8-1 レスティア王救出作戦 陽動組
初動は上手くいった。
ライネルの指示した隠し通路から城の近くまで移動し、完全なる不意打ちで城内へなだれ込む事ができた。
陽動組の三人が城内を無茶苦茶に荒らし回っている。
隊列は前方に氷の兵隊達とヴァニラ、中央がスターとエネル、後方が残りの氷の兵隊で構成されていた。
「シュリ・ブレイド!」
スターが盾手裏剣や爆裂剣を際限なく発現し、それをエネルや近くにいる兵隊達が前と後ろに配布する。
進行方向には爆裂剣と盾手裏剣の投擲やヴァニラの呪文、後ろから迫るゾルダンディーの追手に関しては、盾手裏剣の防御と設置、爆裂剣を地雷代わりにして遅延させる。
今の所、陽動は順調だ。しかしゾルダンディー側の兵隊の落ち着きも早いようだった。
段々と数の暴力で追い詰められるのは目に見えていた。
「太陽の騎士団に化けてるコミタバのお通りじゃああああああっ!!??!」
エネルは突撃時と変わらずコミタバに責任をなすり付けようと奮闘している。だが次第にその顔にも余裕はなくなっていく。
エネルが言った。
「それでどうする? 奇襲には成功したけど割とすぐ治る風邪みたいなもんだよ。加減する以上殲滅されるのも時間の問題」
スターが怪訝な表情で応えた。
「救出が終了次第即脱出する観点から城の上階、窓がある部屋付近を移動しながら時間を稼ぐと事前に決めていただろ。現状は問題ないはずだエネル?」
エネルが口をへの字にしてスターを見る。
「バルガスの事が気になるくせに……馬鹿スター」
「……」
「無言、ね。まあ五年間探していた奴が意味不明な事やってるわけだし、気にもなるわよね」
「……」
ヴァニラの言葉を無視して盾手裏剣を五個発現するスターに、エネルが尋ねた。
「スターはさ、可能ならバルガスに会いたいんでしょ?」
スターが爆裂剣三個を氷の兵士に手渡す。そしてやや間を開けて答えた。
「可能なら、な。だが目的はあくまでレスティア王の救出。そして大事なのは作戦に参加する全員の無事だ。……バルガスに関しては生きているのならまた会える。既に王の間から移動して、居場所が掴めない可能性がある奴の元に行く気はない」
その時、後方から敵兵士の増援が襲来した。
増援の兵士達が一斉に黒紫の光線を発現する。
「「「「「「「「バルガライ・ブラストホウ!!!」」」」」」」」
複数の極太光線が陽動組に射出される。流石に常に移動し続けた脚は止まり、防御に専念するハメになった。
「っ!? スター盾手裏剣をもっと後ろに!!」
「分かっている!!」
堪らず、ヴァニラが助力を求める声を出す。
急いで打破しないと包囲されてしまう。いや既に広い範囲では包囲されている。包囲網が狭まれば狭まるほど、時間を掛ければ掛けるほど、大量の兵士が隙間なく押し寄せて来て突破できずに終わってしまう。
スターは手早く盾手裏剣を配布しようとした。
エネルが大声で指示を出す。
「スター、ヴァニラ!! 一旦後ろの増援を盾手裏剣を増やして蹴散らす!! シールドバッシュの要領で……!」
エネルの声が止まる。スターもヴァニラも、光線が止んだ増援の兵士達を見た。
後方では突如、白い煙が色濃く発生していた。その中にいる兵士達は、くしゃみ鼻水の嵐に見舞われてるようだった。スター達を攻撃するどころではない。
煙の中で一つの影が、兵士達を長い棒らしき物で殴って気絶させている。
そしてその人影が、軽やかな足取りで煙から出てきた。紫色の髪にメイド服。
「どうも騎士団の皆様。メイドのシンシアです」
右手に野球用のバットを持ち、赤のリュックサックを背負っている非人間のシンシアだった。
「止まっている暇はありませんよ。脚を動かしましょう脚を」
案内の時と変わらず、愛想のない声だった。しかし今はシンシアの言う通りだ。
陽動組は切り替えて走り出した。
「さてさて、色々と聞きたい事があるでしょう。質問をどうぞ」
陽動作戦を再開し、その中で早速エネルが尋ねた。
「ライネルの協力者はお前でいいの!?」
「お前でいいですよエネル剣」
「協力の理由は!?」
「王が偽物だとすぐに気付いていましたが、どうせ裏方や誰かが解決すると思って放置していたのです。まさか壊滅してしまうとは……。流石の私もヤベーと考え生き残りのライネルに協力した次第です」
協力者になった理由を淡々と話すシンシアに、三人は走りながら唖然とした。
偽物と気付いた時点ですぐに誰かに伝えるべきなのは明白だ。なのに放置していた。ライネルが言っていた人間嫌いからくるものだろうか。
ヴァニラが質問した。
「人間じゃなくて、人形のオーバーパーツって聞いたけど?」
「ああ、今証拠を見せますね」
シンシアは両手で首を引っ張ると、音を立てて首を取ってしまった。
驚く三人に対して、自身の脇腹付近に取れた首を持っていき、上目遣いで説明する。
「このように首が取れても問題ない人形のオーバーパーツなのです。首ラグビーとかできますよ」
首を元の位置に嵌め込むシンシアを見るよりも、前方に現れた敵兵士達を無力化を優先してスターが聞いた。
「現在の状況は? 何かしら追加情報とかはあるのか?」
「いえ、ありませんね。偽物は変わらず王の間で一人護衛なし。本物が監禁されている地下も同様です。偽物は一体何がしたいんでしょうか? 正体がバレたのなら普通何らかの措置を講じるはずで」
「何も変わらない? 確かか?」
「約五分前の情報になりますね」
スターは顔を歪めた。バルガスが頭に散らつく。
しかしすぐに振り払った。今は陽動の役目をしっかりと全うしなければならない。
そんなスターの様子をヴァニラがじっと眺めていた。そして口を開いて提案する。
「スター、バルガス・ストライクに会ってきなさい」
「……ヴァニラ?」
「私はね、あなたの情けない顔をみるとイライラするのよ。私の精神衛生上のために行ってきなさい」
ツッコミを入れるシンシアをエネルが止める。
「もしかして、ツンデ……」
「空気読んで」
「あ、はい」
ヴァニラがシンシアを見た。
「確認だけど、王の間には偽物しかいないのよね?」
「ええ、警備も護衛もなしです」
「それは、王の間周辺にはゾルダンディーの人間がいないと言い換えられるんじゃない?」
「言い換えるではなくそうなりますね。偽物が強い厳命を出したため、周辺には誰も配置されていません」
「ならその周辺付近での防衛に関しては、敵の増援は一方向からしか来なくて済むんじゃない?」
「まあ、短時間ならそうかもですけど……何が言いたいのです?」
「そこで時間を稼ぐって言いたいのよ」
「はあ……何故に?」
事情を知らないシンシアは不思議そうに首を傾げている。
スターが反対する前にヴァニラが人差し指を立てた。
「十分! それくらいなら時間を稼いであげる。スターはその間に、バルガスを半殺しにして拉致しなさい。いいわね?」
「ヴァニラお前……」
「エネル、あなたはどうするの?」
エネルはヴァニラの顔を心配そうに見た後に言った。
「いいの? その選択はスターの呪文供給がなくなるって事を意味してるんだよ? アノマリーの呪文で殺して足止めするのなら、わらわは賛成できない」
「大量の盾手裏剣を置いといてくれれば十分ぐらい足止めできると思う。アノマリーを使う気はないわ」
「本当に?」
「本当に。敵が一箇所からしか来ないのなら、やりようはあるから」
ヴァニラの表情から本気で時間を稼ぐつもりだと、エネルは確信した。
そして渋るスターの方を見る。
「スター、さっさと行ってバルガス半殺しにしに行こう!」
「いやエネル、陽動の役割が」
「偽レスティア王を狙えばゾルダンディー側は全力で守ろうとする。陽動の役割はサボってないでしょ」
「まあ、それはそうだが……」
スターはヴァニラに尋ねた。
「いいのかヴァニラ? 時間稼ぎを任せて……」
ヴァニラは不敵に笑って応えた。
「当然よ。私は私のやりたいようにやってるだけ。指図しないで」
スターの顔が、迷いある顔から決意で引き締まった顔に変わった。
「分かった、ヴァニラ。五分で終わらせてくる」
「スター、わらわも同行する! 一緒に!」
「ああ、頼む。ソード・ブレイド・ライズン!」
肉体強化の剣呪文を発現して、スターはエネルと共に王の間へ全速力で走って行った。
スターが通過した道のりに、大量の盾手裏剣が無造作に置かれており、それを氷の兵隊達に確保させてヴァニラとシンシアは目的の場所を目指す。
そうして辿り着いたのは、王の間に続く城内の真四角の空間。扉が四つ存在し、おそらく王と謁見する際の待機部屋だと思われた。
シンシアが尋ねた。
「それで? 具体的にはどう足止めするのです?」
「ファランクスよ。スターの盾手裏剣と今度は武装させた兵隊を発現させてね。グリッド・ビィ・フロスト!」
ヴァニラが呪文を唱え、約五十体の氷の兵隊達を発現した。今回は姫騎士少女もいる。
兵隊達は皆、氷の長槍を右手に装備していた。そして次々と盾手裏剣を左手に持ち整列していく。
ファランクスは四角の密集陣形である。横に八体ずつ並んで、後は同じように縦に続いていく。
右手に長槍を、左手に盾手裏剣を持たせて隙間なく整列し背後の通路を塞ぐ。
これで近づく者には長槍で攻撃と牽制、遠距離から呪文を唱えてくる者には、盾手裏剣による密集防御またはヴァニラが呪文を射出して対処する布陣が完成した。
無論、後ろに待機している氷の兵士達数体が、余った盾手裏剣を供給する。
シンシアが感心した声を出した。
「なるほど、防御が密集していれば短時間は何とかなるかもですね」
ヴァニラが少し尖った声で聞いた。
「それでメイド人形は何の役に立つのよ? 今のままじゃ足手纏いなんだけど」
「おっと、これは手厳しい。さっき助けたというのに」
増援が駆ける足音が聞こえてきた。シンシアが前方に視線を向ける。
「まあ少しは働きますか。人間嫌いにとって割といいシチュエーションですし」
増援の兵士達の脚が止まった。長槍と盾手裏剣を構えて威圧する陣形の対処に困ったからだ。
その隙を逃さずシンシアが、背中のリュックから白の卵のような球体を数個取り出して投擲した。
球体はゾルダンディーの兵士達の足元で割れ、先程の白い煙が発生する。
また兵士達がくしゃみや鼻水に襲われた。堪らず動きを止める。シンシアお手製の催涙玉であった。
「アバギルド・フロスドン!」
ヴァニラが足止めを喰らっている敵兵士達に向けて、呪文を唱えた。雪崩を発現する呪文である。
しかし場所が平面のため、津波のように白銀の雪々が増援の兵士達を飲み込んでいく。今いる空間に冷気が発生した。
「げ、面倒な奴が来ました」
時間稼ぎは何とか達成できそうと思った矢先、シンシアが厄介さを含んだ声を出した。
「誰よ、誰が来たって?」
「ほら前方遠くの人影、今奥までいった雪崩呪文を突破してきた奴」
前方の黒い点だった人影が、接近するにつれその姿を明らかにした。
「肉体強化、肉体硬化、服装変化アーマーの三種類呪文を同時に発現するゾルダンディーのかちかちに硬い奴。ジョズ・キザライトです」
ジョズ・キザライトが跳躍し、ヴァニラ達がいる場所に到着した。
ジャンプの着地で地面が大きくひび割れる。頭から足先までを包む無骨な黒のアーマーは、相当の重量があると推測できた。
頭部の全てがアーマーで覆われている。催涙玉の効果は期待できそうになかった。
突破力がありそうな呪文使いにヴァニラが応戦しようとした。しかしその前にジョズが手で制した。
「落ち着け、戦闘する気はない。この襲撃は何らかの考えがあってのものだろう?」
男の声だった。ヴァニラが油断なくジョズを見据える。
「当然ヤケになったわけではないわ。考えがあるに決まっているでしょ」
「その考え……レスティア王に関係するものか? 例えば偽物の」
ヴァニラはシンシアを横目で見た。シンシアは肩をすくめてヴァニラに一任した。
「仮に、そうだとしたら?」
「俺も協力できる。レスティア王は偽物だと思っていた」
「……………」
ヴァニラは黒の太い十字剣を右手に発現して、その先端をジョズに向けた。
「断る。無理よ」
「……理由は?」
「私は言葉よりも行動で示す方を重視する。数年前から本物と偽物が入れ替わっているのに、今まで何もしてこなかった奴が協力すると言ってもね」
「……確かに、痛い所を突かれたな」
顔を顰めて後悔を滲ませているような声を無視して、ヴァニラが一歩距離を詰める。
「だから無力化するわ。スターの邪魔はさせない」
「いや待て、さっきも言ったが俺は」
「問答無用」
突破力のある敵を放置するわけにはいかない。
手で制し戦意がない事を示すジョズに、ヴァニラは肉薄した。
○○○
「そういやスターの奴は、どういった経緯で孤児院に来たんだったか……?」
ゾルダンディーの首都、国のトップが居城する王の間で、玉座に腰を下ろしているバルガス・ストライクは一人回想する。
「思い出した。確かクレアさんが見つけて……」
五年前の戦争よりもっと前、孤児院を運営していたクレアという女性が幼いスターを連れ帰ってきた。
ジャポニという極東にある島国。
世界中の国々が海に囲まれた利点を活かし、我がものとしようと争奪戦が繰り広げられた結果、未来も希望もない世界の暗黙の実験場に成り果てた国。
その地獄のような国がスターの出身地であり、まだ物心がついて間もないスターが生きていたのは、まさに奇跡に等しかったと言える。
でもどんな過去があろうと、生まれが何処であろうとバルガスには関係なかった。
同じ孤児院で育てられ大人になった先輩として、孤児である子供達には幸せな未来を掴んでほしかった。
だからよく足を運んで手伝いをした。お菓子も配ったり、進路に悩む少年少女達の相談に乗ったりもした。
その子供達の中にスターもいた。
当時のバルガスにとって、スターは他の子供達と同じ扱いであった。特に贔屓などはせず、このまま成長して幸せになってほしいと思っていた。
しかしある日起こった大事件が、スターの人生を一変させた。バルガスはスターの事を心配するようになった。
「アカムの軍が起こしたクーデター」
軍に所属していた一人のアノマリーが仲間と共に、クーデターを起こしたのだった。
そして、それを解決したのがスターだった。
その時は既にアカムの軍に所属していて、クーデターの対処に追われていたバルガスは、これでもないくらいの衝撃を受けた。
「スターのこれからの人生は、一体どうなるのか」
アノマリーの呪文使いを殺し、クーデターを阻止したスターを軍が見逃すわけがなかった。スターは即座に軍の入隊が決定した。
バルガスはスターの人生を危惧した。
ジャポニより平和な国にやって来れたのに、軍に入る事になった。しかもまだ子供のスターがだ。
可能ならすぐに孤児院に帰してやりたい、わざわざ軍に入って死と隣り合わせになる必要はない。
しかしバルガスにそんな権限はなかったため、どうする事もできなかった。
だからスターの世話を焼く事にした。面倒を見てできる限り一緒にいて、それで何とか軍とは無縁の人生を歩む道を見つけてほしいその一心で。
結果は無理だった。際限なく呪文を発現でき、発現し続けれるスターは軍に重宝されていった。
そして約一年後、今度は同じ孤児院にいた少女サニーが軍に入隊してきた。
強い決意を秘めた表情をしていたのを覚えている。
「騒がしくなってきたな……」
バルガスは回想を打ち切って現実に意識を戻した。予想通りスターはやって来た。
目的を達成する準備は既に整っている。
王の間周辺の警備は、王としての厳命で誰も配置していない。本物のレスティア王がいる周辺も手薄にしている。
彼らは無事、本物のレスティア王を救出できるだろう。
「後はスターが俺を退治してくれればそれで……」
その時駆けつけてくる足音が扉の前で止まり、直後に勢いよく開かれた。
「来たか、スター」
バルガスは目を細めて扉を見据える。
しかし開かれた扉の向こうにいたのは、右手に長剣を持つエネルだった。
「わらわのおおおお、剣投擲ぃーっ!!」
エネルが助走をつけて力一杯、長剣をぶん投げた。だが腕力が足りず広間の中央付近で落下し、床に転がった。
「…………………お前何がしたいの?」
「だってわらわ剣だし」
変な空気が流れた。
スターと戦闘する気でいたバルガスは、期待はずれ半分でエネルを見据え、エネルは真剣な表情で意味不明の返しをした。
何も起きず数秒時間が流れる。痺れを切らしたバルガスが口を開こうとした。
次の瞬間、王の間の壁が大爆発と共に破壊されスターが踏み込んできた。
「横から来たか、スター!」
エネルは陽動、とすぐさま理解しバルガスは肉薄するスターへ応戦した。




