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6-5 ゾルダンディーへ出発

「確認するけどプラチナ。この手紙、何て書いてある?」

「謁見はいつでも良いよ……って」

「やっぱりそう書いてるかぁ、返事早すぎぃ文字少なすぎぃ」


 手紙を読んだプラチナの返答に、エネルが頭に手をやってため息をついた。



 前回と同じ、騎士団本部の司令室で対応の協議をしていた。今回はエーテルとジクルドも同席している。


 昨日の内に謁見を申し出る手紙を書いて、ゾルダンディーのレスティア王宛に出した。

 本来なら一週間前後に返事の手紙が来る予定のはずが、二十四時間経たないで到着した。

 これには全員が驚愕し、訝しんだ。


「罠、かな?」

「どうだろ。過去の来訪がなければ、わらわ罠だと断定しちゃうんだけどね……」


 エーテルの言葉にエネルが答えた。エーテルもジクルドも既に状況は把握済みだ。


 スターとジクルドとベネットは、騎士団長用の大きな机に資料類を乱雑に置いて、情報の整理をしている。

 スターがジクルドに聞いた。


「手紙の返事が来たわけだが、これについてどう思う?」

「……ゾルダンディー側に、こちらの情報が漏れている可能性がある。諜報員、裏方等の。だが判明の仕方が気に食わない」

「同感だ。騎士団内に内通者がいるなら、こんな形で露見するはずがない。何故手紙の返事を最速にしたのか……」


 その時、司令室にモヒカン分身が入って来た。言葉遣いと雰囲気は荒くない。


「カインからの伝言です。先程確認を終えました。ゾルダンディーの諜報人員及び、裏方の全員が無事です。以上です。私はこれで」


 モヒカン分身は司令室を出て行った。

 扉が閉まり、スターが少し気を緩めて言った。


「全員が無事、か。とりあえずは一安心だ」


 ベネットが頷き応えた。


「ええ。諜報という危険な任に就いてくれている彼らを、失うわけにはいきませんからね」


 無事の知らせを受け、司令室に流れていた緊迫した空気は霧散した。

 ひとまず、現在出ている情報を整理して今後の対応を考える事になった。


「プラチナの意向を確認しなければいけません」


 その場に立ったままのベネットが、プラチナの方を向いた。


「レスティア王への面会を希望する気持ちは……まだお持ちですか?」


 プラチナは、はっきりと自分の考えを伝えた。


「私は、お父さんに会って話がしたいと思っています。ですが、無理なら無理で全然構いません。騎士団に対して迷惑は掛けたくないので」

「……それは一人でゾルダンディーに赴く事を視野に入れている、とも聞こえますが?」

「いえ、一人はちょっと。お父さんに苦手意識がありますし……行く気は全くありません」


 意味も分からず幽閉され、国外に連れて行かれた。

 一人で父の元へ行って、事情を聞くのはプラチナにとって難しかった。

 スターとエネルが一緒じゃないと無理だ。


「分かりました。もう少々お待ちください」


 ベネットはそう言って、再び資料に目を通して情報の整理に戻った。

 意思確認を聞いていたスターとジクルドも、作業を再開した。エネルも加わった。


 プラチナはソファに座って、既に冷めた紅茶を眺めながら、自分なりに状況を整理する事にした。

 幽閉される前の、父の姿を思い出しながら。




「よし、それじゃ通達します!!」


 それから三十分後、情報整理が終わりエネルが宣言した。


「協議の結果、プラチナのお願いを叶える形ではなく、太陽の騎士団の正式な任務として、ゾルダンディーへ向かいます!!」


 間髪入れずにエネルが続ける。


「人員はわらわ、スター、ジクルド、エーテル、そしてプラチナの五人!! 準備ができ次第出発!! 空中列車でゾルダンディー国境付近まで移動し、その後普通列車に乗車、レスティア王と対面する!!」


 太陽の騎士団の影響力は街の外まで広がっている。

 その範囲内ならば、国境を超えて街や村の上空に空中列車を停車させれたり、要請すれば宿屋に部屋を提供させたりなど色々融通が利く。

 ゾルダンディーは影響の範囲外だった。


 プラチナが嬉しさ半分、疑問半分の気持ちで質問した。


「いいのエネルちゃん? その、危険な感じがするのに……」

「しっかりと協議した上での選択だからね。今から理由を説明します」



 レスティア王との謁見を選択したのは、ゾルダンディーからコミタバの情報を引き出したいからだった。


 太陽の騎士団は最近、コミタバの動向を全く掴めなくなっていた。

 ハゲが治る洞窟で世界的な復興を成し遂げたという影響力と権力を行使しても影も形も見つからない。

 コミタバの殲滅を目指す組織としては、それが嵐の前の静けさみたいで非常に気持ち悪かった。


「え、でも……ドミスボで遭遇したデイパーマーは? それと秘密都市でも」

「あれ二つは予期せぬ遭遇だね。あの時のわらわとスターの目的は、プラチナの送り届けと秘密都市の調査だったし。コミタバは予想外だった」


 コミタバが見つからずピリピリしていた時に、出て来たのがプラチナのお願いだった。

 ゾルダンディーは五年前の戦争での被害がほぼない国。諜報力や裏方は健在で、情報収集は当然行なっているはず。

 ならば犯罪組織コミタバの動向も掴んでいる可能性がある。

 言葉は悪いが、プラチナをダシにしてレスティア王と接触を図り、コミタバの情報を取得する。

 それが謁見を選択した理由だった。

 ちなみに、前日の三人でゾルダンディーに赴く事を許可した理由も、それが含まれている。


 エネルが恐る恐るプラチナを見た。


「えーと、プラチナ怒った?」

「ううん全然。エネルちゃん続けて」

「あっ、はい」


 しかし手紙を送った翌日に返事が届いた。それは太陽の騎士団の情報が、ゾルダンディー側に漏れている事を意味している。


「意味してるんだけど……諜報員と裏方は全員無事を確認したし、レスティア王との関係は表面上良好だし、コミタバは絶対にぶち殺したいしで色々と考えた結果、騎士団の任務としてゾルダンディーに行く事に決定したのです。……まあレスティア王とのあやふやな関係をさっさと処理したいのもあるか」


 説明疲れで喉を潤すエネルに代わって、ベネットが言った。


「エネルが言ったように、ゾルダンディーにも裏方が存在するのは、アルマンという老人で確認されています。もしかするとレスティア王は、太陽の騎士団にプラチナがいるのを把握していて、連れ戻したいと思っているのかもしれません」

「お父さんが……」


 それなら、謁見はいつでもいいよ、という内容の手紙がすぐに届いたのも理解できるかもしれない。

 父は何らかの理由で、今の自分を呼び戻したいのだ。

 でもそれは、自分が太陽の騎士団の元を離れてゾルダンディーに帰る事であって……。


 エネルがプラチナを安心させる声音で言った。


「大丈夫だよプラチナ。嫌なら嫌で、事情だけ聞いて騎士団に帰ればいいよ」

「でもエネルちゃん。それじゃコミタバの情報は手に入らないんじゃ……」

「実の娘に嫌な思いをさせる親なんて信用できないでしょ? 騎士団的にもそんな奴と情報のやり取りなんてしたくないし」


 プラチナはエネル以外の顔を見た。

 スターもエーテルもベネットも頷いて応じてくれた。ジクルドは鉄兜で表情は分からなかったが。

 プラチナは心の底から感謝した。


「ですが何らかの罠、もしくは予期せぬアクシデントに対しての備えをしなければなりません」


 ベネットが続けた。


「その一つとして人員の増強ですね。ドバードの秘密都市での同行経験があるジクルドとエーテルが適任と判断し追加しました」


 静かに説明を聞いていたエーテルが、うんうん頷いて言った。


「なるほどそういう事か。任務内容は理解したよ、よろしくねプラチナ!」

「うん、よろしく」


 秘密都市での体験がプラチナを安心させる。エーテルとジクルド。この二人なら心強い。


 ベネットが司令室にいる全員を見回して言った。


「さて、何か質問はありますか? なければ出発準備に移行して、でき次第ゾルダンディーに赴いてもらいますが……」

「んっ」


 何か息が漏れる声がして、全員の視線がスターに集中した。スターが右手を振って応える。


「いや悪い。少し考えてた事が声に漏れただけだ」

「考えてた事?」


 エネルが首を傾げるとスターが頷いた。


「不確定な要素が多い中でゾルダンディーに赴いて、一体何が起こるんだろうって思っただけ……」




○○○




 その後、プラチナは自室で出発の準備をしていた。

 だが元々の荷物が少なく、準備はすぐに終わった。


「これ全部……スターとエネルちゃんに買って貰った物」


 閉じた旅行用の鞄を見つめて、中身を思い浮かべてため息を吐き、一人呟く。

 一体いつになったら二人に恩返しができるのか。


「回復呪文を発現できるし役には立てるチャンスはあると思うけど……」


 ハゲが治る洞窟がある街に来て、断られても全然構わないお願いを叶えてもらって、ゾルダンディーに向かう。

 騎士団員なったアルスと違って、自分の立ち位置はまだ定まってない。


「まずは自分がどうなりたいか決めないと。そのためにもお父さんと……」


 貰ってばかりの後ろめたさを感じつつ、プラチナは鞄を持って立ち上がり、扉を開けた。


 騎士団本部の玄関でスター達と合流し、自動車に乗車して駅に向かう。

 天気は曇り空。分厚い灰色の雲に空が覆われて外は日中なのに薄暗い。

 

 駅は天気に関係なく、いつも通り人がごった返して活気に満ちていた。

 分刻みの列車運行のため、僅かな時間プラットホームの人が捌けても、またすぐに混雑するのだろう。


「あれ……?」


 数多いプラットホームの中で一つ、ほとんど人がいないプラットフォームをプラチナは目にした。

 いや、ほとんどではなく二人だ。線路上に停車している空中列車の横で佇んでいる。


 一人はベネット。モヒカン状態ではない丸眼鏡のベネットが困り顔でそこにいた。

 もう一人は自分より一つか二つ年上の女だった。藍色の髪をした団服姿ではない女。


(誰だろう? 綺麗な人だけど……)


 そう考えながら、その二人の所まで歩いて行く。

 到着後、藍色の髪をした女がこちらに笑いかけてきた。


「初めましてプラチナ。私はヴァニラ。ヴァニラ・コースキー」


 ヴァニラと名乗った女はにっこり微笑んで続けた。


「ゾルダンディーには私も同行するわ。どうぞよろしくね」


 エネルが面倒臭そうに口をへの字に曲げたのを、プラチナは目撃した。



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