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灰歴史  作者: 墨憑重
二章 淡い桃色濃い恋心
10/14

十話 演結び

 誰もいない、何もない、あるものと言えばどこまでも続く水平線。ほんの少し体を動かせば、波紋がどこまでもどこまでも広がっていく。そんな世界に私は独り。ここは波風一つ立たないけれど、私の中では無と絶望が波のように引いては押してを繰り返している。

 私は何者なのかさえ、もう覚えていない。だけど、自分のこと以上に大事なことを忘れている気がする。何を忘れたのかも、もう覚えていないのだけれど。


「心さん!!どこにいるの!!」


 心さん…?それが私の名前?私を呼んでいるの?私の大切な人?分からない。その答えは忘却の彼方だ。思い出そうと記憶の波が押し寄せても、こちらに届く前に引いていく。


 侵入者は排除する。


 私じゃない私が囁く。何人もの人がここを訪れた。自分の手で人を傷つける感覚を嫌というほど味わった。もう皆んな私の手先になってしまった。

 私のことを表すのであろう名を呼ぶ声はとても懐かしく、安心するような声に感じる。傷つけたくない。 だけど、その願いは虚しいだけのようだった。


 ごめんなさい





 僕は心さんの名前を叫びながら走り回る。しばらくそうしていると、心さんが姿を現した。前よりも邪悪な気配が濃くなっているように感じられる。顔に浮かび上がった模様はより範囲が広がり、顔全体に侵食している。

 その姿は押しつぶされそうなほどに禍々しい。心さんの抱える闇をそのまんま映し出したかのようなその姿は、心さんの心が蝕まれていくことを感じさせる。


「心さん…」


 心さんの名を呼ぶ声が口からこぼれ落ちるが、返答はない。吐いた言葉は独り言となって虚に吸い込まれていく。


「―ッ!!」


 心さんは無機質な瞳で僕を一瞥すると、弓を握る力を強くした。そして、開戦の合図をするかのように一本の矢を放ってきた。

 僕は大きく跳躍して回避する。空中を舞い、無防備となった僕を射落とさんとばかりに、心さんは矢を放ってくるが、身を捻って回避する。

 ザンッと空気を切り裂いて体の近くを通過する感覚が間近に感じられた。

 着地をし、近接戦にもつれ込む。腕と弓がぶつかり合うと、腕がビリビリと痺れた。

 思わず腕を引っ込めそうになるが、すかさず連撃を叩き込む。しかし、心さんは弓をぐるぐると回転し、いとも容易くいなしてしまう。


「ガハッ…!!」


 数回の打ち合いが叩いたが、心さんの繰り出した一撃が腹部に当たり、僕は吹き飛ばされてしまった。

 打たれた箇所が痛む。今ので決めるつもりなど、毛頭なかったのだろう。僕の隙をついて放った簡単な払い。しかし、そんな一撃でさえ重く力強い。

 吹き飛ばされた場所で、腹を抱え膝をついてしまう。

 心さんはこれを好機と見て矢を放ってきた。しかし、この矢は僕へ向けられたものでなかった。

 僕の真上へと到達した矢は弾け飛び、分裂した。無数の矢が降り注ぐ。

 回避は間に合いそうもない。


「頭を守れ!!」


 アマテラスにそう叫ばれ、咄嗟に腕を十字に組んで頭だけでも保護する。

 頭は守られているものの、その守っている腕や、はみ出している体に矢が刺さってしまう。


「はぁ…はぁ…」


 数秒経って、矢の雨が止んだ。体は傷だらけで、血が体を伝うのを感じる。服もボロボロだ。

 体がフラフラともつれ、立っているだけで限界である。

 初めて見る技だ。やはりこの前より強くなっている。アマテラス曰く、灰燼は時間経過とともに強くなるらしい。しかし、弱音を吐いたって心さんは救えない。

 僕は最後の力を振り絞って心さんに飛びかかる。

 心さんは弓を構えなかった。何をするつもりなのかと思えば、手を前に突き出した後、その手を天に掲げた。

 ザァァッと激しく水が流れる音が轟々と響き渡る。

 すると、先程まで凪であった夜の海に数十メートルの波が発生した。

 僕は逃げるが、あっという間に飲み込まれてしまった。


「ッ…ゴボボ…!ガ…バ…!」


 自分が吐いた気泡で視界が埋め尽くされる。鼻から水が入って、頭がジーンと痛む。身を捩ることもできないまま、何メートルも流されていく。息ができない。頭がクラクラとして意識が遠のいていく。

 やがて、波が引いた。僕はその場に取り残されてうつ伏せに倒れ込む。


「ゴホッ…ゴホッ…!!はぁっ…はぁっ…」


 ようやく息を吸える。欲望のままに酸素を取り込む。しかし、いくら吸ったところで満たされない。

 全身びしょ濡れで、髪の毛先から滝のように水が滴っている。


 勝てない。


 僕の頭にそんな四文字が浮かんだ。


「やはり、強くなっているな」


 どうしたら…。


「多少荒療治だが、仕方ねぇ」


 荒療治…?上手くいくの?心さんは平気なの!?


「保証は出来ねぇな…」


 そんなの、無理だよ。他の手を考えよう?


 僕は心さんの身を案じ、荒療治は避けたいと考えた。

 もう、そんなことを気にすることができる段階ではないというのに。


「はぁ…」 


 アマテラスは急に目の色を変えてため息を吐いた。その様子に恐怖を覚え、思わず困惑の声を漏らしてしまう。


 え…?


「いいか!!中途半端な優しさじゃだれも救えねぇんだ!!」


 ―ッ…


「あの女を救いたいしいじめっ子も救いたい、そんな我儘を貫き通した結果、もう手がなくなった!!嫌なら諦めるしかねぇんだよ!!何もかも全部救いたいなら、這いつくばってでも足掻け!!覚悟を決めやがれ!!」


 アマテラスは烈火の如く言う。だけど、怒りだけじゃない。本当に僕のことを考えてくれている。そんな情熱のような物さえ感じる。おかげで我に帰った。

 ここで終われば、全部が中途半端だ。我儘で海斗君を巻き込んで、我儘で児屋君を助けて、全部我儘だ。 その我儘全部貫き通して、結果心さんを救えないなんて―


 そんなのは絶対ダメだ!!


 心さんの身が危険になるかもしれない。だけど、それは僕が頑張ればいいだけのことだ。

 絶対に心さんを危険な目には遭わせないし、絶対に救ってみせる。


「アマテラス!!お陰で目が覚めたよ!絶対心さんを助かるから!!力を貸して!!」


「ふん…。良い目になったじゃねぇか」


 アマテラスは静かに笑って言う。


「いいか?チャンスは一度きりだ。とにかく全力で、あいつに近づくぞ!!」


 僕は立ち上がって、顔を滴る水を払う。視界が良好になり気合いが入る。

 心さんは完全に僕は死んだと思っていたのか、まだ立ち上がることに少し驚いた表情を見せたが、すぐに無表情に戻って再び大きな波を呼び寄せた。


「アマテラス!!お願い!!」


「おうよ!!」


 僕はアマテラスに交代をする。

 アマテラスは大きく跳躍して波を飛び越えた。そして、サーフボードもなしにサーフィンの容量で波の上を滑る。僕らは波に乗っている。

 

「あとは頼んだ!!」


 アマテラスは波を地面かの如く力強く蹴って心さんに向かって跳んだところで、僕に体の主導権が戻ってきた。

 上空から、心さんに接近する。空気抵抗が濡れた肌を乾かしていくのを感じる。

 少しずつ、距離が縮まる。


「―ッ!!」


 心さんは僕を射止めようと矢を放ってくる。矢は的確な軌道で僕を狙って迫ってくる。

 よく、観察する。矢は空気を切り裂いて一定の速度で近づいてくる。


「今だ!!」


 アマテラスの指示通り、僕は腕を振って矢を弾く。矢は推進力を失ってハラリと落ちていく。タイミングがズレていれば刺さっていただろう。


「心さん!!!」


 僕は心さんに向かって手を伸ばす。すると、僕は眩い光に包まれた。

 気がつくと、別の世界にいた。「無」という言葉が大変似つかわしい、昔のテレビのようにモノクロで、何もない灰色の世界。

 僕は自分の手を確認すると、まるで血が通っていないかのような灰色であった。鏡を見ずとも確認できる部位を見ても、どこにも色がなかった。

 心さんは僕を忘れてしまった。


「ここはあいつの精神世界。沈静化させてから入るのが理想だったのだが…まぁいいだろう」


 アマテラスはそう言うと、ここにいる心さんを救えば元に戻ると続けた。


 心さんの心の中…。辺りを見渡すと、本当に何ももない。ほんのり灰の匂いがする。何もかも燃え尽きてしまったのだろう。

 少し先に心さんの後姿があった。しかし、そこにはいつもの淡い桃色はなく、心さんまでもが灰色に燃え尽きていた。僕は思わず走り出すと、しっかりと地面があることを実感させられる。

 

「心さん!!やっと見つけた!!」


 心さんの後ろ姿を見ると、外の心さんとは違い、制服姿の心さんであった。色は無いものの、いつもの心さんに戻っていた。

 しかし、まだ完全ではなかった。


「もう私を放っといてよ!!!!」


「心…さん…?」


 心さんは僕を認識するやつ否やこちらを振り返って叫び声を上げた。

 呆然と立ち尽くし立ち去ろうともしない僕を見て、手を前に突き出した。すると、心さんの手に弓矢が現れた。


「やはり、かなり錯乱しているな」


 アマテラスは言う。恐らくアマテラスが先ほど言ったように、沈静化させずに無理やり中に入った弊害だろう。


「出てって!!!出てって!!!!」


 心さんは矢を放った。しかし、外の心さんほどの正確さはなく、乱射に近かった。

 僕は軽々と回避して心さんに近づいた。そして、手を掴んだ。金属音を立てて手から弓が落ちる。


「心さん!!僕だよ!!思い出して!!」


「うるさい!!うるさい!!!!」


 心さんは僕の手を振り払って言った。


「全部、私のせいなの!!」


 すると、灰色だった景色の足元、壁、天井、全方向全てがスクリーンの如く映像が流れ始めた。

 心さんは"覚えていない"と言った。しかし、僕はハッキリと覚えているあの記憶。

 しかしどうやら、僕のこの記憶は不完全だったようだ。

 映像の中の僕の顔は黒のクレヨンで塗りつぶしたように隠れていたが、僕の中の記憶とは完全に一致していた。幼稚園の時、いじめられていた女の子を助けた記憶。

 

 その女の子は―


 頭の中にノイズと共に頭痛が走る。


 心さんだった。



 

 なぜこんな大事なことを覚えていなかったのか。それは僕が逃げたからであった。助けた女の子と向き合うことから。




 心さんを助けた後、僕がいじめの対象になった。児屋君の「誰にも言うな」という脅しを盲信していた僕はそれをひた隠しにしていたが、ある日、それがお母さんにバレた。そして、両親と共に幼稚園に相談しに行ったのだ。


 その途中だった


 道路を転がっていた輪を無理やり止めた、そんな高音が響き渡る。そうかと思えば、ガシャンっと金属が崩れ落ちる音に変わった。

 オーケストラのように、音は変わる変わる鳴り響く。サイレンの音、僕を運ぶ音、人の音。

 次に目が覚めた時の音は、人々の涙を流す声だった。

 そして、その音を両親が聞くことはなかった。


 僕は両親を失った。幼稚園に行けばいじめられる。

 これが心さんを助けた僕に残されたものだった。

 そんな日常の中で、一つの最低最悪な考えが浮かび上がった。


 心さんを助けなければよかった。


 いや、それは考えてはいけない。心さんは関係ない。思い浮かんだ考えをそうやって掻き消そうとするが、できない。心さんを助けた事を後悔する事をやめられない。

 

 だから、全部忘れてしまったのだ。この後悔が恨みに変わってしまう前に。


 助けた女の子の顔、声、名前。


「ごめん…。僕たち、はじめまして…だよね…?」


 声をかけてくれた心さんに僕が放った最低な言葉だ。


 気がつくと、スクリーンに流れる映像は、僕の記憶へと移り変わっていた。


 心さんは膝から崩れ落ちて、床の映像を見ていた。 僕の顔を塗りつぶすものは消えていた。


「こんな大事なこと忘れて…ごめんね…」


「全部…私のせいだ…」


「違う…違うよ…。心さん…」


 僕って本当に最低だ。謝らなければいけないのは僕のほうだ。心さんは何も悪くない。


「ごめんなさい…!!ごめんなさい!!」


「心さん…!!」


「ごめんなさい!!ごめんなさい!!!もう私に優しくしないで!!!」


 心さんは号哭し続ける。僕の声が入り込む余地などない。

 

 その時だった。世界に亀裂が入り始めた。


「―ッ!!長くは持たないか…。このままじゃまずい…!!早くあいつを助けないと、取り返しがつかなくなる!!とにかく、お前のことを思い出させろ!!」


「どうしたら…」


「私、あなたの友達失格だよね!?」


 そんなこと、絶対にありえない。

 僕は酷いことを言ったのに、心さんはもう一度僕と友達になろうとしてくれた。僕は、それに救われたんだ。

 僕と心さんは真の友達。人とは違う髪の色を持ったという悩みを共有している。お互い、二人でいる時は何も隠さないで、そのままの自分でいられるでいられる。

 

 ―あった。一つだけ。心さんに思いを届ける方法が。


 僕を思い出してくれる方法が。

 

 耳に触れれば今でも、心臓がドキドキして、体がふわふわとするあの感覚が思い起こされる。

 僕は項垂れている心さんにそっと近づき、膝を折って顔を近づける。


「僕は、心さんの真の友達だよ」





 私の耳に吐息と共に声が注ぎ込まれた。耳がゾワゾワとして、頭の中に囁かれた言葉が鐘のように何度も響き渡り、体がフワフワとした感覚に包まれた。

 だけど、それが心地いい。

 さっきまで叫んでいたはずなのに、それが自然と停止した。

 男の子は私から顔を遠ざけると、少し恥ずかしそうにイタズラな笑みを浮かべていた。その姿が何よりも愛おしく感じられた。


「僕、最低だから…!心さんのこと忘れて、逃げてた…。本当にごめんなさい…!!こんな僕だけど、心さんが良ければずっと心さんの友達でいたい!」


「ぁ…ぁ…」

 

 雫が私の輪郭を模って落ちる。無論、悲しいわけじゃない。


「助けたのが心さんで本当によかった。絶対に心さんのせいなんかじゃない。僕は、僕が心さんを助けた以上に、心さんに助けられたと思ってる」


 私のせいでいじめの標的になって、そのせいで男の子は両親を失った。そんなことも知らずに一方的に好きになった。そんな下心しかなかった私を受け入れてくれた。あなたの言葉に救われた。その気持ちが知れてよかった。

 とめどなく溢れてくる涙を袖で拭って、目の前で笑みを浮かべる男の子に笑顔を返す。

 やっぱり、あなたは私のヒーローだ。


 私の名前は神谷心。そして―



 颯人君の真の友達だ。


 心の中でそう呟くとモノクロだった世界に色がついた。





 キラキラと輝く朝日に照らされる早朝。小鳥も囀っている。そんな小鳥の囀りを掻き消すように、スマホのアラームが鳴った。

 一体、何度目のスヌーズだろうか。


「えぇ!?もうこんな時間!?」


 私は勢いよく身体を起こし、スマホを手にとって時間を確認すると、8時を過ぎていた。8時20分までに着けばセーフだ。ダッシュで行けばまだ全然間に合う。

 私は急いで用意を済ませる。パジャマから制服に着替え、昨日やっておけばよかったと後悔しながら時間割通りに教科書を詰める。

 染毛剤を手に取り、しばらく眺める。しかし、これはもう必要ない。

 気品の欠片もなくドタドタと音を立てて下の階に降りる。

 そして、食パンを手にとって外へと飛び出す。


「行ってきまーす!!」


「いってらっしゃーい」


 お母さんの見送る声をよそに、私は食パンを加えて走り出す。



 チャイムとほぼ同時に校門をくぐり、出席確認と同時に入室した。


「セーフ!!!!!」


 扉を開くと共に叫ぶ。


「アウトだ。神谷。さっさと座れ」

 

 そんなお決まりな会話を済ませると、教室が笑いに包まれる。



「おはよう!心ちゃん!!」


「おっはよー!」



 

 ホームルームが終わった後、心さんは友達と楽しそうに話している。なんだか、今までより一層楽しそうだ。

 髪は淡い桃色。人と違っても心さんは心さんだと受け入れられ、もう隠す必要がなくなったのだ。

 僕はすることがないので、髪の毛を弄ってみる。目にかかっている髪の毛は漆黒だ。

 僕はというと、まだウィッグを外す気にはなれない。もうみんなにはバレてしまったけれど、人気者の心さんと日陰者の僕では全然訳が違う。


「よぉ、颯人…」


 いつものドスの聞いた声とは違い、少し緊張したような声で声をかけられ見上げてみると、児屋君の姿があった。

 周囲の話し声が一段と騒がしく感じられるほど、二人の間に沈黙が走った。

 先にアクションを起こしたのは、児屋君の方だった。児屋君は僕の頭めがけて手を伸ばしてきた。

 そして、ウィッグを外してしまった。


「えっ…あ…」


 僕はひどく動揺する。しかし、児屋君の口から出てきた言葉は意外なものであった。


「その髪…カッケーと思う… から、もう隠さなくてもいいんじゃねぇの…?」


 "カッケー"つまりは"かっこいい"だ。これを悪口や、何かの皮肉と受け取るほど僕は偏屈ではない。

 何がどうかっこいいのか分からない。きっと、カッコいいという言葉自体に意味はなくて、ただ僕の髪を褒めたかったのだと思う。

 ただ、この際そんなことはどうでもいい。褒めてもらえたという事実だけで十分過ぎるほどに嬉しい。


 やっぱり、信じてよかった。


「ありがとう」

 

 児屋君を見つめる顔が自然と笑顔になる。

 児屋君も顔を綻ばせると、僕の頭を乱暴ながらも優しく撫でると、どこかへ行ってしまった。




「児屋…もういいの?」

 

「あぁ…もういい…」


 君はもう十分過ぎるほど罰を受けたよね。

 虐めは決して許される事じゃない。だけど、僕は君

を赦すよ。


 俺は颯人に言われた言葉を振り返る。

 友達…か…。

 天照大御神。あいつはお前によく似ているな。





 学校から変わって海斗の家。しかし、今日はカタカタとキーボードを叩く音がしない。


 俺はもう12時になってるのに、今だにパソコンも立ち上げないでベッドの上で天を仰ぐ。


 もう、自分を責めるのはやめにしよ?世界に否定されようと、自分だけでも自分を認てあげよ?それに、何があっても、僕は海斗君の味方だよ


 颯人に言われた言葉を俺は何度も何度も噛み締める。不思議なことに、噛めば噛むほど味わい深い。 


「友達…か…」






 

 そんな様子を、遠く離れた廃ビルの屋上で見通す者がいた。


「チッ…どいつもこいつも…」 


 少年は首を掻きむしる。

 そして、テレビを消すかのように、世界を見通すのをやめる。これ以上は頭に血が上り過ぎると判断したためだ。


「天照大御神…!!天照大御神!!」


 しかしその甲斐もなく、その名を復唱する度にボリュームが上がる。ガリガリと皮膚を引き裂く音も大きくなる。


 また、歴史が紡がれやがった。何もかもがうまくいかない。

 少し落ち着くと、首のあたりがヒリヒリと痛んだ。 神は斬られようと、貫かれようと、そう痛まない。それに引き換え人間の体というものは実に難儀なものだ。

 

 ―特に少女の身体というものは


 前世とはまるで使い勝手の違ってか弱い種族なうえ、この肉体は性別も違う。性別が違うとこうも慣れないものなのか。それは男の格好をしていても誤魔化しきれない。

 まぁいい。慣れるまでの準備期間はまだまだある。

 まだ次の手は残っているのだから。


「天照大御神…お前は必ず殺す」








 


 




 

 

 







 

 




 


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