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4-2 ドバードの秘密都市 エネル怒る

 海の反対側、木々が生い茂っている森の中を馬車が一台、早い速度で走っている。


 整備されてない凸凹した地面のため、走行の振動で馬車が大きく揺れるかと思ったがそうでもない。

 馬車を走らせる御者の技術が凄まじく、悪路でもそれほど気にせずに座っていられた。


「うーん」


 プラチナはその馬車の中で唸っていた。

 馬を巧みに操る御者が、人間ではない事がやはり気になってしまう。

 

 頭が白の球体で胴体が棒。そこから繋がる手足も棒。紙に描かれる棒人間がそのまま現実世界に現れ出ていて、御者席で手綱を握って座っている。


 プラチナは素直な疑問を口にした。


「エネルちゃん、棒人間も召喚生物なんだよね?」


 向かい側に座ったエネルが首肯した。


「そうだよ。棒人間も召喚生物に分類されてるよ」

「……言うほど生物?」

「まあ気持ちは分かる。でも呪文は超常現象だから気にしない方がいいよ」


 とエネルは肩をすくめて答えた。プラチナはそういうものか、と納得した。



 三人は駅を出てすぐに秘密都市に向かう準備をした。

 エネルが言うには、場所は森の奥深くで獣道を歩く必要があるとの事だった。

 しかし情報収集の過程で、既に秘密都市までの簡易的な通路は作られており、馬車に乗って急行する事になった。


 そこに登場したのが今、馬車を動かしている白黒の棒人間だった。

 停留所でどの馬車に乗るか決めようとしていたら、文字を書いたスケッチブックを持ってアピールしてきたのだ。

 棒人間の大きさはエネルと同じぐらい。


 プラチナは棒人間を初めて目にしたので驚いたが、スターとエネルはすんなりと棒人間が持つ馬車を選択して駄賃を支払った。そして三人で乗り込み今に至る。


 身体を寄せて窓から外の様子を見た。徒歩で秘密都市へ向かう柄の悪そうな人間も何人か目にした。噂を聞きつけて目的を持ってやってきたのだろう。

 同じく見ていたスターも眉を寄せて呟いた。


「廃墟で探索……危険があるかもしれない場所に」

「ほとんどが金目の物とか漁って売り捌く気でしょ。無人の都市だし」


 スターとエネル。太陽の騎士団二人の関心は何故、秘密都市の存在が露見したのかだった。


 今まで集めた手掛かりを元に探し当てたのに、レッサブレッグの街では周知の事実となっている。

 偶然にせよ何にせよ、きな臭くらしく、これから向かう秘密都市は、無人から有人の、そして窃盗を働く人間がいる無法地帯へと変わってしまった。

 二人の警戒度は先程の汽車の中とは段違いだった。


 次第に舗装された道路に変わり、馬車の振動も少なくなってきた。たった今、検問所らしき施設を超えた。

 エネルが馬車の窓を開けて前方を覗いたので、プラチナも一緒に覗いた。

 木々が生い茂る向こうに街並みが見えてきた。


 少しして馬車は停止した。料金は前払いのため馬車から降りる。御者である棒人間は馬を操って次の客を探しに移動していった。


 三人はドバードの秘密都市を視界に入れた。荒れ果て廃墟になった都市がそこにはあった。


 歩く道の所々に雑草が生えて伸び放題になっている。建物が半分崩壊していたり、黒くくすんだ施設や火災の跡が残ってる集合住宅などもあった。


 この都市に住んでいる人間は誰もいない。

 しかしその代わりに、外部からやって来た空き巣目的の探索者たちが、縦横無尽に住居などを荒し回っていた。


 プラチナは無人の崩壊していない建物に入り込んで、目をギラギラさせて金目の物を探す荒くれたちを遠くから目にした。

 かつては住人が暮らしていて、沢山の思い出があっただろう家が踏み躙られていく。

 それを想うと嫌な気分になってきた。仮にアルマンと住んでいたあの家が荒らされるとなると、とてもじゃないが耐えられない。


 秘密都市は今や無法地帯となっている。

 金目の物を探し出して窃盗し、中には先に見つけたと主張する貴金属を巡って、喧嘩が勃発している場面も目撃した。


 そんな中をスターとエネル、プラチナが歩いていると柄の悪そうな荒くれ二人に絡まれた。

 プラチナは思わずスターの背に回った。


「オイオイオイ、こんな所で何してんだぁ僕ちゃん嬢ちゃんたち〜」

「子どもが呑気に歩いていると襲われちゃうぜ〜」


 下卑た笑みに対してエネルが不快そうに手を振った。スターも無言で睨みつけている。


「そういうのいいから。わらわたち忙しいから早く散って散って」

「あん? ちょっと待て……」


 荒くれの一人が何かに気付いてスターを凝視した。


「お前スター・スタイリッシュか? 賞金首の……」


 賞金首、と確かにプラチナは耳にした。

 エネルが舌打ちした。荒くれが後ろを向いて声を出す。


「おおい、テメェら! 金儲けのチャンスが到来したぞぉ!!」


 その声に窃盗物をまとめていた荒くれの仲間たちが集まって来た。


「見ろよあいつ、スター・スタイリッシュだ」

「オイオイオイ、本当じゃねえの」

「ハゲが治る洞窟がある街じゃ、手ェ出せねえがここで一人なら殺せるぜ」

「馬鹿な奴だなおい、こんな所で女連れてデート気分ですか〜?」


 プラチナは思った。

 後ろからで顔は見えないが、エネルは荒くれたちに対してかなり怒っていると。


 デイパーマーの時は表立った激しい敵意とは異なる静かな嫌悪。

 まだ出会って日が浅い関係だが、それは分かった。


「スター」


 エネルは淡々と言った。


「あいつらライン超えた。わらわがやる。大きくして」

「……分かった」


 スターはエネルの肩に触れ、呪文を唱えた。


「ユーラシア・ブレイド」

「おっ、おお……」


 荒くれたちが驚愕して見上げるほど、スターの呪文でエネルの身体は巨大になっていく。


 巨大剣を発現する呪文だった。

 当然エネルは剣のため、人間の姿でもブレイド系の呪文の効果を駆使できる。


 そこからは圧倒的な正当防衛だった。

 巨大化したエネルの容赦ないボディプレスやら、荒くれが呪文を発現して対抗する前に、スターがプラチナを守りつつ剣を発現し、適時投擲して阻止していく。


 数分後、荒くれたちは無力化された仲間を抱えて逃げていった。

 仲間は死んではいないが、しばらくは立ち上がるのは無理だろう。秘密都市の探索なんてもってのほかだ。


 荒くれたちの姿が見えなくなって、エネルは深く息を吐いて気持ちを切り替えた。


「全く。ライン超えなければ痛い目に合わずに済んだのに。言葉に気をつけろよ」


 スターは周囲の様子を確認した。さっきの騒ぎで目立ってしまっていた。秘密都市に来た人達の視線が向けられる。


「エネル、プラチナ、すぐに移動しよう。また厄介事に絡まれるのはごめんだ」

「そうだね。ほんとわらわの挑発スイッチ押しやがってあのアホ共が……ほら、行くよプラチナ」

「う、うん」


 多分スターが賞金首って言われて、それがエネルの怒るきっかけになったのだ。


 スターが賞金首になっている理由や、エネルがそれで何故怒ったのか気になったが、今はその考えを振り払いプラチナは二人と一緒に秘密都市の街中を駆けていった。


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