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缶コーヒー



午後6時、浜波高校演劇部の部室にある窓から、夕暮れを観察する少年がいた。少年は缶コーヒーを持っていた。その缶コーヒーは暖かかった。

「伊藤くん?」

唐突に話しかける声。

唐突に声をかけられた少年は返事をした。

「ふゃあ!??!」


4秒の沈黙。


「あの、今何してるの?」

「あっ、今ですか?」

ようやく振り返った少年は黒髪ロングの少女を視認した。

クラスメイトの霧川さんだ。

「たそがれてました……」

「、、、そう。」

困っていそうである。



「帰りますね。」

この空気に耐えられない少年は、指定カバンを手に取り、下校するための支度に取り掛かる事にした。

少女は言い放つ。

「待って。」

帰りたかった。

「相談があるの。」

「すみません。用事があるので。」

「話だけでいいの。」

黒髪ロングの少女は、少年のタイプであった。

「話だけなら。」

「ついてきて。」



少女に屋上まで連れていかれた。

冷めてしまった缶コーヒーの残りを少しばかり飲み、少し離れた排水溝の上に置いた。秋の少しばかり冷たい風が手に影響し、暖かかった缶コーヒーの温もりを求めてしまう。


少女は口を開く。

「私、自殺(じさつ)しようと思うの。」

予想だにしない回答に少年は理解が追いつかない。

「明後日の12時。」

理解がようやく追いつき、不安と恐怖と責任感が渦巻く感情の中で、数多ある言葉から振り絞って言う。

「そうなんだ。」

「やっぱり、止めないんだ。よかった。」

少年は知らない所で期待され、意図せず認められた。

「止めないよ。」

認められたので、応えなければと、少年が長年悩んできたしょうもないプライドと拙い人間関係能力に喋らされた。

「なんで自殺しようと思うの?」

少年の民主的危機管理能力から来た自己防衛の質問である。

「幾らでもころがっている才能のせい。」

少女は少しだけ微笑んで語った。

「というと?」

「ごめんね。本当はただ単に私に才能がなくて、才能に嫉妬しているだけ。誰もが経験する絶望をこじらせちゃったの。私ね、漫画家になりたかったんだ。」

少し悲しそうに、笑顔で言う。

「なればいいじゃん。」

「なれないよ。」

少し声を張り上げて少女は嘆く。

「能動的に行動する度に、自分の現状と勝手に蠢く有象無象の才能人との差に打ち負かされる。私の人生に《才能》という2文字は無いんだ。」


続く。

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