれ掴んだのだ。そしてそのまま空高く浮かび上がっていく。

 ギネスファング二匹は突然起こった状況に慌てふためいていた。だがもがくだけで宙ぶらりんの状態を解決する術はない。そうこうしているうちに既に地上にいる者達が小さくなるまで上昇していた。

 そしてその真っ黒な存在は、掴んでいたギネスファングの脚を離した。重力に従って二匹の白い狼は頭から落下していく。受け身も取れずに地面へ激突。高所から叩きつけられて再起不能になってしまった。

 突如現れた黒の存在に、特殊個体であるギネスファング二匹は虫の息にされた。


 群れのリーダーが排除され、片方のファング集団は統率を失った。そこに巨大なコモドドラゴン原種が間髪入れずに突っ込んでいく。

 大きな着地音と共に、数匹のファングが赤鱗の巨体に蹂躙され、騎士団の銃撃も合わさって半数以上が地に伏せた。

 残り僅かな個体も怯まず襲い掛かるが、盾手裏剣やブロレジの障壁に弾き返され、体勢を崩された隙を狙われ命を散らした。片方の群れは全滅した。


「まだだよ集中! もう片方のファングの処理がまだ終わってない!!」


 エネルが声を掛け、全員の気持ちを引き締めさせる。

 ファング達による挟撃をいなした騎士団は、迫り来るもう片方のファングの群れを迎撃していった。


「ひとまず、片が付いたみたいだね」


 戦闘が終了してタナチから降り立ったエネルが言った。周囲には十数匹による死屍累々の光景が出来上がっていた。

 まだ息があるファングを探して止めを刺す。既に死亡している個体にも、生死確認の発砲をするため銃声がしばらく続く。

 血の匂いと硝煙とファング達の死が、騎士団を包み込んでいた。


 これまでの駆除作業に目を背けないよう努めていたプラチナだったが、流石にたまらず目線を宙に逸らした。そして浮遊する存在が視界に映る。不気味な人魚が同じ目線の高さで漂っていた。

 ヒカリが発現した異様な召喚生物だった。人間の上半身と魚の下半身が合わさった外見で、全身が真っ黒でのっぺりとしている。全長は三メートルくらいで巨大。本来顔にある目や鼻や口は存在しない。髪もなくのっぺらぼうだ。


「私の召喚生物。ヒトガタ」


 プラチナと一緒にタナチに乗ったままのヒカリが、何でもないように言った。


「前もって発現して、上空から索敵を頼んでいたんだよ」

「上空から? あれも人間の言葉が理解できて……?」

「うん、タナチと一緒にさっきの挟み撃ちも教えてくれた」

「そうなんだ。いや口がないし教えてくれたって一体どうやって……うわぁっ!?」


 会話の途中でプラチナは大声を出して、身体を大きく仰け反ってしまった。急に視界の右側が暗くなったと思えば、浮遊中のヒトガタが近距離で覗き込んで来ていたのだ。

 これにはプラチナも驚愕でタナチから落ちそうになる。黒ののっぺらぼうが間近に迫る経験は今までした事なんてない。不気味さも相まって心の底からビックリした。

 プラチナの悲鳴に、スターとエネルが即座に駆けつける。


「何事!? ……って何やってんのさプラチナ」


 エネルがプラチナとヒトガタの様子を見て、状況を察した。


「あーはいはい、ヒトガタが驚かせたって所か」

「この子、結構悪戯好きだからね」

「心臓に悪いからやめてほしいよ……」


 ヒトガタはスターの後ろに移動した。

 そのまま恋人が抱きしめるように両腕を首に回して、スターの後頭部に顎を乗っけた。ヤマチとタナチ同様スターによく懐いている。


「そろそろ休憩しようと思うが、どうだろう?」


 抱きしめられたままのスターの提案にエネルが頷く。


「そうだね。いきなりギネスファングに遭遇するとは思わなかったし、任務は数日かけて行うから急ぐ必要はなし。一息ついて良いと思う」


 反対意見は出なかった。ギネスファング側の止めもしっかり刺した後、一行は地図を広げて休憩に適した廃屋を目指して移動していった。

 


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