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24-1 エーテル・ブラスト計画 ①

 エーテル・ブラスト計画とは、クローン技術によって大量製造された人造人間を軍事運用する計画である。

 ホムランから北西遠くにある海に浮かぶ孤島、火山が一つ聳え立つその島に実験施設と訓練施設は存在する。


 とある優秀な呪文使いの体細胞を用いた受精卵に特殊な薬剤を投与する事で成長させる。

 その後、一定の年齢まで成長させた人造人間に知識と従順な人格を付与のアノマリーで植え付け訓練へと移行する。


 訓練内容は大人数での運用を中心とし、部隊での継戦能力の確保に努める。

 だが当然、同じ遺伝子情報を持つだけの別人のため個体ごとに質の優劣がある。呪文もバルガライを主に扱える傾向にあるがバラ付きも生じる。呪文は未だ科学的に解明する事が不可能な超常現象だから仕方がない。

 よって質の低い個体に関しては呪文や薬物、科学技術のモルモットに利用し不要になれば海に廃棄する。もしくは新たな個体を製造するための材料として再利用も検討して……。



 コミタバのアジトから回収した文書には、概ねこのような非人道的な内容が記されていた。



○○○



 コミタバの襲撃から三日後、太陽の騎士団は空中列車でその孤島へと調査に向かう。

 空を走る蒸気機関車に繋がる車両の数は八個と多く、大地の裂け目の調査時よりも人員を割いていた。


 先頭の機関室にアノマリーを発現できるベネットの分身体を配置し行手を警戒する。その機関室のすぐ後ろには均一の座席がある一般的な車両が続きスター達が乗車している。

 残りの車両は全てベネットの分身体を運ぶための貨車だ。二百を超える分身体が詰め込まれている。

 文書を見るに規模の大きい戦闘が予想されるため、それに備えての動員だった。


 一般車両にはスターとジクルド、ニールにオーハマー、カインが適当な席に腰を下ろし到着を待っていた。

 そんな中、書き写された文書を眺めていたカインがため息を吐いた。


「駄目だ、何度読んでも意味が分からん。何でこうなる」

  

 同じく書き写された文書を別の席で読んでいたオーハマーも同調する。


「やっぱり変っすよね。どう見ても不自然っす」

「ああ、これだけの事をしといて暗号化されてないのは不自然だ。機密扱いだろ普通」

「まあ一応コミタバが解読した文書って可能性もないわけではないっすけど……」

「だがそれなら何故、コミタバがこの文書を持ち出さなかったのかという話になる。わざわざ俺らに解読した情報を残す必要はないだろうに」

「その通りっす」

「なのにアジトに残したままだった。……コミタバにとってこれは重要じゃないのか?」


 元裏方の二人にとっては、エーテル・ブラスト計画は首を捻る内容だった。

 出発するまでの間、何度も読み込んだ内容にカインがまた目を落としながら続ける。


「このクローン技術も本来はあり得ないものなんだ。実現できているわけがない。仮にできていた場合、計画の内容的に俺やオーハマーの耳に入っていないのはおかしいからな」


 現在の科学水準では理論はあるものの、クローン技術という同一の遺伝子を持つ存在の製造は不可能とされている。呪文という超常現象を科学的に解明するための実験過程で、人体実験は行われ続けているが未だ到達できてない。それは当然の事実である。

 加えてこの文書には製造された人造人間を部隊運用していくと書かれている。ならば何処かで同じ遺伝子を持つ兵士が部隊で活動した形跡があるはずだ。

 しかしそんな情報などジクルドを含めた三人は把握していなかった。つい最近この計画が始動したわけでもないはずなのにだ。


「だから少なくともコミタバが発端の計画じゃないと思う。多分何処かの国や組織の文書がコミタバの手に渡った。だが依然として不自然さは解消されない。まあつまり、肝心な事は何も分からないって事が……分かった」


 確かな事が言えない結論に至りニールが呆れ声を出した。


「結局、そこに行く着くわけかよ。なんかそればっかだな最近」

「しゃーない。そもそもコミタバという組織自体が良く分かってないしな。古い組織だとは言われているが」

「つーかオレ的にはお前の性格が変で気味が悪いっての。何でテンション高くなってんだよ。前は陰気だったじゃねえか」

「そりゃスミスの抹殺が完了したからな。これでようやく復讐が果たされたんだ。元の性格にも戻るってもんさ」

「いやオレら元の性格とか知らねーし」

「それは慣れてどうぞ。これからよろしくな」


 洞窟が見つかってから交流し始めた頃に比べてカインは明るくなった。それは目標の排除に成功したからだった。

 曰く、スミスは所属していた裏方を裏切りカイン以外の全員を皆殺しにした。それでカインは復讐のためスミスを探していた。

 どうやらスミスは人類全てを皆殺しにする思想の持ち主だったらしく、それでコミタバに与した。

 一体全体何がどうなったらそんな思想になるのか、スター達はスミスの情報を教えられた時は怪訝に思ったものだった。


「…………確認だが、そのスミスは本当に死んだのか?」


 とその時、唐突に疑問が投げ掛けられた。

 声の方を向くと座席二つ分離れた位置に座る鉄兜と被った男、ジクルドが疑問を呈していた。


「…………不自然さを考えるなら、スミスの死も同じだ。状況的に偽装されていた可能性も頭の片隅に置いておくべきだと思うが」


 その抑揚のない、しかし何となく気弱な声にカインが返した。


「それは言われるまでもないさ。当然分かってる。だが俺はスミスは死んだ可能性は高いと思ってる。だからどうしても清々しい気分になっちまう」

「……そうか」

「やっぱ復讐って必要だよな。復讐は何も生まないなんてあるがあれって嘘だろ。誰が最初に言い出したんだか」

「なんかウキウキで超キモいっす」

「大型ソファぶち込んでも良いかぁ?」

「落ち着けって。もう仲間だろ俺」

「仲間だろうがぶち込みたくなるウキウキ具合なんだよなぁ」

「あ、そうそう。ジクルド・ハーツラスト」


 ニールが右手を上げて大型ソファを発現した所でオーハマーが言った。


「それでこのエーテル・ブラスト計画はどう思うっすか? 後で答えるって言ってたわけっすけど」


 今度は逆に疑問を投げ掛けられたジクルドは、少し間を開けて返答した。


「…………これはあくまで、俺個人の見解になるが」

「はい」

「…………………………」

「タメ長くね? 早く言えよ」

「勿体ぶるなっす」

「……別の目的があるような気がする」


 予想外の言葉に車内の全員がジクルドを注視した。


「文書にある不自然な点は、取って付けたような適当さを感じる。……それほど重要ではない。おそらく目的は別にある」


 テンションが元に戻り真面目顔になったカインが尋ねた。


「エーテル・ブラスト計画は嘘って事か?」

「……いや、本当の目的のための隠れ蓑」

「隠れ蓑……計画自体は存在する、か」

「ああ」

「ちなみにまた聞くが、ネイト・ネッシーは何処にいると思う?」

「分からない。だが彼女の性格からすればハゲが治る洞窟を怪訝に思って醤油分身を派遣する。……それは断言できる」

「なら動けない状態にいるわけか」

「ネイトが死ぬとは思えない。きっと何処かに」


 カインはちらりとスターを盗み見た。スターは会話は聞いているようだが何処か上の空だった。

 その理由は分かってる。スミスを殺したからと言ってもビルを亡くしたのは変わらないからだ。


 それがカインにとっては負い目だった。あの時、ビルを優先すれば良かったと今でも後悔する。

 だから早くアカム時代の仲間、バルガスとネイトが見つかってほしいと思う。現状スターのためになるのはそれしか思いつかない。本当に何処にいるのやら。


「……………………」


 そんなカインの考えを他所に、スターは先程のカインの言葉を反芻していた。


(復讐は必要……)


 もうそろそろ、答えを出そうと思う。ホムランの城壁の上でビルに言われたあの事を。

 太陽の騎士団はもう大丈夫なはずだ。分身体を含めてアノマリーは三人もいる。復興初期のメンバーも、洞窟が見つかってから加入した仲間も皆が協力的。ベネットの分身体も本当に大勢いる。コミタバだって予想外はあったが余裕を持って撃退できたと思う。これからも何とかなるだろう。


 だから後は色々と悩んで悩んで、悩みまくってこれからどうしたいのかを考える。

 既にほぼ答えは出ているがまだ考える。そして決める。

 まあ目的の孤島に到着する前には気持ちを切り替えないといけない。


 スターはそんな事を考えていた。


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