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最終話B 大公子息と伯爵令嬢

「はあっ?」

「兄君の王太子殿下からも伝えられているはずだ。あんたの玩具だった“白薔薇”ちゃんは、北の塔へ送られたときのあんたの意を汲んで悪行を成そうとしていた。でもそれは洗脳状態にあったからだ。身分の高い人間には逆らえないから自分の意思で言うことを聞いているんだと思い込んでいた“白薔薇”ちゃんはうちの親父に洗脳を解かれてな、あんたから離れて立ち直ろうとしている。……絶対に、あんたを迎えに来ることなんかない」


 観客でしかない私達は息を飲みました。

 思わず瞳を奪われるほどに、王女殿下に真実を告げるイヴァン様は美しかったのです。

 普段と口調が変わっていることも、今は疑問に思いませんでした。


「嘘よ! 嘘よ嘘よ嘘よ! “白薔薇”は私の側にいてくれるもの!」

「ギリ……王女殿下」

「触らないで!」


 泣きじゃくる王女殿下から視線を外し、イヴァン様は私達に告げました。


「さて、これで婚約破棄劇……婚約解消劇はお終いだ。二十数年前にあったものとは違い真実の罪だし、残念ながらこの罪人が追放されることもない。この国をこれ以上腐らせるのも、国を束ねる紐に過ぎない王家をすげ替えて乱してみるのもお前ら次第だ。どうするかは自分達で決めろ」


 どんなに王女殿下に拒まれても、ボリス様は彼女を慰めていました。

 慰めるだけでなく、これまでのお互いの行為が間違っていたことを教えているようです。

 今日なにが起こるのかまでは聞いていませんでしたが、ヴィーク様にボリス様のことは聞いていました。彼は隣国の人間と話をして、ご自身の言動を反省なさったのだそうです。


 王女殿下がどんなに拒もうとも、ボリス様は彼女と結婚するといいます。

 クズネツォフ侯爵家は分家の方が継ぎ、ボリス様は領地のない名前だけの貴族となって王女殿下を見張り、隣国の大公家への償いをしていくつもりだそうです。

 今はまだ複雑な気持ちですが、おふたりを憎んでいても私の幸せは見つからないと思います。私の婚約も解消されていますし、もうボリス様のことは考えないことにしましょう。


 ……考えることはほかにもたくさんあるのですから。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 今日の学園はイヴァン様の婚約解消宣言だけで終わりました。

 私はポリーナ様達とは別れて、イヴァン様と同じ馬車で帰宅中です。

 男女が同じ馬車で帰宅するなんて、と眉を顰める方もいらっしゃるかもしれませんが、私達は婚約者同士なので問題はありません。婚約解消を宣言して公表したのが今日だっただけで、水面下では前から手続きが進んでいたのです。


 まあ、私もイヴァン様にお菓子をいただいた日に父からいきなり聞いて驚いたのですけれど。


「もっとキツイ罰を与えたほうが良かったでしょうか。王太子殿下に北の塔へ幽閉されるという恥辱を与えられ、最愛の“白薔薇”も失っていたので、公衆の面前で婚約解消を宣言されるくらいで十分かと思ったのですが……親父ならもっとエグイことしたんだろうなあ」

「あら」

「どうしましたか?」

「今は普段の口調と婚約解消のときの口調が混じっていましたわ。……婚約解消のときの口調のほうが本来のイヴァン様なのかしら」


 イヴァン様は真っ赤になって、私から目を逸らしました。


「……すみません。貴女を騙すつもりではなかったのですが」

「うふふ。イヴァン様には秘密がたくさんありそうですね。甘いものがお好きでなかっただなんて驚きました」

「貴女と親しくなりたくて、つい嘘を……でもおかげで、貴女と話を合わせるために自分でお菓子を作るという新しい趣味ができたんです。甘味処に新製品を調べに行くのも楽しんでいます。だからこれからも一緒に甘味処へ行ってくださいませんか?」


 先日イヴァン様にいただいた焼き菓子の中には、彼からのお手紙が入っていました。

 あのお菓子は彼の手作りだったのです。

 お手紙には本当は甘いものが好きではないこと、身分を偽っていたこと、私を好いていてくださっていることが書かれていました。


 両国のこれからの関係のためにも大公子息との縁は失えない、ということもあります。

 でも私が王家から持ち込まれた彼との婚約を受け入れる気になった一番の理由は、そのお手紙が嬉しかったからです。

 もちろんボリス様との距離が開いて寂しかったときに、友達として親しくしてくださっていたイヴァン様への好意もあります。


「イヴァン様と婚約者同士になったので、これからはだれにも気兼ねすることなくお手紙を差し上げますね」

「申し訳ありません」

「どうなさいました?」

「貴女には我が国の学院へ転校してもらおうと思っているのです。さすがに同居はまだ早いと思いますから、我が国の王都でのあなたのお住まいはポリーナ嬢の遠縁に当たる伯爵夫人のお宅で、そのまま彼女からこちらの礼儀作法も学んでいただく段取りとなっています」

「まあ!」

「……お嫌ですか?」

「嫌ではありませんが……イヴァン様が隠していらっしゃること、結婚するまでには全部教えてくださいね」

「はい。約束します、リュドミーラ」


 婚約者となったイヴァン様に名前を呼ばれるのが嬉しくてならない私は、きっと幸せになれるでしょう。

 焼き菓子の中のお手紙は捨ててくださいと書いてありましたが、こっそり私の宝物にしようと思っています。

第十話A後のイヴァン「親父ー、預けといた焼き菓子リュドミーラ嬢に渡してくれたあ?」

第十話A後のヴィクタル「ごめんなさい、愛しいイヴァン。忘れていました」

イヴァン「ふうん、そう。まあ、いきなり男の手作りのお菓子渡されても気持ち悪いよな。襲われて怯えてただろうし、渡してもらわなくて良かったかも」


イヴァン(リュドミーラ嬢、俺との思い出の図書館じゃなくて元婚約者との思い出の噴水に行ってたんだ。んなとこ行ってるから、妙なのに襲われるんだよ。……まあ、無事でなによりだったけど)


 ──数日後。


イヴァン「親父ー! なんでリュドミーラ嬢の婚約相手が俺じゃなくて『大公家の人間』になってんの?」

ヴィクタル「これはこれは。どうしたことでしょう、不思議ですねえ?」

イヴァン「親父、ちょっと俺の目ぇ見て。……親父!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


Bルートイヴァン「こっちがトゥルーだから!」

Aルートヴィクタル「……さあ、どうでしょうねえ」

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