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10-5 エネルが伝えたい事

 騎士団の本部建物には美容室が備え付けられていた。ハゲが治る洞窟を利用した団員は、希望すれば伸びた髪をいつでも整える事ができる。

 基本はベネットのモヒカン分身がカットをするが、今回はエネルにやってもらっている。

 貸切状態の二人しかいない空間。プラチナは自身の髪を整えてくれるエネルを、正面の鏡越しで眺めていた。


(エネルちゃんなりの……呪文使いの心構えってなんだろう……?)


 結局、詳しい話は今いる美容院に持ち越された。髪を整えてから伝えるとの事だった。

 エネルは手際良くカットしてくれていて、その表情は真剣だ。邪魔をしては悪いと思いプラチナは大人しく口を閉じていた。

 しかし作業の最中、唐突にエネルが口火を切った。


「実はわらわ、一人子供を養育していた過去があってね」

「へ?」

「物心がついて間もない少女を保護して、十代後半まで教育した後に旅立たせた」


 プラチナが呆けた声を出したが、エネルは気にせずに続ける。


「一年くらい一緒に旅をして、こいつはもう一人で大丈夫って別れたんだけど、久しぶりに様子を見に行ったら凄く落ち込んでいてね。話を聞くと自らが犯した悪逆に罪悪感を抱いていた」


 詳細は伏せられたが、百パーセントその少女が悪い事をしたとエネルは断言した。


「あいつはその後、罪悪感に苛まれながらも罪を償おうと頑張っていた。けれど結局は償う前に死んでしまった。わらわはその死の間際には居なかったから分からないけど、多分物凄く後悔しながら死んでいったのだと思う」

「…………うん」

「で、わらわは死んだのを聞いてこう思った。もっと真剣に教育していれば、もっと長く付き添ってあげていれば、あいつは悔いなんて残さずに済んだかもしれないって」


 プラチナは少し相槌に窮してしまった。話す内容以前に、後ろから聞こえる声も鏡で見えるエネルの雰囲気も、穏やかながらも気落ちしているように思えたからだ。

 ドバードの秘密都市地下でエネルが謝罪する姿がすぐに頭に浮かぶ。


「そして時は流れて今、成り行きでプラチナを教育する事になった。境遇には差異はあれど状況は似てる。わらわは同じ轍を踏まないと決めた」

「同じ轍って事はつまり……」

「プラチナがいつか死ぬ時、悔いが残らないようにする。口酸っぱく説教みたいに、過保護と言われても否定できないくらい世話を焼いているのは、そのため。……本当にごめんね、説教臭くてさ」

「いや、それは全然気にしてないよ」

「うん……」


 会話が少し途切れ、鋏が髪を切り落とす音だけが響いた。と言ってももう仕上げに入っていた。


「まとめるとね、悔いが残らない選択をする。それがわらわがプラチナに対して、伝えたい事」


 エネルが続けた。


「結局の所、かもしれないの思考とか、呪文の訓練や実験とか色々やったけど、訪れる未来は誰にも分からないんだよ。いくら頑張って努力しても運次第で良い未来から悪い未来になる時もある。……だから後先をしっかり考えて、重要な場面では悔いが残らない選択をする。それが大事だと思う」

「悔いが残らない選択……でも、やってきた訓練や今日の実験が無駄ってわけじゃないんでしょ?」

「それは勿論。プラチナの今後に必要な事だと考えてやったよ。でもあくまで、見聞きしたのは参考程度に留めて。鵜呑みは駄目。自分で感じて考えて、どうしたいのかを決める。スタンスを確立させるって言い換えても良い」


 髪のカットも整えも全て終わった。鏡に映るプラチナはハゲが治る洞窟に入る前の髪型に戻った。


「恩返しとか役に立ちたいとか人殺しの覚悟とかは、それから。自分を立場を明確にした後に。自分のケツすら満足に拭けない奴が他人の事を心配しても、言葉は悪いけど邪魔なだけだしね」


 エネルはため息をついて頭を掻いた。そして申し訳なさそうに言った。


「やっぱり説教臭くなってる……そんなつもりはないんだけど」

「エネルちゃん」

「ん?」


 プラチナは後ろに立つエネルの目をしっかりと見据えて尋ねた。


「良いのかな……私は、自分の事を優先して」

「良いでしょ、プラチナは幽閉されてたんだし。そもそも人間は他人より自分を優先する生き物。スターだってそうだよ。騎士団視点でもプラチナに忖度する事で、レスティア王の信頼が上がって、より良い取引ができるようになるからね。順調順調」


 エネルはプラチナが纏うカットクロスを取って締め括った。


「だからまずは自分の事から考えて。それがプラチナのためになると思うから。……以上です! 辛気臭いのは終わり、終了!」


 そう言ってエネルは、気落ちした雰囲気をかき消して後片付けを始めた。今まで何度も誰かの髪を切っているのだろう、テキパキと手際良く掃除をしている。


 エネルは長生きしているため経験は豊富だ。剣旅行で世界各地を巡り言動には含蓄がある。逆に幽閉されていた自分には何もない。無知に近い。

 しかし無知だからこそ、タミヤの街から始まった数々の経験は新鮮さの連続だった。呪文や海洋都市で見た初めの海とか、空中列車に乗る経験をするなんて思いもしなかった。

 色々な事を経験をした。嬉しい事や楽しい事、嫌な事や悲しい事。幽閉と田舎では味わえない新しい世界。

 それらの経験と感じた感情を元に、自分のやりたい事を考えていけばいいのかもしれない、と思った。

 呪文教の教主やテッカ・バウアーが頭に浮かび上がらせるのは嫌だが、そこから始まったのだから。

 でもアルマンの願いや、スターとエネルの力になりたい気持ちも散らつく。スタンスを確立するのは難しかった。


「むぬぬぬぬぬ……」


 プラチナはカット専用の椅子に座ったまま、唸りながら考えていた。

 片付けを終えたエネルが言った。


「凄い唸ってるけど何か質問はある? 一人で考え込んでも答えは出ないかもよ」

「質問……」


 プラチナは気になっている人物の事を尋ねた。


「ねえ、エネルちゃん」

「はいはい」

「スターはやっぱり元気ないよね? ゾルダンディーから帰還して半月経つけど、覇気がなくなってるように感じる。ヴァニラちゃんもムスッとしてる時が多いし」

「……………………」


 騎士団に所属してから訓練や仕事の合間を縫っては、プラチナはスターの元を訪ねていた。

 スターは大概暖炉付きの広い自室いて、複数のベネットと一緒に書類整理をしていた。今まで集めた機密文書の暗号解読を試みていたのだ。

 何か手伝える事はないかと申し出ると断られたが、根気強くお願いした結果、経年劣化でボロボロになった本や文書の写本を頼まれた。プラチナは喜んで暗号化されて読めない文字の書き写しに一生懸命勤しんでいた。


「話しかけるといつものスターに戻るんだけど、作業中とかはやっぱり暗くて、顔を顰めたりして何かを忘れようとしてて……調子を取り戻してほしいよ」


 バルガス・ストライクを取り逃した事を未だ引きずっている、とプラチナは思った。無理もない。探していた人物がまた行方不明になったのだから落胆も続く。

 プラチナ的には自分が保護された後に、三人で街中を散策した時のスターの方が望ましかった。自室に篭りっぱなしで気落ちしてるよりも、穏やかに笑っていた時のスターが好きだった。


「私に何かできる事がないか……ってエネルちゃん?」

「………………」


 プラチナはエネルの態度に首を傾げた。質問に答えず口を閉ざして、こめかみに指をやって考え込んでいる。

 一体どうしたのかとプラチナは思った。


「プラチナは……」


 顔を上げてエネルは言った。


「スターの事が好きなの? 勿論異性として」

「へぁっ!?」


 質問を質問で返されたのも気にならずに、変な声が出てしまった。まさかの返しだった。


「いやさ、わらわ気になってね。いや茶化してる訳じゃないよ純粋な疑問。プラチナの態度を見ているとそう思ってね……で実際にどうなの? 気になるから答えてほしいんですよ。わらわ〜、気になるな〜」

「え、と……それはどうなんでしょう?」

「どうなんでしょうって敬語じゃん……混乱してる?」


 会話の主導権を握って、エネルがまくし立てて質問する。


「ヴァニラがスターの事を異性として好きって言ったけど、それについてどう思う?」

「どうって……ヴァニラちゃんの勝手でしょ。駄目とかは言えないよ」

「ふんふん、じゃあ仮にスターとヴァニラが恋人同士になったら、プラチナはどんな気分になる?」


 プラチナは素直にその光景を思い浮かべてみた。

 晴れた公園をスターとヴァニラが仲睦まじく手を繋いでデートしている。お互い笑顔で歩いてやがて立ち止まって、ヴァニラがスターを見上げて目を閉じて、スターも顔を近づけていって……。


「プラチナ、何か凄い顔をしてるよ」

「はっ!?」


 エネルの声でプラチナは妄想から帰ってきた。エネルが再度尋ねた。


「それで? どう思ったの? わらわに聞かせて」


 プラチナは口を歪めて端的に、自身の気持ちを答えた。


「……やだ」

「おおう、それ答え出ちゃってない?」

「そ、そうかな……?」


 やけに明るくなったエネルが、やれやれと肩をすくめて続けた。


「まあ人の恋路を邪魔する野暮な真似はしないさ。一種の感情実験をするのも良し、本当に恋なのか確かめるのも良し、プラチナの好きにすれば良いよ」

「確かめ……それはヴァニラちゃんに悪いんじゃ?」

「何馬鹿言ってんのさプラチナ。数年間ツンデレかましておいて、進展してないヴァニラに遠慮は無用でしょ。……いや、プラチナがスターを好きならの場合だけど」


 会話を打ち切って、エネルはそそくさと出入口の扉を開けて手招きした。


「ほら、プラチナ。夜も遅いし部屋に戻るよ。明日から仕事だし訓練もあるし数日後には任務だし、早めに寝て英気を養わないと」

「あ、うん。胸糞悪いって言ってた任務が数日後に……」


 プラチナも気恥ずかしいのを切り替えて、エネルに続いて美容室を出て行った。


(あれ? 質問……はぐらかされた?)

 

 プラチナがそう思ったのは、部屋に着いて就寝する直前だった。



 それから数日はエネルが言ったように任務と訓練、臨時で召集された祭りの準備要員としてプラチナは駆り出されて忙しかった。

 そのおかげでスターの手伝いは出来なかったが、恋バナの気恥ずかしさから、少し間を空けられてある意味良かったと思った。

 自身の今後の立ち位置と、スターに対して恋心があるかどうか、ゆっくり考えてみたのだ。

 立ち位置については割とすぐに纏まってきた。

 スターに対しての恋心は、あるかもしれないと結論至った。


 そして太陽の騎士団の調整の元、胸糞悪いとされる任務が組まれた。場所はゾルダンディーのような遠出ではなく、汽車で一時間ぐらいの距離にあるウイタレンという街らしい。

 メンバーはスターにエネル、プラチナとジクルド、そして呪文使いとして普通に強いとされる少女ヒカリ。

 この五人で任務に赴く事になった。



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