外野
──王太子パーシバル・ロータス。
この国の次期国王であり、俺の姉の婚約者。
だが、王宮の噂によれば、その婚約は風前の灯火らしい。
ならば、彼が今、本当に何を考えているのか。
それを確かめたくて、パーシバルに面会を申し出た。
「何の用だ?」
王宮の一室で向かい合うパーシバルの表情は、いつも通り冷ややかだった。
王族としての品格を保ちつつも、俺に対して興味がないという態度を隠そうともしない。
だが、その奥にある何か──俺には見えない「別のもの」 を、彼は抱えている気がした。
「殿下とじっくり話す機会もなかったので」
「くだらない雑談をしに来たのか?」
「まさか。俺も暇じゃないんでね」
パーシバルの眉がわずかに動く。
──やはり、この男は「何か」を考えている。
「姉さんとは、最近どうなんです?」
「何がだ?」
「婚約者として、うまくやれているのかと」
一瞬の沈黙。
パーシバルの目が微かに揺れた。
しかし、すぐに感情を押し殺したように淡々と答える。
「変わりない。あの女はいつも通りだ」
その言葉は、あまりにも投げやりだった。
まるで、会話を続けることさえ億劫だと言わんばかりに。
だが、俺は引かない。
「そうですか。それならいいんですが……最近、婚約破棄の噂が出ていますよね?」
「お前が気にすることではない」
「いや、俺の姉のことですからね。気にならないわけがないでしょう」
「なら、安心しろ。何も決まっていない」
──それは、「決めていない」ではなく「決められない」からではないのか?
3. パーシバルの迷い
俺は、もう一歩踏み込んでみることにした。
「殿下ご自身は、この婚約をどう思っているんです?」
「……さあな」
また沈黙。
先ほどよりも長い沈黙の後、彼はぼそりと呟いた。
「……お前の姉は、余計なことを言いすぎる」
「余計なこと?」
「俺に意見するな、と言っている」
パーシバルの言葉は淡々としていたが、その奥には何か別の感情が滲んでいた。
──「意見されることを嫌がっている」わけではない。
むしろ、「意見されることで何かを思い出してしまう」のではないか?
それが何なのか、俺には分からなかった。
だが、彼の目には確かに「迷い」があった。
パーシバルは、何も決まっていないと言った。
しかし、俺には 「彼の中で既に答えがある」 ように見えた。
それが 「婚約破棄を望んでいる」 のか、それとも 「決断できずにいる」 のか──
どちらなのか、まだ分からない。
ただ一つ確かなのは、彼は過去に囚われている ということだ。