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7-3 王の間からの逃走

「エーテル!!」

「うんっ!!」


 迫り来る大玉火球に対して、即座に反応したのはヴァニラとエーテルの二人だった。

 椅子から立ち上がり、同時に呪文を唱える。


「「ブロレジ・ブロレジション!!」」


 複数人が同時に唱えて発現する共唱呪文、半透明に光り輝くブロレジの障壁が展開された。


 燃え盛る火球は障壁にぶつかり、王の間にその熱波を拡散させる。

 強烈な熱の塊は障壁を撃ち破ろうし、ヴァニラとエーテルがそれを阻もうと懸命に踏ん張った。


「シュリ・ブレイドォ!!!」


 そこに我に返ったスターが盾手裏剣を発現した。

 太陽の騎士団を守る障壁に、薄緑の盾手裏剣が加わった事により、均衡は破られた。

 

 火球は熱風を吐き出した後に消え、守護する役目を終えた障壁と盾手裏剣も消失する。

 開けた視界には、火球を射出したレスティア王が無表情で立ち尽くしていた。


「お前……」


 困惑のスターが何とか言葉を発しようと、気持ちを振り絞る努力をする。

 そのあと一押しは呪文激突の余波で、たった今床に落ちた食器が叶えてくれた。


「お前、バルガ……」

「敵だぁああああああああああああっ!?!!?!」


 スターの声はレスティア王の大声でかき消された。

 城全体に響き渡る腹の底からの大きな声だ。


 同時に、地を蹴る素早い気配を感じ取ったジクルドが急いで呪文を唱えた。


「カロン・ニカ」


 人体収納化の呪文で、身体から大剣を取り出して無防備なスターの側面を防御する。

 その直後、鈍い剣の衝突音が防御箇所から響いた。薄く艶のある茶髪が揺れ動く。


「おっと、防がれましたか」


 奇襲を仕掛けてきたのは、赤い宝石で装飾された剣を手に持つ若い茶髪の女だった。

 ゾルダンディーの軍服とマントを身に纏い、軽快な足取りで距離を取る。


「私の一撃を防ぐなんてやりますね……いや偶然か。ゾルダンディー最強美人剣士であるこの私ぐばらっ!?!!」


 自信に満ちた顔で肩をすくめる女剣士を蹴り飛ばしたのは、全身黒づくめの野戦服姿の人物だった。

 突然剣士の横に現れ、脇腹を蹴り飛ばし、そのままの勢いでレスティア王に黒紫の極太光線を放出する。


「太陽の騎士団の皆さん、こちらへ!! 退路は確保しています!!!」


 体格と目出し帽から出る声からして男だった。


「裏方か?」

「はい。ラウンセント・ツノドリル」


 ジクルドの問いに男は頷いた。そして巨大回転ドリルを王の間の入り口に放つ。

 丁度レスティア王の危機に、増援の兵士達が駆けつけて来た所だった。


「唐突なのは重々承知。ですが今は、初対面の私を信じてもらいたい」


 男の声は真剣で、縋る想いが込められている。

 直前のゾルダンディー側への攻撃とその声音で、エネルは判断し指示を出した。


「いつまでもこの場所に留まるわけにはいかない。全員で移動!! 目出し帽の裏方は先導しろ!! ただし裏切ったら即殺す!!」

「ご協力感謝します。行動で示します」


 目まぐるしく変化する状況に付いていくのは、プラチナにとっては至難であった。

 しかし呪文教地下での経験と騎士団が一緒にいる事で、何とか対応は可能だった。

 そのプラチナよりもスターの方が動けずにいた。


「………………」


 バルガライ・ブラストホウで吹っ飛ばされたレスティア王を静かに眺め続けている。

 レスティア王は仰向けの大の字で地面に横たわり、微動だにしない。スターも微動だにしない。

 敵襲を告げるサイレンが城全体に鳴り響いても、その目はレスティア王に釘付けのままだった。


「スター、移動よ。急いで!」


 ヴァニラの呼び掛けに応じる気配はない。

 ヴァニラは僅かな時間迷って、呪文を唱えた。


「グリッド・ビィ・フロスト!」


 氷で生成された全身鎧の兵士が一体発現された。間髪入れずにスターを左肩に乗せ抱える。


「エネル、スターは運ぶから!」

「よしっ!」


 太陽の騎士団とプラチナは、突如現れた裏方の男を先頭にして、別の出入口から王の間を離脱して行った。




 大の字になって天井を眺めていたレスティア王は、少ししてから上体を起こした。

 周囲を見回すと、壁に頭から突っ込んで抜け出せずにジタバタしていた茶髪の女剣士が目についた。


「ぬぉおおおおおっ!! ぬ、抜けない!!」

「何やってんだあいつ……」


 半分呆れながらもレスティア王は起き上がり、壁尻状態の両脚を引っ張り救出した。


「ほらスピカ。早く敵を追撃しろ」

「おのれ襲撃者共がぁっー!! 美人最強剣士を埃まみれにしやがって、許さーーーんっ!!!」


 そう吠えて勢いよく地面を蹴り、入口付近の発現したままのドリルを剣で切り裂き、王の間から離れて行った。


 そのスピカを見送って、レスティア王はぽつりと呟いた。


「相変わらず元気一杯で羨ましい限りだな」


 そうして近くの長テーブルにあった椅子まで歩き、座って一息をつく。王の間にいるのは自分一人だけ。


 テーブルの上にはぐちゃぐちゃになった料理が散乱していた。

 レスティア王はそれを眺めながら、もう一度呟いた。


「はぁ、失敗した……」


 ため息混じりのその呟きは、後悔の念がありありと含まれていた。




○○○




 城内の人員は最小限としても、ゾルダンディーの兵士達は、続々と集結している様子だった。


 首都リベヤでの襲撃事件。しかも現場は国のトップが居城する城の王の間。

 兵士達が待機する兵舎も城の何処かにあるのだろう。レスティア王の人望も厚い。

 太陽の騎士団が包囲されるのは時間の問題だった。


「ユーラシア・フロスト!」

「シュリ・ブレイド!」

「バルガライ・ブラストホウ!」


 襲撃犯を無力化しようとする兵士達を足止めし、極力傷付けないように呪文を唱え、太陽の騎士団は裏方を名乗る男を後を追う。


 時に通路を東へ。

 時に通路が兵士達に塞がれれば、通路の壁をいくつか破壊して、部屋経由で南東へ。

 時に回転ドリルで床をぶち抜いて下へ。


 城内の構造を熟知しているかのように、その足取りに迷いはない。


 先導する男は騎士団側の裏方ではない。味方かどうかも未だ不明だ。

 騎士団は不明瞭な存在に付き従って行動している。

 だからこそプラチナ以外の全員が、移動中でも一瞬たりとも目を離さずに監視をしていた。


「シュリ・ブレイド」


 スターが足止め用の盾手裏剣を、後方に複数個発現し地面や空中に設置した。

 スターに関しては、呪文発現時の体力消費は存在しない。故に大量の盾手裏剣を発現しゾルダンディー側の追撃を、今現在阻む事ができていた。

 そして先程に比べれば、幾分冷静さを取り戻していた。


「それでいつになったら退避できる!? この城にゾルダンディーのアノマリーがいないわけがない! 時間が経てば経つほど退避できる確率が減るだろうがっ!!」


 階段を駆け下りながらエネルが吠えた。先導している裏方の男が冷静に答える。


「目的の部屋にはもうすぐ到着します。到着後部屋の隠し通路から脱出願います。ただし一つだけ作業をしなければなりません」


 不運にも遭遇してしまった非戦闘員のメイドを無力化しながら男は続けた。


「逃走を確実にするための一工夫を施します。僅かな時間部屋で籠城するため、スター・スタイリッシュの盾手裏剣で部屋の外周辺を要塞化してもらいたい」

「要塞化?」

「ええ」


 つまり男は、無数の盾手裏剣を設置しろと言っていた。

 それを察したヴァニラが呪文を唱えた。


「グリッド・ビィ・フロスト」


 今度は氷の鎧兵士を十体発現し、後方を走るスターに八体追随させ、残り二体を裏方の男の両サイドに配置した。


「スター、兵士達に盾手裏剣を沢山持たせて」

「ああ」


 そして目的の部屋に到着した。

 裏方の男が扉を開け中に入る。ジクルドと氷兵士二体と、エネルとプラチナも続いた。

 ジクルドはいつでも、男の裏切りに対応できるように大剣を握りしめていた。


「この時計の針を回せば……」


 部屋に入るや否や、男は備え付けられていた大きなノッポの古時計の長針に触れた。

 すると部屋の隅に置いてあった二つの本棚の片方が、横に動き出し下へと続く石の階段が姿を現した。


「隠し通路か。何処に繋がってる?」

「下水道を通って城下町の裏方の隠れ家へと繋がっています。裏方専用の隠し通路なので、偽レスティア王には把握されていません」

「偽レスティア王……」


 男の言葉をエネルは小声で復唱したが、切り替えて問いを投げかけた。


「隠れ家へ繋がってる保証は? 騎士団にとってはお前の罠を考慮しないといけない」

「保証はありません」


 男は首を振った。そして装備していたナイフを抜いて自身の首元に切っ先を向けた。


「初対面の私が、信用を得るために差し出せるのは命ぐらいです。この命を持って、罠はないと証明するしかありません」

「ちっ!」


 エネルは舌打ちをした。

 裏方を自称する男は裏方のような言動をした。しかしそれは、罠かもしれない。

 自身の命を消費した上で太陽の騎士団を罠に嵌めようとしているのかもしれない。

 時間がない事と、現状何者かの都合のいいように誘導されている感じがして、エネルは舌打ちをしたのだ。


「とりあえず分身かもしれないし……ジクルド、そいつを思いっきりぶん殴れ」

「了解した」


 ジクルドの右ストレートが、男の顔面に炸裂した。

 呪文で発現された分身体は、強い衝撃を加えれば発現が終わりその姿を消失する。

 しかしプラチナが驚く中、衝撃で吹っ飛ばされた男は壁に激突するだけで、消失はしなかった。

 少なくとも本体の可能性が高く、本当に自身の命を持って証明しようと覚悟していた事になる。


「要塞化、ほぼ完了したよ! 脱出の手筈はどうなって……いや、何してるの!?」


 部屋に入って来たエーテルが今の状況を見て、驚きの声を上げる。

 続けざま、スターとヴァニラも部屋に入って来た。


 スターが言った。


「エネル、状況は?」

「脱出は本棚の隠し通路から。城下町の隠れ家へ繋がってるらしいけど保証はなし。こいつは分身体ではない。次の行動を思案中」


 ジクルドが、壁からずり落ちた後のよろけながら床から立ち上がった男に質問した。


「確か逃走を確実にするための一工夫を施すと言っていたな。具体的な方法は?」


 男は目出し帽の下から垂れた血を拭って答えた。


「私がこれから人数分の分身を発現します。そしてその分身に変身呪文を唱えさせ皆さん化けます。部屋の窓から飛び出し、私本体も含めて囮役を引き受けるつもりです」


 囮が注意を引きつけている間、隠し通路から騎士団を脱出させる手筈だった。

 だが無事に脱出できる保証は存在しない。


 その時、部屋の外からの衝撃が大きくなった。

 それは籠城できる残り時間が少なくなっている事を意味している。


 ヴァニラが部屋の壁に目をやって眉間に皺を寄せた。


「不味いわね。氷の兵士がやられてる……もう時間がないかも」

「じゃあ、……多数決で」


 エネルが不承不承に提案した。顔を嫌そうに引き攣らせている。


「時間がないからね。何となく結果が読めてるけど」


 多数決の結果、反対はエネルの一つだけで隠し通路からの脱出が決定した。

 無論、裏方の男は参加していない。


「それでは……ガンゲ・ペルツド」


 男は、自身の分身体を六体発現し、続けて変身呪文を分身体に唱えさせた。


「「「「「「ポリ・ペルツド」」」」」」


 見る見るうちに分身体達の姿が変わり、その場に太陽の騎士団とプラチナがもう一組発現された。


 プラチナはその異様さにスターの後ろに隠れ、ヴァニラとエーテルとエネルは嫌そうに自身そっくりな分身体を眺めた。


「私の名はライネルと申します」


 裏方の男は目出し帽を取り、その顔を騎士団に明らかにした。

 茶色の坊主頭の寡黙そうな男だった。口元には拭いきれてない血が付着している。


「後程、私も合流します。合言葉は私がレスティア王と問いかけます。太陽の騎士団の誰かが加齢臭やばい、と答えて下さい」

「いや、その合言葉でいいの?」

「はい」


 エーテルの問いかけに頷いて、ライネルは再度目出し帽を被り、分身達と共に窓際まで歩を進めた。

 そして振り返って言った。


「隠し通路に入った後に、置き時計の長針を元に戻せば本棚が通路を塞ぎます。……皆さん、どうかご無事で。幸運を」


 頭を下げてライネルと分身六体は、窓ガラスを突き破って囮役を引き受けていった。

 割れた窓の外からゾルダンディーの兵士達の追撃の声が届いてくる。


 エネルがため息をついて言った。


「それじゃあ、さっさと行こうか」

「ちなみにエネル」

「ん?」

「罠だったらどうするの?」


 ヴァニラの疑問にエネルが答えた。


「ゾルダンディーより太陽の騎士団の方が、わらわ的には大事だから……最悪アノマリーをぶっ放していいよ」

「そう、ね……そんな展開にならなきゃいいけど」

「本当にね」


 太陽の騎士団とプラチナは隠し通路に足を踏み入れた。

 全員が中に入って、ヴァニラの氷の兵士に置き時計を操作させ通路を塞がせた。


 暗闇の隠し通路は真っ暗だった。

 スターの盾手裏剣を光源にして、慎重に音を立てずに階段を降りる。


 壁を隔てた向こう側では、国のトップを襲った襲撃犯達を捜索する喧騒が大きく鳴り響いていた。



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