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4-10 決着

「「いや、誰っ!?」」


 味方であるエーテルの、敵であるレオナルドの誰何の声が重なった。全く予期していない人物の参戦に、この場にいる誰もが困惑していた。


「ソード・ブレイド・バルガライ」


 だが当の本人のアルスに、その様子を気にする素振りはない。レオナルドを視線で牽制しつつ、黒紫の剣を発現してスターとジクルドを拘束している電撃網を切り裂いた。


 二度の太陽の騎士団に利する行動を見て、エーテルがプラチナを連れて合流した。

 そしてすぐにスターの身体に触れ、回復呪文を唱える。


「レコーション!」


 心配の表情をしたプラチナが見守る中、エーテルの掌から淡い光が生まれ、スターの負傷箇所を癒していく。

 しかしその回復呪文の効果は低く、治りは遅かった。


 エーテルが流れる汗を拭いながら、申し訳なさそうに謝った。


「ごめんスター、ボクの呪文じゃ全然……」


 スターがまだ痺れが残る身体を起こして首を振る。


「いや……助かった。これで最低限動けるようにもなった。ジクルドも、頼む」

「うん」


 エーテルがジクルドにも回復呪文を施し傷を癒していく。

 

 回復系の呪文は発現難易度が高い呪文である。行使できる者少なく、育成も容易ではない。

 それをエーテルが発現している時点で、数少ない貴重な回復要員で優秀な呪文使いと言う事になる。


 しかし如何せん回復の出力が弱い。おそらく練度が程々で、度重なる呪文の発現で疲弊しているからだ。

 加えて回復呪文は体力消費が激しい。そう何度も使えるわけではない。

 つまり、スターが戦闘に復帰するのは困難である。


 そう判断したアルスが口を開いた。


「ハ……スター・スタイリッシュ」


 スターが横目で視線を送るアルスを見た。レオナルドは屋根の上で静観するだけで、攻撃してくる様子はない。


「敵は私が排除します。休んでいて結構ですので」

「いや、お前……」


 困惑中のスターからの返事を聞く暇もなく、アルスは跳躍してレオナルドに接敵して行った。

 レオナルドも距離を詰められるのを嫌ってか、その場を後にした。



 残された四人が突然の出来事に状況を読めずに固まっていた。数秒後、我に帰ったエーテルが尋ねた。


「え、……結局誰なの? 野戦服着てたけど」


 丁度、回復が終わり痺れが取れたジクルドが立ち上がった。スターほど負傷はしていないため、まだ動ける。


「あれはドバード兵士か。秘密都市は放棄されているものだと思っていたが……他にもいるのか?」


 遠くから聞こえる戦闘音に耳を傾けながらスターが答えた。


「あと一人だけいる。確かグラフトンという名の老兵が。ジクルドも見ただろ」

「……スター、見てないが」

「……悪い。バルガスだった」

「味方、なんですかね……?」

「それは分からない。ぐっ……」

 

 プラチナの問いに答えたスターが立ちあがろうとして、膝から崩れ落ちた。剣を支えにして再度立ち上がろうとするも踏ん張りが効かない。


 スターの身体は本当にボロボロでヘロヘロだった。肩で息をしているし、レオナルドとの戦闘で負った傷も少ししか癒えてない。


「スター……」


 プラチナは思わず呟いた。

 戦闘の邪魔になってはいけないと、余計な事はしないと決めた。だけど今のスターの姿は戦う前より痛々しく見てられなかった。


 だからそれは、力になりたいと思っての行動だった。


「レコーション!」


 プラチナが膝をついているスターの身体に触れて回復呪文を唱えた。掌から光が溢れスターを包み込んでいく。


 ついさっき、エーテルが唱えていたのを間近で見て自分も発現できるのではないかと思った。実際にやってみたらできた。


 呪文の効力で、スターの状況は直前に比べれば大分マシになっていく。

 左腕は動かして剣を振れる程度に、負傷箇所も縮小し、服はボロボロのままだが痺れはもうない。

 全快したわけではないが、戦闘に復帰できる状態にスターは回復した。


「プラチナ……回復呪文を発現できたのか」


 光が粒子となって消えて、スターがプラチナを見た。全速力で走った直後のように大きく息を吐いて吸っている。

 エーテルのように負傷箇所に光を当てるのではなく、全身に光を放出し続けて体力を消費したのだから、より疲れて当然だった。


(レオナルドはすぐに、プラチナが回復させたと見抜くだろうな。幽閉娘のプラチナに自衛の手段はない。回復役を真っ先に仕留めに来る……どうする、撤退するべきか……)


 太陽の騎士団としてそこまで考えて、スターはハッと気付いた。まだプラチナに礼を言っていない。

 

「プラチナ、助かった。身体は大丈夫か?」

「っ、ふー……はぁっ、大丈夫です。ふふっ」


 フォスンと違ってここまで疲れるとは思わなかったプラチナが呼吸を整えて返した。

 スターの役に立てて良かった。そう実感すると自然と笑みが浮かぶ。


 エーテルが少し考えてから言った。


「プラチナのおかげでスターが動けるようになったのは嬉しいけど……ジクさん」

「ああ。レオナルドは優先的にプラチナを殺しに掛かるはずだ」

「えっ、私が!?」


 プラチナの疑問と驚きに、スターがその事を共通の認識にするために答えた。


「間違いなくプラチナを仕留めに掛かる。回復要員を放置する道理はないからな。本来なら迎撃して返り討ちにしたいが、今アルス・リザードと戦っているレオナルドも分身体の可能性がある。本体が何処に潜んでいるか分からない以上、撤退を選択するべきだと思うが……どうする?」


 レオナルドとアルスの戦闘はまだ続いているらしい。遠くから届く戦闘音に耳を集中させながらエーテルが言った。


「でもさ、そのアルス・リザードって人のメラギラドン凄かったよね。レオナルドの電撃球相殺してたし」


 アクセル・ボルトティアは、触れた呪文を吸収して威力を増大する電撃球を発現する呪文。

 その電撃球を相殺したという事は、アルスが発現したラウンセント・メラギラドンは威力が増大した電撃球と同等の火力があったという事になる。


 エーテルが続けた。


「素の呪文火力が高いみたいだし、色んな呪文使えるかもだし、もしかしたらレオナルドの本体見つけて始末してくれるなんて……希望的観測だけど」


 スターとジクルドの声が重なった。


「「いや、それはない」」

「ないかー」


 その時、遠くでも聞こえる特大の破壊音が四人に轟いて来た。

 プラチナがスターに身を寄せて言った。


「もしかして、決着が着いたんじゃ……」


 スターが盾手裏剣を発現して指示を出す。


「ひとまず状況を把握する。エネルとゴライオン、バルガス、アルス・リザードとレオナルド。そして今の音は何なのか。撤退を考えるのはその後だ」


 四人は状況把握のため行動を開始した。




○○○




 少し戻って、レオナルドが即座に距離を取った場面から。レオナルドはアルスの接近を嫌っていた。


 火球を吸収して威力が増大した電撃球が相殺された。それは相手の火力が自分より高い事を示している。どんな攻撃にも絶対に対処できる距離を確保する必要があった。


「それで……どうしたもんかね」


 建物の屋根を足場に空中を、またはブロレジの障壁を空中の足場にして駆けながらレオナルドは次の行動を考える。


(この秘密都市にドバードの兵士は、スター・スタイリッシュの腕を折った老人だけだと思っていたが他にもいたとはな)


 仮にもっと他にもいるならば、これ以上の長居は無用だ。包囲される前に脱出を図らなければならない。


(しかし、太陽の騎士団との戦闘で邪魔してきたのはコイツだけ……それなら)


 レオナルドは追跡してくるアルスの顔を見た。敵意や殺意は感じないが、追跡を諦める様子はなさそうだ。


 太陽の騎士団は戦闘の続行が困難。ゴライオンとエネル剣は組体操中。バルガスに変化はない。

 予期せぬ他の横槍の可能性。本体の残り体力量。追跡者の力量。その他思い当たる懸念事項を考慮して、レオナルドは交戦する事にした。


(この俺は分身体……その利点をどう活かすか)

「ラウンセント・ツノドリル」

「ちょっ!? 早いな!!」


 レオナルドが戦術を組み立てる間もなく、アルスが腕を上げ呪文を唱えて戦いの火蓋が切られた。回転する巨大ドリルが容赦なくレオナルドに射出される。


「アクセル・ボルトティア!!」


 ドリルは直線上にしか射出できないため、横の建物に移動して電撃球で迎撃する。アルスは難なくそれを回避した。


 建物の屋根の上にしっかりと足を着けて、二人の呪文合戦が始まった。


「ぐっ……お、おお……マジかよこいつ……!」


 中距離から真正面の呪文のぶつけ合い。始まってすぐにレオナルドが驚愕の声を出す。アルスの力量に舌を巻いたのだ。


 巨大な回転ドリル。ラウンセント・ツノドリル。

 黒紫の極太光線。バルガライ・ブラストホウ。

 巨大な氷塊。ユーラシア・フロスト。

 複数の赤色の爆発シャボン玉。ザサボン・ミネ。

 一度だけ直角に方向転換が可能な矢印電撃ビーム。ガンシーム・ボルトティア。


 それら全てが練度の高い呪文で、間断なく射出されていく。

 レオナルドは何とか防ぎ、弾き、いなし、回避をするが劣勢を強いられた。


(こんな奴が秘密都市にいたのか……! いや何でいるんだよっ!! ドバードの兵士なら戦争に出るべき呪文使いだろ!!)


 これ程の力量を持った呪文使いならば、間違いなく五年前の戦争で有名になっている。戦場に投入しない理由はない。

 しかしレオナルドは、この水色髪の呪文使いの情報は把握していなかった。おそらくコミタバもだ。


(まあ金と同じで、多くの呪文を発現できる奴には面倒臭い奴らが利益を得ようとハイエナみたいに寄って来るからな。それを嫌って……やべぇ、回避だ!!)


 レオナルドの側面を狙って、高速回転する円形の巨大ノコギリが曲線を描いて迫ってきていた。アルスが戦闘の中で発現した呪文だ。

 レオナルドはすぐにブロレジを唱えて、空中でノコギリの軌道を変える。そして正面の呪文が突破されたため、慌てて他の建物に飛び移った。


 再び電撃を展開しながら、レオナルドは先程の太陽の騎士団との戦闘が脳裏に浮かんだ。

 今の自分はあの時の騎士団側の状況とそっくりだ。しかしレオナルドに状況を打開する策はない。このまま削り切られるだけ。


「ブロレジ」

「ぐっ……!」


 せめて本体との距離を取ろうと分身レオナルドは移動しようとした。しかしブロレジの障壁を移動方向へ発現されて行動を阻害される。


 アルスはもうトドメの段階に入っていた。

 敵の死角、地面スレスレに赤色のシャボン玉を進行させて敵が足場にしている建物を爆破。衝撃で体勢を崩したレオナルドに、複数の呪文を多角的に射出した。


 レオナルドの正面に回転ドリルと巨大な氷塊と黒紫の極太光線。上空から差し込まれてくる矢印電撃ビーム。左から迫る巨大な回転ノコギリ。右側は先程のブロレジが展開されている。逃げ場はなかった。


「いやいや、これは……無理でしょ」


 それが分身体レオナルドの最後の言葉だった。直後に、地下全体に響き渡る特大の破壊音と衝撃。その余波で周囲の建物にも甚大な被害が及んだ。

 分身体のレオナルドは消失した。



「うっわー、アイツ何なの。ヤバすぎだろ……」


 その戦闘を本体であるレオナルドは遠くから見ていた。アルスのあまりの力量にドン引きしていた。


「本体の俺でも正面からじゃ勝率低いわアレ……」


 レオナルド・レングレーは秘密都市に入るにあたり、分身体を複数発現していた。

 バルガスの調査の過程で足を踏み入れる事になった都市は未知、どんな危険があるか分からない。情報収集の観点からも、それは妥当な選択だった。金目の物を探す点でもだ。


 レオナルドの選択に瑕疵はなかった。彼視点、実際に分身を用いて太陽の騎士団を戦闘不能に追い込んでいる。もしアルスが参戦しなければ、そのまま仕留めていた可能性は高い。


「太陽の騎士団が合流したか……っておい、スター・スタイリッシュが動けてるじゃねえか。エーテル・ブラストとジクルドじゃあそこまでの回復はできねえ……なら回復したのはあの金髪の子供か。……これ以上の仕事は割に合わねえ。撤退だ撤退」


 レオナルドは、ただただ運が悪かった。

 バルガスの静観、ゴライオンの命令無視、不意打ちの失敗、アルスの参戦。スターの回復。

 どれもがレオナルドの努力ではどうしようもない事柄で、今ある結果はただの不運だった。


 撤退の判断に間違いはない。

 しかし、彼の不運はまだ続く。


「「ヘラジ・メガロ・ボルトティア」」


 撤退のためレオナルドは、既に発現していた分身体と一緒に呪文を唱えた。

 発現したのは二匹の筋骨隆々の巨大な鹿を模した電撃だった。ボルトティアの二段階攻撃共唱呪文である。


 この呪文はまず、鹿の頭部から伸びる手のひら状の枝角から、広範囲に高威力の電撃が一定時間放出される。その後鹿自身が任意の対象に向かって突撃し、電撃を撒き散らす。そういう性質を持っていた。


 レオナルドは枝角からの電撃を太陽の騎士団とアルスに向けて放出した。

 プラチナ以外が、足場にしている建物より巨大な電撃鹿二匹の発現に対して即座に防御体勢を取る。


 電撃が降り注ぐ中、レオナルドはチャンスを窺っていた。そして好機と捉えブロレジを足場にして、地下都市を上へ上へと天井目掛けて駆け登っていく。目的は天井からの脱出。


 レオナルドは巨大鹿の攻撃を電撃放出から突撃へと切り替えた。目標は地下空間内の天井。そこに電撃鹿二匹をぶつけて穴を開け、地上へ脱出する算段だった。

 当然それを阻止しようと攻撃呪文が下から放たれてくるが、残していた分身体に邪魔をさせて凌いでいく。足場にしていたブロレジも防壁の役割担っていた。


 電撃鹿二匹は天井に衝突し、地上へ通ずる穴を開通させた。降り注ぐ太陽光に目を細めながらレオナルドは地上への到達に成功した。


 廃墟となった都市で、周囲の確認を終えてほっと息を吐いてレオナルドは呟いた。


「ふぅ、危ねえ危ねえ……何とか脱出できたな」


 地下では分身体に足止めをさせている。多少は時間を稼げるだろう。すぐには追ってはこれない。このまま離脱に移行して……。


 そう気を抜いたレオナルドに無数の巨大礫が飛来した。




○○○




 ブロレジを空中の跳躍に利用して、天井に開けた穴から地上に向かうレオナルドをスター達は阻止できなかった。

 二匹巨大鹿から放たれる電撃をやり過ごした直後、足止めのために残った分身レオナルドの対処があったからだ。

 分身体はジクルドが処理したが、本体と思われるレオナルドには逃げられてしまった。


「どうする、追う!?」


 エーテルが追跡可否の声を出す。それにスターが答えようとした時、戦闘が終わった地下内の大気が震え衝撃が伝わってきた。


 ずんっ、という衝撃だ。大小の程度の差はあるが断続的に続く。


「揺れた……? 他にも敵が?」


 スターがすぐに周囲を警戒するが敵らしき存在は視認できなかった。

 電撃鹿は役目を終えて消滅し、分身レオナルドはジクルドがしっかりと倒している。組体操中のエネルとゴライオンに目を向けるが衝撃の発生源ではない。


 また地下が大きく揺れ、上から細かな土がぱらぱらと落ちてきた。アルスが天井を見上げながら言った。


「どうやら振動の発生源は地上みたいですね。重量がある何かが何度も落ちて地下を揺らしている」


 全員がレオナルドが開けた穴を見上げた。少しの間、振動が続く。


 やがて穴から巨大な人間の手らしき物が差し込まれてきた。日焼けしたように黒く、赤く塗られた何かを握り締めている拳だ。

 拳はグーからパーに変わり握っていた物が地下に落下する。拳は地上へ引き戻されていった。

 

「これは……!!」


 地面に落ちてきた物を見とめてスターは顔を歪めた。それはレオナルド・レングレーの死体だった。


「えっ……いや何で?」


 見るも無惨なグチャグチャな肉塊となったレオナルドを見てエーテルが疑問を呈する。

 死体の周りを縁取るように地面に血が滲んでいた。


 先程まで余力を残して戦っていた敵だとは思えなかった。


「……ガチオーガか?」


 ジクルドの呟きにスターは頷いた。


「多分……そうだ。あの肌黒の手、サイズ、そして地下を揺らす程の膂力。該当するのはガチオーガぐらいしか思いつかん。ガチオーガがレオナルドを殺した」


 そう言えばガチオーガを召喚した人物は誰だったのか、考えてみたがスターは分からなかった。

 

「……レオナルドが死んだのならゴライオンは消滅する」


 ジクルドの言葉に全員の目がエネルの元へ向けられた。



 エネルはゴライオンと一緒に組体操中だった。芸を披露しているとゴライオン五体が身振り手振りでやってみたいと申し出てきた。

 コイツら本当に友達のアノマリーなんだな、と思いつつエネルは注意を引くという目的のため懸命に芸を教えた。そうしていたら、いつの間にか組体操になっていた。


「ぶべらっ!!」


 五体のゴライオンとエネルだったため、三、二、一の山の組体操が出来上がった。しかしレオナルド死亡によりゴライオンの消滅が始まってしまう。


 ゴライオンの身体が砂となって崩れていく。組体操の一番上だったエネルはよろけて地面へ転がり落ちた。


 ゴライオンがエネルに向かって声を出す。


『ゴーゴー、ゴゴゴゴゴー』


 ゴライオンの様子にエネルは状況を察した。


「そっか……レオナルドが死んでゴー君消滅しちゃうのか」

『ゴー』

「めちゃくちゃノリが良かったよねゴー君ズ。……何で五年前の戦争であんなに暴れ散らかしたの?」

『ゴー、ゴゴゴ、ゴーゴーゴー』

「……なるほど、何言ってるかわらわ全く分からん」

『ゴー』

「まあいいや、次は味方で頼むよ。悪い事より楽しい事やってる方が楽しいんだからさ」

『ゴー』


 ゴライオンの身体は完全に崩れ去り、地面に大量の砂が蓄積されていった。

 少しの間、砂も積もったままだったが、やがて光の粒子に変わり溶けて消えていった。


「アイシオ・ブレイド」


 巨大化から元のサイズに戻ったエネルを、スターが呪文を唱えて手元に引き寄せた。エネルも抵抗なくそれに従う。


 戻ってきたエネルが太陽の騎士団を、そしてアルスを見て元気よく言った。


「とりあえず無事で何よりです! ……一人知らない人がいるけど」

「アルス・リザードと申します。よろしくお願いします」

「敬語……服装的にドバードの兵士か。まあ話は後にして」


 と言葉を区切ってエネルはプラチナの後ろに回った。スターも発現したままの盾手裏剣を構えてプラチナを庇う。


 バルガスが屋根伝いに飛んで接近して来ていた。


「……終わったか。無事で何よりだ」


 地面を挟んで建物の上で向かい合う。バルガスには戦闘を望む様子はない。

 しかしスター側は得体の知れない相手に警戒を緩めるわけにはいかない。エーテルもジクルドもアルスもいつでも動ける体勢を取った。


「で、結局見ていただけか」


 スターが油断なく口にした。バルガスが少し沈黙した後、選ぶように言葉を繋ぐ。


「……………………いや、万が一には手伝うつもり、……はあった」


 たどたどしい口ぶりだった。スターの記憶にあるバルガスと差異が生じる。もっと朗らかで「逆玉おじさん」と揶揄われてもツッコミを入れる余裕はあった。

 緊張や動揺をしているわけではない。が、何をそんなに言いにくそうにしているのかスターは分からなかった。


 スターが質問を続けた。


「ジクルドに化けていた理由は?」

「……………………それは」


 バルガスはまた言い淀んだ。数秒後、呪文を唱えた。


「メラギラ」

「っ!?」


 スターは防御のため盾手裏剣を掲げた。しかしバルガス呪文は地面にあるレオナルドの死体に向かって放たれた。

 高熱を帯びた炎は死体を焼いていく。

 目線をスターに戻してバルガスは言った。


「モノリスがある以上、呪文使いの遺体は処理する必要がある」

「……先に言っておくべきだろ。いきなり呪文を唱えてくるな」

「確かに……そうだ。すまない」


 バルガスはハッと気付いてスターから目を逸らした。エネルが言った。


「もう問答面倒いから半殺しにした方がいいんじゃない? コミタバは見つけ次第殺すだけど、スターのお友達価格でボコって手足折るぐらいしてさ」

「ボクも同感。コミタバのメンバー時点で対話はいらないでしょ。半殺しにしようよ」


 太陽の騎士団的に当然の選択だった。アルスも異論はない。プラチナは少し戸惑ってしまう。

 バルガスは戦意なくスターを見るだけだった。そして、ふるふると首を振った。


「悪いが、この俺は分身だ。本体は別の場所にいる」

「何ぃ……!」


 エネルが怪訝な表情で唸る。スターは困惑を表に出さずに言った。


「バルガス……お前、何がしたいんだよ」

「…………スター」


 バルガスの身体が薄れていく。分身体というのは嘘ではなかった。


「またな」


 そう言い残して分身のバルガスは消えた。地下内に敵性のある存在はいなくなった。


 肉が焼け、黒い煙が一筋の糸のように上へ登っていく。動きがあるのはそれだけだ。

 太陽の騎士団もアルスもプラチナも、バルガスの意図が読めずに固まってしまっていた。


 ジクルドに化け、スターを助け行動を共にし、コミタバのメンバーで、しかしレオナルドとは共闘せず、戦闘終了後にやって来たと思ったら分身体で勝手に消えた。


 意味が分からない。一番交流があったスターですら分からないのだから誰にも分からない。


 スターがぽつりと呟いた。


「バルガス……本当に何がしたかったんだお前」

「本当にね」


 エネルがスターの声に同調した。


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