第1話 ネットニュース
1. ネットニュース
竹森信は、23歳の誕生日を迎えた。
今日、突然仕事を失い無職となってしまった。
「あーほんと無理、自分が失業するなんて考えてみたこともなかった。しかも、間の悪いことに夏の連休前に・・・」
自分の来る前に乗り込むやいなや、そんな独り言がつい口から漏れてしまっていた。
つい、さっきまで飲食店で勤務をしていたのだ。ところが、いつものように今日お店に行ってみると、張り紙があって「当店は休業することになりました。これまで長い間ご利用くださりありがとうございました」と書かれていた。
この張り紙を見て、びっくりして事務所に顔をだそうと扉を開けた。すると、店長が項垂れて座り込んでいて、仕事仲間の何人かが、呆然と立ち尽くしていた。その後、店長は俺たちに向かって平謝りに謝ってくれた。
店長の話では、この長引く不況のためにお店が持ち応えられなかったのだそうで、グループそのものが倒産になってしまったのだとか。店長自身も困り果てていたようで、あの様子では知らされていなかったようだ。
昨日まで、自分がこんなことになるなんて、思ってもみなかった。
店長はこんな俺にも何度も謝ってくれるような優しい人で、「できるだけ勤めていた社員にはなんらかのサポートがもらえるよう会社に頼んでみる」と言ってくれるような人だった。この不景気なご時世では仕方がないし、店長を恨む気持ちも起こらなかった。ただ、心の中にはどうすることもできない絶望感でいっぱいになっていた。
これ以上お店にいても仕方ないし、他にやることもない・・・
シンは、がっかりしながら、家に帰ることにした。
本当ならすぐにでも仕事を捜さないといけないことは理解できる。でも、あまりにも突然のことで、これからのことを考える余裕もない。それに、この夏の連休はゆっくりしたいと思っていたのだ。
そんなこともあって、少しくらいぼーっとする時間を持ってもいいかなと気持ちを切り替えて、しばらくは休むことにした。
「突然時間が出来たのでラッキー!」そんな気楽さで行こうと心に決めて家に帰ることにした。
今日からゲーム三昧の日々を送ろう。そんな軽い気持ちで、コンビニで食べ物を買い込んで、家に帰ることにした。
2日目まではまぁまぁ良かった。けっこう楽しく遊んだ気がする。家で一日中ゲームをするなんて、学生の時以来だ。働いていた時は、いつもそんな一日を過ごしてみたいと思っていたのだ。
けれど、ゲームをやり始めて3日目になると、仕事を失って所属のない怖さが急に襲ってきて、気持ちが押しつぶされそうになってしまった。そのため、全然ゲームを楽しむことができなくなっていた。
仕事をしていたときは、息抜きのゲームが生きがいとまで感じていたのに、今となってはそんな気持ちもどこかにいってしまったような気がする。それからは、何をしても、この先どうなるか分からない不安のために、気持ちが沈んでしまって何も手が付かなくなってしまった。
この状態を変えるには、やっぱり仕事を見つけた方がいいのかもしれない。そう思って俺はネットで仕事の求人情報を検索してみることにした。
何か自分に合いそうな仕事はないものかと、一生懸命探したのだが、大した学歴もなく、資格もなく、ただあるのは、飲食店勤務一年半という実績だけ。そんな自分を必要としてくれる職場は簡単には見つからなかった。
そうすると、頭の中では悪いことばかり考えてしまうもので、もうこのまま仕事を見つけられないのではないか? 今住んでいるこのアパートもいつか追い出されるかもしれない。そんなネガティブな考えが次々と浮かんでくるのだった。先が見えない現実に、焦るばかりで胸が締め付けられそうな思いになっていた。
持っている資格は、英検3級、普通自動車免許。
地方の三流大学を卒業し、飲食店チェーンに一年半勤務。履歴書に書けるのはそのくらい。特技も別にない。
自分の履歴書をしばらく眺めていても、そこから湧き上がって来る感情は「不安」の二文字だけ。それに極めつけは貯金も蓄えもないときていた。
もう人生詰んだな・・・
それが今の正直な実感だった。
これまで、そこそこ勉強はして来たつもりだし、学生の頃は部活もやって来た。中学ではマンモス校の卓球部。強豪校と言われ、そこでレギュラーのポジションをつかみ、地区大会ではベスト16まで勝ち残ったこともある。でも、うまくいったのはそこまで。
高校ではバイトをし、お金を稼ぐことに夢中になり、バイトと気晴らしにはじめたゲームにのめり込んだ。
自分は、どこでもそこそこのポジションにいるはずだと思い込んでいて、自分を甘やかして来たのかもしれない。大学を卒業し、就活もうまくいかず、結局バイト先に努めることになった。それでも、うまくいっていると思い込んで来た。
どこで間違えたのだろう。何を間違ったのだろう。
今さら何を考えても、どうしていいかよく分からなかった。
もう人生詰んでいるのだ・・・そう思うほかなかった。
そんな時、ネットで検索したある記事に目が留まった。
『“F県〇〇鍾乳洞で、未知の鉱石発見か!”』
その鍾乳洞は地元では有名なところで、以前に何度か行ったことがあった。記事を見て、不意に懐かしさがこみあげて来て、不思議と惹かれる思いが心の中に溢れて来た。
記事によると、鍾乳洞の決められた観光ルートとは違うルートが、地震の影響で見つかって、そこから未知の鉱石が発見されたのだという。
シンはその記事を見て、そのまま財布を片手に、アウトドアショップに駆け込むことにした。
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