王宮と選択
──王宮は、すでに次の段階へ進みつつあった。
王太后が、一部の貴族たちを集めて密談を行った。
テーマは 「王太子とアンジェラ・ステイプルトンの婚約問題」。
「このままでは、王太子殿下が妃を迎えても、夫婦として機能しません」
「婚約を見直すべき時ではないでしょうか?」
これまで王宮内で囁かれる程度だった「婚約破棄」の話が、水面下で本格的に議論され始めた。
王太后は、婚約破棄を公式に決定するつもりはまだない。
しかし、彼女の動きは「時間の問題」であることを示していた。
一方、王宮内で 「聖女候補の存在」 が、急速に注目を集め始めていた。
「聖女レティシアは、神殿の儀式で聖なる光を発したそうだ」
「本物の聖女だとすれば、王家の支えとなる存在では?」
「ならば、彼女を王妃として迎えるのが最も自然な流れでは?」
こうした声が、貴族たちの間で広まりつつあった。
レティシア本人はまだ何も知らない。
しかし、王宮の一部では、彼女を「新たな王妃候補」として動き始めている者たちがいた。
この動きに対し、宰相(ルイスの父)は反対の立場を取った。
「婚約はすでに決定されている以上、今更覆すのは望ましくない」
「聖女が王家を支えることは良いが、それを婚姻と結びつけるのは拙速だ」
彼は 「王太子の意志を尊重すべき」 という立場を取った。
しかし、王太后派はこう反論する。
「王太子殿下がこのまま結婚すれば、王宮は不安定になるだけです」
「殿下の負担を減らし、より安定した体制を作るべきです」
このままでは、婚約問題は 「王太后派 vs 宰相派」の政治的な争いに発展する可能性が高かった。
ここまでの動きに対し、パーシバル自身は何も発言していない。
しかし、王宮の動きは彼の意志とは関係なく加速しつつあった。
「殿下はどうお考えなのか?」
「殿下が婚約破棄を望まれないなら、それを明言すべきでは?」
「殿下は聖女候補についてどう思われるのか?」
彼の周囲には、「決断を迫る声」 が少しずつ増え始めていた。
──そして、ある夜。
王太后から、正式な「お茶会」の招待状が届けられた。
そこには、「パーシバル殿下、聖女候補レティシアとのお茶会にご出席ください」 という文言が記されていた。
王宮の動きは、もう止まらない。
そして、最も重要なのは──パーシバル自身が、どちらの道を選ぶのか。
彼が決断しなければ、王宮が決めることになる。
そして、その結果が何をもたらすのかは……まだ、誰にも分からなかった。
王太后派:婚約破棄を進め、新たな王妃候補として聖女を推す
宰相派:婚約を維持し、王宮の安定を重視する
王太子:公爵令嬢への想いを抱えながら、聖女を重ねてしまう不安定な状態
ルイス:姉を守るため、王宮の動きを探りながら手を打つべきか考える