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7-2 到着、謁見。そして……

 そしてプラチナ達一行は特に問題なく国境入りを果たし、普通列車を乗り継いで無事に到着した。


 国のトップが住む城を中心として造られた城塞都市。

 ゾルダンディーの首都リベヤ。レスティア王のお膝元。

 その城下町にある大きな駅のプラットホームに、プラチナは足を付けた。


「………………ウン、ツイタネエネルチャン」

「いやカタコト! プラチナ緊張しすぎでしょ!」


 到着する前から緊張で震えているプラチナに、エネルが思わずツッコミを入れる。


 空中列車内で湧き上がった不安と緊張は、それ以降もプラチナの身体に蓄積していった。

 首都に近づくにつれ、段々とそれが重くのしかかってくる。

 夜も眠れない時間が増え、多少の睡眠不足にも陥っていた。


 エネルが言った。


「プラチナ、まずは深呼吸だよ深呼吸。別に死にに行くわけじゃないんだから落ち着いて」

「ウンソウダネ」

「わらわ達、太陽の騎士団も同行してるんだから。はい、深呼吸!」

「ウンソウダネ」

「いや、だから落ち着けって……」

「ウンソウダネ」

「実はスターって女装が趣味なんだよね。知ってた?」

「ウンソウダネ」

「駄目だこりゃ」


 呆れて肩をすくめるエネルの横で、同じく呆れ顔のヴァニラが呪文を唱えた。


「何馬鹿やってんのよプラチナ……フロスト」

「あぎゃっ!?」


 発現した小さな氷塊をプラチナの服の中に入れる。

 突如背筋に感じた冷たい感触に、思わず身体をくねらせてしまった。


 それで正気に戻ったプラチナはしゃがみ込み、少しの涙目と共にヴァニラを見上げ見た。


「ヴァニラちゃん、ツンデレ辞めてよ……」

「プラチナ……あなたも言うようになったじゃない」


 ここまでの旅路でヴァニラの人となりを知ったプラチナは、エネルとエーテル同様仲良くなっていた。


「はい! それじゃ早く移動して!」


 エネルの号令で歩いて改札を抜ける。

 その途中でスターが、周囲を警戒しながら口を開いた。


「ヴァニラが呪文を発現したのにお咎めなしか……」

「そう言えば、そうだね」


 スターの後ろに続くエーテルも辺りを見回す。


 駅のプラットホームには他の乗客や駅員は勿論いる。しかもゾルダンディーの首都の駅だ。

 そんな場所に、世界でも有名な太陽の騎士団が降り立ち、その内の一人が呪文を唱えた。

 どの街でも呪文の発現は基本的に御法度だ。それなのに誰が飛んでくる気配はなかった。

 ヴァニラはアノマリーの呪文使い。ゾルダンディー側も、それは掴んでいるはずなのにだ。


「迎えの人間もいないのね」


 午前の暖かな陽射しが降り注ぐ中、駅の出入口でヴァニラが呟いた。

 大きな都市にある駅の出入口付近には、馬車やら自動車が大抵はある。しかしレスティア王からの出迎えはない。


 謁見はいつでも良いよ、と手紙には書かれていた。しかしそれだけだ。

 騎士団側も国賓待遇で出迎えろとは伝えてはないが、徒歩で城へ赴く事になるとは思っていなかった。


「とりあえず、城の入り口まで歩こうか。わらわゾルダンディーには過去に何回か来た事あるから案内できるし、そう遠くはないよ」


 エネルを先頭に太陽の騎士団が街中を練り歩く。

 コンクリートよりは、石畳の地面や煉瓦の建物が多く散見される。

 ゾルダンディーは歴史的にも長く存在した国であるため、過去の名残がある建造物が多い。少しばかり時間が巻き戻ったような古い街並みだ。


 しかし鎖国が解消されている事もあり、住人の衣服などは今風であった。

 首都リベヤの治安は良いと、事情情報で知っていた。住人は普通に生活し、往来を行き交っている。

 見慣れない太陽の騎士団の集団を視界に入れても、ちらりと見るだけで通報はされない。

 

「…………」


 プラチナは、そんな街中を進みながら父に想いを馳せる。

 本当にまだ物心がつく前後に、父と母と、アルマンと街を歩いた色褪せた記憶が蘇っていく。

 あの時は皆笑顔だった。誰もが楽しく笑って明るい未来を思い描いていた。

 しかしその少し後に、父に幽閉された。明るい未来は思い描くだけで終わってしまった。


(アルマンは事情があるって言った。だから私は……)


 そして今、父に幽閉の理由を聞きにゾルダンディーにやって来たのだった。


「見れば分かるけど、この橋を渡れば城に到着するよ」


 エネルが指で示す方向、流れる大きな川を挟んだ向こう側に威厳がある堅牢な城塞が聳え立っていた。


 太陽の騎士団本部と違い、街の近くに鎮座する国のトップが居城する城。

 川を隔てているが、この周辺になると水が流れる音と関係者が仕事をする音しか聞こえず、街の喧騒などは遠く、物々しい雰囲気に包まれている。


「さて、いよいよレスティア王との謁見なわけだけど……心の準備はいい? プラチナ?」

「うん、大丈夫じゃないけど……一人じゃないから大丈夫」

「よし、じゃあ行こうか」


 エネルの確認後、一行は橋を渡った。




○○○




「お待ちしておりました。太陽の騎士団御一行様」


 橋を渡り切り、石の城門を越えた先の中庭に佇んでいた一人のメイドが丁寧に頭を下げた。

 紫色の髪に黒のロングエプロンドレス姿。どう見ても背後の城で仕事に従事するメイドだ。


「レスティア王より案内を仰せつかっておりますシンシアと申します。よろしくお願い致します」


 敬語で話しているが愛想はなく、言葉遣いは何処か素っ気なさが含まれている。

 義理で仕方なく応対している感じだ。


 エネルが言った。


「えっと、レスティア王が待ってるんだよね?」

「そうです。王の間でお待ちです。……返事の手紙を私に」

「あ、はいはい」


 エネルが騎士団宛に届いた手紙を手渡し、シンシアがゾルダンディーの刻印と内容を確かめた。


「うっわ、文字少な。何ですかこれ? コミュ障?」

「それが素かい……文字が少ない理由は知らんし手紙を出した翌日に返事が来たんだけど。何で?」

「さぁ、何ででしょうね?」

「知らないの?」

「ええ、私の仕事は案内ですし。一介のメイドが知ったこっちゃありません」


 シンシアは肩をすくめた後、踵を返して入り口の扉を開けてそのまま歩き出した。

 確認は済んだと判断して、一行も後に続く。


 城の玄関ホールは、騎士団本部と同様に広々としていた。

 天井はかなり高く、石畳や石壁、年代物の建造物のせいか所々に古臭い雰囲気が漂っている。

 しかしホールを横切り階段を登れば、煌びやかな白の廊下へと出た。


 エネルが質問した。


「仕事してる人、少なくない?」

「レスティア王の命により、本日の人員は最小限のものになっております。謁見の邪魔をされたくないとの事です」


 城内は閑散とはいかなくとも、人の数はそれなりであった。

 王の間へ移動する途中で、すれ違う哨戒中の兵士や事務仕事の人間は少なく、街中と同様ちらりと見てくるだけだ。


 ジクルドが小声でスターに囁いた。


「あのメイド……人間ではないな」

「ジクルド、気持ち悪い気配がしないのか?」

「ああ、エネルと同じ感覚だ。無機質感がある」

「呪文で発現した存在もしくはオーバーパーツか。手紙の返事の早さといい、警戒しといた方がいいか」

「警戒する必要はありませんよ」


 先導するシンシアの後ろ姿から声が届く。


「ハゲが治る洞窟には興味がありますが、それを管理する太陽の騎士団については、関心がありませんから」

「何を言って……?」


 スターが疑問を呈した直後、シンシアがくるりと振り返った。


「王の間に到着しました。私はこれで」


 義務的な一礼をして、何事もなかったようにその場から立ち去っていった。


 いつの間にか到着した、右手にある重厚な両開きの扉の前で、エーテルが言った。


「行っちゃったね、ハゲが治る洞窟に興味があるメイドさん」

「そうだね。……意味深な言葉残して去るのやめーや、ってわらわ思うんですよ」

「興味なしで去って行ったのだからどうでもいいでしょ。それよりもプラチナ」

「う、うん」


 ヴァニラの声掛けにプラチナは息を呑んで応えた。もうここまで来たのなら、言葉はいらない。

 ジクルドと共に前に出たスターが振り向いた。


「プラチナ、中に入るが……」

「はっ、はい!」

「よし」


 両開きの扉を二人で開けて、一行は王の間に足を踏み入れた。



「ようやく来たか。待ち侘びたぞ」


 数百の人間を容易に収容できる大広間が、そこにはあった。

 長方形の広大な空間は豪華絢爛に彩られている。

 石畳ではなく装飾が施された大理石の床、天井に吊り下げられた装飾性の高いシャンデリア、空間の奥には赤と金で構成された玉座が設置されていて、式典や行事がここで行われるのが容易に想像できる。


「さあさあ遠慮せず席に着いてくれ。料理もまだ冷めてはいないぞ」


 大広間の中央には、赤のテーブルクロスが掛けられた長テーブルと複数の椅子が置かれており、テーブルの上に種類多彩な出来立ての料理が湯気を立てていた。

 一行の視線はたった今、長テーブルの一番奥の椅子に腰を下ろした男に向く。


 三十代前半の一国を治めるには若い緑髪の男。紺色の軍服に黒のマントを纏っている。

 ゾルダンディーのトップ、レスティア王。プラチナの父親。


「……どうした? 座らないのか?」


 レスティア王は首を傾げ、着席を促している。

 スターが僅かに戸惑いながら口を開いた。


「謁見に、来たわけだが何故料理が?」

「謁見と言っても、儂的には太陽の騎士団をリスペクトしているからな。ならば歓迎し、もてなすのは当然と言うものだ」

「……リスペクトしていたのか?」

「口にするのは初めてになるがな。……ハゲが治る洞窟とかいうわけの分からない物を、復興のシンボルとして活用し世界に平和をもたらした。過程はどうあれ太陽の騎士団は結果を出したのだ。その結果は並大抵の事ではない。リスペクトもするさ」


 レスティア王は普通に話している。

 悪意はカケラも感じられない。本当に歓迎している様子だ。


 スターが続ける。


「リスペクトは横に置いとくとして……」

「うん?」

「注目すべき点があると思うんだが」

「注目すべき点?」


 レスティア王はスターをじっくりと眺め、それからスター以外にちらりと視線を移した。

 そして再度首を傾げる。


「すまん。儂には分からんのだが」

「…………」


 事前にプラチナと騎士団で、レスティア王の外見の認識の一致は済ませている。

 今目にしているレスティア王は、プラチナの父親レスティア・アリエールで間違いない。

 しかし幽閉の後、遠く離れた田舎に追いやった実の娘が遥々会いに来たのにこの反応。

 何故そんな反応をするのかは、誰にも分からなかった。

 年数が経過しているため、成長したプラチナを娘だと認識できていないのか。


「エネル、どうすればいい?」


 エネルは固まっているプラチナを見た後、スターに小声で言った。


「まずはコミタバの情報を引き出す事から始めようか。……プラチナはレスティア王の正面の椅子に座らせて」

 

 一行はひとまず、プラチナをレスティア王に正対できる椅子に座らせて各々が着席した。

 レスティア王が愛想良く笑った。


「さて、これでゆっくりと話しができるな。だがまずは歓迎だ。料理を堪能してくれ。王専用の料理人が作ってくれた料理だ。味は保証する」

「いや毒入ってるかもしんないし食うのはちょっと……」


 エネルが渋ると、レスティア王が肩をすくめた。


「いやいや毒なんて仕掛けてないって。何ならエネル剣が毒味をすればいい。剣だから毒なんて効かないんだろう?」

「毒味って言い換えると間接キスなんだよね。ヴァニラ、エーテル……わらわと関節キスしたい?」

「嫌に決まってるでしょ、エネル錆び臭いし。常識的に考えなさい」

「ボクもヤダよ。ばっちぃしエネル錆び臭いし」

「という事でわらわ達、作ってもらって悪いけど飯は食わん」

「あ、うん……なんかドンマイ」


 スターはプラチナに視線を向けた。

 プラチナは引き続き固まってはいるが、先程よりは立ち直っており、今はレスティア王を凝視している。

 まだ発言には時間がかかると判断して、口を挟んだ。


「レスティア王」

「む、どうした?」

「コミタバについて聞きたい事がある」

「そうか、何でも聞いてくれ。コミタバにはスパイを潜入させているからな。分かる範囲なら情報を提供できるぞ」

「……スパイが潜入しているのか」

「ああ。最近では傭兵のレオナルド・レングレーが死亡したらしいな。未確認の情報になるが」


 先日のドバード秘密都市の地下は、あの時点ならまだ秘密性が高かった。

 そしてレオナルドが死亡してから、そんなに日が経過していないのに、もうその情報を掴んでいるのかとスターは舌を巻いた。

 本当にあのコミタバにスパイを紛れ込ませているのだ。


 レスティア王は少し目を伏せてから、続けた。


「しかし最近のコミタバは活動を激減させ地下に潜っている。その動向は、はっきりとは掴めていない」

「ゾルダンディーでもそれは同じか」

「太陽の騎士団側でも掴めてないのか?」

「ああ、嵐の前の静けさみたいで気味が悪い」

「ふむ……」


 レスティア王は自身のこめかみ付近に人差し指を当てた。そして少しの間考えてからスターに言った。


「ならば情報提携でもするか」

「いいのか?」

「当然だ。コミタバは社会のゴミ。見つけ次第皆殺し。犯罪組織を放置する理由はない。ただ……」

「ただ?」

「その、一つだけ条件が……あってだな。いや、大した事ではないんだが」


 レスティア王は急に歯切れが悪くなった。スターに対して、しどろもどろの態度で接する。


「条件?」

「っ、ああ大した事じゃない」

「……大した事じゃないなら言えばいいだろう?」

「確かにそうだ、すまない。その……つまりだな!」

「あなたは誰?」


 その時だった。

 レスティア王を凝視していたプラチナが言葉を発した。硬直は既に溶けて、その声音に震えはない。

 確信を持って口にしている。


「あなたは……お父さんじゃない。本物のお父さんは何処?」


 プラチナは自身の五感の一部が、異常をきたしているのを心の何処かで感じた。

 テーブルに置かれた料理の匂いは消え失せ、視界に映る景色は白黒のぬり絵みたいになっていく。

 そして周囲の音は遠ざかり、しかし何処か違う遠くから声が聞こえてきた。


 ――○る○○・ス○○○ク!!


 それは聞き覚えのある懐かしい声だった。ずっと聴いていたくなる自分が好きな声。


 ――○るが○・ス○○○ク!!


 叫んでいる内容が気になった。誰かの名前らしき単語を言っている。


 ――○るが○・ス○○イク!!


 プラチナは聞こえてくる名前を理解した。

 しかしまさか、その名前が聞こえてくるとは思えずとても驚いてしまった。


 数秒後、異常をきたしていた五感の一部が元に戻っていく。匂いも景色も元通りになり、懐かしい声は既に聞こえなくなっていた。


「………………」


 王の間にいる全員の視線がプラチナに集中する。

 プラチナは斜め下に視線を傾けて呆けていた。

 一人を除いて、プラチナの次の言葉を待っていた。


 プラチナは口元に手を当てて、聞こえてきた名前の人物を確認するように、視線をレスティア王に戻して呟いた。


「バルガス……ストライク?」

「ラウンセント・メラギラドン」


 灼熱の大火球が、レスティア王側から射出された。



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