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8-4 救出作戦終了

 無数の爆裂剣による爆発の威力は絶大だった。王の間は轟音と共にその原形を破壊され、入口の両扉付近以外は完全なる廃墟と化した。

 壁も天井も衝撃で吹き飛ばされ風通しが良くなった。時刻はもう夕方らしく、曇り空から橙色の光が差し込んでくる。


 爆風が流され、爆発の中心地にいたスターは地面に横たわっていた。無事だったエネルが慌てて駆け寄る。


「スター! 無事か!? 生きてるでしょ!?」

「ぐっ、……ああ何とか」


 砕けた盾手裏剣と肉体強化の剣を手に持っていたスターは、顔を苦痛で歪めて起き上ろうとした。

 それをエネルが寄り添って手伝う。スターの身体は爆発と爆風の衝撃で叩きつけられボロボロだった。


「スター……」


 エネルが支えながら、沈痛な面持ちで自分の気持ちを伝えた。


「隠れ家でわらわが怒鳴った時もそうだけど、自分をぞんざいに扱うのは辞めて。お願いだから」

「エネル……?」

「わらわはスターの事をとても心配してる……スターが死んだら、悲しいよ。そして他にも、悲しむ人達がいるのを忘れないで。本当にお願いだから」

「……すまん」

「……うん」


 未だ戦闘中のため、最小限の返しでスターは応えた。そして真剣で縋るような想いをしっかりと感じ取った。

 エネルもスターの声音から反省していると感じ、それ以上の言葉は続けなかった。


「それで」


 エネルは切り替えて周囲を見回した。


「バルガスは何処? 爆裂剣で半殺しにできた?」

「いや……」


 スターが否定をして前方に視線を移した。エネルも一緒に前を向いた。


「嘘、メラギラドラゴン……!」


 その光景を見て、エネルが驚愕の声を出した。


 燃えるような夕日をバックに、赤黒の竜が半壊した別の建物の上でこちらの様子を眺めていた。

 自身の身体サイズより大きい両翼、屈強で赤黒な巨体、凶悪な口元から呼気のような火を吹いている。

 事前情報として把握していたエネルが、驚愕のまま疑問を呈した。


「あれゾルダンディーの都市を滅ぼした個体じゃ……まさかバルガスが召喚して!?」

「いや、あれはバルガス本人だと思う」

「えっ!? どういう事!?」


 特に行動せず、こちらを見るだけの竜を警戒しながらスターが説明する。


「爆発の瞬間、アノマリーの呪文を唱えてきた。おそらく、それでメラギラドラゴンに変身をした。確か……アノマリー・テラス何とか、という呪文だった」

「それって、肉体変化のアノマリー……!」

「知っているのかエネル?」


 状況の不利を悟り、顔を険しくエネルは言った。


「多分だけど肉体変化のアノマリーだと思う。あらゆる万物に変身できてあらゆる呪文を発現できる……アノマリーの中でも最強格の呪文。やばいよスター、このままじゃこっちが殺される!!」


 焦りと動揺が混ざった表情のエネルに対し、スターが冷静に返した。


「殺される割には……バルガスは一向に仕掛けて来ないんだが」

「えっ?」

「さっきからこっちの様子を窺うだけだ」

「えっ、あ、……何で?」


 スターに指摘されてエネルも状況を確認した。

 確かにメラギラドラゴンだと思われるバルガスは、半壊した建物の上から静観するだけだった。特に何かをする様子はない。

 攻撃をせずに竜の大きな紅の瞳でスターとエネルを、いやスターだけを眺め続けている。


「一体何のつもりで……?」


 もうすぐに増援の兵士達が、この場に殺到するだろう。そしてスターとエネルより巨大な竜に目が向くはずだ。

 ゾルダンディーの二つの都市を滅ぼした召喚生物を兵士達が見逃すわけがない。

 数年間偽レスティア王として国のトップに君臨していた地位を、バルガスが捨てるとは考えにくい。

 今すぐスターとエネルを仕留めて元通りにするはずだ。なのに行動を起こさない。


「何も……して来ないね?」

「ああ、何故だ?」


 風が吹く音だけが流れ睨み合いが続く。数秒後、二人の後方から呪文が唱えられた。


「ボルトティア!」


 手から放たれた電撃がバルガスに向かって突き進む。バルガスはそれをブロレジの障壁を発現して防御した。

 電撃を撃ち出したのは王の間入口付近にいたプラチナだった。急いで二人の元に駆け寄る。


「スター、酷い怪我……!」

「プラチナ、どうしてここに!?」

「そうだよ、レスティア王の救出はどうなったのさ!?」


 状況が掴めず驚くスターとエネルを無視して、すぐにプラチナが呪文を唱えた。


「レコーション!」


 発現した淡い光がスターの身体全体を包み込み怪我を癒していく。

 プラチナの回復呪文は強力で、爆発に巻き込まれ負傷したスターは戦闘続行可能まで動けるようになった。

 間髪入れずに、プラチナはまた呪文を唱えた。


「ボルトティア!」

「プラチナ! 今のバルガス相手にはその程度の火力じゃ意味がないって!!」


 エネルの静止を無視して発現した電撃がバルガスへ向かっていく。

 先程の電撃で威力の程度は知れた。今度のバルガスはブロレジを発現せず、その竜の身体で電撃を受け止めた。


「なっ、これは……!」


 そしてバルガス・ストライクは今実感した現象に驚愕した。


「ぐ、がが……どういう事だ!?」


 突如、竜の全身から青白い電流が帯電した。その電流の光は止まる事なく更に勢いと輝きを増していく。

 エーライド・ボルトティア。発現者の身体に電流を帯電させ纏う呪文。その呪文が即座にバルガス頭に思い浮かぶ。しかし自分が発現した覚えはない。


「解除できない、このままじゃ呪文発現の体力消費で……!」


 突然起こった異常現象に驚愕したのはスターもエネルも同じだった。

 上空の建物の上で竜の姿のバルガスが、自身に発現している呪文に困惑し解除しようともがいている。しかし電流の光は、もう眩しいくらいに輝き続け止めようがない様子だ。


 状況から察するに、この異常を起こしたのは間違いなくプラチナ。二人は横に佇む金髪の少女を凝視した。


「アノマリーの呪文使いだったみたいです。私は」


 視線に気付いたプラチナが二人に答えた。エネルが困惑しながら口を開く。


「あ、アノマリーって言われても……」

「付与のアノマリー。それが私の呪文。たった今、私の呪文の才能をバルガス・ストライクに付与したんです。そしてそれを強制的に発現させ続け、体力切れの疲労困憊、行動不能に追い込みます」


 プラチナは二人の手を握って呪文を唱えた。

 

「スターも、エネルちゃんも、私の力を……アノマリー・インクシオン!!」


 その直後、スターとエネルは実感した。自分達はボルトティアの呪文を発現できると。実際に口で唱えれば電撃を行使できると。

 おそらくプラチナは、制限なしで誰にでも付与は可能だと。


 呪文の才能がない者に電撃呪文を発現する才能を、勿論その他付与できる事柄ならば、どんな対象にでも何でも付与できるアノマリー。

 例えば呪文の性能を倍増させるとか、一回しか方向転換ができないガンシーム・ボルトティアを何回でも方向転換できるようになるなど。

 それがプラチナが発現できる、付与のアノマリーの呪文だった。


「いや、でもこれ……とんでもないアノマリーなんじゃ」

「お、ご、がが、おあぁぁあぁ……!?」


 エネルが付与のアノマリーの使い道に嫌な考えが浮かぶ中、バルガスは未だ発現中の呪文の解除に苦心していた。

 しかし一向に勢いは止まらず、呪文継続発現による体力の消費のせいで肉体変化のアノマリーが解除される間近だった。


(このままじゃ不味い! いや不味くはないがこんな形での決着は望んでいない!!)


 どう見てもこの現象を引き起こしているのはプラチナ・アリエールだ。ならばあの少女を気絶させればこの現象は収まるだろう。

 そう考えバルガスは残り僅かな体力を使い呪文を発現した。


「ディアニガル・キュール・バルガライ!!」


 竜の頭部を上に向け、その大口から黒紫の大玉発現させていく。無論プラチナを殺す気はないため手加減はする。


「アクセル・ボルトティア!!」


 それに対してプラチナは、たった今スターとエネルに付与した電撃球の呪文と、自身の電撃球の呪文を発現する事で迎え撃った。

 ドバードの秘密都市で遭遇した、レオナルド・レングレーとの戦闘で見聞きした同じ呪文を強制的に発現させればいい。

 発現する者は違えど全て自分か付与した同じ呪文だ。

 スター、エネル、プラチナから発現した三つの電撃球は合わさり一つの巨大な電撃球に転じる。

 後はそれに、もう一つの要素を付与すればそれで……。


 バルガスから黒紫の大玉が射出された。

 プラチナの呪文強制発現で、三人からなる全力のアクセル・ボルトティアが勢いよく射出される。


 アクセル・ボルトティアは呪文を吸収してその威力を増大する電撃球だ。相対するバルガライの大玉を難なく吸収してバルガスに向かっていく。


「くっ!」


 バルガスは回避に専念した。今の状態でまともに当たるわけにはいかない。

 光り続ける両翼を広げ、空中に浮かび上がり、直線的に突き進む電撃球を左に移動して避けた。


「そこ!」


 その時プラチナが人差し指を右に振った。方向転換が付与されているアクセル・ボルトティアがバルガスを追尾した。


「なっ!?」


 バルガスが驚く暇もなく電撃球が迫り来る。ブロレジや迎撃呪文で凌ごうと、直感的に思考したが吸収されて意味がない。

 バルガスに防ぐ手段はなかった。そのまま特大の電撃球がぶち当たり、赤黒の竜は着弾による大爆発に巻き込まれた。


「があああああああああああぁぁぁっ!?!?!?」


 衝撃、大音、夕日に染まる空に金色の巨大花火が弾けたようだった。

 バルガスは城外の森まで吹き飛ばされて墜落した。


「プラチナ様、危険ですからお戻りください! 戦闘に巻き込まれて……」


 その直後、救出組が全壊した王の間になだれ込んできた。本物のレスティア王はシンシアに担がれ、ヴァニラもいる。


 王の間の状況に理解が追いつかずライネルが尋ねた。


「これは……一体何がどうなっているのです?」


 王の間には焦りで顔を歪めるエネル、バルガスを退け一安心して息を吐くプラチナ、呆然と空を見上げるスターがいた。


「バルガス……!」


 スターは即座に走り出しその場を後にした。墜落したバルガスを追って。



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