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6-4 ゾルダンディーについて

「どうぞ紅茶です。高級茶葉を使用しているので味に問題はないかと」

「ありがとうございます」


 モヒカン状態ではないベネットが、テーブルの上に紅茶を置いた。

 プラチナは湯気立つカップを両手で包み、口で少し冷ましてから一口飲んだ。

 暖かい液体が胃に落ちてきて、そこから少しずつ熱が広がっていく。

 高級さは分からないが、おかわりをお願いしたい味わいだ。


(でも、はしたないから辞めとこう……)


 太陽の騎士団本部にある司令室らしき部屋だった。プラチナは中央のソファに、エネルと一緒に腰を下ろしていた。

 テーブルを挟んで向かい側のソファにスターとベネットが座っている。


 部屋の奥には大きな黒檀机があって、書類の束が乱雑に積まれていた。

 団長専用の机との事だが、騎士団に団長はいないため資料置き場に成り果てている。


「それでは……結論から申し上げます」


 ベネットが光る丸眼鏡を指で上げて言った。


「三人でゾルダンディーへ赴いても構いません。準備が整い次第になりますが」

「あっ、許可出るんですね……てっきり断られても仕方がないと思ってました」

「ええ。まあ流石に一国のトップと会う以上、今すぐ出発とはいきません。事前にアポを取る必要があります。そして太陽の騎士団とプラチナ、この両方で認識の擦り合わせをしなくてはなりません」

「認識の擦り合わせ?」


 プラチナが疑問を呈すると、横にいるエネルが答えた。


「実はね、レスティア王と太陽の騎士団は初対面というわけではないんだよ。過去に一度この街に来てる」

「……どういう事?」


 予想外の情報をプラチナは飲み込めなかった。

 父と太陽の騎士団がすでに会っている? 

 それは一体何故、どういう経緯でなのか……。


 エネルはプラチナに落ち着くよう促してから続けた。


「今から順を追って説明するよ。御静聴お願いします」


 プラチナは頷いて聞く姿勢を取った。




 ゾルダンディーという国は歴史的に長く存続している国である。そのため城壁や城砦など、昔ながらの建築物が多く残存している。

 政治体制はアリエール家の代表からなる君主制で統治され、今日まで王であるレスティア・アリエールが国を治めていた。


「まあそこはこれくらいにして、重要なのはゾルダンディーが鎖国をした事、何だよね」

「鎖国を……?」

「そう鎖国。五年前の戦争が起こる前、正確な時期は不明だけど、海外との交流を全て禁止にして国を閉じた状態にした」


 鎖国の命令を下したのはお父さん。プラチナがそう認識したのを見計らってスターが発言した。


「ゾルダンディーが鎖国したのは間違いない。当時のアカムにもその情報は入ってきていた。プラチナはその時……」

「私はお父さんに幽閉されてて、部屋の中だけしか知らなくて」

「国内外の様子を、把握できるわけがないか」

「はい……」

「わらわ説明を続けるよ」


 ゾルダンディーの鎖国政策は、結果的には大成功だった。

 鎖国のおかげで、世界大戦まで発展した五年前の戦争の被害を最小限に抑える事ができたからだ。

 戦火が広がりあらゆる国が滅亡する中、ゾルダンディーは変わらず存続した。

 そのせいもあって、レスティア王は賢王と讃えられ国民から支持されている。


 エネルが言った。


「でもゾルダンディーにはこんな噂がある。五年前の戦争を引き起こしたのはゾルダンディーじゃないのかっていう噂が……」


 プラチナが眉間に皺を寄せて聞いた。


「それは、何故?」

「世界規模の戦争なのに、国がほぼ無傷だったから。しかも今は発展して豊かな国になっているから。実はレスティア王が黒幕で、世界は奴に操られていたんだ!! みたいな感じで」

「…………それは」

「勿論、根も歯もない噂だよ」


 プラチナは俯いて言葉を失った。

 まさかゾルダンディーの国内外で、そんな事が起きていたなんて思いも寄らなかった。


(お父さんが、お母さんの見舞い来なかったのは忙しかったから……?)


 当時を思い出して考えてみたが答えは見つからない。

 母の「お父さんの事嫌いにならないでね」という言葉は、そういう意味だったのだろうか。


 あの時、アルマンはよく部屋に来て遊んでくれた。そして自分を国外に連れ出してくれた。

 アルマンは裏方。幽閉には事情があると言った。

 自分の祖父は一体何処まで知っていて……。


「プラチナ」


 スターの声でプラチナは我に返った。

 視線を向けると、スターが優しい声で落ち着かせてくれた。


「紅茶のおかわり、いるか?」

「……はい」

「うん、ベネット」

「はいはい。クッキーやマフィンもどうぞどうぞ」


 テーブルの上のコップに紅茶が注がれて、クッキーとマフィンも添えられた。

 プラチナは一緒に頂いた。物凄くマッチしていて、クッキーにまた手を伸ばしてしまった。


 横を見ればエネルがマフィン二個同時に口に入れ、リスみたいに頬張りながら紅茶を飲んでいた。


 プラチナは落ち着いた。ゾルダンディーに行くのだから、色々考えても意味はない。


 少し時間を置いて、ベネットが説明を継いだ。


「さて、そんなレスティア王ですが過去に一度、ハゲが治る洞窟がある街に来訪しています」


 時期としては、ハゲが治る洞窟を駆使しての復興が軌道に乗って、少し経過してからの事だった。


「勿論、いきなりではなく手紙から。内容は同盟締結のため来訪すると記されていました」


 ベネットは立ち上がり、部屋にある資料棚から大きめな段ボール箱を持って戻ってきた。

 箱の中を覗き込むと、大量の手紙が入っていた。


「これ、全部お父さんが書いた手紙……?」

「レスティア王が記したかどうかは不明です。ですがゾルダンディーから届いたのは確かです」


 太陽の騎士団は同盟締結を蹴った。ゾルダンディーは距離的にも遠いし、コミタバの対処があったし、レスティア王が黒幕の噂もあったからだ。

 仮に何か締結するなら、相互不干渉くらいだろう。


 ベネットが続ける。


「同盟を拒否した数日後、ゾルダンディーから手紙が届きました。内容は前回と同じ。太陽の騎士団は手紙を無視しました」


 また時間を置いてゾルダンディーから手紙が届いた。今度は同じ内容の手紙が二通。

 無論、騎士団はサラ読みしてゴミ箱に入れた。


「もはやただの嫌がらせで、同じ内容の複数の手紙が騎士団宛に届くようになりました。日に日に手紙の量はエスカレートしていきました。四通、十六通、六十二通……」

「そこでわらわが、こう返信しました。そこまで同盟締結したいならお前一人で来いや!! ただし護衛なしでな!! バーカ、アーホ、ウンコ、死ね!! って……」

「手紙の返信後、レスティア王は来訪しました。護衛はなし、一人でです。一国のトップがする行動ではありません」

「えぇ……」

「一応わらわ言っておく。真実だよ」


 プラチナは、今度は困惑で言葉を失った。

 自分が知る父の記憶と聞いた父の行動が合わない。

 顔を上げてスターを見た。スターは頷いた。真実だった。


「ベネット、さん。紅茶のおかわりをお願いできますか……?」

「了解しました。ちなみに、さんは入りませんよ。敬語はお任せしますけど」


 プラチナは三度注がれた紅茶を飲み込んだ。少し落ち着いたような気がした。多分。


 エネルが言った。


「レスティア王が来訪したけど同盟締結はしなかったよ。向こうも締結する気はなかったみたいだし……スターと話して帰っただけだし」


 スターが首肯した。


「本当に話をしただけだった。締結もどうでもいい感じだった。レスティア王は何がしたかったのか……」


 ベネットが話を継いだ。


「その後のゾルダンディーですが、鎖国は解消されました。今では貿易やら観光やら、人の出入りは普通に行われています。元々歴史的文化財が多い国でしたし」


 プラチナと太陽の騎士団の、認識の擦り合わせは終わった。

 ベネットは立ち上がり、手紙が入った段ボール箱を元の位置に戻した。


 四杯目を頼もうとしてプラチナは辞めた。これ以上は太る。我慢した。


 スターがベネットに聞いた。


「ベネット。ゾルダンディーにいる諜報員からの連絡は?」

「特に何も、です。国として目立った変化はありません。まあゾルダンディーにはあまりリソースを割いてませんし、取りこぼしがあるかもしれませんが」

「距離がある上に、コミタバもいるしな。優先順位的に仕方がない」


 太陽の騎士団には諜報班が存在する。

 世界規模で情報集め、騎士団に害をなす存在を事前に察知して対処するために設立した。


 しかし裏方のように、暗殺や破壊工作ばかりするわけではない。

 彼らはその国や地域の人間になって一般人レベルの情報を提供する。

 住んでいる土地の雰囲気、起きた事件事故、噂話、国の政策など。

 それらを手紙の暗号文で、もしくは電話の特定のワードで情報を伝える。

 ゾルダンディーにも、ゾルダンディーに移り住んで情報を提供する騎士団の諜報員が存在する。彼らからの情報では目立った変化はないようだった。

 

「えっと、……その」


 何だか空気的に、ゾルダンディーに赴けない感じがする。プラチナは少し狼狽えた。


 エネルが察して言った。


「今すぐゾルダンディーには行けないよ。ベネットが言った通り、アポやら最新情報やらを集める必要があるし」

「あっ、そうなんだ良かった……」


 ベネットが言った。


「とりあえず、一週間は準備に時間が掛かります。これからレスティア王に会う旨の手紙を書いて、ファング郵便で送って返事を受け取って、その間ゾルダンディーの最新情報を集めたりしないといけませんし」

「高確率で、レスティア王はスターの面会に応じるはずだよ。ハゲが治る洞窟がある街に来た後も、一年おきに手紙を寄越してくるし。関係性は良好だと思う」

「手紙、来てるんだ……」

「スター宛にね。後で読む?」

「ううん、読まない」


 プラチナは拒否した。これ以上は混乱してしまう。

 準備ができ次第、スターとエネルと一緒にゾルダンディーに行って、父に幽閉の事を聞く。

 余計なノイズはもう沢山だった。

 

「プラチナ。何か質問等はありますか?」

「いいえ、ありません」


 ベネットの声にプラチナは首を振った。


「それでは早速準備に取り掛かるので、私とスターはこれで」


 そう言って、ベネットとスターは部屋から出て行った。

 残されたプラチナが、ぽつりと呟く。


「何だか大掛かりになっちゃった……もっと気軽に行けると思ってた」

「一国の王に会うんだし、こんなもんだよ」

「そうなんだ。……うん、そうだよね。お父さん王様だった」

「そうなんです」



 その後は騎士団本部内を軽く、エネルに案内してもらった。

 途中で休憩中のエーテルに会って話したり、ヒカリと会って話したり、図書館で本を読んでいたら夕食の時間になっていた。


 食堂では騎士団員が大勢いて、プラチナは気後れした。

 だがエネルとスターとエーテルが一緒にいてくれて、アルスも加わって、他の騎士団員との会話も緊張はあまりしなかった。

 プラチナは美味しい料理に舌鼓を打ち、楽しい気分で夜を過ごし、その日を終えた。



 翌日、ゾルダンディーから手紙が届いた。

 本来なら一週間後に届く返事が、翌日に届いた。


 内容は短くこう書かれていた。

 謁見はいつでも良いよ、と。



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