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4-11 ハゲが治る洞窟がある街へ帰還

「……スター、分からない事をいつまでも考えても仕方がないと思うよ」


 分身体のバルガスが消えた後、エネルの言葉でスターが我に返り、全員で事後処理に回った。


 スターとエネル。二人の当初の目的である武器兵器の廃棄は、ドバードの兵士アルス・リザードの協力により達成された。

 アルスによる案内で格納庫に保管されている戦車や機銃、武器庫に保管されている銃火器類を発見し、その全てを呪文で破壊したのだ。

 これで地上にいる探索者達がやって来ても悪用される心配はない。

 また、兵舎に保管されていた機密文書類や資料についてもエネルの無限カバンに収納していった。


「大事な記録だからね。回収して他にも秘密都市があるかどうかとか、ドバードがアカムに戦争仕掛けてきた理由とかも解明しないといけないし」


 もう一人のドバード兵士であるグラフトン・リザードは、医務室で眠るように息を引き取っていた。

 もともと高齢で病に蝕まれていた身体のせいで、死期が間近だった。関係者であるアルスは彼の死を静かに悼んでいた。

 グラフトンの遺体もコミタバのモノリス対策のため火葬された。

 数年間国のために地下に篭り、寿命が尽きて死去した老人の火葬。燃える炎を見たプラチナは、アルマンの時の状況を連想し胸を締め付けられる思いをした。

 大切な人の死は誰だって悲しい。当たり前だ。


 地下都市内でまだ気絶していたクソデカファングを回収して地上へ向かった。


 地上の秘密都市は、相変わらず探索者達やならず者達の空き巣で賑わっていた。しかし逆に、ガチオーガは姿を眩ましていた。

 あれだけ存在感のある活動をしていたのに、その痕跡は残ったままなのに、何処にも見当たらない。

 スターもエネルも不審に思っていたが、答えは誰にも分からず保留となった。


 そしてプラチナ達一向は、海洋都市レッサブレッグに帰還した。

 そんなに長い間地下にいたわけではないのに、緊張ばかりの時間が続いたためか、街中の喧騒を見聞きすると何だか新鮮な気持ちになった。

 街中の白い建物と海にキラキラと反射する陽の光にプラチナは目を細めた。




○○○




「えー、それでは面接を始めます。まずは軽く自己紹介を」


 レッサブレッグの宿屋の一室。暖炉や本棚、ソファーが備え付けられている雑談スペースのある部屋で、面接官エネルが伊達メガネをキラーンと光らせてアルスに言った。

 太陽の騎士団入団のための面接だった。


「アルス・リザードと申します。人間創造のアノマリーで発現された呪文人間で、つい先程までドバードの軍に所属していました」

「え、今何て?」


 物凄く重要な自己紹介をさらりとされて、エネルは驚愕で聞き返した。スターもエーテルも、鉄兜で顔が見えないジクルドも、それぞれ驚いたリアクションでアルスに注目する。


 プラチナが聞き間違いではないかと、スターに確認をとった。


「スター、今アノマリーって……」

「ああ……アノマリーって聞こえた。呪文人間とも」


 太陽の騎士団とプラチナが、聞き間違いではないと認識した。



 使い方によっては一国を滅ぼせると言われているアノマリーの呪文。その中に人間を創造できるアノマリーが存在した。


 呪文を唱えて無から人間を発現する。

 創造された呪文人間は唱えた者を主と認識し、あらゆる命令に逆らう事ができない。そして普通の人間のように呪文の発現も可能である。

 アルス・リザードは呪文によって、この世に生を受けた存在だった。


「私は戦闘要員として創造されました。マスター……と言っても既に亡くなってますが、彼の命令で多くの戦いを経験しました」


 人間創造のアノマリーは練度が高ければ高いほど、より従順でより質の高い呪文を行使できる人間を創造できる。

 しかし性格や趣味嗜好まではその限りではない。戦闘が好きな呪文人間もいれば、嫌いな呪文人間も当然存在する。


「戦う事より困っている人達の手助けをしたい私にとって、戦場を駆ける日々は辛い事だらけでした。そこにあるのは苦しみと悲しみだけ。今でもあの日々は思い出したくはありません。……しかしある日、転機が訪れたのです」

「転機……? それは一体……」


 エネルの食い入るような声に、アルスが答えた。


「マスターの死、です。それで私は自由になりました」


 アルスを創造した主がある日殺された。命令で縛る者がいなくなれば呪文人間は自由になる。


「その後、マスターを殺害した組織に所属する事になりました。その組織名は……もう忘れてしまいましたが、少なくとも正しい行いをしていた組織でした。死んだマスターの暴力による世界征服を防ごうとしていましたし」


 しかしその組織は内部からの謀略で崩壊消滅し、濡れ衣を着せられて裏切り者扱いされたアルスは追われる立場となってしまった。

 いつ狙われるか分からない過酷な逃亡生活。時間と共に心身は疲れ果て、ついには追手に殺される寸前まで追い詰められた。


 しかしアルスは運が良かった。当時子供だったグラフトンに匿われる事で何とか九死に一生を得る事ができたのだ。


「ん? ちょっと待って」


 途中でエーテルが話の腰を折った。


「当時子供だったグラフトンって……秘密都市で見たグラフトンはおじいちゃん、だったよね? でも今のアルスの見た目は若くて……」

「ああ」


 アルスはエーテルの質問の意図を察して答えた。


「私の年齢は百を超えていますよ。肉体年齢は二十代ぐらいですが」

「「嘘ぉ!?」」


 エネルとエーテルの声が重なった。無論スター、プラチナ、ジクルドも驚いている。

 スターが唖然とした状態で聞いた。


「若返りの呪文やオーバーパーツ、か? それとも時間のアノマリー?」


 アルスはスターの顔を眺めた後、少し考え込んでから答えた。


「……実は覚えてないのです。昔自由になった後、何らかの呪文を受けた時から老化が起こらなくなってしまいまして、確か……」


 思い出そうと宙に視線を漂わせて首を振った。


「申し訳ありません。忘れてしまったようです」

「……そうか」


 アルスの表情からスターは嘘は付いてないと判断した。アルスが続ける。


「それで……グラフに救われた所からですね。そこからはグラフに恩を返そうとして今日まで付き従っていた……まあそんな感じです」


 とアルスは自己紹介を締め括った。エネルが困惑を含んだ声で言った。


「お、おう……終わったのね。わらわ圧迫面接をする人事ムーブしようと思ったら凄い自己紹介が飛んできてビックリしたよ」


 そのままエネルが続ける。


「ちなみに地下で参戦した理由は?」

「グラフは息を引き取る直前に"お前の好きなように生きろ"という言葉を残したからです。それに従いグラフを運んでくれたスター・スタイリッシュを手伝おうと参戦したのです。戦闘音は勿論聞こえていたので」


 アルスはその時の場面を思い返すように目を細めて答えた。


 全ては過去に助けられた恩を返すため。それがあるから内乱が起きた後の秘密都市に一緒に残り、グラフトンの最期が訪れるまで行動を共にした。

 しかしそれは終わった。しかも秘密都市に篭っている間にドバードは既に滅んでしまっていた。アルスは住所不定の無職になってしまった。


(住所不定無職……)


 プラチナは自身の背景を朗らかに語るアルスを見て、父レスティア・アリエールが頭に浮かんでいた。


 境遇は違えど住所不定無職に関しては自分と同じだ。大切な人が老人で、その最期を目の当たりして、火葬された事も同様に。

 でも違う点が一つあった。アルスは未来に向かって前向きになっている。それはグラフトンという友人が残した最後の言葉が起因している。

 ある意味アルスはグラフトンの束縛から逃れられたのだ。命を救ってくれた彼に対して恩を返す必要はもうなくなったのだから。

 自分の好きなように、これからは困っている人達の助けをできるようになった。前向きに未来を見据える事ができるようになった。


 アルマンの最後の言葉を聞いて、過去が気になる自分とは違う。その差異が心の奥底に沈めた感情を揺さぶってくる。

 どうして自分は父に幽閉されたのか。アルマンは分からないと言った。そして疎んで幽閉したわけでなく、事情があるとも言っていた。


(……それがいつの日か、分かる時が来るのかな)


 いつの日か、ゾルダンディーに赴いて父に事の真相を聞くしかないとプラチナは考えた。それ以外に幽閉した理由など分かるわけがないからだ。

 でもその前にアルマンの願いを叶えないといけない。そして自分を救ってくれたスターとエネルの役に立ちたい、恩を返したい気持ちも勿論ある。


(今はこっちが大事。幽閉の事情を知りたい気持ちは後回し)


 これからハゲが治る洞窟がある街に行って太陽の騎士団に保護されるわけだが、アルマンの願いと恩返しが達成できるのはいつになるやら。


 プラチナは誰にも気づかれないよう息を吐いた。沸々と湧いてくる父親への想いに蓋をするために。



「それで……私は太陽の騎士団に入団できますか?」


 そんなプラチナの内心を知らず面接は続く。自己紹介を終えたアルスにエネルが答えた。


「まあ結論から言って入団できると思うよ。分身体のレオナルド屠れる実力がアルスを放置したくないし、武器兵器の破壊や秘密都市の資料集めにも協力してくれたしね。そもそも戦争の余波で困っている人を助けるのも太陽の騎士団の仕事の内だし」


 ただ、とエネルが付け加えて続けた。


「まだまだ質問があるんだよ。ドバードが戦争を仕掛けた理由とか発現できる呪文とか色々。呪文に関しては話せる範囲で、戦争の理由は分かる範囲でいいから話してね」

「ええ。分かりました」


 アルスは愛想良く頷いた。




○○○




 それからも面接は続き、終わった頃には陽が傾いて夕方になっていた。

 海洋都市から見える夕焼けは、海の水に反射してとても見応えがあって、プラチナは初めて見る水平線の景色に見入ってしまっていた。


 秘密都市での戦闘もあり、その日は一泊して翌日にハゲが治る洞窟がある街に帰る手筈となった。

 勿論男女に部屋を分けて宿泊する。


 召喚生物であるクソデカファングの名前はパトラッシュだとアルスから聞かされた。

 アルスではなくグラフトンが発現した大型犬で、プラチナにも良くなつき、洗って綺麗になったフワフワの毛並みを心ゆくまで堪能した。

 ただ戦闘で叩きのめしてしまったジクルドとエーテルには、かなりの怯えを示しており、なつく気配は全然ない。

 エーテルはかなりの落ち込みを見せていた。


 エネルが茶化す。


「イェーイ! エーテル見てる〜、わらわとプラチナは〜、パトラッシュでモフモフしてまーす!!」

「チックショー! 何で煽ったーっ!!」

「隙を見せるのが悪いってわらわ思うわけ」


 就寝前、エーテルとエネルと一緒におしゃべりをした。明日はいよいよハゲが治る洞窟がある街へ向かう。

 いつか旅行に行きたいと思っていた街になるが、旅行ではなく自分は保護されに行くのだ。

 太陽の騎士団という戦争からの復興を成し遂げた組織。知らない人が大勢いる場所。プラチナはどちらかというと期待やワクワクより不安の気持ちの方が大きかった。


 エーテルが欠伸をして言った。


「そんなに不安がる事はないと思うよ。ボクも中途入団だけど、皆優しくしてくれたし。ねぇエネル」

「そうそう、騎士団員のほとんどが戦争で被災した人達だからね。そこから皆で協力し合って今の日常がある。コミタバみたいに変な事をしなければ親切な人ばかりだよ」


 そこでエネルは区切った後に、一つ付け加えた。


「でもまあ、モヒカンが結構いる」

「えっ?」


 エーテルも同調する。


「うん。モヒカンが結構いるねー」

「モヒカンが……何で?」

「それは到着した時のお楽しみ。……お楽しみ?」

「モヒカンはお楽しみ枠に入らないってわらわ思う」


 そして当日。太陽の騎士団とプラチナ、アルス、パトラッシュは宿屋の屋上にいた。

 五階建の高い位置から見える、朝の海洋都市の景色は素晴らしい。今日も元気一杯に日差しを浴びて、キラキラと反射して光っている。既に宿代は支払い済みだ。


 アルスが状況を掴めずに質問した。


「……あの、駅に向かわないのですか?」


 エネルが返した。


「もうちょっと待って。そろそろ来る頃だから」


 少しして、何処からか汽笛らしき音が聞こえたと思ったら、空の向こうからモクモクと煙を吐きながら蒸気機関車がやって来て宿屋の屋上の空中で停止した。


 プラチナとアルスが唖然とする中、乗り込み口の扉が開いて一人の大柄でいかつい顔をしたモヒカン頭の男が現れた。太陽の騎士団の団服を着ている。


「ハローヒャッハー!! アノマリー空中列車時間通りに到着したぜぇ〜グフフフ」


 声が大きく筋骨隆々の男にエネルが挨拶した。


「おっすおっす久しぶりベネット。変わりない?」

「ウェルカ〜ム、エーネール〜。変わりねぇと言えば変わりねぇが、ヴァニラの機嫌がちょっとなぁ」

「あー、はいはい」


 プラチナはスターの後ろに隠れて会話を聞いていた。テンションが高いモヒカンとの会話は初見ではキツイものがある。

 エネルは普通に話をしている。エーテルもジクルドもスターも特に変化はない。

 対応に困ってるのは自分とアルスの二人だけだろう。


 ベネットがその二人に目を向けた。


「もう一度、ウェルカ〜ム!! 連絡は受けてるぜぇ保護対象者と入団希望者〜!! とりあえず汽車に乗りな!! ただしクソデカファングは悪いが貨物車両で我慢してくれよなぁ!! デカすぎてドアに入んねぇからよぉ!!」


 会話が可能と判断してアルスが尋ねた。


「もしかしてモヒカンになる呪文ですか? 呪文の中でも不人気……」

「こらこらこら!! まずは汽車に乗りな! 質問は車内でたぁっぷりと受け付けてやるから!! これ以上街の上で停車していたら迷惑が掛かるだろぉぉ!!」

「わらわもそう思います。先に入って入って」


 親指を列車に指すベネットにエネルが同意した。

 疑問を置き去りにして、一向は列車に乗り込んだ。扉が閉まると同時に汽笛が鳴って、上へ空へと発進した。


 アノマリーの呪文で発現した列車は、ハゲが治る洞窟がある街を目指して空を駆けていく。


 窓から見える空の景色は絶景で、プラチナは疑問を忘れ、しばらくの間夢中になってしまった。


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