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この異世界は手相が重要だなんて聞いてない!  作者: 紫 和春


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第89話 怪物

 その後、何度か嵐の中心に向けて航行するものの、結果は同じだった。

 急に嵐の中に放り込まれたような波に襲われ、そしていつの間にか元の海域に戻る。

 これを数度繰り返していた。


「なんなんだ?この異常現象のようなものは……」


 船を扱う冒険者たちでも、この不明な現象に悩まされていた。

 しかし、その現象を何度も確認した寺門は、あることに気が付く。


「ある境界を境に、天候が変化している……?」


 境界の場所は定かではないが、確実に境になっている場所が存在する。

 その境界を超えることで、あの嵐の中のような天候に見舞われるのではないか、というのだ。

 寺門はこのことをエドラに相談する。


「とある境目で天気が変わっている……か。なるほど、一理ありますね」

「なので、まずは嵐を迂回するように進路を取ってみませんか?」

「ふぅむ。ちょっと待っててください」


 そういって、エドラは仲間の冒険者とともに、海図を眺める。

 嵐がある所は、目測で50~100km程度、その周囲を取り囲むように暴風域があると推定すれば、だいたいの境界面は割り出せる。


「よし、少し迂回していこう。それに今日はもう日が暮れそうだからな」


 そういって、進路を東よりに変更して進んでいく。

 日が暮れ、周囲は真っ暗な暗闇に沈む。

 頼りになるのは、星を使う天測航行のみ。

 そんな中、寺門たちは就寝についていた。

 ふと寺門が目を覚ます。なんだか不快な音に触れたような気がしたからだ。

 すると、次の瞬間。船全体が軋むような音に襲われる。それと同時に小刻みな揺れも襲う。


「な、なんだ!?」

「総員起床!総員起床!」


 エドラの合図で、船員の冒険者が飛び起きる。

 船員は状況把握のため、甲板上に上がって周囲を確認した。

 しかし夜の海はあかりもなく、ただ真っ暗である。

 その瞬間、寺門のいる船室に巨大な何かが突き刺さる。

 それはまさに、巨大な牙であった。

 それが引き抜かれると同時に、そこから大量の海水が流れ込んでくる。


「ま、まずい!」


 帆船には、現代のような水密区画という概念は存在しない。

 そのため、喫水線下に亀裂が生じてしまった場合、穴をふさがなければ沈没は免れない。


「こうなったら……!」


 寺門が手をかざし、魔法を使おうとする。

 その瞬間、水圧によって飛ばされてきた木片が寺門の手のひらに刺さる。


「痛っ!」


 木片は鋭く寺門の手のひらに刺さった。

 だがそんなものに負けずに、寺門は構わず魔法を使おうとする。しかしその魔法は、子供が水遊びで使うような、ひどく弱弱しいものであった。


「なんで……」


 いくら強い魔法を使おうとしても、蛇口をひねった程度の水しか使えない。

 そこにエドラがやってきた。


「まずい!」


 エドラが魔法を使う。すると、流入してくる海水が時を止めたように静止する。

 そしてエドラは、そのまま船内に流れ込んだ海水を船外に押し戻す。

 物理に反するような、常識を超えた光景がそこにはあった。

 そして最終的に、ほとんどの海水を外に出した所で、別の冒険者が修理キットを使って応急処置をする。

 どうにか海水の流入を抑えたエドラ。

 一方で、手のひらに刺さった木片を見て、寺門は魔法がまともに使えなかった事実に絶望していた。

 滴る血も気にせず、寺門は魔法がまともに使えなかった原因を考える。


「前に魔法を使ったときは通常の状態だった。だけど今使ったときは魔法がまるで弱体化したような状態だった。どうして起きた?この手に何か原因があるのか?」


 そんなことをブツブツと言う。

 そんな寺門を見たニーナが駆け寄ってくる。


「リョウさん、大丈夫ですか?」

「僕自身の魔力が小さくなった?いやそれは考えにくい。魔力の量は個人差に影響されにくい要素の一つだ……」

「リョウさん!」

「……ニーナさん」

「ケガしているじゃないですか。治療しますよ」


 そういって寺門の手に刺さっている木片を取り除き、回復魔法をかける。

 寺門の傷が回復していく。もちろん、手相も。

 その時、寺門は何かに気が付いた。


「もしかすると、傷のせいで手相が変わった……?」

「どういうことですか?」


 寺門の独り言にニーナが反応する。

 しかし船の揺れが襲ってきた。


「畜生!いったい何が来たってんだ!」


 寺門は状況を把握するため、甲板上に出る。

 海面を覗いてみると、そこには何か巨大な魚影のようなものが見えた。


「くそっ!うまく見えねぇ!」


 明かりの確保が必要だと考えた寺門は、自分の手のひらを見て決意する。


「もし傷のせいだとしたら……」


 そういって寺門は空に向かって手を掲げ、巨大な光源となるプラズマの塊を顕現させる。

 すると、その通りに魔法を行使することができた。

 その光によって、海中の様子がわかる。


「不味い!ウェルジーオオウツボだ!」


 それは海のギャング、ウツボを巨大化させたような、海の怪物。

 そんなものに船を襲われたらひとたまりもない。何か対抗策はないか。

 寺門は思いつく。今発生させている、このプラズマをぶつければいいのではないかと。


「迷っている暇はない!」


 寺門は思い切って、それを海中に落とし込む。

 その瞬間。ウェルジーオオウツボは海中から飛び出してきた。

 そこに寺門のプラズマの塊が命中したことによって、ウェルジーオオウツボは、顔面から蒸発していく。

 勢いをなくしたウェルジーオオウツボは、そのままプラズマの塊に飲み込まれ、完全に消失した。


「何とかなったか……」


 状況を確認したエドラは、大きく息を吐く。

 そのほかの冒険者も、安堵したようだ。


「リョウさん、あなたのおかげで助かりました」

「いえ、偶然ですよ」


 そういって自分の手のひらを見る。

 先ほどの一連の流れを思い出す。木片でケガをして、魔法が使えなくなった。

 それはつまり、極端なことをいうと、手相の形が変わって魔法を使うことが出来なくなったということである。

 まだ仮説の段階ではあるものの、これは有力な情報だろう。

 逆に、いい経験をしたと思うようにした寺門であった。

本日も読んでいただき、ありがとうございます。

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次回もまた読んで行ってください。

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