ボクとねーちゃん
「たらいまぁー」
ねーちゃんが学校から帰ってくる。
『おかえり…ってまたひどい顔だね。大丈夫?』
ねーちゃんは大学2年生。
お医者さんになるために毎日勉強してるんだって。
早く帰ってくる時もあるし遅く帰ってくる時もあるけど、ねーちゃんはいっつも疲れた顔してる。
庭のベンチに腰掛けて、軽く意識が違う世界にいってることが多い。
違う意味で心配になる。
ねーちゃんの前までいって前足をねーちゃんの膝にのせる。
そうするとねーちゃんはゆっくりボクを見て小さく笑う。
ねーちゃんをちゃんと現実に引き戻すのがボクの役目かも。
「チビ豆ー、代わりに勉強してよ」
『うん、ムリ』
ねーちゃんはボクの名前を毎日適当に呼ぶ。
今日はチビ豆、昨日は豆スケ、一昨日は枝豆……だったかな?
たまに豆もタロウもつかない日もある。
「あー、付属推薦じゃなくて外部出てでもちゃんと獣医学部受ければよかった」
ねーちゃんの小さい頃からの本当の夢は動物のお医者さんになることだったって一週間に一度は聞いてる。
ママがねーちゃんにお医者さんになってほしかったらしくて、ねーちゃんは一生懸命応えようとしてる。
学校のない日も1日中、勉強。
『少し休めば?まぁきっとムリなんだろうけど』
ねーちゃんがため息つく。
「どーせ医学を学ぶならさ、自分の好きな方にいった方が絶対充実したキャンパスライフ送れたと思わない?」
ねーちゃんがボクの頭をなでる。
『そりゃあ、ねーちゃんの夢だしね』
ねーちゃんはママやパパと違ってボクに優しい。
でも……。
「もし私が獣医さんになれてたらチビ豆のことただでみてあげれたのにね」
『そうだね。でも、それは遠慮しとく』
だって、身内にみてもらうのってなんかやじゃん?
信用してないわけじゃないよ?
ただなんか照れるよね。
「さぁ、勉強しなきゃ!じゃあねチビ豆」
『はいはい、頑張ってね』
ねーちゃんが家の中に入ってく。
ねーちゃんはママやパパに絶対弱音をはかない。
けどね?
ボク知ってるんだ。
ねーちゃんが1回だけ泣いてたの。
ねーちゃんが本当はすごく辛いのわかってるからさ。
だからボクが代わりに聞いてあげる。
っていうかボクがいなきゃ、ねーちゃん違う世界いっちゃうし。
ボクがつなぎとめてあげてるんだ。
ねーちゃんがあんまりムリしすぎないようにね。
だってさ、ねーちゃんのこと心配だからね。