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4-8 地下での戦闘 ①

「バルガス……か?」


 今、目に見えている光景がとてもじゃないが信じられない。余りにも唐突な邂逅で呼吸するのも忘れてしまう状態だったスターが呟いた。


 バルガス・ストライク。

 五年前の戦争が始まるよりも前に、アカムの軍に所属していた年が離れていたスターの友人。同じ孤児院出身のためか軍に入隊してすぐ、よく面倒を見てくれたのを覚えている。


 この五年間、スターが探していた人物の一人。


 それが今、自分の目の前に存在し、ジクルドに化けていたかと思えばコミタバの黒コートを身に纏っていた。

 意味不明だが生きていて良かったと思う。だがこのような再会は望んではいなかった。これが夢ならどれほど良かった事か。


 突然の出来事で呆気に取られていたのはスターだけではなかった。

 同じアカムの軍に所属していたジクルドもバルガスの登場で動きを止めている。

 つい先程、エネルが言っていたスターが探していると思われる人物の名前を聞いたプラチナも固まっている。

 何とか状況把握に努めようとエネルも目を細めてバルガスを注視し、そしてスターに目線を移し痛々しそうに顔を歪めた。


 彼ら太陽の騎士団のその姿は、客観的に見て隙だらけだった。無防備で即応できない。遠距離からの呪文で殺せる。そう思われても仕方がないくらいには。


「ガンシーム・ボルトティア」

「……っ! バルガライ・ブラストホウ!!」


 その隙目掛けて突如、立体化された矢印型の極太電撃ビームが、斜め後ろの建物の上から思考がまとまらないスター達に対して射出された。

 それを唯一、不意打ちを察知できたエーテルが何とか呪文で迎撃する。


「むっ、ぐむむ……むおりゃあぁっ!!!」


 黒紫と蒼白の光線同士が凌ぎ合い、激しい花火のような拮抗が繰り広げられる。

 呪文の出だしが遅く押され気味なのはエーテルだ。だが根性と技術で何とか電撃を逸らす事に成功した。

 しかしまだ終わらない。襲撃者からの追撃の呪文が唱えられた。


「エクス・ボルトティア」


 威力と範囲に優れた巨大な黄金色の電撃が建物の上から叩き込まれてくる。まともに食らえば大ダメージを負う電撃。

 しかし今度は、反応したスターの盾手裏剣三枚で阻み切る。

 相殺され呪文が晴れた向こう、建物の上で何者かがこちらを見下ろしていた。コミタバの黒コートを着た金髪の男。


「レオナルドか……邪魔しやがって」


 そう呟いたバルガスが助走なしの跳躍一つで、宙に浮きレオナルドのすぐ隣の建物に飛び乗った。


「いよぉ! バルガス。こんな所で奇遇だなぁ!」

「…………」


 レオナルドの気さくな声かけに、バルガスはただ見るだけで答えなかった。


「エネルちゃん……あれって」

「うん……バルガスはよく分からんけどあの金髪の男はコミタバ」


 プラチナの問いに嫌なものを見る顔でエネルが答えた。


 傭兵レオナルド・レングレー。練度の高い電撃呪文の使い手。金次第でどの勢力にも就くが、コミタバとの契約が多いため、太陽の騎士団はコミタバのメンバーとして敵視している。デイパーマー同様、太陽の騎士団の邪魔をしてくる存在。


 そのレオナルドとバルガスが一緒にいる。バルガスはコミタバに所属している。新たに出てきた要素にスターの困惑は増すばかりだった。

 だがいつまでも、それに囚われているわけにはいかない。今はプラチナの安全が最優先だ。頭を切り替えたスターは盾手裏剣を発現し指示を出す。


「屋根に飛び移って目線を同じにする。エーテル、プラチナを担いでくれ」

「了解。担ぐねプラチナ」

「えっ、あ、うん」


 高低差がある戦闘では、全体を見渡せる高所の方が当然有利だ。

 状況の把握は早ければ早いほど攻撃や防御、伝達や回避等の次の判断を迅速に行う事ができるからだ。

 更に太陽の騎士団は、ドバードの地下空間の地理に明るくない。地面を移動して建物の上にいるレオナルドを狙うのは有効ではないと言っていい。


 エーテルがプラチナを担いで残りの三人と一緒に屋根の上を足場とする。スターとジクルドで防御しながらの移動だったが、レオナルドからの攻撃はなかった。

 高低差のある戦闘の重要性を無論理解しているレオナルドはバルガスに話しかけていた。


「相変わらず無口な奴だな。……まあいい、なんでこんな所にいんのお前?」

「…………」

「おいおいおい、無視はないだろ。ジクルドの奴に吹っ飛ばされて助けてやったのに」

「…………」

「…………実はな、俺お前の事が好きだったよ。お前がコミタバに入ってきた時から一目惚れで」

「死ね」

「ぶははっ、なんだよ聞こえてんじゃねえか!」


 飄々として気安い態度に舌打ちをしてバルガスが聞いた。


「お前こそなんでここにいる?」

「そりゃコミタバのお仕事に決まってんだろ。ドバードの秘密都市を発見されたから調べて来いって依頼が入って」

「…………」

「そしたらバルガスと太陽の騎士団連中がいたわけで……」

「…………」

「聞きたい事だけ聞いて興味なしかよ」


 レオナルドは、会話を打ち切ってスターに視線を戻したバルガスを観察する。


 確かにコミタバからの依頼で秘密都市に来る事にはなったが、それはただの成り行きで、実際の依頼内容は調査ではなくバルガスの内偵だった。

 ここ最近、と言っても一年くらい前からコミタバの情報が漏れているらしく、デイパーマーは内部にスパイがいると考えていた。

 そこで一定の信用があるレオナルドが、直近にコミタバの一員となったバルガスを秘密裏に内偵する任に就く事になったのだ。


(内偵の結果、情報を流出させている感じはなかった。コミタバの一員として活動していた。が、この秘密都市での行動に関しては全く持って意図が分からん。一体何がしたいのか……)


 行動を監視してドバードの秘密都市に辿り着いたレオナルドが見たのは、スター・スタイリッシュを尾行する内偵対象の姿だった。

 物陰に隠れてこっそりスターを監視する。それはストーカーのような振る舞いで、そのバルガスをレオナルド自身がまた監視する。そうして地下までやって来た。

 そして今度はジクルドに変身してスターを守るバルガスの姿をレオナルドは目撃した。油断を誘って殺すのかと思えば、本物のジクルドに遭遇して吹っ飛ばされていた。


 レオナルドは、その意味不明な行動に困惑しながらも一応味方だったのを思い出し、不意打ちの電撃をスター達に射出したのであった。


「おっと」


 見れば太陽の騎士団も建物の屋根の上に移動してこちらの出方を窺っていた。相手はコミタバを見つけ次第殺せの組織。レオナルドは思考を切り替えて対処するために呪文を唱えた。


「こいつの出番だな……アノマリー・ゴライオン!」


 その呪文にその場にいる誰もが驚愕し、目を見開いた。


 レオナルドが呪文を唱えた直後、彼の後方に巨大な光の球体が五つ浮かび上がった。球体はゆらゆらと上下に揺れ動きながら光を伸ばして形を変えていく。

 小山のような緩やかな曲線を描いた胴体。頭部は胴体と一体化している。胴の肩口らしき場所から伸びる両腕は長くて太い、地面に接する両脚は太くて短足。

 ずんぐりむっくりとした光の巨人の造形が出来上がっていく。そして光が薄れていき、地下空間内にその姿が発現された。


 体毛がモフモフしていて、二足で直立している動物のような召喚生物だった。


「あれは……っ!」

 

 その召喚生物ゴライオンを見上げて、スターが顔に焦りを滲ませて声を絞り出す。


 アノマリーの呪文よって発現された生物。それは五年前の戦争でドバード側が投入してきたものと同一だった。戦場でアカムの軍が蹴散らされていった記憶がすぐに頭に浮かぶ。

 しかも数は五体もいる。ガチオーガよりも巨大で、地下の鍾乳石付近まで届くその巨体が縦横無尽に暴れれてしまえば、プラチナを守り切るのが困難になってしまう。


『ゴー……ゴー……ゴー』


 ゴー、ゴー、と鳴き声のような低音を出して佇む五体のゴライオン。それを見上げてレオナルドは満足げに頷いた。そして勝利を確信して命令を出す。


「さあゴライオン! 仕事の時間だ……太陽の騎士団を殺し俺に追加報酬を寄越せ!!」

 

 戦闘開始の宣言が地下空間に響き渡った。

 太陽の騎士団も臨戦体勢に移行した。

 ゴライオン達はぼんやりと立ち尽くしたままだった。


『ゴー……ゴー……ゴー』

「はいぃ……なんで動かない?」


 レオナルドが困惑に満ちた表情でゴライオンを眺めていた。攻撃してこない様子に太陽の騎士団も状況が読めずにいた。

 エネルがゴライオンを見上げながら口を開く。


「えっと……スター! あれって戦争でドバード側が出してきたやつだよね!?」

「ああ」

「なんで攻撃して来ないの?」

「全く分からん。ジクルド」


 スターはジクルドに聞く事にした。長年アカムの軍にいて、戦闘経験が豊富で様々な呪文を知っているジクルドならば説明できると思ったからだ。


 ジクルドはやや言葉に詰まる様子を見せた後、答えた。


「……友達のアノマリーと言われている。ゴライオンが友達になりたいと思った人間が呪文を唱えれば発現するアノマリーの条件召喚呪文……」


 エーテルが疑問を呈した。


「友達のアノマリーってジクさん……ボクは戦争知らないけどアカムの軍があのモフモフで壊滅したって聞いてるよ」

「わらわも、そう聞いてる。友達要素ある?」

「……一つだけ確かな事がある。呪文を唱えた奴を殺せばゴライオンは消滅する」


 ジクルドの言葉に全員が反応した。スターが再度質問する。


「確かか? レオナルドを殺せばそれで……」

「……間違いない。五年前に確認済みだ」

「よし分かった、わらわがゴライオンを受け持つよ」


 エネルがスターの側に駆け寄って言った。


「わらわが巨大化して一発芸やらで注意を引いて足止めするから。その間にレオナルドぶっ殺して」

「エネル、行けるか?」

「行けるよスター、わらわ剣だから。ただゴライオンが攻撃に転じた場合は撤退一択でお願い。わらわとスターはプラチナを守らないといけないから」


 とエネルはプラチナに顔を向けた。ジクルドとエーテルの視線もプラチナに集中する。


 余計な発言や行動は太陽の騎士団の邪魔になると思い静観していたプラチナは、唐突に注目が自分に集まりあたふたと慌ててしまった。


「え、えっと……その……あの」

「プラチナ」


 レオナルドを警戒しながらのため、前を向いたままのスターが言った。


「危険な目に遭わせて済まなかった。アルマンと約束したのに……本当に申し訳ない」


 前を向いているため、スターの表情は見ることはできない。だがその謝る声に後悔と罪悪感が含まれているのはプラチナにも感じられた。


(エネルちゃんの時もそうだったけど、二人に謝られるのは……嫌だなぁ)


 つい先程の、エネルとの会話が頭に浮かぶ。スターは謝るから許してとエネルは言った。その通りになった。

 スターの後ろ姿は逸れる前よりボロボロで痛々しかった。爆発に巻き込まれたのか服は焦げ、その左腕は変な方向に曲がって痙攣しているように見える。きっと合流を目指して無茶をしたのだろう。


 タミヤの街とドミスボで助けてくれて、アルマンの最期に間に合わせてくれた二人。初めてできたアルマン以外の大切な二人。出会ってまだ日は浅いけど悪く思った事なんて一度もない。

 

 でも、二人は罪悪感を抱いている。

 でも、自分は何とも思ってない。

 だから、それをはっきり伝えようと思う。戦いに集中できるように。


 そもそも今のスターには治療と休息が必要だ。早く安全な所へ。コミタバをどうにかして……。


 プラチナははっきりと自分の言葉を伝えた。


「スター、私は大丈夫。全く気にしていません。それよりコミタバを何とかしないと」


 エネルがほっとしたように息を吐いた。

 エーテルが事情を察せず首を傾げる。


「ごめん、どういう事?」

「とりあえずレオナルドをぶっ殺すって事。スター、わらわにユーラシア・ブレイドを」

「ああ、ユーラシア・ブレイド」


 エネルがゴライオンの足止めのため地下内で巨大化した。ゴライオンの肩ぐらいの高さにエネルの頭があるくらいの大きさだ。

 突然視界内にエネルが出現し、呆けていたゴライオン達もエネルに気が付いた。


『ゴー?』

「ゴ〜ライオン!! わらわを〜見ろーっ!!」


 エネルがあの手この手で自身をアピールする。


「わらわの親指が〜、取れちゃたあああああ!??!」

『ゴ、ゴオオオオオオオオ!?、?!!?』


 親指が取れるマジックでゴライオン達の興味を引く事ができた。驚きと関心をオーバーリアクションで示している。

 内心こいつらノリがいいな、とエネルは思いつつ続けて次の芸を披露した。

 パントマイム、ユーラシア・フォスンの光を使った影絵、少しスペースがある所に移動してのブレイクダンス。そのどれもが質が高い。

 レオナルドの指示を聞かず停止していたゴライオン達は、もはやエネルに夢中になっていた。

 

 これから戦闘が始まる場としては、割とふさわしくない光景。その光景を眺めながらレオナルドはぼやく。


「ゴライオンで太陽の騎士団を潰そうとしたんだけどな……」


 呪文は超常現象だしこういう場合もなくはない。楽しんでいる以上、ちょっかいを出して怒りを買って自分が攻撃されても困る。レオナルドは切り替えてバルガスに顔を向けた。


「まあ仕方がない。おいバルガス、手伝え」

「断る。一人で戦え」

「えっ、お前マジぃ?」


 太陽の騎士団との戦闘を即拒否したバルガスは、屋根伝いに移動して何処かへ行ってしまった。

 その行動に、もうバルガスはスパイとして報告してやる、と口をへの字に曲げながらレオナルドは視線を移した。


 視線の先には敵意剥き出しの太陽の騎士団。

 ドバードの地下空間内で、呪文の殴り合いが始まった。


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