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26-1 回想が終わって プラチナの選択

「と、いう事があったんだよ」


 そして回想が終わり場面は現在へ。騎士団本部の談話室のソファ、プラチナの隣に座るエネルは本日二度目のセリフを吐いた。


「ギリギリの所でプラチナを救出して、何やかんやあって今に至る」


 プラチナは溢れ出す感情を抑えれなかった。止めどなく涙が流れ嗚咽する。


「そんな、そんなのっ、もうバルガス……っ!」

「そうだね。今更だけど街に来たレスティア王はバルガスだ」

「それを私は、殺して……! スターがあんなに探していたのに! 私だけが知らなくて呑気に力になりたいなんて……っ」

「うん、それもそうだね。でもプラチナを泣かせるために回想に入ったわけじゃない……だからそんな事はどうでも良いっ!!」


 ぱちんっ!! とエネルはプラチナの目の前に移動してその両頬を両手で包み込んだ。

 痛くはないが力強かったためプラチナの頬が遅れてぴりぴりする。思わず涙が引っ込んだ。


 エネルはぐいっと顔を近づけて、その眼にプラチナの泣き顔を映した。


「良く聞け、プラチナ! 長々と話したのはプラチナを泣かせるためじゃない! 世の中には悪い奴が生きて悪くない奴が死ぬ。それが当たり前にある事をわらわは伝えたかった!」


 エネルは横に避けてプラチナの頭を動かした。対面に座るニールへと照準を合わせる。


「さあ見ろよ、このニール・リオニコフを!」

「う、うん……」

「最早説明不要の人間のクズでしょ!?」

「酷くね?」

「でも何故か味方側にいる。今ものうのうと息を吸っている。本来はコミタバ同等の社会のゴミなのに!」


 エネルはプラチナの頭を持ったまま意気込んで続ける。


「そして思い出して。ドミスボで会ったあの駅員を。あいつは殺された。住民に石を投げられ逃げた後、誰かに」

「ええっ!?」

「しかもその犯人がスターになっている。遺体の状態が刃物か何かによる切断だったから。賞金首の件も含めてふざけんなって話だよ」


 プラチナは心の底から驚愕した。突然過ぎて悲しみを上回ってしまった。

 今でもあの駅員の事は思い出せる。賄賂を受け取ったが別に悪い人ではない。普通にあの街の駅員で普通に生きていた。

 それが殺されていたなんて。しかもスターの所為になっているなんて……。


「そしてもう一人、思い出して。カーモン・ハワード。髪が白くなるまで召喚生物の愛護をしてきた。なのに召喚生物ペロイセンに殺された。何も悪くないのに」


 プラチナはごくりと息を呑んだ。確かにそうだ。ペロイセンに殺されていたと後から聞かされた。

 長年やったきた結末がそんなのなんてあんまりだ。


「で、こんな感じで人は死ぬ時は死ぬ。恩を返す事を目的にしようが呪文の悪用を嫌おうが、プラチナもそれらを成す前に死んでしまうかもしれない。だって未来なんて誰にも分からないから」


 エネルは手を離した。元の位置に戻り座り、今度はプラチナの両手を優しく包み込む。


「だから自分を優先してほしい。プラチナがいつか死ぬ時に後悔しないために」


 そして真っ直ぐと見据えて、真っ直ぐの言葉を

プラチナに送る。


「本当にごめんね。ウイタレンの頃とは状況が変わった。もう一度プラチナがどうしたいのかを、これからの事を自分優先で考えてから騎士団に残るかゾルダンディーに帰るかを決めて。考えた結果、恩返しや呪文の悪用禁止が変わらないのは全然良いから。自分の意思で考え決める事がプラチナのためになる」

「……エネルぢゃん」

「大丈夫。コミタバに与するとか馬鹿な事をしない限り、わらわ達は味方だから」


 エネルはそう言って、自身が伝えたい事を締め括った。



○○○



 丸一日が経過した。プラチナは騎士団本部の自室のベッドで仰向けになっていた。シンシアも壁際にいる。

 談話室から戻ってきてずっとここにいる。騎士団に保護された時に与えられたこの部屋をそのまま自室として使用している。シャワーもトイレも付いてるから引き篭っていても問題はない。食事もシンシアが持ってきてくれた。


「………………」


 明日の朝までに騎士団に残るかゾルダンディーに帰るかを決めておかなくてはならない。

 時間が経って冷静なった頭でプラチナはどうするかを考える。


「…………ぐすっ」


 嘘だ。本当は頭なんか全然冷えていない。ふとした瞬間、目の奥が熱くなって涙が勝手に出てくる。仰向けでいるのは少しでも涙を押し留めるためだ。


 時間が迫っているため何とか感情を抑えようとするが難しかった。特にウイタレンでの夕暮れが脳裏にちらついて離れない。

 あの時のスターは痛々しくて見ていられないくらい落ち込んでいた。そしてその元凶の自分が頼ってくれと申し出た。

 それを思い出すたびに胸が物凄く締め付けられる。またじわりと涙が浮かび出てしまった。


「全く、いつまで泣いてるんですか」


 その涙をシンシアがハンカチで優しく拭ってくれた。壁際で静かに佇んでいた彼女はいつの間にかベッドに来ていた。


「さっきシャワーを浴びてすっきりしたでしょうに。良い加減シャキッとしなさいシャキッと」

「シンシア……」

「明日には選択しないとなりません。どっちにするか決めましたか?」

「ううん……全然」


 気持ち的には騎士団に残りたい。もう今となってはここが自分のホームだと思ってる。

 けれどここにいたら甘えてしまうとも考える。もう惨めな思いをしたくないと頑張っても、心の何処かで騎士団に頼ってしまうかもしれない。それでは意味がない。

 でもその前にどうしたいのかを決めねばならない。これが難しい。


 シンシアが言った。


「じゃあ、もう面倒臭いのでコイントスで決めますか。表ならゾルダンディー、裏なら騎士団で」

「いや、それはまだ……」


 見下ろしていたシンシアは首を傾げた。


「何故です? もう時間は迫ってますし決めた方が楽ですよ?」

「いやまだだよ。エネルちゃんは私を想って言ってくれた。ならしっかりと考えて私が今後どうしたいのかを先に決めないと。騎士団かゾルダンディーかはそれから」

「それからって……この段階でも増えてないんでしょ?」

「うん……やりたい事は恩返しと呪文の悪用禁止その二つ。でも」

「でも?」

「ギリギリまでしっかりと考えたい。私の今後に左右する事だから」

「…………」

「明日の朝まで何も変わらないのなら、コイントスで決めるよ。多分ゾルダンディーと騎士団、私はどっちが良いとかは選べない」

「……まあ何が正解かなんて誰にも分かりませんからね。ってまた涙を流して」


 シンシアはプラチナの目元をまた拭った。そしてその後、プラチナの顔を目を細めて見つめた。

 既に陽は落ち室内は暗くなっている。窓からは月明かりが差し込んでいた。


「……シンシア?」


 やがてシンシアは軽くため息を吐いて言った。


「あくまで参考程度の助言、です」

「助言?」

「私は久しぶりにプラチナ様を見た時、こいつ誰だよと思いました」


 本物のレスティア王救出前、城門を超えた先の中庭。


「私にとってプラチナ様は『おてんば』なのです。なのに受け身な態度、それは王様救出後も変わりませんでした」

「……私はおてんばじゃないよ」

「ここでのおてんばとは、活発的という意味です。我儘とか生意気などのマイナスイメージは除外してください」


 シンシアは続けた。


「で、後からそれは仕方がないと考え直しました。あなたは突如幽閉され突如国外へ。それから太陽の騎士団に所属。環境が激変し過ぎです」

「うん、それは私も思う。凄い変化だ」

「人は環境が変われば性格も変わる。あなたはある意味、別人になってしまった」

「別人……」

「しかし国外にいる頃の話とこれまでで『おてんば』も消えたわけじゃなかった。一人でタミヤの街という見知らぬ土地に赴く。感謝を込めて騎士団全員にプレゼントを買おうとする。まあ活発的です。……それで何が言いたいかというと」


 シンシアは言った。


「おてんばの立場になってみれば、見えてくるものもあるかもしれない。それもあなたの一部分。と思ったのです。あくまで参考程度でよろしくお願いします」


 とシンシアは腰掛けていたベッドから離れ先程いた壁際へと戻った。

 両目を閉じ静かに佇み控えるその立ち姿はまるで人形のよう。というかそもそもオーバーパーツ。

 そう言えば彼女の経歴は知らない、と何処か気落ちした雰囲気を出すシンシアを見てプラチナは思った。


(おてんば……活発的……かぁ)


 シンシアに言われた事を思案する。おてんばの自覚はないが変わった部分はあるかもしれない。

 幽閉されてイビスへ。一人でタミヤの街に行ってスターとエネルに助けられ、コミタバのデイパーマーと遭遇してアルマンの最期を看取った。それから秘密都市へ。太陽の騎士団。

 そして付与のアノマリーだと判明して自分が無知だと知った。呪文を悪用される事を嫌い、助けてくれた二人に恩を返したいと強く願った。


(……いや、違う。願ったのはもっと前。アルマンの時や秘密都市で既に願ってた)


 プラチナはうつ伏せになって再確認する。確か、確か、デュラハンの時とガチオーガ。その時に無力な自分が嫌になった。二人の負担になる事を嫌った。

 そしてその後にスターに回復呪文を施して役に立てたと思い嬉しかった。


(…………あれ?)


 不意にプラチナは閃いた。やりたい事が他にも増えたような気がした。

 でもそれは根本的な問題だ。いや問題ではない。欲求と言った方が正しい。

 そしてこの欲求は何だか恥ずかしい。これを目的にするのは不純なような気がする。

 しかし一度閃けばもうそうとしか思えなくなってしまった。これなら騎士団かゾルダンディーどっちかを選べる。でも……。


 プラチナは枕に顔を埋めて脚をぴんと伸ばしたりバタバタさせる。むむむ、と呻き声を上げる。

 その姿を片目を開けて盗み見たシンシアが呟いた。


「うるさいですね……」






 そして翌日の朝、残るか帰るかを決める日がやってきた。

 しっかりと答えを出したプラチナは食堂でエネルと対面する。


 既に朝食の時間は過ぎているため人は多くない。広い食堂内は閑散としてまばらだ。

 開け放たれたドア付近には父が固唾を呑んで見守っていた。たった今、前のめり過ぎてシンシアに頭をチョップされた。ベネットにカイン、ニールにオーハマーも覗き見ている。


 見せ物じゃないんだけどなぁ、と思いながらプラチナは熟考した意思を伝えた。


「エネルちゃん、私……ゾルダンディーに帰るよ」


 長テーブルの端。対面に座るエネルは頷いて返す。


「そっか。……寂しくなるね。理由を聞いても?」

「うん。それはやっぱり恩を返したいから」


 ズバリとプラチナは言った。


「タミヤの街から今まで何度も思った。助けてもらってばかりで何も返せてないって」

「……それは幽閉されてたし仕様がないよ。というかアルマンからの依頼を受けたのはスターの善行を積むためでもあったし、別に恩を感じる必要はない」

「いやそれはどうでも良い。私は二人の力になりたいの。これは譲れない」

「あ、うん」


 強情な言い振りにエネルはちょっと気圧された。プラチナが続ける。


「それに呪文の悪用禁止。ウイタレンの時に決めたこの気持ちも変わってない。けれど恩返しも含めて騎士団にいたら皆に頼っちゃうと思った。だからゾルダンディーに帰る事にした」

「おけおけ、ちゃんと自分で考えて決めたのなら何も問題はなし。わらわ良いと思う」

「うん……で、それでね、エネルちゃん。その」

「どうしたの? 歯切れが悪くなって」


 プラチナはもじもじと目線を逸らし言い淀む。エネルが首を捻る。


「言いにくい事なら言わなくても良いけど……」

「えーとね、その」

「うん」

「私、さっきの二つとは別にチヤホヤされたいと思ったの」

「へ?」


 チヤホヤ、確かにプラチナはそう言った。エネルは一応確認を取る。


「今さ、チヤホヤって聞こえたけど……」

「うん。私は、言った。賞賛されたい。こいつスゲーって思われたい。褒めてもらいたい。そんな感じで」

「お、おう」


 プラチナは続ける。


「ゾルダンディーに帰る一番の理由がそれになった。私は力を付けてこれから来る困難を打破できるようになって、実際に打破して皆に褒められたい。……理由が不純になってあれだけど」


 呆けていたエネルは我に返って首を振る。


「いやいや、何を言ってのさプラチナ。驚いたけどわらわ好みの理由じゃない」

「そうなの?」

「最高に良いと思うよ。恩返しとか呪文の悪用禁止とかよりも本能的で。不純なんかじゃない。でもまあ……強いて言うのなら」


 エネルは悲しげに言った。


「やっぱり寂しくなるね。プラチナといるのは楽しかったから」

「エネルちゃん……」


 プラチナは胸を締め付けられる心持ちになった。本音をいうまでもなく自分も寂しい。できる事なら騎士団に残りたい。

 けれどもう決めたのだ。この先どんな未来が待ち受けているか知らないが、この選択しかないと。後は突き進むだけ。


 プラチナはエネルを目を見てしっかりと、自分の正直な気持ちを伝えた。


「エネルちゃん」

「うん」

「私、頑張るね。頑張って頑張って、強くなって……そしていつの日にか」


「太陽の騎士団に」


「ゾルダンディーに」


「そして誰よりも、スターとエネルちゃん。この二人に『こいつスゲー』って思ってもらえるように」


 プラチナは席を立った。視線の先にはゾルダンディーの二人。


「だから今はここでお別れ。寂しくなるけど……またね」


 そうして、プラチナはゾルダンディーへ帰って行った。

 また再び会うために。今度こそ力になるために。


第4章はこれで終わりです。5章に続きます。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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