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7-6 方針会議

「それでどうするの? いや、どうすればいいんだろう……?」

「レスティア王を救出する。それしかないな」

「待ってスター。それは早計すぎるから待って」


 エーテルの声にスターが応じて、エネルが即座に反対した。


「本物のレスティア王救出作戦は、向こう側視点だとただのテロ行為。最大級の警戒態勢の中でバレずに救出なんて無理だし、太陽の騎士団がゾルダンディーにテロ組織と認定されないためにも、慎重に考える必要がある」

「いやエネル、既にテロ認定はされている。結果的に王の間のレスティア王に対して襲撃事件を起こしたからな」

「む、ぬっ……」

「それに急いだ方がいい。偽物と見破られた以上、バルガスは本物を口封じするはずだ。今こうしている間にも、レスティア王の生存率は下がり続けている。殲滅するわけじゃない。短時間の陽動による救出作戦なら可能性はある。ゾルダンディー全体からしたら、救出が目的とは思われてないからな」

「いや、まあ当て逃げの要領で陽動すれば可能性はあるけどさぁ……」


 スターが何でもないように続ける。


「いざとなったら俺だけが陽動を担当してその後、太陽の騎士団を抜ければいい。そして責任を騎士団に向かわせないようにする。ただの一人の馬鹿が起こしたテロとして処理すればそれで……」

「あ、うん。今の言葉わらわのライン超えたからな。ヴァニラ、スターにデコピンしろ」

「え? ぐっ!?」


 議論が劣勢に回ったエネルの声が、冷徹な色に変わった。

 エネルが顔の動きで指示した直後、ヴァニラの中指がスターの額に当たる。

 プラチナはその様子を見て、ドバードの秘密都市での荒くれ達に対するエネルを思い出して大きく目を見開いた。


「ヴァニラ、何で……」


 スターは額を抑えてヴァニラを見た。ヴァニラはスターから顔を背けた。

 エネルの荒げた声が厨房に響く。


「一人だけ抜けるとか何考えてんだ、てめぇ!! 馬鹿じゃねえの!! 無意味な提案してんじゃねぇよ!!」


 エネルは本気で怒っていた。

 スターの事が心配で怒っているのは分かるが、普段のエネルからは想像できない激怒のため、プラチナだけではなくエーテルも驚愕で右往左往している。


 スターが臆せずエネルを見据えた。


「ならどうする? さっきも言ったが時間がないぞ」

「時間がないからって即決するな言ってんだよ!! スターを心配するわらわの気持ちも汲めや!! そもそもゾルダンディーにいるアノマリーも考慮しないとどう殴り込みするかなんて……」


 その時だった。不意に物音がしてエネルは声を荒げるのをやめた。

 プラチナ以外が即座に臨戦態勢を取る。


 こんこん、と窓を叩く音だった。

 プラチナは召喚生物ファングが、片方の前脚で窓を叩いているのを視認した。めんこい顔をしている。


「あれはヨビのファングか……?」


 スターが盾手裏剣を手に、ライネルの許可を得てジクルドと窓に向かった。

 窓から見える範囲にファング以外は見えない。ファングは首元に古びた赤のスカーフを巻いて、白のリュックサックを背負っていた。

 騎士団側の、裏方の一人が愛するファングだった。


 スターが慎重に窓を開けると、ファングが軽やかなジャンプで厨房内に入ってきた。

 ヴァニラとエーテルが向かい入れ、撫でられるファングは気持ちよさそうに頬を緩めた。


「エネルちゃん、あのファングは……?」


 気勢を削がれたエネルが息を吐いた後、プラチナの質問に答えた。


「裏方の一人が発現したファング。飼い主はヨビ。わらわも一度しか会った事がないけど、かなり優秀な奴でね。現状必要な情報を持ってきてくれたんだと思う」


 プラチナは白のリュクサックに注目した。あの中に情報が入っているのだろうか。


 エーテルがリュックを開けて、全員で中を確認する。

 居城の正確な内部地図、監禁されているレスティア王の居場所、城内の警戒状況、首都リベヤからの脱出経路と手段、城下町に展開するゾルダンディーの部隊の配置。

 情報の作成時間が書かれていて、今から十分前に作成されている。

 そして手紙には、簡潔にこう記されていた。


『レスティア王生存。地下』

『メイド人形の協力を取り付け済み』

『王の間から偽物動かず。何故か人払い、護衛なし』

『救出作戦実行の場合、陽動を推奨』

『撤退の場合、爆裂剣を空へ複数個投擲、それを合図とする』


 新たに入手した情報を、共有したライネルが舌を巻いた。


「まさかこの短時間でここまでの情報を取得できるとは……城の内部地図もレスティア王の監禁場所も誤りはありません。まあそれは流石にシンシアが情報を提供したと思いますが……何故、シンシアが協力を?」

「人払い、護衛なし、レスティア王は生存……」


 エネルはスターの呟きを聞いて、ため息をついてライネルに言った。


「救出作戦を実行する場合、ゾルダンディー側のアノマリーと接敵する可能性が高い。アノマリーの情報を寄越さないと救出作戦は許可できないよ」


 ライネルは目を伏せて首を振った。


「現在ゾルダンディーに、アノマリーはいません。二回目のメラギラドラゴン来襲時の戦闘で、二名全員が殉職しました」

「……マジで? 少なくとも存在強化のアノマリーがいたはずだけど」

「マジです。本当に殉職していないのです」

「てか、メラギラドラゴンは討伐したわけじゃないんだ?」

「ええ、二回目の都市襲撃以降、その姿を眩ませたままです。私とシンシアは偽レスティア王が発現したものと考えていました。確証はありませんが……」


 つまり救出作戦を実行した場合、バルガスが都市二つを滅ぼしたメラギラドラゴンを発現してくる可能性がある、という事になる。

 ゾルダンディーにアノマリーの呪文使いが存在しないにしても、不確定要素があった。

 

 意思確認に足る情報は出揃った。

 エネルが全員を見回して、真剣に決を取る。


「多数決。太陽の騎士団がレスティア王を救出するか、それともゾルダンディーから撤退するか。今回ばかりは、プラチナは不参加でお願い」


 エネルが続ける。


「撤退の場合は、ヨビが用意した手段での撤退だけだから割愛。救出は不確定要素が多い。レスティア王が救出作戦実行時に生存しているか、生存していたとして監禁場所は移されていないか、今聞いたメラギラドラゴンの事、偽物であるバルガスの動向が予測できない、殺すのは最終手段で基本的には手加減の陽動、もしかしたら隠れアノマリーがいるかもしれない」


 アノマリーの呪文は超強力な呪文。発現できると知られれば、その力を利用しようと様々な勢力に付け狙われる。

 そのためアノマリーに限らず、自身が発現できる呪文を過小に申告する者は割といる。

 そうする事で、降り注ぐかもしれない未来の不利益から自分の身を守るのだ。

 仮にゾルダンディーにアノマリーを発現できる人間がいて、テロを仕掛けてくる集団にアノマリーの呪文を行使してきた場合、救出作戦はかなり難しいものとなる。


「まあ不確定要素の全部が杞憂に終わるかもしれない。それに短時間なら、陽動からの隠密救出が成功する可能性は普通にあるし、本物のレスティア王を救出できたなら兵隊達を説得してくれると思うし……未来を予測して考えて、賛成か反対に票を入れて」


 結果はエネルが反対。救出が四で、レスティア王を救出する事に決まった。

 エネルは内心ため息を吐いた。


(ヴァニラとジクルドに関しては、スターが賛成してるから賛成したんだろうなぁ……サニー、お前のせいでスターは今日も苦しんでいるよ)


 ライネルが感謝を込めて慇懃に頭を下げる。


「太陽の騎士団の皆様。本当に、本当に感謝のしようもありません。私のこの命、如何様にもお使いください。何でもいたします」


 プラチナも慌てて頭を下げた。


「わ、私の命も……」

「いやいや、プラチナのはいらないでしょ」


 ヴァニラが手を振ってツッコミを入れた。


 救出作戦に踏み切ると決まれば、後はどう救出するかだ。具体的な内容を決める会議に移行した。


「全員が無事でいられる可能性を高めるために、どう殴り込むのかを決めようか。まずは陽動と救出の人員を分ける」

「ならエネル、私が陽動組ね。アノマリーだし発現呪文的にも」

「そうだね。派手な暴れ散らかして注意を引きつけるのはヴァニラが適任だ。ただし殺害は最後の手段。これは救出作戦だから」

「分かってるわ、ニールじゃあるまいし」


 ライネルがプラチナを見て言った。


「プラチナ様は救出組になりますね。レスティア王の覇気を取り戻すためにはプラチナ様の存在が必要不可欠ですから。私も救出組に同行します」

「う、うん……」

「スターは私と一緒に陽動ね。氷の兵隊達に盾手裏剣を装備させれば時間をより稼げるし」

「ああ分かった」

「ボクは?」

「エーテルは……どっちかしら?」


 ヴァニラの疑問にエネルが答えた。


「発現できる呪文と戦力比で決めるべき。スターとヴァニラがいれば陽動にしては過剰だし……呪文的にも救出組かな」

「救出組ね、オッケー」

「ジクルドも……潜入だし感知の観点から救出組がいいと思うけど」


 ジクルドはやや間を置いて頷いた。


「了解した」

「エネル、あなたはどうするの?」

「決まってんじゃん陽動だよ、人数比的に。そもそもわらわスターがいないと役立たずだし」

「自分で口にするのね……」


 救出を断念する場合、即ちレスティア王が死亡していた時と、監禁場所を移されていて発見できない時は即時撤退の手筈になった。

 裏方ヨビの情報から合流地点を設定し、合流が不可能な場合には、複数の脱出経路を各々が使用する。


 エネルが言った。


「プラチナは絶対に一人にならないように。救出組全員での脱出がベストだから」

「う、うん」

「緊張してる? 色んな意味で」

「うん……色んな意味で」

「そっか。エーテルとジクルドはプラチナのフォローをお願いね」

「うん分かった」

「ああ」


 ゾルダンディー側の、救出作戦の障害になると思われる人物の情報をライネルから聞いて、レスティア王救出作戦に移行した。




○○○




 ゾルダンディー首都にあるレスティア王が居城する城は軍による厳戒態勢が敷かれていた。

 非番や有給の者達にも緊急招集を掛け、蟻の子一匹も通さない布陣だ。


 しかしこれだけの警戒では、正面よりは搦手の警戒の方が厳重だった。

 まさかこの警備で正面から攻めてくるとは誰も、心の奥底では思っていなかった。


「ユーラシア・フロスト!!」


 その時、城の正面出入口に巨大な氷塊が撃ち込まれた。

 出入口付近は、氷塊と後に刺さる複数の爆裂剣で爆破され、跡形もなく粉砕される。

 そしてそこから賊の侵入を許してしまった。


「コミタバじゃ、コミタバのカチコミじゃぁああああっ!! ボケどもがぁ!!!」


 城内に響き渡るエネルの大声を、ヴァニラが指摘する。


「エネル、私達コミタバじゃないでしょ」

「聞けヴァニラ、少しでも騎士団にヘイトが向かないように、わらわ達はコミタバで通す! コミタバは社会のゴミ、ルールは無用!!」

「なるほど、テロの責任をコミタバになすりつけね。了解したわ」


 スター、エネル、ヴァニラと、盾手裏剣を装備した数十体の氷の兵士達は城内に混乱を巻き起こしていった。



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