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8-2 救出組

 ゾルダンディー裏方の隠し通路は下水道方面の他にも複数存在していた。

 救出組の四人は今、城内の天井裏を匍匐前進で目的の場所まで進んでいた。


 上からも下からも大勢の人間が慌しく動いている音が聞こえる。怒号に衝撃音。

 陽動は既に始まっており、多くの兵隊達がその対処に追われているのだ。


(スターとエネルちゃん、ヴァニラちゃんは大丈夫かな……)


 陽動組三人の身を案じながら、プラチナはなるべく音を立てずに腹這いで進む。

 しかし心臓の鼓動は激しくなるばかりで、その音で救出組の居場所がバレないか不安になる。

 今更ながら本当に凄い展開になっているとプラチナは思った。


 裏方の隠れ家では、困惑と動揺が先行しすぎて口を挟む余裕がなく、騎士団とライネルの会話はほぼ静観するしかなかった。

 だが時間が経って実感が湧いた今は違う。プラチナは現状をしっかり認識しており、騎士団にとても危険な作戦をお願いしていると理解できている。


 エネルが言った通り、この作戦はただのテロ行為だ。失敗した場合の未来なんて容易に想像ができてしまう。

 それでも騎士団は協力してくれた。撤退を選択しても無理もないこの状況下で。

 プラチナは感謝してもしきれない。


(でも、私は何も返せてない。恩返しができていない)


 一体何度目の後ろめたさになるのか、とプラチナはため息をついた。無力で情けない自分が嫌になる。


(どうか全員が無事に、勿論お父さんも無事に救出できるように余計な行動は控えないと……)


 プラチナは歯痒さを感じながら、ただただ祈りながら進んでいった。



 やがて先頭のライネルが停止し、他三人もそれに倣う。

 ライネルはしばらく様子を窺った後、天井裏の蓋を開け部屋の中へ音もなく着地した。

 城内の倉庫のような部屋だった。備品や消耗品の数々が雑多にまとめられている。


 エーテルに抱き抱えられる形でプラチナも部屋に着地した。

 天井裏から聞こえていた陽動音はより一層大きくなり、その大きさが戦闘の規模を物語っていた。


「ジクさん、もう一度聞くけどその鉄兜外せないの?」

「悪いが無理だ。その場合俺は動けなくなってしまう」

「そっかぁ」


 ジクルドの返事にエーテルが残念そうに呟いた。


 救出組の四人の服装は現在、ゾルダンディーの兵士達と同じ服装だ。

 発見された場合の時間稼ぎと隠密行動のための当然の準備であり、隠れ家にあったのを拝借した。

 しかしジクルドの鉄兜は目立つ。同じ服装でもどう見ても変だ。

 隠れ家でも外して潜入する事を提案されたがジクルドは拒否した。どうやら鉄兜を外すと猛烈な眩暈と吐き気に襲われるとの事だった。

 ジクルドは人間を感知できる。陽動組へ組み入れるわけにはいかなかった。


「ジクルド・ハーツラスト。誰かがいる気配を感じ取れますか?」

「取れない。周辺に人間はいない。多分な」


 ライネルの声に、ジクルドは探るように部屋の扉に鉄兜を向けて言った。

 その返事を聞いて、ライネルが呪文を唱えた。


「ガンゲ・ペルツド」

「「「「ポリ・ペルツド」」」」


 四体の分身体が発現され、更に分身が救出組に変身し一緒に扉から出て行った。


「手筈通り分身体にも陽動をしてもらいます。これで少しでも、陽動三人の負担が軽減できればいいのですが……」


 慎重に扉を開けて救出組が廊下に出る。ジクルドの感知通り周辺には誰もいないようだ。


「ゾルダンディー側も陽動組の人数の少なさから、この襲撃には狙いがあると気付いているはずです。しかし狙いが救出とはまだ判明していない。その前に素早く目的を達成しなくてはなりません」


 本物のレスティア王は生存している。

 そのただ一つの望みに懸けて、プラチナ達一行の救出作戦が始まった。


 ジクルドを先頭に目的地である地下牢に向かう。陽動の騒音のおかげで多少の物音は気にしないで移動できた。

 ゾルダンディーの兵士達の遭遇に関してもジクルドが事前に感知してやり過ごし、排除が必要な時には主にライネルが無力化していく。


「デュクシ」


 ライネルの右手が呪文の発現により青色の光を放つ。条件呪文らしく、その右手が対象の首筋を軽く叩いただけで遭遇した兵士を気絶させていく。

 しかもショートワープの呪文と併用して瞬間的に背後を取るのだから強烈だ。少し距離があっても問答無用で排除できていた。

 

 プラチナは当然、エーテルも出番はなく概ね進行は順調だった。


「まもなく目的地に到着します」


 何度目かの遭遇の後、気絶させた兵士を適当な部屋のクローゼットに詰め込んでライネルが言った。

 プラチナの心が緊張で跳ねる。


「確認だけど、牢屋がある場所に更に隠された地下牢があるんだよね?」


 エーテルの問いに、ライネルが頷いた。


「はい。おそらくバルガス・ストライクが下へと掘り進めて形成した岩の牢獄になります。そこにレスティア王が……まだ移されていなければ良いのですが」


 そうして辿り着いたのは牢屋に続く石造りの空間。

 この城は度重なる改築を経て使用されており、所々に同様の空間が存在し古臭い雰囲気が漂わせていた。


「あー、スッキリしたー」


 救出組がその空間に足を踏み入れたその時、ゾルダンディーの見覚えのある兵士に遭遇した。

 軍服姿の薄い茶髪に赤の宝石で装飾された剣を装備する女。

 事前情報で作戦の障害になると教えられた人物。スピカ・キザライトだった。


「ん?」


 スピカはこちらを視認した。そして視線を元に戻し再度こちらを見て驚きの声を上げた。二度見である。


「侵入者だ!!」


 間髪入れずにジクルドとライネルが無力化するため接敵した。

 しかしスピカの反応は早かった。腰の剣を即座に引き抜き応戦する。

 その剣についても脅威なのは事前に把握していた。二人は距離を取らざるを得なかった。


「あれがコモドドラゴンの剣か」

「そうです。あれは脅威です」


 ジクルドの声にライネルが首肯する。


 コモドドラゴン剣。刀身も柄も剣全体が赤く染まっている剣のオーバーパーツ。一度斬撃を入れられれば、まるで呪いのように傷口は塞がらず血は流れ続け、呪文でも治療できずに出血死してしまう。

 一説にはコモドドラゴン原種を材料に製作されたと言われているが定かではない。


 斬撃を貰うわけにはいかないオーバーパーツ。

 ライネルは不意の遭遇に顔を歪めた。スピカとの戦闘では行動が制限されてしまう。


「しかもスピカ・キザライトは剣の使い手として一流です。若干ポンコツが入ってますが、非常にタフで打たれ強く邪魔者適正が高い人物になります。私の首トン呪文も通じません」

「誰がポンコツですか誰が」


 コモドドラゴンの剣が効かないスピカはライネルを指差した。


「あなた、あの時蹴飛ばして壁尻にしやがった人ですね。ゾルダンディー最強剣士を無様に晒して……他の侵入者共々成敗してくれる」

「……成敗される前にお聞きしたい、何故ここにいるのです? 仕事は?」

「何故って兄さんがここでサボれって言ったからですが。クレームは兄さんにお願いします」

「なるほど。ジョズは遠ざけようとしたのか。それが偶々……」

「ん? んんんん?」


 話の意図が読めないスピカは首を傾げた。そして数秒後、頭を切り替えて言った。


「まあどうでもいいか! 掛かってこんかいこの侵入者共!!」

「カロン・ニカ」


 ジクルドが人体収納呪文を唱えて、身体から大剣を取り出し構えた。


「手筈通り俺が相手をするが何か弱点はないのか? 遭遇した以上、短時間でケリを付けたい」

「単純さとポンコツの特性上、私が注意を引きます。具体的な作戦は……」

「分かった。剣同士の戦いならおそらく何とかなる。タイミングは任せる」


 騒ぎを聞きつけていつ増援が来ても不思議はない。プラチナはエーテルに任せてスピカとの戦闘が始まった。



 壊れない剣とコモドドラゴンの剣との衝突音がその場に響き渡る。

 スピカの剣術は洗練されており無駄がない。しかも自身の剣が持つ特性をしっかり理解しているため、フェイントを織り交ぜて剣撃を繰り出してくる。


 一方のジクルドはコモドドラゴンの剣の回避を最優先にしていた。突き刺しや薙ぎ払い、剣ではなく殴打や蹴り、フェイントの数々を凌いでいく。


 数回の打ち合い後、正面から剣同士の大きな重なり音が響いた。

 膂力差を物ともせず、押し込みながらスピカがジクルドに疑問を呈した。


「その大剣何なんです? 私の剣は人体以外にも有効なんですよ。何度も叩いても全然壊れないじゃないですか」


 若干力で押され気味なジクルドが返した。


「壊れない剣だ。コモドドラゴンの剣と同じ、剣のオーバーパーツ。例えアノマリーの呪文でも破壊はされない」


 スピカの興味が壊れない剣に向く。


「マジですか! そんな剣があるなんて……コモドドラゴンの剣と壊れない剣の二刀流もカッコいい! その剣、戦利品にさせて貰います!!」

「それはそうと」

「はい?」


 ジクルドが言った。


「後ろを見ろ。レスティア王が半裸でブリッジをしているぞ」


 互いの力と力が反発しあいスピカとジクルドの距離が離れた。

 スピカが呆れたように肩をすくめる。


「全く……戦闘中に何アホな事を。そんな子供騙しに引っ掛かるわけがないじゃないですか」


 ジクルドはスピカの後方を指差した。スピカが少しだけ興味を示す。

 プラチナとエーテルもスピカの後方を眉を寄せて見ていた。

 スピカの身体がぴくりと動く。


「ま、まあ……ちょっとだけ」


 いつでもジクルドに反応できるように、警戒しながらスピカは肩越しに後ろを見た。

 本当にレスティア王が半裸ブリッジをしていた。


「嘘ぉっ!?」


 即座にジクルドが驚愕中のスピカに肉薄する。スピカは首を戻し前を向いた。

 その直後、半裸ブリッジのレスティア王も体勢を立て直しスピカに肉薄する。焦るスピカは二人に挟まれる形になった。


「ちょっ、え、ま、待って」


 前方のジクルドが大剣を右手に逆袈裟に振るう。スピカはギリギリでそれを避ける。

 後方のライネルが肉体強化済みの殴打を喰らわせようとする。スピカは何とか反応して回避をする。


「あ、甘いですよ! 最強美人剣士なわごべらっ!!??」


 二人の奇襲を凌いだその時。振り上げた大剣を横にし、剣の腹をスピカの頭にジクルドが叩きつけた。

 衝撃と共に怯んだスピカに対しライネルが腰を捻った強烈な蹴りを喰らわせる。

 蹴り飛ばされたスピカは壁に頭から突っ込んでまた壁尻状態になってしまった。


「おのれ、一度ならず二度までもーーっ!! ぎゃっ!?」


 ジクルドがスピカの尻を大剣の腹で思いっきり叩いた。しかしスピカは僅かに停止後、壁から抜け出そうともがき始めた。

 それは何度尻を叩いても同じであった。ジクルドが驚きの声を出す。


「本当に打たれ強いな。何なんだこいつ……」

「ゾルダンディー最強の美人剣士だコノヤローっ!!!」

「ガンゲ・ペルツド」


 半裸レスティア王の変身を解いたライネルが分身体を発現して、焦りがある早口で言った。


「戦闘が長引きました。いつ増援が到着してもおかしくありません。分身体とジクルド・ハーツラストが退路を確保します。プラチナ様とエーテル・ブラストは私と共に地下牢へ。レスティア王を救出します!」


 鬼気迫る声音で、事の迅速さをプラチナは理解した。そして同時に自分を幽閉した父とやっと対面する事を実感する。


「了解した! 走るよ、プラチナ!」

「うん!」


 しかし今優先すべきはこの作戦に参加してくれている皆の無事だ。さっさと向かってささっと救出する。考えたり感じたり聞いたりはその後にすればいい。


 プラチナは父とアルマンに対する様々な感情を横に置き、エーテルとライネルと一緒に地下牢に向かって駆け出した。



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