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24-3 エーテル・ブラスト計画 ③

 結局、孤島の調査はそれで打ち切りになった。

 撤退した翌日に再度ベネットの分身体だけで確認に向かったが、大量の火山弾と火山灰、冷え固まった溶岩に孤島全体がぐちゃぐちゃに破壊され調査の続行は不可能だと判断された。

 だが救助した少女のおかげで騎士団が来るまでの経緯が部分的に判明した。多重人格を自称する彼女は非常に協力的で淀みなく聞き取りに応じてくれる。



 曰く、エーテル・ブラスト計画は本当に実在していた。

 調査できなかったあの隣接した研究施設には、現在の科学水準を大幅に超えたクローン技術を実現する設備があったとの事だ。

 そしてそこで生み出された人造人間達は付与のアノマリーを受けた後、軍事訓練に移行する。

 そこまでの話は文書に記されていた通りであった。


 しかしそこからは文書の内容に相違が見られた。この非人道的な計画は人造人間を軍事利用する事に関してはあまり力を入れていなかったのだ。

 騎士団本部へ帰還してすぐ、騎士団領域内で発現した一軒家の中で人造人間の少女は語る。


「その……足切りが、凄かった。合格基準を一度でも下回った子は皆いなくなって」

「どんどん殺してどんどん補充するって感じです。あなた方が言う大人数での訓練はなく、呪文訓練が中心でした」

「それで基準をクリアし続けてた子も、いつの間にか何処かに連れ去られていなくなって」

「一体何のためにこんな事をしていたのかは、私達にも分かりません」


 昼夜問わずの訓練は過酷を極めた。次々に同じ顔が消され追加されていく。時には気まぐれで選ばれた個体も殺される。

 遺伝子が同じなだけで彼女達は別人だ。付与のアノマリーで従順さを植え付けられていても感情がある。

 いつ消されるか分からない恐怖。親しかった仲間の処分。変わらず訓練の過酷さ。

 救助された個体の精神が日に日に削られていく。


「それで私とボクっ子の彼女が副人格として生まれました。時には主人格の変わりに訓練を受けたり励ましたり」

「主人格の子はその状況から抜け出したかった。心の中で何度も外への想いをボクらに伝えて……死にたくない、どうにかして外に出たいって」

「私達もそれに続きました。死にたくなったので」


 どうせこのまま訓練を続けても未来はない。その想いは他の個体の中にも確かに存在した。

 一部の人造人間達は密かに、反乱を起こして自由の身になる未来を夢見ていて準備していた。


「準備……していたんだけど、ね」

「そうですね。私達は準備していた。でもあなた方が来る少し前に、何故か私達を皆殺しにする選択を取ってきたのです。用済みと言わんばかりに」


 まさに急展開だった。本当に唐突に人造人間全員を抹殺しようとしてきたのだ。脱走の意志を気取られたかどうかは分からない。

 その時の孤島には付与と念動力のアノマリーがいた。その他は主にメタルサソリが警備や教官の任を担っていた。人はほぼ滞在していなかった。


「ボク達は一気に劣勢になった。急に襲って来たから何もできずに」

「一応抵抗はしたのですがアノマリー二人の前ではあっけなく。で……」


 そこで少女は言い淀んだ。二つの人格はそこまで話して疑問符を浮かべたような顔になる。

 追い込まれるまでは覚えていた。だがそれ以降の記憶が飛んでいた。本来殺されているはずが何故か生きている。気を失う前の場所も違う。それはどうしてなのか。


「確か直前に……主人格ともう一人の子が何か呪文を唱えてたのは覚えてるんだけど」

「駄目ですね。そこからが真っ白です。往復ビンタを喰らって目覚めた場面まで飛びます」


 椅子に座った少女は言葉を切って、周囲に佇む複数のベネット分身体を見回した。その顔は緊張が更に増す色へと変わる。


「以上が私達の知る限りの情報となります。不明な点はありますが嘘偽りなく答えました。それで私達は、これから……どうなります?」


 保護はされたが生殺与奪の権は向こうにある。少女の不安は募る一方だった。

 対面に座るベネットが言った。


「質問がいくつか」

「……どうぞ」

「多重人格だとして主人格は今、何をしているのですか?」

「それが一向に表に出てこないのです。鍵を掛けた扉のように中に閉じこもって」

「今も何度も呼び掛けてるんだけど、全然出てこないんだよ」

「私達は副人格のためか干渉できません」


 ベネットは無言のまま何かを考え込んだ後、また質問をした。


「研究施設には人造人間を造り出すための機材があったとか」

「うん……培養器とかあって。人間サイズ」

「その機材の操作等もメタルサソリが行って?」

「ええ、召喚生物という知識はあるのですが他もそうなんですかね? 知能が高すぎだと思いました」

「……知能が高いとは具体的に」

「食堂で料理を作ったりボク達を管理処分したり。教官として会話したり。でも会話って言っても命令ばかりだった」

「音が出てたんです。メタルサソリから。男の声が」

「………………………………」


 ベネットは俯いて長く沈黙した。その沈黙は少女には重苦しかった。

 依然として周りには分身体の中年大男が佇んでいる。その全てに視線が注がれて息苦しい。

 やがて少女の方から耐えきれなくなって、唾を飲み込んでその沈黙を破った。


「それで、その……ボク達は?」


 顔を上げたベネットが言った。


「……まあ、様子見ですね。流石に不憫過ぎて処分する選択はできません。仲間も同意済みです」

「やったー!!」

「やったー!!」

「ただし、監視は付けなくてはなりません。これからの活動で我々の信用を得られるよう頑張ってください」

「それはもう、ええ!」

「うん! 頑張るよボク!!」


 副人格の少女達は一つの身体で交互に喜びを爆発させている。それを見てベネットはこの哀れな少女に明るい未来が来る事を願う。

 だがそれと同時に調べなければならない事が増えた。やはり情報収集のために世界に可能な限り手を伸ばす必要がある。それをどうやって行うか。

 これからの騎士団の活動も考えなければならない。コミタバや街の今後も。ネイトやバルガスの捜索も。そしてアウリリウエ。

 やる事は山積みであった。



○○○



 そして同時期、帰還してすぐにヴァニラ・コースキーの事情聴取も行っていた。

 太陽の騎士団本部にある一室で彼女と話し合う。

 

「で、一体何なのお前……何でいたの?」


 同席していたエネルがジト目で口火を切った。目の前でソファに座るヴァニラは素っ気ない態度で返す。


「別に。ただ降りかかる火の粉を払っただけよ」

「火の粉? 海から離れた孤島で?」

「ええ偶然、偶々、存在変化で上空を漂ってたら噴火した。それだけ」

「……それで危険だからアノマリーで黒煙を排除した、と?」

「そうよ。それ以外に何があるの?」

「え……いやだって」

「何よその顔、結果的に助けてあげたのに」


 ヴァニラは不満を滲ませて不貞腐れる。エネルはわざわざ孤島に着いて来た時点でそういう事じゃん、と思った。

 困惑で閉口したエネルの言葉をベネット本体が継いだ。


「ホムラン後も各地で暴徒の排除を行っていたと耳にしていましたが……」

「ええ、調子に乗っている奴らを片っ端から殺し回ってたわ」

「それなのに何故、急に我々に協力しようとしたのです?」

「協力? 勘違いしないで。助けたのは偶然よ」

「そういうの良いからってわらわ思う」

「……単に効率が悪いと思ったのよ」


 効率と聞かされ首を傾げる二人にヴァニラは言った。


「理由は知らないけど急に暴れる奴らが少なくなった。コミタバも暴徒もメタルサソリも。あれだけいたのが何だったのかって思う程よ」

「……それはまだ、復興範囲外の話ですか?」

「そうよ。一人でやるより太陽の騎士団を使った方が良いと思ったのよ。……それと、まあ」


 そこでヴァニラは言葉を切って息を吐いた。声のトーンが落ちたのが二人はありありと分かる。


「ホムランが蹂躙されたのは私の所為でもあるしね。アノマリーの私が感傷に浸ってないで手伝っていれば、少なくとも死ななくて良い人間はいたはずよ。……ビルみたいにね」


 後悔。その感情に関してはエネルもベネットも同じ。

 ベネットは時間のアノマリー。エネルは剣のため剣の呪文を触れて唱えてくれれば、その呪文の効果が身体に乗るため戦えない事はない。剣だから毒ガスは無効。

 仮に違う行動をしていたのならビルは死ななかったのかもしれない。二人はヴァニラを胡散臭く思う気持ちを多少改めた。


「だからこれからは私も混ぜなさい。馬鹿げた指示じゃないのなら従ってあげるから」


 ベネットが言った。

 

「少し相談タイムを」

「許可一択でしょ。アノマリーが加わるのに何で相談するのよ」


 むっとしたヴァニラを無視して部屋の隅に移動し二人囁き合う。


「それで、どう思います?」

「とりあえずツンデレの波動を感じる」

「ほう、ツンデレ。知っています。ツンツンデレデレツンツンデレデレ」

「それ抜きにしても置いておくのは問題ないはず。そもそもホムランの時は静観してただけだし」

「同感です。それに彼女は戦力以外にも利用価値がある。質の高いフロスト系の呪文使いですから」

「どういう事?」

「ニールのお世話をしてもらいます。また夏が来れば発狂する事でしょう。その前に大量の氷雪で暑さを緩和すれば大人しくなるかもしれません」

「なるほど、その発想はなかった。スター達の反応は?」

「彼らも同意してくれました。人造人間の少女と一緒で様子見という感じで……むっ」


 とその時ベネットの動きが止まった。その顔は先程のエネルとは違う困惑に包まれる。

 エネルが聞いた。


「どうしたの?」

「少々判断に困る出来事が起こりました。今カインとオーハマーをここに呼びました。さてさて、これはどうしたものか……」

「はっきり言って」

「ゾルダンディーという国はご存知ですか?」

「知ってる。つい最近そこの知り合いが死んだからね。別れは済んでるから気にしないで」

「あ、はい。で……その国のトップ、レスティア・アリエールから手紙が届きまして。その内容がちょっと」

「えっ?」


 もう一度分身体を通して手紙を読んだベネットが首を捻る。


「騎士団と同盟締結のため来訪したいとの事です。返答を待つ、と」


 数秒置いてからエネルが疑問を呈した。


「……何で? ここからくっそ遠いじゃん。接点もないし」

「何ででしょう?」

「わらわ分からん。ただこれ以上の面倒事は増えないで欲しい」

「全くです」


 いつまでも囁き合っている二人にヴァニラが催促の声を出した。


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