表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/105

5-1 牢屋の中のレスティア王

「そうか……夢、だったか」


 暗闇の空間で嗄れた男の声が零れた。

 本当に光源が一つもない真っ暗な空間だった。まるで目を閉じているような錯覚さえも覚えるほどに。


 男は仰向けの上体を起こし、開けた両目をまた閉じて待った。暗い世界に目を慣れさせるためだ。

 数分後、男は目を開き、かけていた毛布を退かしベッドから降りた。その時に両足首に付けられた鉄の枷がじゃらじゃらと音を立てる。


 そのまま手探りであるものを探す。少しして見つけた。


 男は小さな箱を手元に寄せてスライドさせた。中から取り出したのは一本の棒。それを箱の側面に擦り合わせて火を灯す。頼りない小さな火が男と男がいる空間を照らした。


 地面を掘り進め作られた自然の地下牢屋らしき場所だった。地面も壁も天井も岩で囲まれている。

 鉄格子があって無機質な空気が漂っていた。窓が存在しない壁からは鎖が伸びていて枷に繋がっている。

 しかし火が照らす範囲には本や新聞の切り抜き、携帯食に水筒らしき筒がある。監禁される者の待遇ではないかもしれない。


 男は丸テーブルの上にある燭台にマッチの火を移した。蝋燭に火が灯り照らされる範囲が少し広がる。

 男はその火を静かに見つめながら、ついさっき見ていた夢を思い返していた。


「現実なら……どれだけ良かった事か」


 確実にそう思える夢だった。幸せな夢。

 娘のプラチナ、妻のオリビア、裏方を引退したアルマンと一緒にピクニックに出かけていた。

 自然豊かな場所で幼いプラチナが元気一杯にはしゃいでいる。太陽の光が降り注ぎ周囲を明るく照らし出す。地下牢とは真逆の世界。

 

「ところがどっこい。それは夢。これが現実」


 男はそう口にした。その声には自虐と自嘲、罪悪感の意が込められていた。


「……プラチナは今何をして」


 遠ざけた娘に思いを馳せる。

 アルマンが付いているから心配はしていない。だが一生娘に会えないのはかなり辛い。



 全てはプラチナのための行動だった。ゾルダンディーの鎖国も娘の幽閉もアルマンの連れ出しも。考え得る中でもっとも適した選択をしたつもりだった。


 しかし現実はこれだ。娘に嫌われ妻に先立たれ、自分は監禁され裏方を引退して自由になったアルマンにまた、任務を押し付けた。選択を誤ってしまったのだ。


「幽閉と監禁。儂はプラチナになんて酷い事を……」


 もっと別の選択をすれば、プラチナに事情を話していれば別の今があったのかもしれない。だが後悔しても後の祭り。

 男は無念そうに目を伏せた後、蝋燭の火を指で消した。


 もそもそと、じゃらじゃらと、音を立ててベットに潜り込む。もはやここから脱出するのは諦めていた。


 おそらく自分はこの牢屋の中で生涯を終えるだろう。一生娘に会えないままこの地下で朽ち果てる。


 しかし男には希望があった。現実を拒絶して夢の世界に行けば良い。夢ならば、娘に妻にアルマンにその他大切な人達と共に過ごせる。


 それが数年間監禁され、時間感覚が狂ってしまった男の希望だった。


 やがて地下牢に、ゾルダンディーの王であるレスティア・アリエールの規則正しい寝息の音が流れていった。


 仲睦まじいピクニックの続きの夢を見るために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ