第9話 鍾乳洞に入ったはずなのにドラゴンが出てきました
9. 鍾乳洞に入ったはずなのにドラゴンが出てきました
洞窟を出ると、外の世界は闇に包まれていた。
そこは、シンの知っている鍾乳洞の雰囲気とはまるで異なっていた。
「おかしい・・・俺が鍾乳洞に入ったのは午前10時だったはず。それなのにもう夜?どういうことだろう?」
周りをぐるりと見渡してみた。
「あれ?月も出ていない・・・」
周りを見ると、ほの暗い。
空には月明りもなく不気味な雰囲気がただよっている。そして、シンは思わず後ろを振り返った。
「どういうこと?」
振り返ると、今自分が出て来たばかりの鍾乳洞の出口が見当たらないのだ。後ろに見えているのはごつごつした岩壁に、ツタの絡まった木というか、背の低い小さな木々が茂っているだけだった。
暗いからよくは見えないのだが、ヘッドライトの明かりで見ると、そのツタは珍しい赤色の蔦と、青色の蔦がクロスするように絡み合っていた。シンはその様子をよく見ようと近づいた。
すると、どうしたことだろう。不思議なことに、今度は先ほどの洞窟の中にまた入っていたのだ。
「あれ?どういうこと?この洞窟は外からは見えないようになっているのかな?」
もう一度、外に出てみると、やはり洞窟の入り口部分は見えない。
「もし、ここからしか戻れないのだとすると、何か目印を覚えておかないと大変なことになりそうだ」
シンは周りを見渡した。
目の前に一本だけ、かなり太い、周りとは種類の違う大きな大木がそびえ立っているのに目がとまった。
「この大木の特徴と、赤と青の蔦を覚えておこう。他の周りの蔦は普通の緑色をしている。でも、よく見ないとあまり気づかないから、忘れないようにしないと」
シンは、自分に言い聞かせるように声に出してつぶやいた。
しばらく周りを見渡していると、今度はその目の前の大きな木のあたりから、ガサガサという音が聞こえて来た。
びっくりして、また緊張感が張りつめて来くるのだった。
「どうしよう、何か出てきたら・・・どこかに隠れて様子を見るか、それともこちらから見に行くか・・・」
慎重に慎重を重ねた方がいい気がするので、シンはしばらく近くの木の根元で身を低くして様子を見ることにした。手には地面に寝かせた状態だが槍を握りしめている。いざとなったら、自分の身は自分で守るしかないのだ。
すると、どこからともなく声が聞こえて来た。
耳をすませて聞き取ろうとするが、その声はよく聞きとれなかった。だが、かなり焦っているような声だ。
声を聞こうともう少し近づいてみると、しだいに声がはっきりと聞こえて来た。
「兄さん。しっかりしてください。兄さん・・・」
女の人の声だ。
シンはその声を聞いて、少し勇気を振り絞って近づいてみることにした。
近づいてみると、馬車につながれているような荷台がひっくりかえっていて、御者と思われる男の人が頭から血を流して倒れていた。その傍らで、女の人が一生懸命体をゆすっているのだ。
「どうしたんですか?」
シンは恐る恐る近づいて、その女の人に声をかけた。
女の人は腕を上げて、自分の目を覆うようにしながらこちらを見返している。
シンは、自分の頭につけたライトがまぶしいのだということに気づいて、スイッチを消した。
「すみません。まぶしかったですね。何かあったのですか?」
女の人はかなり驚いた様子で、シンの顔をじろじろと覗き込んだ。
「あなたはどこから来られたのですか?」
「私はシンと言います。近くの洞窟から出て来たところで、あなたの声が聞こえたので」
すると、女の人はさらに驚いた声をあげた。
「この近くに洞窟があるなんて話は聞いたことがありませんよ?」
女の人は少し疑ったような顔をしながら、シンの顔を覗き込んだ。
女性の年齢は自分と同じくらいだろうか。
きれいな声の主は、金髪の長い髪をしていて、目鼻立ちがくっきりとしている綺麗な女性だ。服装は、地味な色合いのものだが、とても似合っているという気がした。
暗がりなので、服の色目とかはよく分からなかった。
「あの、何かあったのですか?」
「先ほどの大きな地震です。あの地震のせいでカイルが驚いて荷台をひっくり返してしまったのです」
「カイルというのは、この方の名前ですか?」
そう言ったかと思うと、目の前に突然かなりの大きさの生き物が顔をだした。
「うわああああああああああああ」
かなり驚いて、シンは後ろにひっくり返ってしまった。
「な、なんですか?その生き物は???」
「ご覧になったことはありませんか?」
そう女の人に言われて、改めて見てみると、かなり大きなトカゲのように見えた。だが、頭にはトリケラトプスのような頭骨があり、二本の角が突き出でいた。かなりの大きさで馬の3倍はあるだろうか。
「ひょっとして・・・竜・・・・ですか?」