キャラ設定
──もうすぐ本編が始まるはずのこの世界。
けれど、俺がこの世界で過ごした15年間は、前世でプレイしていた『Maze of Love』の記憶とは 少しずつ違っている と感じることが多かった。
最初は「些細なズレ」だと思っていた。
けれど、それが積み重なり、今や 決定的な違和感 へと変わっていた。
俺は、机の上に広げた『マル秘ノート』をパラパラとめくりながら、改めて整理する。
・ゲームの中のアンジェラ vs 現実のアンジェラ
ゲームの中での姉は 「高慢で人を見下す典型的な悪役令嬢」 だった。
人のやることなすことに口を挟み、ヒロインを妨害し、最後は王太子から婚約破棄される……そんな役回り。
だけど、俺が知っている姉は違う。
実際の姉は、お人好しの極みだった。
「お節介」と言ってもいいくらいに、彼女はいつも他人のことを気にかけ、助けようとする。
王太子に対しても、「少しでも彼の力になれれば」と努力し続けている。
なのに──彼女の忠告は、殿下にとっては「余計なお世話」でしかなかったらしい。
「公爵令嬢でない者と婚約させられた」ことを、パーシバル殿下はまだ受け入れられていないのだろう。
王族の婚姻は基本的に政略結婚であり、王家も貴族もそれを当然と考えている。
周囲は「パーシバル殿下が別の令嬢と婚約するのは仕方のないこと」と割り切っていたし、特に騒ぎ立てる者もいなかった。
ただ──「あれほど仲が良かった二人なのに」という思いを、密かに抱いていた者はいた。
しかし、彼女以外の婚約者を迎えることを強く拒んだのは、パーシバル殿下本人だけだった。
彼の中では、姉は”本来の婚約者の代わりにあてがわれた女”でしかない。
だから、姉の発言を軽視し、婚約者として認めることもない。
……正直、姉さんの気持ちを思うと、やるせない。
・ゲームの中の王太子 vs 現実の王太子
ゲームのパーシバル王太子は、王道ヒーローだった。
容姿端麗、品行方正、剣も学問も優秀。
そんな彼に惹かれるヒロインとの甘い恋愛が展開されるのが『Maze of Love』のメインストーリーだった。
──でも、現実の殿下は、ロクでもない男 だった。
「ヒロインと出会うまでは不遇な王子だった」とか、
「ヒロインが愛を教えてくれたことで変わる」とか、そんな展開なのか?
けれど、ゲームでプレイしたときに感じたキラキラ感は、今の彼には一切ない。
剣技では俺やオリヴァーに勝ったことがないし、相手にすらならない。
政務も適当にこなし、お茶会にもほぼ義務感だけで出席する。
「ゲーム補正」がかかる前の王太子は、ただの使えない男では?
そう思うのは、俺だけじゃない。
姉さんのことをバカにするくせに、自分はまともに仕事すらしていない。
それなのに、ヒロインが登場したら急に有能になるのか?
だとしたら、どこまでがゲームの通りなのか、本当に信用できるのか……。
・ ゲームの中のルイス vs 現実のルイス
ゲームの俺は、王太子の側近であり、知的で優雅な貴公子ポジションだった。
可愛らしい顔立ち、頭脳明晰、剣の腕も立つ。
殿下ほどではないが、それなりに令嬢たちから人気があったキャラクターだ。
……けれど、現実の俺は、そんな優雅なポジションに収まるつもりはない。
だいたい、王太子の側近になるなんて冗談じゃない。
俺はあんな男の補佐をする気はないし、さっさと辞退した。
結果、ゲームのシナリオとは大きくズレてしまった。
でも、俺はこの選択を後悔していない。
・ そして、一番の違和感──オリヴァー
俺が転生してからずっと抱えている最大の違和感。
──オリヴァー・トーマスの存在。
ゲームには、オリヴァーというキャラクターは登場していなかった。
名前すら聞いたことがない。
それなのに、現実のオリヴァーは俺の親友であり、王族の血を引き、姉のことを誰よりも気にかけている。
まるで──最初からこの世界に存在していたかのように。
だけど、本当にそうなのか?
もし彼が本来のゲームにはいない存在だとしたら……。
「この世界のシナリオは、すでに俺が知っているものとは違っている」 ということになる。
俺が転生したことで、ゲームの世界が変わってしまったのか?
それとも、最初からゲームとは違う何かがあったのか?
オリヴァーは、俺のせいで生まれた”変化”なのか?
それとも、彼は……最初からこの世界に”存在しないはずだった”のか?