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プロローグ 五年前

 アカムとドバード。この二つの国の対立から始まった戦争は、世界大戦にまで発展した。

 戦争による莫大な戦費負担や資源消費、内乱による国力低下の隙を当事国以外の国々に突かれたからである。


 参戦国登場による戦火の拡大。結果、各地で起こる様々な衝突で多くの血が流れる事になった。

 悲鳴や怒号、火災や破壊音、犯罪、悲しみ憎しみ。もはや治安の維持は困難で、世界中が壊滅的な混乱におちいってしまっていた。


「サニー、サニー……!」


 壊滅的混乱はどこも同じ。アカムの首都でもそれは起こっていた。



 とある孤児院のすぐ外で、少年が少女を抱きかかえている。

 少年の身なりはボロボロだった。まるで小さな爆発に巻き込まれたように服を焦がし、身体に傷を負っていた。

 周囲を見渡して少女の傷を治せる者を探すも見つからない。突如として発生した内乱で、街の住人は逃げ惑い、他人の事を気にする余裕はなかった。


 少女の傷は致命傷だ。

 胸に刃物で突き刺されたような傷があり、そこから流れ出る血は止めようがなく溢れ、地面には赤色の水たまりが広がり続けている。

 焦点の合わない虚ろな瞳は、呼び掛ける少年の顔を見ていた。


「サニー、何で……っ!」


 何故こうなったのだろう、という疑問が少年の頭に浮かぶ。しかし答えは出なかった。

 目を覚ましたら自分は地面に寝ていて、同じ孤児院で暮らしていた大切な家族が血を流して倒れていた。そして慌てて駆け寄った。分かるのはそれだけだ。


 このままじゃサニーは死んでしまう。早く傷を治さなくてはならない。でも時間がない。回復呪文しかない。でも自分は回復呪文を発現できない。なら代わりに発現できる人を連れてこなければ。時間がない。でも今サニーをここで一人にして、いやそれよりも家にクレアさんが……。


 全ては目の前の命を繋ぎ止めるため、少年は動き出そうとした。

 しかし少年の抱き支える右手にサニーの左手が添えられて、その動きは止まった。

 お互いの瞳にお互いの顔が映り込む。

 サニーは言った。


「スター……今まで、ごめんね」


 まるで時間が停止したような感覚だった。

 今まで、ごめんね? 謝って……スターは自分の名前。


 それは少年にとっては何の心当たりのない唐突な言葉だった。

 謝られるような事をされた覚えは何もない。むしろ今、助けられなかった自分の方が謝るべきじゃないのかと思う。


「…………」


 気付けばサニーは死んでしまっていた。添えられた左手は既に、滑るように力なく地に落ちている。

 サニーはもうこの世にいない。


「…………」


 何故最後の、死に際の言葉が謝罪の言葉だったのか。少年には分からなかった。

 これからハゲが治る洞窟を見つけて、戦争からの復興を成し遂げた後も、今から五年経過した後も、変わらず分からないままだった。



 だからスター・スタイリッシュは探してる。

 何故サニーが謝ったのかを。その理由を知りたくて。

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