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第一話 リュドミーラの決意

「まあ、今日もお美しいおふたりですこと」

「あの方々こそが運命の恋人同士でございましょう」

「それが財産しか誇るもののないエゴロフ伯爵家の横やりで引き裂かれただなんて、なんという悲劇なのでしょうか」


 朝、学園に登校した私をチラチラと見つめながら、今日も王女殿下の取り巻き達がくだらない噂を撒き散らします。

 事実無根のことですが、我がエゴロフ家が裕福なのを妬む貧乏貴族の方々には噂に乗って私や伯爵家を貶める好機と感じられるようです。立派な大人になるためにこの三年制の学園で勉強しているはずなのに、入学して十ヶ月しか経っていない私より、二年先輩の方々のほうが子どものようです。

 さざ波のように押し寄せてくる嘲笑を断ち切ったのは、親友のポリーナ様の発言でした。


「あらあら。たかが伯爵家程度の横やりで縁談が駄目になってしまっただなんて、我が国の王家はもうお終いなのではなくて? 今くだらない言葉を口に出していた方々は、それが王家に対する不敬になるとおわかりでないのかしら」


 王家の血を引くマイケロフ公爵家令嬢のポリーナ様とは、身分の違いにも関わらず親しくさせていただいています。

 マイケロフ公爵家も裕福な貴族家で、身分が近くても(たか)ることを目的に近づいてくるような人間とは付き合いたくないと、私を友人に選んでくださったのです。

 財政に問題のある王家でも身分が高いというだけで従っているような人間は、公爵令嬢のポリーナ様には反撃できません。悔し気に顔を歪めて、その場を去っていきました。


「おはよう、ポリーナ。毎日大変だね、リュドミーラ嬢」


 校庭を横切って教室のある校舎へ向かう私達に、ふたつ年上──私の婚約者であるクズネツォフ侯爵家令息ボリス様の同級生のヴィーク様が挨拶をしに来てくださいました。

 彼は手を伸ばしポリーナ様と私の鞄を受け取りました。

 この学園では校内への従者侍女の立ち入りを禁じています。多少の抜け道はあるものの、私達は馬車を降りてからは自分で鞄を持っていました。


 ヴィーク様はミハイロフ侯爵家の跡取りで、ポリーナ様の婚約者です。

 ミハイロフ侯爵家は裕福ではないほう、正直にいえば貧乏貴族の一員なのですが、ポリーナ様を愛し、マイケロフ公爵家の指導を真摯に受けてご実家の建て直しに尽くすことをお誓いになっています。それ故にポリーナ様も彼を婚約者として認め、愛していらっしゃるのでした。

 彼はいつもこうしてポリーナ様と私を教室まで送り届けてくださいます。


「おはようございます」

「遅くてよ、ヴィーク。貴方、アレの親友なのでしょう? どうにかできないの?」


 ポリーナ様が冷たい視線を送った先にいるのは、私の婚約者ボリス様でした。

 ヴィーク様のように私達を教室まで送りに来たわけではありません。

 ボリス様の傍らにはこの国の王女ギリオチーナ殿下、恋人同士のように腕を絡めたふたりの後ろには学園の生徒であると同時に王女殿下の護衛でもある“白薔薇”レナート様もいらっしゃるのですから。同級生の護衛兼従者をつける、それが先ほど言った抜け道のひとつです。


 ボリス様と私の視線がぶつかります。

 少し前まではそれだけで心臓が潰れそうになるのを感じていましたが、最近は辛いとは感じません。

 自分の中が空っぽになって、風が吹いているような気分になるだけです。


「……」

「ボリス。早く教室へ行きましょう? だれかさんの嫉妬の視線を感じて不快だわ」

「あ、ああ。そうだね」


 婚約者の私に挨拶もせずにボリス様が去っていった後、ポリーナ様が吐き捨てるように莫迦莫迦しいとおっしゃいました。


「ふたりでイチャついているところをリュドミーラに見せつけるために、用もないのに校庭をうろついていたのでしょうに」

「すまないな、リュドミーラ嬢。ボリスにはいつも言っているんだが……どうにも言葉が届かない。ポリーナ、今日は授業の後で騎士科の特別訓練がある。そのときにまた注意しておくよ」

「そうね、お願いするわ」

「ありがとうございます、ポリーナ様ヴィーク様。でも、もう良いのです。私、父にボリス様との婚約解消を申し出ようと思います」


 私の言葉に、ポリーナ様とヴィーク様が顔色をお変えになりました。

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